[KATARIBE 31426] [HA06N] 小説『 An Early Days 〜六兎結夜のむかしのはなし〜』

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Date: Sun, 11 Nov 2007 23:53:42 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31426] [HA06N] 小説『 An Early Days  〜六兎結夜のむかしのはなし〜』
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2007年11月11日:23時53分42秒
Sub:[HA06N]小説『An Early Days 〜六兎結夜のむかしのはなし〜』:
From:月影れあな


 ういっす、れあなっす。
 どうも物書きができなくなってきてるので、リハビリ気味に一念発起して短編
を……
 ただし、今一ヤマもオチもない気がする。

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小説『An Early Days 〜六兎結夜のむかしのはなし〜』
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登場人物
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六兎結夜(りくと・ゆうや)
    :国立吹利学校中等部二年生。脳から漏れ出る妄言の泉。
須藤未来(すどう・みくる)
    :国立吹利学校中等部二年生。結夜の幼なじみ。

本文
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 照りつける夏の太陽が、うなじの皮膚をちりちりと焦がす。
「あっちい〜」
 帽子くらいかぶれよ、と人は言う。しかしオレは、帽子を被ったときの頭が
蒸れた感じが嫌だった。
 普通暑くなれば人は服を脱ぐ。上着、シャツ、下着、靴下、究極的に突き詰
めれば素っ裸だ。
 脱げば脱ぐほど風通しがよくなり、熱はこもらず、忍者のACは下がり、汗の
気化熱によって体が冷えるのだ。それが自然界を支配する絶対の法則である。
 もちろん、帽子だって例外じゃない。聖マッスルも仰っている。「裸体の男
女は幸いである」と。それがなんだ、帽子をかぶっていないほうが日射病にな
りやすいとは一体どういうことか? 許されざる冒涜である。
 まったく、道理をわきまえていないものほど手に負えないものはない。
 煮えた頭でそんなことを考えながら手を動かしていると、いつの間にか地域
指定のゴミ袋が一杯になるほど草をむしっていた。
 説明が遅れたが、オレは今草むしりをしているのである。
 グリーン・ディである。
 いや、アメリカのパンク・バンドのことではないし、チョコラータ先生の下
衆なスタンドのことでもない。もちろん、みどりの日をちょっと気取ってルー
大柴風に言ってみたわけでもない。
 グリーン・ディとは、町内会の主催で春から秋ごろまでにかけて定期的に行
われる地域の美化ボランティア。要するに草むしりの日のことだ。
 正確に言えば草むしりおよびゴミ拾いなのだが、そこらに落ちているゴミと
伸びきった雑草の比率を考えると、ほとんどおまけみたいなものである。
 むしろ緑を千切りまくってるのにグリーン・ディとはこれ如何に? 「いっ
そそのまんま『草むしりの日』にしといたらええやん」と、オレは常々、心の
中で叫びまくっているのだが、その名前が是正される様子はない。ままならな
いものである。

 ぴとり。
 突然首筋に、冷たいものが押し当てられた。
「ひゃうんッ」
 背筋を駆け抜けるえもいわれぬ感覚に、身体がビクンと飛び跳ねる。
 草むしりをする半腰の体勢でそんなことになったのだからたまらない。当然
の帰結として、オレはバランスを崩してしりもちをつき、ごろんと仰向けに転
がった。
「なあにその声。女の子みたい」
 見上げると、青空を背景に背負った未来がこちらを見下ろしていた。
 にやにやと、色気のかけらもない微笑を口元に貼り付けて、両手に持った200ml
缶ジュースの片方を、オレのデコに置く。
「おつかれ、結夜。もう時間よ」
 言われて公園の時計に目をやると、すでに終了時間の十時を少し過ぎていた。
辺りを見回すと、みんな雑草をゴミ袋にまとめ、撤収しはじめている。
 草むしりの終わりには、町内会が用意したジュースを振舞われることになっ
ている。恐らくそれを持ってきてくれたのだろう。両手についた泥を軽く払っ
て、デコに置かれた缶ジュースを受け取った。
「オレンジ? 午後ティーとかなかったん?」
「残念ながら、あとは烏龍茶とコーヒーだけ」
「ちっ、しけてやがる」
 とりあえず愚痴を吐き捨ててみるが、贅沢は言えない。小さくため息をつい
て蓋のつまみに指をのばし、躊躇する。
 オレの手は今、泥まみれだ。直接口をつけない側面ならともかく、そのまま
つまみを触るのは抵抗がある。
「開けたげよっか?」
「頼む」
「一回百円ね」
「いや、ちょっとッ! それはもう下手すりゃ一本ジュース買える値段じゃま
いかッ!?」
「ジョーク、ジョーク。流石に蓋開けるだけでお金は取らないって」
 「なら最初から言うな」と、苦笑しながら缶を渡そうとして、ひょいと受け
取る未来の手に、軽い違和感を覚えた。

「待った」
 はっしとその手首を掴む。
 白魚のような、と言うほどでもないが、ほどほどに細くて白い指。長くはな
いがよく手入れされた爪。
 一見すればなんでもない手だが、逆にそのなんでもなさこそが、違和感とし
て浮いて見える。
「……綺麗な手だな」
「あらありがとう」
「褒めてない」
 言いながら、その目をじっと見つめる。
 未来はいつも通りの、チェシャ猫のようなニヤニヤ笑いを返してきた。
 一見すればなんの違和感も感じ取れない。しかし、生まれてから十数年来の
付き合いであるオレはにはわかった。こいつがオレの目をまっすぐ見てくると
きは、十中八九嘘をついているときか、隠し事をしているときだ!
「うん、綺麗な手だ。今まで草むしりをしていたのが嘘みたいに、綺麗すぎる……
どういうことだ?」
「それはほら、軍手してたから」
「軍手ね。なるほどね」
 背中にゴゴゴゴゴと、『凄み』を背負ったブチャラティな気分で。その手を
口元に引っ張る。
「この匂いは! ……嘘をついてる匂いだぜッ! 須藤未来ッ!!」
「……まじめにやると変態っぽいね、そのネタ」
「じゃかしいッ! 一度帰って手ェ洗ったなら石鹸の匂いがするし、軍手脱い
だだけなら土と草の匂いは誤魔化せねえ。だが、てめえの手からはかすかな汗
の匂いがする。 
 ――さては草むしりには参加しなかったくせに何食わぬ顔でジュースだけい
ただきに出てきたクチだなッ!?」
 ビシィッ! と指差して啖呵を切る。ついでに口にも出して「ビシィッ!」
と言っておく。すると未来は観念して肩をすくめると、いともあっさり居直っ
た。
「いいじゃない。どうせ何本か余ってだれかが持っていくんだから」
「いくない! それは、草むしりに汗水たらす戦士たちに許されたささやかな
糧だ。百歩譲っていいとしても、お前が飲むくらいなら、オレが飲むッ!!」
 言うが早いか、オレは未来のジュースを奪わんと手を伸ばした。しかし、彼
女も予想していたのか、ひょいと手を引いて躱す。
「ぐぬうッ!」
「んっふふ〜」
 未来はそのままジュースを高く持ち上げる。オレはそれを追いかけて手を伸
ばすも、あと一歩のところで届かなかった。
 非常に悔しい事だが、オレと未来の間に身長の差はほとんどない。それは、
物理的限界という名の圧倒的な壁だった。
「ほうら、高い高ーい」
「おのれ、なぶるかッ!?」
 思わず悔しさに身を震わせて、オレは自分が冷静さを失っていることに気づ
いた。
 いかん、いつだって未来は笑いながらこちらのペースを崩してくるのだ。こ
れに打ち勝つためには、冷静な判断力が必要になる。
 クールになれ、結夜。心は灼熱のごとく燃えたぎっても、頭は氷のように冷
たくなければならない。
 冷静に考えれば、こちらの有利は揺るがないのだから。
「フフ……しかし、オレの手はしっかりお前の腕をつかんでいる。たとえジュー
スに手が届かなかったとしても、逃げることはかなうまい。千日手、つまりワ
ンサウザンドウォーズというわけだッ!」
「さて、どうかしら」
 しかし、未来はあせった様子もない。むしろ、余裕の笑みすら浮かべて言っ
た。
「知ってる? 手のひらを開いてるときと閉じているときでは、開いてるとき
のほうが少しだけ腕が太くなるの。だから、腕を強くつかまれていても手のひ
らを閉じて開けば、一瞬力が弱くなり、簡単に手を振り解くことができる――
こんな風にね!」
 次の瞬間、オレはするりと手を振り解いて駆け出す未来を見ていた。
「は? なにィッ!?」
「アバヨ、とっつぁ〜んッ!?」
「ま、待てルパ〜ン! 逮捕だーッ!!」

 オレが地面に膝をついて、そのルパンごっこの敗北を認めたのがその30分後。
超がんばりました。自分をほめてあげたい気持ちでいっぱいです。
 朝とはいえ日はすでに高く昇り、ましてや雲ひとつない夏の日。さらに言え
ば一時間の草むしりを経てのことである。
 当然の帰結として、オレは汗だくになり、もはやその場から一歩も動けない。
しかし未来の方はというと、草むしりをしていなかったからか、はたまた頭に
かぶった帽子の恩恵か、わりと平気な顔をして缶ジュースでのどを潤していた。
「理不尽なり……」
「ま、これも日ごろの行いの違いということで」
 なんて澄ましたことを言って、中身のなくなった缶をひっくり返す。所詮200ml
のジュース、無くなるのは一瞬だ。
 オレもいい加減のどが渇いたので、舌と前歯を駆使して蓋を開ける。ごくり
と飲み込んで、衝動的にブーッと吐き出す。
「って、ぬるいわあッ!?」
「そりゃあね」
 呆れたように未来が笑った。
 缶ジュースはとてもぬるかった。
 そりゃあね、手に握り締めたまま、夏の炎天下で、あんだけ大立ち回りして
たらね。
 ごもっともな話でした。


時系列と舞台
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 1999年夏、吹利市内の公園にて。

解説
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 むかしばなし。幼馴染との一幕。


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