[KATARIBE 31391] [HA06N] 小説『死神ですら嘆くような・1』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Sat, 6 Oct 2007 00:19:27 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31391] [HA06N] 小説『死神ですら嘆くような・1』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200710051519.AAA20687@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 31391

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/31300/31391.html

2007年10月06日:00時19分27秒
Sub:[HA06N]小説『死神ですら嘆くような・1』:
From:いー・あーる


というわけで、いー・あーる@熱あり頭痛中 です。
で、そういう状態で書いてますええ。
……え、見直しって何?(純粋無垢な瞳)<嘘つけ

********************************
小説『死神ですら嘆くような・1』
===============================
登場人物
--------
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。 

本文
----

 夏になると溜息が出る。

          **

 8月には、高校生の女の子達がバラバラに切り刻まれた事件があった。
 9月のはじめには、まだ小学生の女の子が不審者に追いかけられているのを
偶然助けることになった。

 どんどん時代が悪くなる、と、時折言われる。
 無論、以前だってこういう事件はあったんだろうし、その件数を長い時間単
位で見たらそうそう増えているとも言えない、のかもしれないけど。
 でも、あたしの実際の体験から言ったら、そういう傾向があるように思う。
少なくとも去年はこんな事件には出会わなかった。
 尚吾さんは、夏の間本当に忙しかったようだった。二日くらい泊り込みは珍
しくなく、帰ってくるとぱったりと倒れるように眠ってしまう。
『選挙もあったからね』
 だから来年は、ここまで忙しくないと思うよ、と、それでも時折笑っていた。
 ほんとうにそうであったらいいなと思ったから頷いた。
『それに、もう夏も終わるし』
『……うん』

 夏休みが終わったら、少し事件が減る。それは以前から知っていることだし、
今年もそうだろう、とは思っていた。
 けど。

 その夏の名残の時期に、こんなに哀しい事件に巻き込まれるとは、流石に思っ
てもいなかった。

             **

 基礎体力が違うよ、と、よく言われる。
 確かにそうなのかなあとも思うけれども、そういう尚吾さんだって血が苦手
で、結構頻繁に仕事の途中で吐いてたりするらしい。それから考えると、そこ
まで極端に自分が弱いとは思えない。
 その日も確か丸々一日尚吾さんは帰らず、だからせめて今日の夕食くらいは
消化にいい、好きなものを、と思って買い物に行った時のことだった。

 吹利の商店街。五時を過ぎると結構混むこの付近は、それでも、それより一
時間早いくらいの今の時間だと、そんなに歩き難いわけでもない。
「夏ばてに効く野菜?そうだねえ、山芋とかどうだね」
「ああ、とろろ汁、とか?」
「そう。あれは食いやすいしね」
「じゃ、それ下さい……あ、そちらの、大和芋のほう」
「はいよ」
 おじさんがざっと新聞紙に包み、袋に入れてくれた大和芋を受け取る。まい
ど、と威勢の良い声を背中に聞いて店から出た、ところで。

(あれ?)

 ぱたぱた、と、通り過ぎる小さな少年。それが目の前を左から右へ走ってゆ
く。その動きについつい釣られて、彼の目指す方向を見る、と。

 半白の髪が、どこかぼさぼさと頭を覆っていた。
 傍らには、やたら高い踵のサンダルを履いた女性が、かつかつと歩いていた。
(おとうさんとおかあさん?)

 気がつくと、少年と二人の距離はどんどんと開いている。無理も無い、少年
はせいぜい5歳か6歳、ようやく小学校に上がるかあがらないかという年齢な
のに、大人達は全く彼のことを無視して歩いているのだ。

「……ぼく、どうしたの?」
 とうとう足を緩めて、はあ、と、息を大きく吐いた少年に声をかけた。甥よ
りもたぶん年下のその少年は、びっくりしたように顔を上げた。
 大きな目元に、既視感があった。気のせいだろうと思った。
「お父さんたち、おいてっちゃった?」
「……うん」
 最近よくニュースを賑わす『育児拒否』というやつか、と思った。正直むかっ
腹も立ったし、だからこそ……ついつい、余計なこともやってしまったのだと
思う。
「わかった」
 くたくた、という顔をした男の子に手を伸ばす。きょとんとした顔になった
のを抱き上げて早足で歩く。男の子は思っていたよりも軽く、それは大して大
変でもなかった。
「あの、すみません……」
 呼んだが、二人は振り返りもしない。ただ二人で何だか深刻な顔でぼそぼそ
と話しているのが判る。
「すみません!」
 声を張って呼んで初めて、二人は振り返った。
 
 半白の頭、どこか気弱そうな顔。
 傍らの、綺麗だけれどもどこか険のある女性とは対照的に、この顔にはそう
いう尖ったところが無かった。けれどもどこか……ほんとうにどこか。
(だらしない……?)
 ふっと浮かんだ印象を押し隠す。不審そうにこちらを見る二人に、出来るだ
け笑って。
「おとーさん、子供さん置いてきぼりですよ?」 

 その、一瞬。
 二人の視線は真っ直ぐに腕の中の少年に向かう。
 そして。

「………ぅぁああああああっ」
「きゃあああっ」
 
 二色の悲鳴。
 あっけに取られた一瞬のうちに、二人はぐるり、と、向きをかえて走ってゆ
く。ばたばた、と、女性のサンダルが音を立てるのがどこかうっとおしかった。

「…………ごめんなさい」
 どこか舌足らずな声に慌てて下を見ると、ぐいぐい、と、抱き上げた手を、
男の子が押し返していた。
「あ……ついてく?」
「うん」
 こくん、と頷くから、思わずそっと下ろした。
「……おばちゃんありがと」
「いえ……お父さんたち行っちゃったね」
「うん、だいじょうぶ」
 え、何が、と訊く前に、少年はまた走り出そう、として。

「おばちゃん」
「……え?」
「おねえちゃんが、あぶない」
「え?」
「ぼくのおねえちゃんが、すごく」

 それだけ言うと少年はぱたぱたと走り出す。一歩、二歩、三歩。
 そして…………

 そして本当にあたしはその時まで気がつかなかったのだ。
 半径5mの境界線。そこを越した瞬間、ふうっと溶けるように消えたその姿
を見るまで。

「……どういうこと」
 口に出した時には、判っていた。
 あの子は。


 吹利の商店街はまだ混みあうには間のある時間帯。
 消えた少年に気がついた人は、居ない。


(おねえちゃんが、あぶない)
(ぼくのおねえちゃんが、すごく)


 背筋がぎりぎりと痛むように怖くなった。
 そして、次に何をなすべきか。

「……公衆電話」
 この近くにある筈の電話を目指しながら、あたしは手提げの中を探った。よ
くお世話になる人達の、住所録を引っ張り出して。

「……すみません」
 携帯が普及してから、公衆電話は毎度使い放題、人が並ぶことは滅多に無い。
コール3回で通じた電話に、声をかける。
「幸久さん。ちょっと……時間を貰えませんか」


時系列
------
 2007年9月後半

解説
----
 ニモっちを不審者から助けた真帆。今度は小さな少年に出会う。
*****************************************

 てなわけで。
 これは、ひさしゃんの主導するオワタの大変な話の一部なのですが、
真帆のバージョンは、この題で進めます。

 訂正等、ヨロシクです。

 てなわけで、でわでわ。


 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/31300/31391.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage