[KATARIBE 31421] [HA06N] 小説『死神ですら嘆くような・4』

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Date: Tue, 6 Nov 2007 23:47:04 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31421] [HA06N] 小説『死神ですら嘆くような・4』
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2007年11月06日:23時46分58秒
Sub:[HA06N]小説『死神ですら嘆くような・4』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
続きです。
そして……多分次で、真帆パートは終わります。

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小説『死神ですら嘆くような・4』
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登場人物
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 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。幽霊を実体化する異能あり。
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事課巡査。真帆にはめっさ甘い。
 本宮史久(もとみや・ふみひさ)
     :本宮家長男、人間戦車な刑事さん。兼任零課でもある。 

本文
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 県警までの道のりは、決して遠くはないのだけれども。
 何故かその日だけは、その道程がひどく遠く感じた。

         **

 二人を無事に捕らえた、と尚吾さんは言った。
 屑のような男と女だった、と……吐き棄てるように付け加えた。


 男はニモちゃん達の父親だった。つまり過去形。
 浮気のせいで奥さんはさっさと離婚し、以来女手一つで子供達を育ててきた
という。その間息子さん……つまりニモちゃんのお兄さん……を除いて、この
元旦那とご家族は没交渉。
 そして男のほうは、浮気相手と結婚するも、また愛人をこさえた、と。
「それじゃ、あたしが見た女性は」
「多分、愛人のほう」
 そして、女が性悪なのは確かだ……と、濃く淹れたお茶に少し顔をしかめな
がら尚吾さんは言った。これまでに旦那二人、そして間に出来た子供二人を殺
している。どちらも保険金を狙ったものである、と。
「それに、二度目の奥さんの……葉島さんの子供を、一人」
 それが多分……あたしが見かけた子供であるらしい。
「おねえさんが居たからね」
「その子は?!」
「ああ……保護、したよ」
 無事、とはその言葉に含まれない。
 彼らを逮捕する際に、何か問題があった、か。
 それとも……既に。

 男の子供……現在の奥さんの子供を殺し、その子供達にかけた保険金を手に
入れる。次に狙っていたのは上の子、そして。
「別れた奥さんの子供達」
「……何で?!」

 既に姓が異なる相手、離婚した相手の子。
 
「ばれるって思わないかな、普通……」
 正直こちらも呆れた。まだ自分の子供に保険をかけるってのは判る。とりた
てて変とも思わない。だけど、離婚して現在全く付き合いの無い子供達に、勝
手に保険をかけることがどれだけ異常だか……そしてそのことがばれない、と
思える頭の逝かれ具合が不思議なくらいだ。
「自分の今の子供でも、二人そうやって殺されたら怪しまれると思うんだけど、
それ以上に離婚した時の自分の子を……って」
 尚吾さんはふん、と、嘲笑ったように見えた。
「莫迦だから、さ。思ったんじゃないかな。二人続けて殺したらばれやすい。
けど、別の子供ならばれにくい、とか」
「……それってとことん莫迦?」
「だろうね」
 尚吾さんは吐き出すように言った。
「何せ、それで四人……殺した実績があるからね、女のほうに」

 四人。
 そりゃ、色々な方法で……とは思えるけど、それにしても普通、御主人二人、
子供二人、と亡くしている(それも、その度に大金を手にしている)女性って
んなら、少しはそれなりに注意しないものだろうか。
「……ほんとだよね」
 そう言うと、尚吾さんはそれだけ言って、黙った。
 きつい横顔が、それ以上の言葉を紡ぐことなく……固まるように見えて。
「あ……」
 注意しないのだろうか、と言って、それは当然だ、とこの人が返す。
 ということは。
「……尚吾さん、まさか、警察の誰かが……誰かが手加減してた、とか?!」
 返事は、無かった。

