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Date: Fri, 21 Sep 2007 01:01:03 +0900
From: Subject: [KATARIBE 31355] [HA06P] Episode:ランダム小隊・外伝 「過ちを許す」
To: kataribe-ml <kataribe-ml@trpg.net>
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[HA06P] Episode:ランダム小隊・外伝 「過ちを許す」
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登場人物
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箕備瀬梨真【みびぜ・りま】 通称 りまりま
御羽貞我 【おわ・ていが】 通称 オワタ
御羽仁藻 【おわ・にも】 通称 ニモ
りまりまの過ち
--------------
ニモの不機嫌そうな視線の先には、りまりまがいた。
オムライス、カレーに続いて、今日は何を作るつもりなのか。
気にはなっているものの、それを聞き出そうという気にはならなかった。
オワタは、一度りまりまと帰宅してから、忘れ物に気づいて学校に戻っている。
少し手が空いたところで、振り返る。
りまりま :「ね、ちょっと時間出来たから、お話しない?」
ニモ :「お、お話……なんて……だったら、ちょっと、聞いても
:いいですか……?」
りまりま :「うん、何? 料理の話?」
ニモ :「……そ、それは今はいいです! 聞きたいのは……その、
:りまさんも……北高なんですよね」
吹利北高校、通称北高は、県立高の中ではトップクラスの、進学校だ。
オワタ自身、夜遅くまで勉強して、やっと合格していた。
そんな兄の努力をニモは見て育っている。
ニモにとって、良い成績とは大変な努力した者だけが勝ち取れるもの。
それを勝ち取った兄は自慢の兄なのだ。
それだけに、兄が気に入っている様子のりまりまを、見定めよう、と思った
のだった。
りまりま :「勉強? してるけど、でもそんなさあやるぞ、とかそう
:いうのはないかな。さーっとやって、終わる感じ」
さーっと、というニュアンスは、ニモには伝わっていないようだった。
少しふるえながら、数秒の沈黙を挟んでニモは応える。
ニモ :「……さーってやって、できちゃうんですね」
週二回、塾に通って。毎日予習復習もして。
特に勉強が好きというわけではないけれど、きっちりがんばっている、という
自覚はある。そうして初めて、今の成績の基になっているとも。
努力の量なら誰にも負けない。そう自負するニモには、今のりまりまの言葉は、
まるで、頭の出来が違うんだ、と言われているように思えた。
りまりま :「うん、宿題とかもお風呂はいるまえにさーっと……え、
:あの、ちょっと待って、さーっとていうのはほら」
少し考えて、説明を始める。
りまりま :「椅子座ったら教科書とって、ひらいて、読んで、って
:いうのが、流れるようにっていうかその」
ニモ :「……すごいですね、りまさん。流れるように勉強できちゃ
:うんですね」
うっかり、かんで含めるように言ってしまうりまりま。
説明するのはあまり得意じゃない。
聞いているニモも、煮えくりかえりそうになりながらどうにかこらえる。
ニモ :(勉強しようって気合いれなくても、流れるようにできる
:からとでもいいたいのっ)
りまりまを見る目が、だんだん厳しく、険しくなってくる。
りまりま :「ち、違うんだって、あたしこういう性格だから、そうやん
:ないと勉強とか出来ないだけで」
わたわたと、特に意味のない身振り手振りで伝えようとする。
と。
ふよんふよんと、ニモにはないものが、揺れるわけで。
りまりま :(どうやったら伝わるのかな、あーもぅ)
ニモ :(くっ)
悪気は本当にない。ないのだが。
