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Date: Sat, 27 Oct 2007 00:59:20 +0900
From: Subject: [KATARIBE 31408] [HA06N] 小説『雨センサー 5』
To: kataribe-ml <kataribe-ml@trpg.net>
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Web: http://kataribe.com/HA/06/N/
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[HA06N] 小説『雨センサー 5』
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登場人物
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蒼雅渚 http://kataribe.com/HA/06/C/0636/
蒼雅紫 http://kataribe.com/HA/06/C/0573/
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十月になって、急に冷えるようになってきた、と思う。
つい先日までまだ暑くて、夜半にならないと秋を感じられなかったのだが、
今は日中でも風が冷たく、少しずつ肌を刺すようになってきている。
空気の鋭い冷たさは同時に、渚の左膝の古傷を痛ませる。
今年は雨が少なかったこともあって、あまり意識せずに済んできたのだが、
さすがに冬が間近くなると、晴れていても痛み出す。
視界の少し先を、紫が歩いていた。
少し物思いにふけっている間に、歩調がずれたらしい。ショーウィンドウを
覗き込んでいる紫の隣に、自然と肩を並べて、同じものを見る。ファーを大き
くあしらった、焦げ茶色のスエードのショートブーツ。
「あ、これカワイイ。もこもこしてる」
「これは、兎でしょうか……」
「んー。フェイクやと思うけど」
「でも暖かそうですね。頭寒足熱と言いますし」
「うん、はいててもなんか楽そう」
渚は、紫がはいている姿を想像し、それに合うコーディネートを一瞬で脳内
で完成させる。一方の紫は、渚がはいていて、暖かいー、楽ー、とご機嫌そう
にしている姿を瞬時に想像する。
「渚さま」
「紫」
ほぼ同時に。向き合って名を呼んだ。少しだけ見つめ合って、渚が小さく
微笑んだ。こういうとき、渚は必ず相手を立てる。
「紫から、ね」
「はい。では……その……今月はアルバイトがんばったので、少し余裕が」
「うん、もうお店になくてはならん存在やもんね」
えらいえらい、と紫の髪をなでる。少し照れてとろけながら、紫は続けた。
「それで……渚さまに、プレゼントを……と思いまして」
「え? ええ? そ、それはうん、めっちゃ嬉しい……けど……あれ、なんか
あったっけ、誕生日まだやし……」
渚は二月生まれだ。まだまだ先の話だし、クリスマスにも早い。
「先日、お祝いにバッグを頂きましたし」
「え、それはほら、紫のお誕生日やから……」
「でも」
小さく息を吸って、紫が口を開く。
「そろそろ寒くなってきましたし……渚さまが、これで痛い、辛い思いをしな
くて済むなら」
「紫……」
口に出していたのだろうか、それとも無意識に、痛みをこらえる仕草をして
いたのだろうか。あまりのタイミングに、渚は二の句が継げない。
「渚さまがおっしゃってたこと、覚えてます。渚さまは普通に振る舞ってらっ
しゃってましたが……古傷、痛まないわけありません」
「うん……」
去年はそれを知って、紫はブランケットを渚にプレゼントした。その頃はま
だ、今のような関係にはなっていなかったが、渚の気持ちはその頃も今も同じ。
だから、大切に使って、今年もそろそろ用意しようと思ってはいたのだ。
「渚さま……私の前では、がまんなさらなくても、痛いって言っていただいて
いいんです」
「紫……うん、わかった。ありがとう、紫」
「はいっ。では、入りましょう、渚さま」
満面の笑みを浮かべながら、渚の手を引いてお店に入っていく紫。
その仕草が可愛らしく、同時に、頼もしく思えた。
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「あのね、紫」
「はい」
ブーツの収まった紙バッグを抱えるようにして、渚が話し出した。
あの後、もう少しお店を見て回って、カフェでお茶をして。
晩ご飯の材料を買って帰る途中だった。
「さっきのお茶のとき、言うの忘れてたんやけど……紫は、スキーとかボード
とか、する?」
「すきぃ、ですか……ぼぉど……板ですか?」
「うん、ブーツ履いて、その下に板、うん、板やんな、スキー板とかいうし。
それをまた履いてな、雪山を滑って下りるの」
「かんじきなら、冬の必需品です」
ぐっ、と握り拳をしながら、満面の笑みを見せる。
山育ちの紫は、四季を問わず山に入っているらしい。
