[KATARIBE 31418] [OM04N] 小説『織りの手の四』

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Date: Mon, 5 Nov 2007 00:13:38 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31418] [OM04N] 小説『織りの手の四』
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2007年11月05日:00時13分37秒
Sub:[OM04N]小説『織りの手の四』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
とりあえず、進めました。
……あんまし進んでないけど……

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小説『織りの手の四』
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登場人物 
--------- 
  妙延尼(みょうえんに) 
   :綴る手の持ち主。鬼を祓う刺繍を綴ることが出来る。 
  お兼(おかね) 
   :妙延尼の乳母の子。非常にしっかり者で、ついでに怪力の持ち主。 
  秦時貞(はた・ときさだ)
   :鬼に懐疑的な陰陽師。厄介事の最後の行き場。


本文 
---- 

 機の前に座り、織り進められた布にすっと指を走らせる。
 織り手が亡くなり、その後何人かがこの布に触れてきた。しかし、それにし
てもこうやってただ置かれているだけの布に、埃くらい積もってもおかしくは
無いのだが。
「わしが、はらったのじゃ」
 機の横にちょんと座ったすすきが、得意そうに言う。
「わしが、わしのなまえのすすきで、ちょいちょいとはらったのじゃ」
「……それは良いことをなさった」
 すすきの姿は、実のところその輪郭くらいしか、妙延尼の目には捉えられな
い。しかしその時だけは、すすきが嬉しそうに、そして照れたように笑ってい
る姿がはっきりと判ったのだ。
「お手を、お貸し下さい」
「ええ」
 すう、と深く息を吐き、そして吸う。手から力を抜き、膝の上にふわりと置
く。
 吸った息と一緒に、ふわり、と冷たく涼しいものが、妙延尼の喉からするり
と流れ込む。膝の上の手がゆっくりと動き、杼を取り上げた。
(……ああ……)
 突き上げるような歓喜が身体を震わせる。喜び、期待、布に触れられる嬉し
さ、糸を操る楽しさ。
 織りの手の娘。彼女の心が溢れ出し、妙延尼のそれと混ざり合う。そんな奇
妙な感覚を憶えながら、妙延尼は手を動かした。

             **

 織り始める前にお兼は娘から頼まれたことがある。
(私はもう、このような姿ですので、ついつい……妙延尼様に無茶なほど長く
織り続けるかと思います)
 であるから、と、続けて。
(どうか、これ以上無理と判断なさいましたら、どうか止めては頂けませぬか)
 お兼にしたら、それくらい自分で……とも言いたいところだが、まあ、先に
それだけの自覚があるならば充分、とも思わないではない。
(私が身体をお借りしても、妙延尼様は、眠らなければならないし、ものを食
べねばなりませぬ。ですのでどうか、これは、と思われましたらお止め願えま
せぬか)
 その時間や回数は、もうお兼に全て任せる、という。

 
「時貞様、それじゃ、しばらくは私達こちらに居りますので」
「私は、居なくて大丈夫だろうか」
「ええ。もし必要とあらば、すすきに頼んで陰陽寮に知らせを届けます……あ、
それと、数日後には、必ず私からそちらに参ります」
「……判った」
「それと……もし、万が一、があれば、もしかしたらまた、こちらにお呼び立
てするかもしれません」
「万が一?」
 こそこそと……そう、丁度機の音に隠れる程度の声での会話である。少し眉
根に皺を寄せた時貞に、お兼はすっと肩をすくめてみせた。
「……妙延尼様は、私達には、出家なすった方ですが、あの男には女性としか
映っていないとも思われます」
 汚らわしい、とでも言わんばかりの口調に、時貞は尚更に眉間の皺を深くし
た。
「……つまり」
「夜は、私とすすきで、ひいさまを守ろうと思います」
 つまり……そういう危険性がある、ということだろう。
「一週間かそこら。それくらいなら私も大丈夫ですが、それ以上となると……
ちょっと」
「判った」
 時貞は頷いた。
「私では、その……すすき、というのは見えないが」
「じゃあ、他の陰陽寮の方にそう言っておいて下さいまし。すすき、というあ
やかしはこちらからの使者である、と」
「心得た」

