[KATARIBE 31346] [HA21N] 小説『偶然の悪夢・6』

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Date: Sun, 16 Sep 2007 22:57:53 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31346] [HA21N] 小説『偶然の悪夢・6』
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2007年09月16日:22時57分52秒
Sub:[HA21N]小説『偶然の悪夢・6』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
のんのんと進んでます。

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小説『偶然の悪夢・6』
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登場人物
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 今宮タカ(いまみや・たか)
   :流れを見て操る少女。多少不思議系。
 ウヤダ
   :腕利きのハンター。霞ヶ池の汚染を追っている。

本文
----

 被保護者として、片桐宅に転がり込んで既に数ヶ月。
 片桐がどんな仕事で駆け回っているのか、タカはあまり知らない。まあ、一
応なりとも守秘義務やら何やらが課せられる仕事、それも片桐の勤めているの
は県警の零課である。いちいち11歳の子供に説明するような仕事でもない。

 ……まあ、それは実際それでいいのだし、不都合は滅多なことでは起こらな
い。
 その、筈……なのだが。

          **

 一日に一回、時には二回。
 このところタカは、必ず近くの路地へと足を運ぶ。壊れた下水溝のところに
浮き上がる異形達を見るともなしに見に。

(さみしい)

 そう呟く声は、夢の中に何度も出てくる。そのおかげで、悪夢から飛び起き
る回数も増大中で……タカ本人も勿論だが、片桐も寝不足気味かもしれない。
(おじちゃんに、迷惑かなあ)
 そこは流石に自覚しているものの、しかし夢を見ている最中にはその意識が
働かない。
(……迷惑になってる……かも)
 何度も何度も、その後片桐に否定されてはいたものの、やはり隆に言われた
言葉が、ことあるごとに耳に蘇る。
 
 ゆらり、と、熱せられた大気が動く。
 ゆらり、と、その動きはどこか滑らかで、大気というには粘度が少しだけ高
いようで。
 額に汗を滲ませて、タカは足を止めた。

(……シイ……)

 水の、音。
 肩の上のみやまが少しだけ動く気配。そして透明な大気がほんのりと色づく。
淡い卵色の濃淡が、水面の波紋を思わせて、ゆらりゆらりと広がってゆく。
 ゆらり……ゆらりと。
 その奇妙に柔らかな流れの……源。
 ぶるっとタカは身を震わせた。

(さみしい)
(とてもとても……さみしい)
(どうかきがついて)
(どうか……)

「やだっ!」 
 だん、と、一つ足を踏み鳴らして、タカは一つ啖呵を切る。
「……そんなの、絶対やだからねっ」 
 まともに誰かが見ていたら、それこそ『ヘンな子』に認定されそうな風景だ
が、有難いことにこの道には、現在のところ他に人は居ない。
 なんにせよ、タカの一声にぴたり、と波紋は消えた。ふん、と鼻を鳴らして、
タカはまた歩き出す。

 と。

「ほう」
 後ろからの声に、タカは反射的に振り返った。  
「ほぇ?」 

 人気の無かった筈の道に、唐突に男が立っていた。
(あれ?)
 ついこの前、同じ通りで見かけた、男。決して特徴のある顔でも表情でもな
いのに、どこか奇妙な、そしてどこか恐ろしげな男。
 タカが見守る先で、男はポケットから試験紙のようなものを引っ張り出した。
片膝をついてその紙を水に浸し、そして数瞬黙ってその紙を見る。
「……なるほど」
 低い、独り言のような声がその喉から漏れた。
「やはり、視える者に惹かれる、か」 
「……ほぇ?」 
 ちらりと、タカを見上げてくる視線に、タカは首を傾げた。 
「お前も聞いたろう」 
「え……うん」 
 聞く、と、一概に言ってしまっていいかどうかは判らないが、確かに『聞く』
という感覚が一番近い。こくりと頷いたタカに、男はやはり頷き返した。
「やはりな……」 
 一瞬、その口元に薄い笑いが浮かぶ。柔らかさは微塵も無い……どこか薄く
鋭い刃を思わせる笑みだった。
(やっぱりこのおじちゃん、怖い)
 一瞬、この前と同様逃げかけたタカだが、そこで、はた、と足を止めた。
「おじちゃんは……知ってるの、あの子?」 
「ああ」 
「さみしいさみしいって……ずっと言うんだよ……」 

