[KATARIBE 31345] [HA06N] 小説『県警のタバコの煙・2』・再送

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Date: Sun, 16 Sep 2007 00:50:49 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31345] [HA06N] 小説『県警のタバコの煙・2』・再送
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2007年09月16日:00時50分49秒
Sub:[HA06N]小説『県警のタバコの煙・2』・再送:
From:いー・あーる


てなわけで、いー・あーるです。
どっかで必ず引っかかると思いましたが……

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小説『県警のタバコの煙・2』
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登場人物
--------
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事課巡査。真帆にはめっさ甘い。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。 
 本宮和久(もとみや・かずひさ)
     :吹利県生活安全課巡査。通称豆柴。女装率高し。


本文
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 携帯に連絡して、県警に豆柴君が居ることを確認する。そしてあたし達は家
を出た。善は急げってわけでもないけれど、とりあえず直行で県警に向かう。
「で……どっち?」
「一階の奥だから……こっちだねえ」
 ところどころ、恐らく宿直の人が居る部屋以外は、廊下も部屋も、明かりが
消されている。薄暗い廊下をどんどん歩いてゆく相羽さんについてゆくと。
「真帆さん!」
 かつかつと、高い音と一緒に声をあげる豆柴……もとい、本宮君を見た途端、
申し訳ないけど……あたしは笑いを噛み殺した。
 黒の、薄手の布にたっぷりとしたフリルやレースを使った、所謂ゴスロリと
いう奴。肩の線や袖の長さからして、この人にぴったりのサイズで作られたと
判るドレスを着込んだ本宮君は、とても真剣な……そしてほっとした顔をして
こちらに飛んできた。
「あ……あ、どうも」
「おう、お疲れ……ちょっと協力してもらうよ」 
「はいっ」
 それも……なんていうかその、黒なんだけど、縦ロールのかつら被ってて……
「え、ええとね、せ、せめてそのかつら外して……」 
「あ、す、すみませんっ」 
 流石に自分の趣味じゃなかったらしく、本宮君はわさわさとカツラを取る。
しかしこの、黒のワンピースに短い髪というのも……(いやそういう問題じゃ
ない) 

「……で、どちらでしょう?」 
 とは言え、笑ってる場合でもないので、一つ深呼吸をして尋ねる。尚吾さん
は……この人慣れてるのか何なのか、けろっと笑いもせずに本宮君を見てるし。
「はい、こっちの……」 
 かつかつ、とえらく音がするから豆柴君の足元を見たら、かかとの分厚い感
じの靴を履いていた。確かにゴスロリ服の子が履いているような靴で……まあ、
ほんっとに凝ってるなあ、と。
 廊下の端の女子トイレ。廊下に電気をつけて、そしてトイレの電気もつけて。
「なるほど」 
 電気をつけて。そしてトイレの扉に手をかけた……途端。
「ん?」
 煙草の、匂い。

 無人と判っていても、確かに男性に女子トイレの扉を開けさせるのはどうか
なとも思ったので、豆柴君と場所を代わって、扉を開ける。
 と、白い細い煙がふわり、と。
 ああ、ほんとだ、と言いかけた時に。
「わっ」
 驚いたような声につられて、中を覗いてみた。
 鏡の前に、女の子が一人、ひどく驚いた顔をしてこちらを見ていた。

 高校生くらいの女の子だった。
 茶色に染めた髪。どこがどうとかはわからないけど、結構しっかり化粧をし
た顔。手には煙草を一本、長い付け爪には小さなお花がくっついてる。
「わ」
「え、な、なに?なに?」 
 急に電気がついたせいなのか、わたわた、とする彼女は……その、結構濃そ
うなお化粧とは裏腹に(というとちょっと偏見かな?)えらく素直な驚きよう
である。
 しかしまあ、とりあえず。
「こら、夜中にこんなとこで煙草吸ってちゃだめでしょ」 
「え、あ、あ…………はい」 
 はい、と手を出すと、はい、と、妙に素直に煙草を手渡してくる。咳き込み
そうになったけど、相羽さんがすい、と手を伸ばして煙草を受け取ってくれた。
「ほら、ここにちゃんと、トイレでは煙草駄目って書いてあるし」 
「……あ、はあ……」
「吸うなら、どっか……あったよね、喫煙コーナー」 
 って思ったけど……そもそもこの子、高校生じゃないか。
「いや、喫煙コーナーがあっても駄目だよね。そもそもあなた高校生っぽいし」
「…………あのっ」 
「はい?」
 気がつくと、女の子があたしの袖を掴んでる。妙に必死な目でこちらを見上
げて。
「あたしを見つけてくださいっ」 
「……へ?」