この状況では、ひたすら油を投下している状況だ。
りまりま :「べ、別にほら、ね、勉強してないけど出来るとか、そう
:いうんじゃないんだって」
ニモ :「……って、だって……」
ぼそり、とニモが呟く。
ニモ :「……意識なんかしなくたって、できるんじゃないですか」
りまりま :「そ、それはその、えーっと……うん、自分なりに、楽に
:出来るやり方っていうのが、見つかっただけで」
ニモ :「……っ」
りまりま :「ら、楽っていうのはほら、しんどいのとか、あたし無理
:だからその、小学校のときにその、いろいろ考えて」
ニモ :「……しんどいの、無理って、あたしはっ」
言えば言うほど。
どんどん状況は悪化していく。
いくつかの単語だけが、頭に残って、そればかりが強調されていく。
ニモ :「……あたしは、あたしは……しんどくても無理でも」
りまりま :「あ、あの、ゴメン、ホント、自慢とかじゃないの」
頑張ってるのに、頑張って一位とってるのに。
ママに、心配かけないように。ママが安心してられるように。
少しでも、ママの自慢になるように。
こんなに出来るいい子なんだって、ママに思われていたいから。
なのに。
なのにこの人は。
ニモ :「もうっ、いいですっ!! りまさんとは、頭の出来が違う
:からっ!!」
ふくれて、そっぽを向くニモ。
りまりま :「ち、違うんだって、宿題とかちゃんとやってるし、その、
:勉強時間だってそれなりに」
ニモ :「それなりっ」
りまりま :「あ……」
ニモ :「……それなり、なんですね……それで、できちゃう人なん
:ですよね」
りまりま :(やばい、これ絶対やばいこと言っちゃった、やっちゃってる)
:「あ、あの、ち、違……」
ニモ :「……って」
がくがくと、体の底から震えがくる。
怒らせた。
相手の気に障ることを、無自覚にしてしまった。
気をつけようと、しないようにしようと。思っていた矢先に。
ニモ :「帰ってよ!」
目を伏せたまま、ニモが怒鳴る。
ニモ :「何でもできて、疲れることなんかなんにもなくて!」
気圧されたりまりまに、さらに続けて浴びせかける。
ニモ :「オワタまで……家にまで……」
りまりま :「……っ……ごめん、なさい……」
ニモ :「もうこないで! 帰ってよ! オワタを返して!」
はっきり言葉を聞き取れていたわけではなかった。
ただ、はっきりとした拒絶。それを感じ取って、りまりまは、思わず立ち上
がって、頭を下げていた。
りまりま :「おじゃま、しました」
鞄を胸に抱えて、そのままオワタの家を出て行く。
ぱたぱたぱた、と階段を下りる音が遠くなっていく。
その音を聞きながら、ニモは必死でこらえていた涙を流した。
ニモ :「ばか……オワタのバカっ! ばかばかっ!」
オワタの寛容
------------
顔を伏せたまま、来た道を戻っていく。
数分走った先にある、小さな公園は周囲の街灯に照らされて、あちこちで
光を発しているようにも思えた。
ちょうど夕ご飯どきだからか、もう公園には誰もいない。
ブランコに歩み寄って、へたり込むように座る。
りまりま :「……バカ、バカだあたし……気をつけようって、ゆった
:ばっかりなのに」
ニモの言葉が、何度も耳元で再生される。
「何でもできて、疲れることなんかなんにもなくて!」
「もうこないで! 帰ってよ! オワタを返して!」
りまりま :「気をつけないとって……また、またやっちゃった……
:どうしよう、どうしよう……」
ゆっくりと、俯いた視線が下がっていく。
ぎし、とブランコが音を立てる。
それから、どれくらい、どうしよう、と呟いたかは分からない。
公園は開けていて、明るかったから、りまりまが居るのはすぐ目についた。
オワタ :「……あれ?」
見慣れた髪型。見慣れた制服に鞄。
オワタ :「りまりま!」
りまりま :「……オワタくん……」
ブランコに座ったまま、のろのろと顔を上げる。
駆け寄ってくるオワタを見ても、ああ、こっち来る。
その程度にしか感じられないほど、消耗していた。