 言えないことは言わない、と、最初に言われた。
 そういうことも含まれているのだろう、と、それは確かに有り得ることだか
ら。
 だから、これ以上は訊いても無駄だろう、とは思ったけど。
 そうすると何となく話は見えてくる。結婚を、今の……その、ニモちゃんの
お父さんも含めると3回して、そのうち2回は男性を殺しているのだ。それは
それなりに魅力のある……男性をたぶらかすだけの引力のある女性なのだ、と
思う。
 そして……そういう女性が、男性を本気で騙そうとしたら。
 ……そうであったなら。


「でも……その、お父さんって、何でまた子供さんを……そんな目に」
 愛人の女性にしたら、葉島さんの子供達は自分の血が全く繋がっていない相
手だ。自分の子供さえ殺すような女、まして他人の子供を殺すのに遠慮があっ
たとは思えない。
 だけれども、男のほうは……実の父親だ。実行犯は確かに女性のほうかもし
れないけど。
「御羽君を呼び出したのはお父さん、なんでしょう?」
「……テレビでやってた?」
「うん……でも」
 そこで良心が痛むことは無かったのか。
 そこで、やっぱり止めようとは思わなかったのか。

「……全然」

 ぼそり、と、吐き出された言葉は単純で……でもそこに含まれる、まるで全
てを吐き出してしまいたいような深刻な嫌悪のほうが耳についた。
「一応ね、実行犯は女性のほう。あの父親は自分の手を汚したわけじゃない」
 だけどね、と、やりきれないような目をして。
「……言い続けてるよ。自分のせいじゃない、愛人が悪い、自分はちっとも悪
くない……って」
「ちょっと……そんな莫迦な!」
 
 現在の正式な奥さんとの間に出来た子供なら、確かに愛人から『殺そう』と
言い出したことも考えられる。そこで流されるほうがおかしい、と、無論思う
が、男が『自分は悪くない』と言い張るのは……まだぎりぎり『わからんでも
ない』の範疇に入る。
 でも、そもそも離婚して相当の時間が過ぎている、ニモちゃんやそのお兄さ
んについては、そもそも愛人は知らなかった筈だ。この男が情報を流さなかっ
たならば、その女だって存在すら知らなかったろうし、従って危険に晒される
ことなど無かったろうに。

「言ってたよ。愛人が唆したんだ、金を得る一番手っ取り早い方法はこれなん
だ、これが一番良いのだ、と。だからそれに従っただけだ、と」
「だって……じゃあ、何で、止めなかったのか、言ってた?」
 正直、何てまた勝手なことを、と思ったんだけど。
「訊いたよ、それ」
「そしたら?」
「『でも金が無かったから……』だってさ」
「はァ?!」

 何と言うか……頭がねじねじするってのは、こういう感覚かと思った。

「……それ、本気で言ってるの?!」
「みたいだね」

 ことん、と、尚吾さんは横になった。膝の上に頭が乗っかる。
「……気分悪い」
 その気分の悪さは、その男の……何と言うか、自分の罪を自覚しない、その
鉄面皮の加減に由来するものだろう。
 でも……でも。
「そしたら……その、女性のほうは、まだちゃんと裁かれる可能性はあるかも
しれないけど、その男のほうは」
「…………自分の子供に保険をかけたのは、この男だってのがはっきりすれば」
 それでも、判る。
 その男は……現状では、確かに手を汚していない。本当の意味では子供達に
手をあげたともいえない。

 けれども。

 …………けれども。

           **


「……真帆さん?」
 県警の正面玄関を潜り、そのまま進む。一応インターネットに記されている
各部署の位置だけは調べた積りだったんだけど。
「あ、本宮さん」
「どうしたんですか」
 大柄な、頭一つは優に大きなこの人は、その身体つきに反してひどく軽やか
な足取りでこちらにやってきた。
「……葉島貞男さんという人は、どこに居ますか?」
「え」
 その一瞬で、本宮さんはあたしの表情を読んだようだった。穏やかな、親切
そうな目が、すっと厳しい色を帯びる。
「……真帆さん」
「どこに、居るんでしょうか」

