[KATARIBE 31424] [HA06P] Episode:親子の終焉

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Date: Wed, 7 Nov 2007 23:47:27 +0900
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[HA06P] Episode:親子の終焉
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登場人物
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 御羽貞我
 箕備瀬梨真

 葉島貞男

 相羽尚吾


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 四時半過ぎに、オワタとりまりまは、スーパーの跡地に来ていた。
 西日がだんだんと橙色になってきていて、うっすらと稜線に影が差してきて
いる。

 待ち合わせの時間を、少し過ぎていたが、まだ来そうにはないようだった。
 連絡が取れない、ただ待つしかない状況が少しもどかしい。

 オワタ    :「……父さん」
 りまりま   :「ちょっと遅れてるのかな? きっとそうだよね」
 オワタ    :「……うん」

 隣で見ていて、これほど参っているオワタは初めてだと思った。
 ただ待つしかないのに、無心に待っては居られない。
 ただ、今のオワタからは、当初の疑念やら警戒心はまったく感じられなかった。
 じっと何かをこらえているようにも見え、日頃の彼とは打って変わって、と
ても弱々しく感じられる。

 そんなオワタに、自分は何をしてあげられるのだろう。
 そんなことを考えながら、りまりまはオワタの手を握りかえした。
 とにかく、今日は。
 オワタを支えて、場合によっては守るんだ。

 ふっと、顔を上げると。
 ひつじ雲の中に青と橙が混ざり始めていた。
 こんな色合いの空を見たのは、本当に久しぶりで、思わず見入ってしまう。
 もしかしたら、オワタの気が、少しは紛れるかもしれない。
 そう思ったら、口に出ていた。

 りまりま   :「……夕日、すっごい綺麗……」
 オワタ    :「え」

 オワタも西の空を見る。
 先ほどまで、目を伏せたままでいたせいか、どこか眩しくうつった。

 オワタ    :「……ほんとだ……なんか、俺、全然気づかなかった」

 ちょっと気を抜けたような顔をして、素直に感想を口にする。

 オワタ    :「……ありがと、りまりま」
 りまりま   :「ううん。よかった、ちょっと顔、余裕出てきてるよ」


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 それからまた少しして。
 薄手のコートの襟を立てて、中年の男が静かに現れた。

 どこか線が細いが、なかなかに魅力的な男だった。少しやつれているようで、
無精ひげが目立つ。ヒゲをそるだけでも、だいぶマシになるだろう。


 貞男     :「……貞我」
 オワタ    :「……っ」

 思わず、身を硬くするオワタ。
 確かに似ている、面影があると思った。

 オワタ    :「……父さん」
 りまりま   :(痛っ。でもがまん。そんな握った手)

 ちょっとかすかに体を震わせて、もう縋りたいといった風情。
 男の視線が、こちらに向けられる。


 りまりま   :「あ、あの、すみません、オワタくんに、無理いってついて
        :きちゃいました」
 貞男     :「ああ……そう、か……その」

 もそもそと、滑舌が悪いのか、なんとも聞き取りづらい口調だった。

 りまりま   :「オワタくんと、おつきあいしてます、箕備瀬と言います」
 オワタ    :「ごめん、父さん……あの」

 電話でのあの応対とはうって変わって。
 オワタの口調は、年相応、いやそれ以上に幼く感じられる。

 オワタ    :「……父さん、会えてよかった……」
 貞男     :「ああ……父さんも、会いたかった」

 視線が泳いでいた。
 オワタのことも、自分のことも見ていない。何を見ているのか、まったく
 掴めない。そう思った。小刻みに肩をすくめたり、ポケットの中の手を、ごそ
ごそと動かしてみたり。
 どこかひっかかるものを感じながら、しばらく、二人の沈黙を見守っていた
りまりまが声をかけた。

 りまりま   :「あ、あの」
 貞男     :「ん、ああ……」
 オワタ    :「……りまりま?」
 りまりま   :「す、すみません、今日、オワタくん、文化祭の用事が一個
        :あって……それで」

 もちろん、今思いついた出任せだ。
 ただ、少しずつ日が落ちて、暗くなってきている。
 人気のある場所でもないし、早くここから離れたい。そう思ってのことだった。

 貞男     :「あ、ああ……わかってる……」
 オワタ    :「……え、うん……でも……」

 ちらっと父を見るオワタ。
 その訴えるような視線から、りまりまは、オワタの父親に対する感情を悟った。
 以前、電話があったことを話してくれた時に見せた怖い表情。
 それとは真逆の、すがるような今の表情。

 しかし。
 出来れば、オワタの望むようにしてあげたい。
 そう思いつつ同時に、この人と、オワタの父と、長く会わせるべきじゃない。
 理由はないが、直感でそう思っていた。