オワタ :「どうしたんだよ、りまりま。先に家にいってるはずじゃ
:……」
りまりま :「……ごめん……」
オワタ :「……どした?」
身震いして、謝るりまりま。
いつもの気安さがまったくなくなっていて、こんな彼女を見るのは初めてだ。
りまりま :「あたしはいいから……お家、帰ってあげて、ね」
オワタ :「よくないって」
何があったかを聞く前に。
直感で、放っておけないと思った。一人にしておくわけにはいかない。
家まで送っていく、立ち上がらせてそう言うオワタに、りまりまはゆっくり
首を振った。
りまりま :「いいから、お家帰ってあげて。あたし大丈夫だから」
オワタ :「だって……ほっとけねえよ」
思わず手が伸び、ふわりとした髪を撫でる。
一瞬びくりとして、りまりまは声を少し荒げた。
りまりま :「っ……ダメだって……あたし、そんな優しく……される
:資格ないんだから!」
オワタ :「ほら、泣くなよ、な?」
とにかく、ひどくショックを受けているのはわかる。
泣き出したりまりまを、ベンチに座らせて、自分も隣に座る。
軽く頭を撫でていると、少し落ち着いたのか、りまりまが口を開いた。
りまりま :「……なんで」
オワタ :「なんかあったのか?」
オワタの問いには応えなかった。
りまりま :「なんで、何も聞いてないのに……許して……許そうって
:してくれるの……」
オワタ :「だって、りまりまはさ……優しい奴じゃん」
りまりま :「……優しくなんてないよ。気が回らなくて、鈍くて、
:やっちゃってから……やっと気づいたりするダメ人間だよ」
オワタ :「……でも、りまりまは人を傷つけようとか思ってない
:だろ?」
俯いたまま頷く。両サイドの髪が、肩から前に幾筋か、ふわりと流れた。
オワタ :「……気が回らなくて……頑張ろうとして、でもどうにも
:ならないことは……あるから、さ」
ふと、脳裏に父親の影が浮かぶ。
りまりま :「……ニモちゃんのこと、傷つけても……?」
オワタ :「ニモが、どうかしたのか?」
りまりま :「……っ……そんなつもり……なかったんだけど……勉強の
:ことで……」
オワタ :「勉強のこと? ……あいつ、なんか言ったのか?」
りまりま :「ちがう、あたしが言ったの……勉強楽だとか、さーっと
:やってるとか、それなりとか……がんばってる人に……失礼
:なことばっかり」
オワタ :「……あ」
つい先日、似たような会話をしたことがあった。
その時は、りまりまがむくれただけで済んだのだが、彼女が自身の勉強に対
するスタイルを、とても気にしているのはわかった。
りまりま :「そういうの、言うつもりなかったんだけど……でも、
:でも、言っちゃったら一緒、言わないように、って、気を
:つけようって……思ってたのに……!」
オワタ :「ほら、でも悪気があったわけじゃないだろ?」
小さく、うん、と聞こえた。
それだけで、オワタには十分だった。責める気は少しもない。だから、許す
もなにも、謝らなくてもいい。そう思った。
オワタ :「……ニモだって……あいつ、ちょっとひねたとこあるけど、
:わからずやじゃないし」
りまりま :「悪気なくても……やっちゃったことは、罰受けないとダメ
:だよ、だから」
オワタ :「……ほら」
どういう罰を考えているのかはわからないが、自責の念が強いことは判る。
そして、随分とショックを受けていることも。
だからどうしていいかわからなくなっているのだ、そう思った。
オワタ :「ちゃんとさ、ニモもりまりまもおちついて……頭冷やして
:考えればさ」
りまりま :「う……そんな、そんな……なんで、そんな優しいの……
:なんでそんな、怒らないの……ニモちゃんを、大事な妹を、
:泣かしてるんだよ!?」
オワタ :「泣かせようなんて思ってたわけじゃないだろ?」
堂々巡りになりかけたところで、オワタは続けた。
オワタ :「……うっかり、むかつくこと言ったりすることだって、
:あるしさ、でもそこでだめだーって篭っちゃだめだろ?」