 殺人教唆。
 無論大罪だ。実行しようがしまいが、自分の子供を殺そうというのだ。法に
任せていても、無論それはきちんと罰してはくれるだろう。
 だけど。

(言い続けてるよ)
(自分のせいじゃない、愛人が悪い、自分はちっとも悪くない……って)

 思い出す。
 白髪の混じった男の顔。そして抱き上げた少年の、少し驚いたような顔。

(おねえちゃんが、あぶない)
(ぼくのおねえちゃんが、すごく)

 尚吾さんに聞いてから、テレビやインターネットで調べた。葉島さんの奥さ
んのこと、そしてあの小さな子が言い置いていった『おねえちゃん』のこと。
 奥さんという人が、子供さんを亡くしてからこちら……半ば狂気に染まって
いたこと。そしておねえちゃん、こと多菜ちゃんが、完全に育児を放棄された
状態で……この数年を過ごしてきたこと。

(自分は悪くない)
(でも金が無かったから)

 口先だけでも反省を示すことすらしない男。
 子殺しをしておいて、自分は悪くない、と、言い切れる男。
 胃の腑から湧き上がる、嫌悪と……確信。多分この男は、法で裁いても、そ
の裁きは『軽すぎる』のだろう、と。

「面と向かって会うってことじゃありません。壁の向こうでもいいの。でも」
「そうじゃなくて……真帆さん」
「どこに、居るんですか」
「……駄目です」
 厳しい……刑事としての本宮さんがこちらに対峙している。
「言いましたね。これはもう……我々のやるべきこと、だって」
「お聞きしました……でも」
 譲れないことがある。この人の目を真っ直ぐに見て、気おされないだけのこ
とが。
「今の法によって与えられる彼への罰は……彼にとっては軽すぎる」
 微かに歪む表情が、どこかしら確信として受け止められる。多分、本宮さん
も、それについては同感なのだろう。
「……それは真帆さんの判断ですね?」
「ええ、そうです」
「でも、それは貴方の判断でしかない」
「……そうかもしれません」

 けれども。

(気分悪い)
 そう言って転がってしまった尚吾さんの表情も。
 今、一瞬だけど歪んだこの人の表情も。

「だから私は、何もしません。ただ……近くに行きたいと言っているだけです!」
「いけません!」
 間髪入れず、そう言い放たれた、時に。

「……いいですよ。相羽……真帆さん、ですね」

 多分あたしよりも、5歳ほど年上だろう。くっきりとした頬の線が印象的だっ
た。痩せているが恐らくは骨太の、かっちりとしたスーツの良く似合う人。
「どうも。銀鏡と申します。本宮君の……まあ、上司の一人、みたいなもので
して」
 キャリアウーマン、と言って人が連想する女性。それを具体化したような彼
女は、さらりとそれだけ言うと、にこっと笑った。
「しろ、み……さんですか?」
「ああ、銀に鏡、でしろみって読むんですよ」
 ちょっと珍姓で、と、彼女は笑い……そしてその笑い顔のまま、言葉を続け
た。
「本宮君。構いません。この方が必要と思うところまで連れてってさしあげて」
「…………」

 頭が沸騰するほど……実は怒っていた、のだけれど。
 それでも判る。この人は、多分、いや確実にあたしの『幽霊を実体化する』
能力について知っている、と。
 そして恐らく、この人自身も……そういった何か、奇怪な能力を持っている
のだろう、と。

 もしかしたらそれは、大いに忌避すべき事態なのかもしれない。けれども。
「……有難うございます」
 
 今は。
 今だけは……役に立つ。

「こちら、です」

 ふう、と一つ息を吐いて、本宮さんは踵を返した。


時系列
------
 2007年9月後半
 第三話より多少後日、葉島貞男達が捕まって数日。

解説
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 捕まった葉島貞男の話を聞いた真帆は、県警へ行く。
*****************************************

 てなもんです。
 であであ。
 
 



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