[KATARIBE 31354] [HA06N] 小説『偶然の悪夢・1.5 〜拡散する汚染』

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Date: Thu, 20 Sep 2007 23:45:07 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31354] [HA06N] 小説『偶然の悪夢・1.5 〜拡散する汚染』
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2007年09月20日:23時45分07秒
Sub:[HA06N]小説『偶然の悪夢・1.5 〜拡散する汚染』:
From:久志


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小説『偶然の悪夢・1.5 〜拡散する汚染』
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登場人物
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 片桐壮平(かたぎり・そうへい)
     :吹利県警捜査零課所属、魂の無い不死身の男。
 本宮史久(もとみや・ふみひさ)
     :吹利県警刑事部操作か所属、兼任零課でもある。通称・人間戦車。
 戸川深雪(とがわ・みゆき)
     :検死官のおねいさん。

引継ぎ
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 県警屋上。
 見上げた空はすぱんときりとったかのように青い。
 雨ざらしのコンクリートは滲んだような跡があちこちに残り、少し歪にへこ
んだ箇所にできた巨大な水溜りが出来ている。
 つい数日前吹利を襲った台風の痕跡、幸い死者はでなかったものの、多くの
世帯に避難勧告が出され。吹利県警でも避難誘導や見回りで大わらわの数日
だった。

 屋上のフェンスの向こう、街並みを眺めながら息を深く吸い込む。
 立ち上る白い煙がゆらゆらと青い空に吸い込まれていく。

「さ、て……話はようわかった」
「ええ、僕たちの手で済ませられないのは心苦しくはありますけど」

 並んで立つ二人の男。
 一人はきっちりネクタイを締めたライトグレーのスーツに人の良さそうな穏
やかな顔立ちの男、もう一人は茶のスラックスに無造作に袖をめくり襟をゆる
めたワイシャツ姿のくせっ毛の男。どちらも大柄な体格と包容力のありそうな
雰囲気は似たところもあるが、印象は大分違う。

「それでは、お願いします。片桐さん」
「おう、任しとけ」
「細かな証拠品はこちらでまとめたものを一括でお渡ししますから」
「ああ」

 それでは、と。礼儀正しく礼をし、グレースーツの男――史久は建物へと
戻っていく。残されたくせっ毛の男――片桐は手にした煙草をゆっくり吸い
込んで目を細めた。

「また……水、か」

 ため息混じりに吐き出した煙が散っていく。


鑑識にて
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 湿気で絡まるくせっ毛の頭を乱暴にかきむしり、すれ違いざまに礼をする
若手達に軽く手を上げながら片桐は一人県警廊下を歩いていた。
 廊下の突き当たりにあるドアの前で足を止め、小さくノックする。
 間髪いれずに返事が帰ってくる。

「どうぞ」 
「おう、失礼するわい」 
 ドアを開けて入ってきた片桐をちらりと見る白衣の女性。
 長い髪を頭の後ろでひっつめ髪にし、銀縁眼鏡のふちをつまんで軽く直しな
がら一つため息をついた。
「……やっぱり、くるかとおもってたわ」
「すまんのう、深雪ちゃん。ワシが来る度仕事ふやしとるようでな」
「ようで、じゃなくて増えてるわ」
 にっこりと笑顔で答えているが、その目は欠片も笑っていない。
 吹利県警鑑識の検死官。片桐とは何かと縁があり、何かと厄介ごとを押し付
けている相手でもある。何かと厄介な件を持ち込んでばかりであり、様々な面
で頭の上がらない人物の一人でもある。
「は、はは……」 
 乾いた笑いで取り繕う片桐を一瞥して、指先で眼鏡をずり上げて奥へと促す。
「……わかってるわ、こっちよ」 
「ああ」