りまりま :「……っ……オワタくん……優しすぎ……優しすぎる……
:だから、どうしていいか、わかんなくなっちゃうよ……」
ぽろぽろと、涙が。
膝の上で堅く握った手に、何粒も落ちる。
日頃から無防備で、なんでも緩やかに受け入れてきた彼女にとって、急な
ショックは、どう対処していいかわからない性質のものらしかった。
オワタ :「……りまりま」
そっと肩に手を伸ばす。
りまりま :「謝っても……足りないのに……そんな許したりして……」
オワタ :「……いいやつだよ、りまりまは」
ゆっくりと肩を抱いた。
内心、心臓が心配になるほど、動悸が激しい。
りまりま :「……オワタ……くん……」
オワタ :「……ん」
りまりま :「ごめん……ごめん……なさい……」
少し、肩を抱く手に力が入る。
ちょうど、オワタに顔を向けようとしていたりまりまは、そのまま胸元に
正面からもたれてくる形になった。
オワタ :「……りまりま」
そのまま、抱きしめる。
胸元で、ぐすぐすと、何度もごめん、と繰り返すりまりま。
りまりま :「……次からは」
オワタ :「……うん」
りまりま :「次からは……ちゃんと、またやったら、叱って?」
オワタ :「……うん」
りまりま :「そうしてくれないと……たぶん、甘えて、だめになる
:から……お願い」
オワタ :「……うん、ちゃんと、言うから……」
告白
----
動悸は全く収まりそうになかった。
腕の中で、まだ小さく震えている
オワタ :「……俺」
言ったつもりが、口に出してはいなかった。
もう一度。改めて言い直す。
オワタ :「……俺……」
りまりま :「うん……」
腕の中で、りまりまがゆっくりと顔を上げた。じっと見上げる。
オワタ :「俺……りまりまのこと、好き、だから。だから……少しは、
:甘えても、いいと思う」
りまりまが、びくん、と。小さく撥ねるように。
抱きしめているから、それは全身に伝わった。
そして、目の前には、あっけにとられた顔のりまりま。
オワタ :「……」
りまりま :「う……うん……あ、あの……その……えっと……」
オワタ :(って、俺、なにぶっちゃげてる!?)
りまりま :「……あ、あの……あたし……」
オワタ :「……え、と、その……あの」
耳まで赤くなるりまりまと、同じく完全に真っ赤なオワタ。
どうしていいのか、どう応えていいのかわからないまま、りまりまが口を
開いた。
黙ったままでいるのは耐えられないし、何か言わないといけないと思う。
りまりま :「……っ、あたしも……好き、です……! オワタくんの
:こと……好き……」
オワタ :「!」
見つめ合う、というよりは、お互いどうしていいかわからず、それでいて、
視線をはずすことが出来ないまま。
二人はしばらく沈黙した。
オワタ :「……え、と」
りまりま :「……だ、だから、その……つ、つ、付き合って……くだ
:さい……」
オワタ :「あ、うん、はい、俺とっ、つ、付き合ってくださいっ」
だんだんと語尾が小さくなって、最後は聞き取れなかったが、オワタはなぜか
丁寧語で応えた。
りまりま :「は、は、はい!」
目を合わせたまま、また黙りこくってしまう。
目をそらせないまま、腕の中にいるりまりま。
結局、この後、オワタはりまりまを家まで送っていった。
二人とも妙に改まって、緊張していたから、口数は少ない。
けれど、途中からつないだ手の感触と、伝わる体温で十分だった。
数十分の短い道のりだったが、いつもより長く、二人きりで居られたように
思えた。
時系列と舞台
------------
9月中旬。
解説
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一時とはいえ、ニモさんのことを忘れてしまいましたね、二人とも。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
Toyolina
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