[KATARIBE 31402] [HA06N] 小説『夏の木造校舎の怪・一回目』

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Date: Fri, 19 Oct 2007 00:48:46 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31402] [HA06N] 小説『夏の木造校舎の怪・一回目』
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2007年10月19日:00時48分46秒
Sub:[HA06N]小説『夏の木造校舎の怪・一回目』:
From:いー・あーる


というわけで、いー・あーるです。
勝手に書いてみてます、ニモちゃん達の肝試し。
訂正等、御願いします>ひさしゃん
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小説『夏の木造校舎の怪・一回目』
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登場人物
--------
 相羽真帆(あいば・まほ)
   :
 橋本保鷹(はしもと・やすたか)
   :橋本家四男。ワーモグラな男の子。ぼけぼけだけど頭がいい。
   :同じ塾に通う御羽仁藻とはトップを争う仲。
 御羽仁藻(おわ・にも)
   :御羽貞我の妹。小6。ツンデレブラコン。 
   :同じ塾の橋本保鷹とはトップを争う仲で、コンプレックスを感じている。 

本文
----

 何故かこの夏、何度か真帆は警察沙汰になるような出会いを繰り返した。相
手は全て未成年、それも『警察沙汰になるほど悪い子じゃない』と言い切れる
子供達だっただけに、それらの出会いは、時に苦すぎる後味を、そして時に割
り切れないような不安感を残したもの、だけれども。

 そして、そのうちの一つの出会いの数日後。
 
             **

「ひきょーものぉ!」
 通り一つを隔てて、その高い声はよく響いて聞こえた。
 
 
 相羽は今日も帰らない、という。昨日の夜、そろそろ今日になろうという時
間にかかってきた電話は、『今日も明日も帰れない』と、手短に語っただけで
切れてしまった。
 そうやって帰ってこないことは度々あって、度々あることにすら慣れつつあ
るのが本当のところなのだけれど。
(さつま揚げは、これはさっとあぶって食べたらいいかな)
 長い昼間が終わり、どんどんと日が暮れてゆく時間帯に、真帆は買い物袋を
片手で抑えながら、商店街の外れを歩いていた。
 相羽が帰ってこないとなると、真帆の料理はどうも手抜き気味になる。さっ
ぱりなものが好き、肉より魚が好き、偏食万歳なところのある相手に、どうやっ
たら苦手なものをするっと食べてもらえるか、と知恵を絞るだけに、どうして
も相羽が居ない時にはそういうことを考えずにすむ料理になりがちである。
(……でも、惣菜を買っていったら、絶対縹達文句言うし)
 さつま揚げをさっとあぶって、大根おろしと醤油で食べる。それくらいが何
とか許容範囲である。それで今日は、出来るだけ色々のさつま揚げとオクラ、
そして縹の大好物の胡瓜を買ってきたものだが。
(まあ、まだ寝てそうだけど)
 相羽を待って夜中まで起きていた縹とベタ達は、朝なかなか起きなかった。
お昼間にはその反動のように暴れまわり、今のところ疲れてぐうぐう昼寝(と
いうか夕寝)の最中である。
(あとは……明日の朝はもうパンでいいから……あと買い忘れないっけな)
 肩からかけた買い物袋の中を確認しながら歩いていた真帆の耳にその高い声
が届いたのは……それはそれで良かったと断言できるかどうか、微妙なものが
あるのだが。


 するり、と角を曲がり、通りを一つ入る。途端にそこは人通りが殆ど無い場
所になっている。一戸建ての家が並び、そして街中に最近珍しい、丁度一軒分
くらいの広っぱと積み上げた建材。そしてその隣からずっと入ったところ。
「お前ら帰ってきたら、だから俺ら行くって言ってんだろ」
「お前生意気なんだよっ」
 声はそれでも、まだ声変わり前の少年達の声で……もしもそれに対するひと
きわ高い声が聞こえていなかったら、真帆もそのまま子供の喧嘩、と放置した
かもしれない。
 が。
「行けってば!」
「さわんないでよっ!」
 その高い、勝気な声には充分聞き覚えがある。

 路地の途中には、多分小学の高学年の男子が4人ほど。彼らの間を静かに通
り抜け(当然彼等にしたら『大人』であり、気にするような相手ではない)、
そのまま通り過ぎる。ごさごさと話す声を完全に無視し、そのまま進んで。
(ああ、ここか)
 するりと角を曲がる。と。
「行こうよ。まだ今なら明るいし」
「……そういう問題じゃないでしょっ」
 おとなしそうな、眼鏡をかけた男の子と、同い年くらいの、これは見るから
に勝気そうな女の子。二つに結わえた髪も、少し目尻の釣りあがった目元も、
見覚えのある、その顔。
「ああ、やっぱりニモちゃんだ」
「え?」
 びく、と、肩を震わせて振り返った少女は、けれども途端にぱっと明るい顔
になった。
「真帆さん!」

 
 それは本当に偶然だった。
 新学期が始まってすぐの頃。夕刻、真っ青な顔をして走っているこの少女と、
真帆は偶然出会ったのだ。不審な男に追われていると震えるこの少女と一緒に
真帆は県警に行き、そして彼女を迎えに来た中学か高校の少年と一緒に送り返
した。
『ありがとう、真帆さん』
 タクシーの後部座席から、手を振っていた顔は、まだ記憶の中で鮮やか過ぎ
るほど鮮やかで。
 その顔が、今、ゆるゆると暮れかかる遅い夏の夕刻の光の中で、やっぱり嬉
しそうに真帆の方を向いている。