 精神的にも肉体的にも、ひやりとした寒気を感じる安置室。
 いくつか並んだ処置台、そのうち三つに白い布がかけられ、傍らには線香の
立てられた香炉が置かれている。
「…………」
 両手を合わせて目を閉じ、しばし黙祷する。
 布がかけられた遺体は、布越しからでも人の形とは程遠いことが見て取れた。

 先日発覚した高校生バラバラ殺人事件。
 被害者は高校男子一人、女子二人。いずれも全身バラバラになった状態でラ
イブハウス地下練習場で発見されたという。

「……ライブハウスのバラバラ事件、じゃの」 
「ええ」 
 片桐の言葉に答えるように、深雪がそっと処置台の布をめくる。
 三つの台それぞれに載せられた、見事に手足首にいたるまでバラバラにされ
た三つの遺体。しかし、所々に体の一部が損失していると思われる箇所や、男
と思われる遺体の一部がまるで長時間水に浸されていたかのように皮膚がぶよ
ぶよと異様に膨らんでいた。
「まーたこれは、念入りなこっちゃのう」
 眉をひそめて、改めて両手を合わせて頭を下げる。
「ええ、相羽さんなんか、三回も吐いて戻ってで」
「こりゃ……ワシでも少々キツイのう」
 片桐とは同期にあたり県警刑事部のやり手、しかし見た目によらずこういっ
た遺体や血はてんで苦手な友人の顔を思い浮かべて苦笑する。
「なるほどな、すっぱりいっとるのう、ためらいもなんもなく」
 手袋をはめ、そっと切断面を仔細に観察しながら、目を細める。
 根元から切り落とされたらしい少女の腕は、赤黒い肉と完全に断たれた骨が
妙に対照的な色合いを見せていた。
「そして、ね。全てに生存反応があったわ」 
「……ほー」 
 つまり、と言葉を切る。
 生きているうちに全身を切られた、と。
「でも、おかしいのよね……切断面だけじゃあないわ」
 訝しげに眉をひそめる深雪に、一瞬片桐が言葉を詰まらせる。深雪の視線が
一瞬動きを止めた片桐の横顔に移る。

 遺体をバラバラにした真の理由と意味。
 片桐は既に悟っていた。

 数秒の沈黙。

 深雪が肩をすくめて視線を外す。
「そこは、私が立ち入れることじゃあ、ないわよね」 
「すまんのう」 
「……それと、ね」 
「……ああ」 
「あの女の子の件」
 声をひそめた深雪の言葉に顔を上げる。

 嵐の翌日。
 忽然と姿を消してしまった一人の少女。
 なんら特別なところもない、ごくごく普通の少女が何故姿を消したのか。
 少女が姿を消した日から彼女の自宅近辺で発生した奇妙な生物の目撃。

 たった一つ、手がかりとなる品は。
 少女の部屋の水槽に浮かんでいたペットボトル。

「例のペットボトルも、元が割れたそうね……知らされてないけど」
「ああ」
 見つかったペットボトルに何が入っていたか、それがどこから出たものか、
既に片桐は大まかな情報を掴んでいた。
「……そして、ライブハウスの遺体発見現場にも」
 深雪が言葉を切って、軽く小首をかしげて片桐を見上げる。

 消えた少女の部屋で見つかったペットボトル。
 遺体発見現場に落ちていたペットボトル。

 僅かに残った中身はいずれも同一のものであることも。

「……深雪ちゃん」 
 ぼそりと呟いた片桐の顔を見て、深雪が首を横に振って両手を挙げる。
「……わかってるわ、もう聞かない」 
「すまん」
「でも……」
「ん?」
「でも、危険な目にあうような無茶はしないでね?」
「おう、資料は……あずかってもええか」
「どーぞ、ダメっていっても持ってくんでしょう」
 あいたたた、と。わざとらしく肩をすくめる片桐をじろりと睨んだ。


時系列
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 2007年7月終わりから8月にかけて
解説
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 ギリちゃん、二つの事件のつながりを知る。
 http://kataribe.com/IRC/KA-05/2007/09/20070912.html#220000
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以上


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