[KATARIBE 31394] [HA06N] 小説『死神ですら嘆くような・2』

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Date: Mon, 8 Oct 2007 00:02:03 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31394] [HA06N] 小説『死神ですら嘆くような・2』
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2007年10月08日:00時02分02秒
Sub:[HA06N]小説『死神ですら嘆くような・2』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
というわけで、陰惨な場面の次です。

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小説『死神ですら嘆くような・2』
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登場人物
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 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。 
 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ)
     :本宮家三男、霊感葬儀屋さん。色々見えすぎる人。
 本宮史久(もとみや・ふみひさ)
     :本宮家長男、人間戦車な刑事さん。兼任零課でもある。 


本文
----

 県警近くの喫茶店の片隅のテーブルの向かいに、彼は腕を組んで黙って座っ
ていた。

 小さな子供。おねえちゃんがあぶない、と、言い置いて消えたその少年に会っ
て、あたしはとにかくこの人に連絡を取った。見えないモノ達については、少
なくともあたしの知る限りでは、恐らく一番詳しい相手。
(見えるのも無論だけど、職業柄、どうしたらいいか、とか、無視する方法と
か、そういう……この社会的に合致する対処法については一番強い人だと思う
よ、真帆サン)
 ある意味では、普通の人の範疇を多少踏み外した六華の言葉である。誰が言
うより、その人物判定には信頼が置ける。
 だから。
(ごめんなさい。ちょっと相談に乗ってほしいことがあるんです)
 殆どその一言で、彼は仕事を定時で引き上げてここに来てくれている。

 考えてみれば、それはほんの5分かそこらの出来事。
 悲鳴を上げる男女。その二人を追っかけていた少年。
(おねえちゃんが、あぶない)
 まだあどけない顔に、はっきりと表情を刻んだまま。

「……あんまり考えたくないけど……」 
「ああ」
 口を一度、への字に結んでから幸久さんは頷いた。
「多分、あの男の人の子供で」
「…………」
 ぎゅっと眉根に縦皺を寄せて、幸久さんはこちらを見る。
 史久さんと、やっぱり兄弟だけあって似ている顔立ちの中、目元だけは、彼
のほうがきつい印象がある。その目がますます鋭いような光を帯びてこちらを
見る。
「恐らく……現在まで、確証はされていなかったろうけど……それでも他殺」
 それも、と、言葉を続けようとして。
 すい、と、幸久さんの手が上がった。

「……いいか、あの二人にはもう近づくな」 
「……はい」 
 まずそれが最初だ、と言外に示しつつ、彼は一つ息を吐いた。
「あんた、まだその男達覚えてるよな」
「無論」
 うん、と頷くと同時に、彼はポケットから携帯を取り出した。
「……兄貴に連絡取ってみる」
「…………御願いします」

 おねえちゃんが危ない、と、あの少年は言った。
 危ない、というなら、まだその『おねえちゃん』もそんな歳がいっているわ
けではないと思う。ということは、あの少年が亡くなったのはそんな昔ではな
い。恐らくこの数年というところ。
 目を閉じる。出来るだけあの人達の印象を消さない為に。

「時間あるか」
「ある」
 咄嗟に応じると、また、すぐぼそぼそと話す声。そして小さな電子音。
「出来るだけすぐ向かうって」
「……うん」
 尚吾さんに伝えてって言うべきだったか、と、ちょっとだけ思った。
 でもそれも何か……違うかもしれない、と思った。
 違うというより、そもそもこうやってあたしが死者と出会う度に、尚吾さん
の仕事は増えている気がする。役に立っているといえばそうかもしれないし、
そうやって隠れていた犯罪が見つかるのはよいことだろう、と、思う。
 でも。


 結局、本宮さん……史久さんは、それから30分でこちらに来た。
「じゃあ、真帆さん。もう一度話して頂けますか」
 その言葉から始まって、史久さんはとことん聞き質してきた。その男の髪型、
その色、顔立ちについても輪郭はどんなか、目の感じは、口の感じは。
 無論、その少年についても、また、男の隣に居た女の人についてもとことん
訊かれた。第一印象、その声、服装等。正直、あたしもそんなに良く見ていな
かったせいもあって、結構答えられないことも多くて。
「……判りました」
 そう言って、本宮さんがノートを閉じた頃には、こちらは何だか脳みそが思
いっきり絞られたような気分になってた。
「あと、何か、思い出したことがあれば、教えてください」
「はい……あ、あと、何か出来ることあります?」
「出来ること」
 ノートを懐にしまい込みながら、史久さんは苦笑した。
「出来ること、というより……もしまたその二人を見かけたら、近寄らないよ
うにして下さい」
 口調も表情も違うけど、その内容は全く弟の言葉と同じで。
「……ゆっきーさんと同じこと言うんだね」 
 ふん、と、幸久さんが横で鼻を鳴らす。本宮さんは少し肩をすくめるように
して、笑った。
「……この手の件に関しては」 
「わかりました」 
 確かにこれは警察のことで、
「……でも、本当に感謝してます」 
「え」
 急にテーブルの向こうで、居住まいを正すから……。 
「……いえ、こちら、出来ることが他には無いから」
 いえ、と、史久さんは首を振る。 
「真帆さんが、こうして力を貸してくれなかったら……本当に、あの少年は救
われなくなってしまうところでしたから」 
 すう、と、目を伏せて、そのまま頭を下げる。
「ここから先は……我々がやらねばならないことなんです」 
「……ええ」 
 ここからは、立ち入ることが出来ない。立ち入るだけ邪魔になる。
 それが判るから……唇を噛む。

「……あの、余計なことかもだけど」 
 はい、と、史久さんは顔を上げる。
「あの子のお姉さんを……助けてあげて下さい」 
 たった五歳の子が、ずっと追いかけている。恨みからか……悲しみからか。
 それとも今もなお、彼を父親と慕うためか。
 だけど。
「お姉さんまで……あたしはあんな風に出会いたくない」 
「……はい」 

時系列
------
 2007年9月後半

解説
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 オワタ君話の情報源一つ。情報を本宮兄弟に流す。
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 てなわけで。
 であであ。
 
 



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