 そして、当のオワタの父、貞男は。
 また、オワタを見ることなく、視線を泳がせたままだった。

 りまりま   :「すみません、せっかく、お久しぶりに会ってる、のに」

 貞男     :「……(どうしたんだ、マリコ)」
 オワタ    :「……父さん?」

 父親の不審な態度に、思わず手を伸ばすオワタ。

 貞男     :「……っ」

 伸ばされた手におびえるように、貞男は身を引いた。

 オワタ    :「とう……」
 りまりま   :「? あの……どうかしました?」
 オワタ    :「父さん? どうしたの」

 りまりまには、貞男がおびえているように見えた。
 なぜおびえる必要があるのだろう。そもそも、今回ここで会うことは、貞男が
言い出したことだ。当初、もっと外れの森の近くを指定してきたが、時間も
遅いし、もっと近いところがいい。そう主張して、折衷案として出てきたのが
このスーパーの跡地だ。

 男の子の幽霊が告げた、「殺される」という言葉。
 その言葉を直接聞いたのも、姿を見たのもりまりまだけだが、男の子が嘘を
ついていないことは、本能的にわかった。

 それを告げたときの、オワタの様子の変化。
 理由は聞いていない。
 直後、一人で会いに行く、そう言うオワタに無理を言って、こうしてついて
きている。

 オワタの今の様子からみて、ついてきて正解だったと思う。ここまでは。
 ただ、ここからどうすればいいのか。
 材料が少なすぎて、判断出来ない。
 だから、早く立ち去ろう。まだ明るいうちに。そう思った。

 貞男     :「……」

 そして相対する貞男は、ただ逡巡していたのだが、オワタとりまりまには
それを察するすべはなかった。

 オワタ    :「父さん……顔色悪いよ……具合、悪いのかよ」
 貞男     :「……え、いや、その」

 後ずさろうとした時。
 建物の裏、周りの塀。他にも、物陰になっているあらゆる箇所から、警官が
現れて、貞男を取り囲む。

 オワタ    :「なっ!」
 貞男     :「ひぃっ!」
 りまりま   :「え? え?」

 その中に、私服の男が一人いた。
 オワタとりまりまの二人は、その顔に見覚えがある。
 先日、葉島家で、錯乱している多菜の母を取り押さえた男だ。
 そして、二人の眼前で、貞男は両脇から警官に取り押さえられていた。

 りまりま   :「けい……さつ……?」
 相羽     :「葉島貞男、業務上横領及び葉島辰男殺人教唆容疑で逮捕する」
 オワタ    :「!」
 りまりま   :「っ……嘘……辰男……って」
 貞男     :「ち、ちがう! 俺じゃない! マリコだ! 俺は悪くない!
        :俺は騙されたんだ!」

 葉島辰男。
 つい先日、この名前も聞いている。
 多菜の口から出た、多菜の弟。
 オワタにどこか似ていて、そして。
 「殺される」
 そうりまりまに告げた幽霊の男の子だ。

 そして、貞男の口から、マリコという名を聞いて。
 ようやっと、事情がある程度把握出来た気がする。
 葉島辰男は、マリコと貞男の手によって、殺されたのだ。

 教唆、という言葉の意味はなんとなく察するしかないが、深く関わっている
のは間違いないだろう。
 少なくとも、辰男が殺されたことに関して、何らかの手助けをしているのだ。

 貞男はというと、ただじたばたと暴れながら、髪を振り乱して叫んでいた。

 オワタ    :「……とう……さん……」

 そして、オワタにとって、最後の頼るべき存在だった男は。悔いることもなく、
ただ醜態をさらし続けていた。

 それでもなお、オワタはまだ信じられないのか、貞男に呼びかける。

 オワタ    :「……とう……」
 貞男     :「違う! 違う! 俺は利用されたんだ! どいつもこいつも!
        :俺は被害者だ! 俺じゃない! おれじゃないっ!」
 りまりま   :「……お、オワタくん……」
 オワタ    :「……父さん……うそ、だろ?」

 りまりまが手を握り直すのと、オワタが膝をつくのはほぼ同時だった。

 貞男     :「ちがうっ! 貞我! 貞我! 助けてくれ! 父さんは
        :悪くないんだ!」
 相羽     :「……」

 私服の男、相羽刑事が、貞男の腕に手錠をかける。
 それを、オワタはじっと見ていた。
 目をそらせないまま。
 ガチャ、という音が耳に残った。

 りまりま   :「オワタくん、ね、オワタくん、大丈夫?」
 オワタ    :「……」

 身動き一つせず、ただ、貞男の姿を見続けているオワタ。
 りまりまの問いに反応もせず、ただじっと。

 貞男     :「いやだ! たすけてくれ! マリコのせいだ! 俺じゃない!
        :俺はひがいしゃだ!!」
 相羽     :「連行しろ」
 警官     :「はい」