かんじき、ってどんなんやったっけ。
そう思っている間に、紫は勘違いを始めていた。
「ですが、板を履いたことは……歩きづらそうですが……」
「う、うん、歩くものっちゃうしね。滑って下りる、スポーツやから」
「ううむ……はい。滑って下りるのは、分かりました。上るときはどうするの
でしょうか……」
「リフトに乗って上がるん」
「りふと……乗る……あまり、鍛錬にはなりそうにありませんね」
「う、うん、そうね。でもほら、一日に何回も下りるから、上ってたら日が暮れ
ちゃうよ」
まじめに、しかしどこかずれたままの紫。そんな紫と他愛ない話をするのは、
とても楽で心地良い。なにより、真剣な表情と、言葉のギャップが、可愛らし
くてしょうがない。
「渚さまは、そのすきぃとやらはなさるんですか?」
「ううん、全然。今日さ、佳美ちゃん知ってる?英語一緒のクラスの子。あの
子からメールきて、冬休みに英語クラス女子でスキー行こうって」
「まあ。賑やかで楽しそうです」
紫は興味が沸いてきたようだった。
きっとそう言うやろな。
そう思っていたから、渚はそのまま続ける。
「うん、返事はまだしてないんやけど、紫はどうするかなって思って。佳美ちゃ
ん、なんか気ぃ使ってて、紫にはうちから話してーって書いてたから」
「やってみたい……とは思いますが……渚さまが心配です」
「……え、うち? うちは、大丈夫よ。やったことないけど、割とすぐ慣れそ
うな気がしてるし」
「渚さま」
「……う」
じっと、紫が正面から見据える。
「すきぃ、は興味あります。けど、渚さまに、痛い思いをさせてまで、したい
とは思いません」
「……ごめん」
「いえ、謝るべきは私です……渚さまは、いつでも、私を立ててくださって……
私のことを、まず考えてくださって……」
紙バッグを抱えたままの渚。その手に自らの手を添えて、紫は続けた。
「渚さまの、そういう優しいところが、大好きです……でも、がまんは……な
さらないでください」
「……うん、さっきも言われたのに……ごめんね、うち、進歩ない」
「いいえ」
手に添えられていた手が、ゆっくりと渚の髪をなでる。
「渚さまは、大丈夫です。俯いたりしてても、後ろは向いてませんから……。
それに……」
「うん……」
「ずっと、ずっと一緒です。だから、急がなくても大丈夫です」
渚は、その言葉で、ふと思い出した。受験直前の頃だったか、二人で一緒に
帰り道を歩いていたときの、紫の言葉を。
急ぐ事なんてない。
それ以来、紫は自戒して、前を向いて歩いている。そう思った。
「紫……ありがと、ホントに……うち、紫で、ホントよかった……」
「渚さま……」
髪を撫でていた手を少し伸ばして。
渚の顔を、胸元に抱き寄せた。
「ん……」
「渚さま……少し冷えてしまってます……帰って、ご飯にしましょう?」
「うん……」
小さく頷きながら、このまま動きたくないな、なんて考える。
しかし、ここにずっと居るわけにもいかない。
どちらともなく離れて、また並んで歩き出した。
「……スキー、ごめんやけど、不参加ってメールしとくね」
「はい……そうです、代わりと言ってはなんですが……温泉に行きませんか?
蒼雅が湯治に使うところなのですが……」
「え、なんかすごそう」
「はい、効き目は抜群です。梓姉さまと、よく行ってたんです」
まだ会ったことはないが、渚も話には聞いて知っている。本家の長女であり、
紫の戸籍上の従姉にして、血筋としては実の姉にあたる人だ。
「きっと、渚さまの怪我の痛みも、和らげてくれます」
「うん、そこ行きたい。ゆっくり温泉つかって、のんびりして……」
「お料理も大変美味しいですよ? 山の霊気を蓄えてますから!」
紫が先回りして、渚の思っていることを言い当てた。
「え、も、もう、言おうとおもってたのに……紫ちょっといじわる」
「えへへ、渚さまの考えてらっしゃることですもの。お見通しです」
少しとがらせた渚の唇に、指先で軽く触れて。
「じゃあ、今うちがなんて考えてるかわかる?」
「え、えっと……今……ですか……ええと……」
仕返しとばかりに、紫の唇に軽く触れる。
「ちょっとお茶目さんな紫も可愛いなーって思ったの」
「か、かわ……渚さまっ。もう……」
「あははは、やっぱり紫可愛い……ほら、帰って晩ご飯食べよ?」
つないだままの手を軽く引いて、渚は歩き出す。少し遅れて歩き出した紫は、
渚の腕をそのまま抱きかかえて、ぴったりとくっついた。
それから、二人は離れることなく、家路を少し急いだ。
時系列と舞台
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10月下旬、商店街。
解説
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まる一年あいたら人間関係超変わってて大変です。
それに雨降ってないし。
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Toyolina
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