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Date: Wed, 3 Oct 2007 01:10:06 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31389] [HA21N] 小説『偶然の悪夢・8』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200710021610.BAA92078@www.mahoroba.ne.jp>
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Web: http://kataribe.com/HA/21/N/
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2007年10月03日:01時10分06秒
Sub:[HA21N]小説『偶然の悪夢・8』:
From:いー・あーる
てなわけで、いー・あーるです。
少し短めに、いきます。
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小説『偶然の悪夢・8』
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登場人物
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片桐壮平(かたぎり・そうへい)
:吹利県警巡査、魂の無い不死身の男。
今宮タカ(いまみや・たか)
:流れを見て操る少女。多少不思議系。
ウヤダ
:腕利きのハンター。霞ヶ池の汚染を追っている。
本文
----
新しい噂が、ある。
白い顔が、道をふわふわと進んでくることがあるという。
さみしい子と一緒に消えた、それは男であったり時には女であったりするが、
彼らの白い顔だけが、ふわふわと進んでくるのだという。
見知った相手に出会うと、彼らはそれはそれは幸せそうに笑いながら、誘う
のだという。
おいで、と。
ここはさみしくないよ、と。
誘われたら、否、顔を見たら逃げろ、という。
逃げなかったら……そこで終わり。
**
ぷんすか膨れながら、タカが歩いてゆく。
(もう、信じられないあのおじちゃんっ)
とかとかと、決して遠くない道のりを、えらい勢いで歩いてゆく。
そもそもは、片桐の靴がきっかけである。
「……くそ、まだ使えるっちゅーのに」
玄関に座り込んでぶつくさ言っていた声を聞きつけて、タカは片桐の肩越し
に覗き込んだ。
大きな靴の履き口から手を入れた、丁度靴磨きでもするような格好で、片桐
は靴をかざしている。その甲のあたりから肌色が細く一文字に見える。
「…………」
覗きこんだ視線が、そのまま下を向く。その靴と同じ側の靴下が、すっぱり
と斬られているのが判る。
「もう安全靴とかはかないとだめだねー。自衛隊のブーツとか」
やはり肩越しに覗いていた淡蒲萄が肩をすくめた。
タカは、じっと足を見ている。
黒っぽい靴下は、斬られていると同時にすっかりその色を変えている。もう
片方と明らかに違う、赤黒い、色。
「……おじちゃん。靴下血だらけ」
「おう、ちょっとな……」
血は落ち難いのにのう、とぶつぶつ言う片桐の傍らに、タカはしっかりと腰
を落ち着けた。その上でじいっと靴を見やる。
「……あー、これか」
その視線に、多少具合悪そうな顔になって、片桐は靴を下ろした。
「仕事で……ちょっとな」
手を離して靴を置く。ぱたん、と、音がした。
「…………おじちゃん」
細い、高い声がえらい迫力で発せられる。
「靴みせなさい」
「……はい」
めっさえらそげ、と言いたくなるような口調に、片桐は妙に素直に頷いて、
一度は置いた靴を手渡した。ああおっかない姉妹がいると、こういうびしっと
した命令口調には弱いのか……と、思った者が居たか居ないかは不明だが、と
りあえずタカは大きな靴を受け取った。
「…………」
靴の甲はぱっくりと割れている。そして靴をひっくり返すと、丁度対応する
位置の靴の裏にも、ぱっくりと真っ直ぐな割れ目が入っているのが良く判る。
「……包丁みたいなので、刺された?」
「……ちょっとな」
一瞬口ごもって、しかしすぐに頷いた片桐を見て、タカはぎゅっと眉根に皺
を寄せた。
片桐は、死なない。
それはもう言葉どおりの意味で、恐らく身体を寸断し、ばらばらにほぐして
しまったとしても、時間こそかかれ、彼は元通りに戻るだろう。
ただ……だからといって、痛みを感じないかといえば、全くそんなことはな
い。流石に一般人よりは、いざという時の痛覚……つまり頭から唐竹割りにさ
れるとか、首を切られるとか……に対しての耐性は高いし、痛覚自体ある程度
低下するのかもしれない。
……それにしても。
(おじちゃんを刺したのって、誰)