 オワタ    :「……」
 りまりま   :「……待ってください」

 ただ、暴れながらいいわけを繰り返す貞男。
 その姿を目の当たりにして、茫然としているオワタ。
 詳しい事情──なぜ、貞男が逮捕されているのか、については、まだ理解し
ていない。

 だが。
 目の前のこの男、オワタの父親、貞男が。
 オワタを手ひどく裏切ったことだけはわかる。
 電話での言葉とは裏腹に、父に頼ろうとしていたオワタ。
 父の弱さ、ダメさを目の当たりにしながら、その代わりを懸命に務めようとし、
疲れきっていたオワタを。

 立ち上がって。近づいていった。
 指揮を執っている刑事が振り返った。

 相羽     :「ん?」
 貞男     :「俺は悪くない……貞我、父さんは悪くないんだ!」

 貞男には、近づくりまりまの姿も映っていないようだった。
 許せなかった。
 傷ついたオワタを労ることもなく、ただ、自分の保身だけを口にする男。
 なにより、守りたくて、少しでも楽にしてあげたかったオワタを、さらに
手ひどく傷つけた男を。

 りまりま   :「なんで、なんで謝らないんですか! 言い訳ばっかりして!
        :この、この……バカ野郎!!」
 貞男     :「へぶっ」

 思いっきり振りかぶって、そのまま握った手を振り下ろしていた。
 鼻っ面に斜めに当たって、貞男は口と鼻から奇妙な声を出してへたり込む。

 オワタ    :「……とう、さん……」
 相羽     :「……」

 こういう場合、何かしらの罪になるのかもしれない。
 しかし、刑事も、回りの警官たちも、見て見ぬふりをしていた。

 貞男     :「な、何をするんだ! は、はんざいだぞ! 父さんにも
        :なぐられたことないのに!」

 殴り慣れていない、むしろ、平手もあまり経験がないし、拳で殴ったことなん
て初めてだ。
 手の甲がずきずきと痛む。

 りまりま   :「痛っ……。そんなの知らない! オワタくん、オワタくん!
        :大丈夫、大丈夫だから、もう帰ろ?」
 オワタ    :「……」

 言い捨てて、オワタの元に駈け寄る。まだなにか背後で喚いていたが、まっ
たく耳には入らない。
 ここから離れないと。とにかく家に帰って、オワタを休ませないと。
 そうしないと、オワタが壊れてしまう。
 うなだれたまま、うなずきもしないオワタに何度も声をかけた。

 どうにかオワタが顔をあげた時に、丁度貞男はパトカーに乗せられていた。
 隣のりまりまに寄りかかるようにして、オワタは、ぼんやりとその光景を
見ていた。

 オワタ    :「……」
 相羽     :「後ほど……事情はお話します、今日はお送りしますので、
        :お嬢さんもあちらにどうぞ」

 オワタはやはり、身動き一つせずに、テールランプが遠ざかるのをずっと目で
追っていた。


----

 帰りのパトカーの中で。
 オワタはまだ呆然として、何度か呟いていた。

 オワタ    :「……」

 オワタ    :「……さん……」

 ぽつりと、涙が落ちる。

 オワタ    :「……とうさん」
 りまりま   :「……」
 オワタ    :「……とうさん……どうして……」

 思わず、オワタの顔を、胸元に抱き寄せていた。
 ぎゅっと、しがみついてくるオワタ。
 どうして。
 それに対する答えはない。
 そして、泣き続けるオワタに対して、何が出来るのか、どうすればいいのか
もわからない。だから、オワタを抱きしめるしか、出来なかった。

 オワタ    :「……どうして……」
 りまりま   :「わかんない、わかんないけど……一緒に居るから……ね」
 オワタ    :「……うん」

 家に到着するまで。時間にすれば十分少々。
 ずっとオワタは声を殺して泣いていた。

 翌日、テレビ新聞は大見出しである事件を報じていた。
 保険金目的の殺人事件、県を飛び越えて五人。
 主犯格の女、澤田真理子。
 そして、五番目の殺人に手を貸したという子供の父親──葉島貞男。
 澤田の愛人であり、多額の借金があり、会社の金を使い込んでいた。

 しかし、学校ではさほど話題にもなっておらず、いつも通りだった。
 いつもと同じ喧噪。
 オワタの耳には、どこか離れた場所のように聞こえていた。


時系列と舞台
------------
 10月。


解説
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 父とマリコの目論見は潰えたが。

 というわけでりまりま視点ぽい。


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Toyolina
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