 自分より、そうそう年上とは思えない、高い女の子の声。
(さみしい)
(さみしい)
 手繰るように何度も繰り返される言葉。
 その言葉の響きは……タカにもそんなに遠いものではない。

「そう、だから道連れを欲してる」 
 あっさりと頷いて……そして男はやはりさっくりと、断罪するように言葉を
紡ぐ。その言葉の内容より、その冷たさに、タカは思わず顔をしかめた。その
様子をまじまじと見ながら、しかし男の言葉には、微塵の容赦も無かった。
「さみしさは免罪符にはならんよ」 

(さみしい)
 その言葉で、確かに蛙や魚は一つになって、異形と化して泳いでいる。元に
戻す方法など、タカにわかるわけがない。
 でも。

「…………でもそんなの、頑張ってる人だったのが、それがぐーぜんお水飲ん
でそーなっちゃったら」

『水』というものについては、タカも多少は知っている。自分が父に落とし込
まれそうになった『水』というものの正体。それについては、多少は片桐から、
また光郎からも聞いている。
 水。
『全ての境界を無くす水だよ』
 その意味を完全に理解したとはタカ自身も思っていない。けれどもあのさみ
しい彼女が、自分からその水を飲んだ、とは何故か思えないのだ。
 理由は、と問われるとタカも困る。ただ強いて言うならば、もしも自分から
飲んだならば、こんなに『手ぬるいとは思えない』というところだろうか。
 
「もしそうなら……さみしいよ」 
 何やかやを吹っ飛ばしてタカが呟いた言葉に、男はやはり薄い刃物のような
言葉を向けた。

「……ならば、終わらせるしかないだろう」 
 まるで『朝、顔を洗う』と言うのと同じようなあっけなさで。
「断ち切る術があるならばな」 
 ぐ、と、タカは詰まる。

 水に揺らぐ彼女が恐ろしい、というのは事実なのだ。
 けれども同時に……恐ろしいだけでは片付けられないのも事実なのだ。
 そこらの矛盾した二律違反な部分が、どうしてもこの男には通じない。

「お前は、視える、のだろう」 
「…………」 
 断定する言葉に、タカはぐっと口を引き結んだ。
(見える、けど)
 だけど見てくれ、と言われたら……と、思う前に。
「俺は、斬れる」 
 あっさりと。
 まるで蚊をぱん、と手で叩くような軽さで。

 ぶんぶんっとタカは首を横に振る。
 そういうのは……嫌だ。
(だって……だって!)
 泣きそうになったタカの顔を平然と見て、男はちょっとだけ肩をすくめた。

「これ以上、被害を出すわけにはいかないのでね」 
 それでも、そうやって説明をし、ついでにタカに『見ろ』と強要しないくら
いには、彼も気を使った、のかもしれない。
「……いずれにしろ、片をつけねばならないな」 
「っ」

 男の言葉は正しい。やろうとしていることも判る。
 けれども。

(さみしい)
 その、小さな溜息のような声。
 それが、こんなにも確かに耳に届いているのに。
(……やだぁっ!)

 
 ばたばたと、タカが走って逃げるのを、男……ウヤダは見送って、肩をすく
めて苦笑した。
(若いな)
 若いというよりは、まだ『幼い』の範疇に入りそうな相手である。それでも
相手の出来ないことを意地になって言い張らないくらいにはなっているのだろ
うが。

 ウヤダはもう一度紙を見直すと、小さく笑った。

時系列
------
 2007年7月終わりから8月にかけて

解説
----
 ウヤダとの二回目の接近。そして非常に短い情報交換。
*****************************************

 てなもんです。
 ……しっかし、話が進まないのう……


 であであ。
 
 



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