黙ってはいるものの、小さな身体一杯、ぐらぐらと沸き立つようにタカは怒っ
ているのである。
「ちょっと仕事でな……ワシと同じく水を追っとるらしい奴が居って」
ざっくりと切られた靴下を確認していたが、流石にこれはどうもならない、
と思ったのだろう。靴下を脱ぎながら片桐は言葉を継ぐ。
「……おもむろにやられた」
その時の痛みを思い出したのか、足の甲をさする片桐を見ながら、タカは少
し首を傾げた。
「おじちゃん。水をおっかけてる、おじちゃんみたいな人って一杯いるの?」
「…………ああ、水に関わる連中は、ワシだけちゃう」
やれやれ、と、溜息の一つもつきそうだった顔が、ふっと真顔に戻った。
動機や目的は異なるものの、様々な連中が『水』を追いかけている。ある意
味では、タカの一族である『薬袋』の家も、『水』に積極的に関わろうとして
いるとも考えられるのだ。
様々な境界を溶かす水。
利用すれば必ず、その対価を何らかの形で『支払う』ことになる水。
その危険性は知られているが、だからこそ利用しようとするものが後を絶た
ない水。
ふ、と、タカは思い出す。
この数日、あの路地で見かける、男。
冷たい目と、己の中だけでぐるぐると完結する感情の全て。
「……うちの近くにもいるよ」
ぼそ、と呟いたタカの言葉に、片桐は振り返った。
「……タカ」
ん?と、顔を上げた少女の顔を、片桐は真っ直ぐに見据える。
真面目な、目だった。
「……水を追っとるやつを見たんか」
「うん」
ためらいも無く頷いてから……タカはちょっと首を傾げた。
「……って、よくわかんないけど……お前は見えるだろうって言われた」
「…………どこで見たか、教えてくれるか?」
「えっと……」
そう言われると口ごもる辺り、適当に歩き適当に進んでゆくタカの本懐であ
る。
「前に言った……下水のとこの近く」
ふむ、と、小さく片桐が頷く。その目を見ながら、タカは一所懸命に言葉を
続けた。
「そこに、紙つけて引っ張り出して……ええっと」
くるくる、と、指を廻しながらタカは男の言葉を思い出す。
興味ありげにこちらを見た目。それでもまるで自分が珍しい化石か何かのよ
うな気分になった目つきだった、と思う。
「『やはり見える者に惹かれるか』って言われた」
嫌われるというならば判る。怖がられることも判る。でも、あの男の表情は
どちらでもなく……けれども同じくらい『いや』なものだった。
「……なんか変な、怖い人だった」
ぶすっとして、そう結論付けたタカの言葉に、片桐は一つ息を吐いた。
「…………そう、か」
その視線が靴に落ちる。途端にタカの目が丸くなった。
「もしかして、その人が、おじちゃんの足、刺したの?」
子供の勘と言うやつは、妙なところで鋭い。
そうじゃな、と、片桐は一つ頷いた。真っ直ぐ肯定するというより、確認を
取るための合図のように。
「……特にふとってるわけでもやせてるわけでもなく……ただ、目が以上に恐
ろしい奴だったりしたか?」
「……うん」
そういわれて、思い出す。
平凡な顔、人込みですれ違ったら、恐らくうっかりと見過ごすだろう顔立ち。
けれども。
「なんか……目が……」
「……ああ」
「あとね、何だか……自分の中で全部ぐるぐる回ってて、すごく……」
氷、と連想した。
氷。それも冷蔵庫のそれではない。ぎりぎりと切り裂くような冷たさの……
「すごく……つめたい」
冷酷、という単語がぱっと出てこない。タカとしてはそれが表現の限界だっ
たわけだが、それでも片桐には通じたようだった。
「……例えるとな、刃物みたいなおっさんやったろ?」
こくん、と、その言葉に頷いてから……タカはむうっと口をへの字に結んだ。
そうやって片桐が言う相手と、自分が見た相手は……つまり同じなのだろう、
と、流石にここまでくればわかる。
とすると。
(あのおじちゃんが!)
……と、まあ。
そういう段階があって、タカは現在、ぷんすか膨れながら道を歩いているの
である。
とかとかと、足取りは非常に……なんというか、荒い。
(なんでそんなことするのっ)
片桐は死なない。
怪我の治る速さも、やはり常人のものではない。
……だけど。
(刺さなくったって、おじちゃんは口で言ったら判る人なのに!)
そしてとかとか前進し、いつもの路地に入り込んだところで。
「あ、いたあっ!」
叫び声に、男は怪訝そうに振り返った。
時系列
------
2007年7月終わりから8月にかけて
解説
----
そしてギリちゃんの線とタカの線が交差する。交点にウヤダ氏。
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というか、一度に流す話が10K越すと、そらあ読みたくないかもなあとか一瞬。
(結構越してます。最近)
てなわけで、でわでわ。
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