「どうしたの?」
「それが……」
 嬉しそうな顔がくしゃんと歪んだ。何とも悔しそうな、でもどこかで怯えた
ような顔になったニモは、それでもきちんと判りやすい順序で説明を始めた。

「……要するに、嫉妬というかそういうもの?」
「え」
 この、眼鏡をかけた少年とニモとは、同じ塾に行っているのだという。先程
道の途中でたむろしていた四人も同様。
 新学期になって初めての塾の日の今日、その四人が、この二人に難癖をつけ
出したのだという。無論難癖を論破するくらいのことはこの二人ならば余裕で
やってのけた、らしいのだが。
(言い返したら、殴るぞって言って…!)
 どうやらこの二人が、塾のトップと二番、らしい。夏休みの間にやった試験
の結果を見て、あの四人がやっかんだのだ。
「テストで敵わないから、お化け屋敷に行けって、それ完全に嫉妬とかやっか
みって言うんだと思うけどな」
「……それ、でも」
 またえらく恨めしげな顔で、ニモは傍らの少年を見る。
「橋本君は、面白そうって言うし!」
「だって、こんなとこにある、それも古い建物だから面白そうだなって……」
「でもお化け屋敷って言うじゃない!夜になったら女の人の幽霊が出るって!」
「だから面白そうだって」
「信じらんない!」
「あー……ちょっと待って」
 高い声で言い募るニモの肩をそっと抑えて、真帆は確認する。
「で、各階に石を置いてきたら、あの子達が拾いに行くってんでしょ?」
「それでおあいこだからって」
「それ、置くのは階段のとこでいいんでしょ?どっか建物の端っことかじゃあ
なくって」
「何にも言ってないから、それでいいと思います」
 まだ声変わりしていない声ではっきりと言ったのは、少年のほうだった。
「それじゃあ……あれ、ごめんなさい、あのお名前は?私は相羽真帆って言い
ますけど」
「あ、僕は、橋本保鷹っていいます」
「じゃ……ええと、橋本君、ニモちゃん、今ぱーっと行って置いてこよう?」
「ええっ?!」
 一歩後ろに下がったニモに、真帆はくすっと笑った。
「思うけどね、その四人、多分ニモちゃんより余程そのお化け屋敷が怖いのよ」
「え、でも……」
「だから、二人に先に行かせてる。もし戻ってきたら自分達も大丈夫だろうっ
て、まず先に確認させる為にね」
「そうだと思います」
「……それは……判ってます」
 少年はこともなげに、少女は悔しげに。
 それでも二人ともそのことを肯定する。
「だから、四人ともそれだけ真面目に、あそこがお化け屋敷って信じちゃって
るわけ。多分、最終的に悲鳴を上げるのは、あの四人のほうだと思うよ?」
「…………」
「だから……」
 こくこくと頷いている少年と、やっぱり悔しそうに、そして同時に薄気味悪
そうに口を閉じた少女を交互に見ると、真帆は笑って提案した。
「だから一緒に行こう?」
「え?!」
「あの、おば……あの、まほさん、もですか?」
 良いのかな、と、首を傾げた少年の横で、ニモのほうは気がかりや怖さが大
体半分くらいは減ったような顔になった。
「一緒に行ってくれるなら……嬉しいです!」
「じゃあ、一緒に行こう」
 実際、真帆にしてみたら、そのお化け屋敷にいるかもしれないお化けよりも、
灯りが無い為に怪我をすることのほうが余程怖い。ぎりぎりまだ夕日の名残が
残っている間に、せめて階段の位置くらいは確認しておきたい。
「二人だけで行けって言われてないんでしょ?」
「それは……」
「言われてないです」
 無論あの四人にしたら、他に人が来るだろうということ自体、考えてなかっ
たのだろうが。

 急激に暮れてゆく光の中、真帆は顔を上げて改めてその『お化け屋敷』を見
る。
 4階建ての、恐らくは完全に木造の……これは。
「ねえ、これ、お化け屋敷っていうより……校舎?」
「だって、言ってました」
「ああ、成程ね」
 今時の子供には、そもそも木造校舎なんて見たこともあるまい。
「あれってね、不気味に見えるし時々きしむけど、普通の校舎なんだよ」
「……真帆さん、知ってるんですか?」
「あたしの最初の小学校は、木造校舎、それも建ってから25年経ってました」
「うわあ」
「隙間とかがあるから、きしんだり……あたしは見てないけど、コウモリが入っ
てきちゃって追い出すのに大変したってことは聞いた事あるし」
「……こ、こうもり、ですか?」
「うん。そういうのが居たら、ニモちゃんとか幽霊に間違わない?」
「…………かも」
 ちょっと恥ずかしそうに、少女が頷く。
「あたしそういうのは、まあ、多少知ってるから。怖く見えても安全ってこと
ならそれなりに判るよ?」
「……」
 こくん、と、少女が頷き、少年がはい、と言う。それを聴いて真帆は笑った。
「じゃあ行こう……あ、そうだ」
「はい?」
 歩きながら不思議そうな顔になった二人に、真帆は買い物袋から小さな箱を
取り出して差し出した。
「はい、キャラメル。一粒で300mって言うから、逃げる時にはいいかも」
「……いただきます」
 ちょっとだけ笑って、ぺこんと一礼してから、ニモが手を伸ばした。


時系列
------
 2007年9月上旬

本文
----
 真帆、ニモっちと保鷹君と共に、お化け校舎に挑もうとする。
*************************************

 てなもんです。
 であであ。
 
 


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