             **

「……ひいさま」
 出来るだけ柔らかな、小さな声をかける。それでも、それ自体が音楽のよう
にうつくしい秩序を保っていた機の音が、少しつまずくように狂うのが判る。
「ひいさま。今日はもう、手を止めておやすみにならねば」
「……もう?」
「もう、でございます。手元も暗うございましょう?」
「…………あら」

 驚いたような声と、そして一緒に止まる機の音。
「もう、そのような時刻かえ?」
「ええ、それ以上進めると」
「目は……見えるのだけど」
「…………外をご覧下さいまし」
 そういわれて初めて、妙延尼は目を瞬いた。
「おや、ほんとだ」
 その顔に淡く重なるように、別の女の顔が見える。お兼はぐい、と、口を横
一文字に引き結んだ。
「とにかく、ちゃんと膳は用意されております。召し上がって下さいませ」
「はい」
 こくり、と、妙延尼は頷いた。


 食事は、この家の女が運んできた。
「おや、あの男の方は」
「あの方も忙しいので、今はお帰りになりました」
「それは……」
「無論、お呼びすれば即いらっしゃいます。あの方達の陰陽の力により、多少
の距離など問題ではございませんので」
「……はあ」
 無論かなりの誇張である。
「ああ、御床はこちらにお延べ致しますので」
「御願いします」
 ぺこり、と、頭を下げた妙延尼を、女は少し躊躇するように眺めたが、
「では……ごゆっくり」
 言い置いて、そのまま出て行った。

「……すすき。おいで」
 女の足音が充分遠ざかってから、妙延尼が呼ぶ。と同時に、とことこと小さ
な足音が近づき、彼女の横にすとんと座り込んだ。
「な、なんじゃな?」
「さ、一緒に食べよう?」
「え」
「ってひいさま!?」
 この屋敷の贅を示すように、膳の上の料理は豊かであったが、それにしても、
とお兼が言いかけたのを遮って。
「だってね、すすきはいざとなったら時貞様達を呼んできてくれるのでしょう?」
「そ、そうじゃな」
「では、ちゃんと食べて貰わねば……何が食べたい?」
「え、え、え」
 やはり今も、すすきの顔はよく見えない。恐らく真正面から見ても、目鼻立
ちをはっきりと見極めることは難しかろう。しかし、今現在、彼がとても喜ん
でいることは、その気配からも良く判るのだ。
「そ、それでは……その、大根が食べたい」
「ああ、これは確かに……美味しそうだこと。こちらの皿にとってあげよう」
 嬉しそうにかぶりついたすすきを見やり、そして微笑んだまま妙延尼はお兼
を見やった。
「お前も……私を守ってくれようとしているのでしょう?」
「……え」
「だからお兼、せめてたんとお食べ。私は座って織るだけなのだから」
「その……織るだけっていうのが大変なんじゃありませんか!」
「それがそうでもないのよ」
 ほろほろ、と笑って妙延尼が応じる。
「ほれ、手を動かしているのは……あの娘なのだから」

 まるで取り憑かれたように、と、妙延尼自身も思う。
 腕も指も自然に動く。簸はくるくると糸の間を走り、機はかたりかたりと調
べを奏でるようにも見える。その全てが、皮膚から染み込む様な歓喜として認
識されているのだ。
 食事も要らぬ、眠りも要らぬ。今も……そう、判っては居てもあの機の前に
座りたい、そしてそのまま織り続けたい、と切に願う。焦がれるように願って
いる。

「……それでも、休んでくださいましな」
「無論。ちゃんと判っておいでですよ」
 ぽん、と、胸元を叩く仕草に、お兼はぐっとまた、口を引き結んだ。
「……判っているのと、実際にやるのとは違いますからね」
「まあ……お兼」
「ひいさまに無茶をさせないで下さいましね」
 きつい目を向けるお兼に、妙延尼は微笑んだ。
「……大丈夫ですよ」
「そう、願います」

 ふん、と鼻を鳴らして膳のほうを向いたお兼を見て、すすきがほっとしたよ
うに詰めていた息を吐いた。

解説
----
 織りのはじめ。
 ある意味では互いに、手回ししている状態かもしれず。
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 とりあえず、次にはもちっと進展があります。
 であであ。
 
 


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