 時折、思うのだけれども。

 あたしの周りで、確かに幽霊は人に戻る。幽霊だった相手は、無論自分が死
んでいること、今一瞬、仮初の身体を得ていることを理解する。
 ……それなら、あたしにだって、『ああ、この人は幽霊なんだな』くらいの
ことが判ったっていいじゃないかと、これはほんとに良く思う。

「えっと……貴方は今、行方不明なの?」 
 後から考えたら、えらく間の抜けた質問をしたあたしの肩にそっと手を置い
て、相羽さんが女の子のほうを見る。
「……まず、名前と住所は?あと連絡先、学校もね」 
 何時の間にか相羽さんは、手帳とペンを持っていた。その横の本宮君も、今
は片腕にカツラを握ったまま、黙ってこちらを見ている。
「……相羽さん」
 ふ、と、声を上げた本宮君に、相羽さんは一つ頷く。そのまま口を開いて何
やら尋ねそうだったので。

「ねえ……トイレからちょっと離れよう?」 
「あ……」 
「女子トイレ前でって……ねえ?」
 首を傾げて女の子を見ると、彼女は何だか泣きそうな顔になって、それでも
こっくりと頷いた。
「……そだね」
 ちょっと笑って、相羽さんが頷く。そのままあたし達はすぐ近くの休憩室に
移動した。

 休憩室には、何台かの自販機が並んでいる。
「ほら、そっちの……ジュースとか飲みません?」 
「うぅ……は、はい……」 
 休憩室一杯、ちゃんと灯りをつけているのに、何だかその壁の部分だけ、自
販機のある分明るい気がする。
「ジュース飲んで、ゆっくり刑事さんの質問に答えてくれたらいいから」 
「……すみません……」
 薄っぺらいパイプ椅子に座ると、彼女は俯いた。向かいにすっと座った相羽
さんが、手帳をテーブル(これもまた、折りたたみ式の少しがたがたいう奴だ)
の上に広げて、一度平らにするようにこすった。
「落ち着いて、ね。わかるところからでいいから、教えてくれないかな」 
 言いながら、もう表情がすっかり……仕事の状態になってる。その隣では、
やっぱり真面目な顔をした豆柴君が(でもまだドレスってところが……)やっ
ぱりノートを用意して開いている。
「…………はい」
 こくり、と頷いた女の子の、首筋が細くてあんまり頼りなげで。
(こわくないからねー)
 ちょっと口ぱくでそう言ってみる。女の子はちょっとだけ口元を綻ばせた。
(はい)
 小さく、口元が動いた。


 女の子の話は結構要領良く纏まっていて、多分彼女は見つかるまでずっと、
このことをどう話そうか考えていたんだろうな、と、推測できた。それくらい、
何とか伝えようとしていたんだな、と。

 名前は、香庭、愛。
 曰く。
 自分は吹利市内に住む高校二年生、以前夜の繁華街で補導されて県警に訪れ
たことがある。 その時、注意してくれたおまわりさんに色々話を聞いてもらっ
たりして、反省していた……と。
 
(書き込んでいる手が一瞬止まって、豆柴君が顔を上げた)

「でも……あの、真衣……いえ友達の、彼氏が」
 悪い人と付き合いのあった彼氏。その彼氏を心配して、練習場に行って。

「寂しくなくなる、薬……って」

 何度か相羽さんが尋ね、愛さんが考え込みながら答える。

 薬。寂しい子供の為の薬と言われたり、寂しくなくなる薬とも。
 飲んだらもう……独りじゃなくなる、薬。

 そして。

「…………そこで」
 言いかけて、ふっと言葉が止まる。
「……なるほど、ね」 
 少し苦しそうに唇を噛んだ彼女の言葉を、すう、と、そこで相羽さんが止め
る。それだけ聞けば十分だから、と、言外に告げて。

「…………君」 
「……はい」 
 何時の間にか、豆柴君の手はノートから離れていた。
「……一月前に、駅前繁華街で深夜にあるいてた三人組の」 
 こくん、と、愛さんが頷く。

「……それで、覚えのある県警で」 
 気づいて欲しくて。……見つけて欲しくて。
「……はい」 

 でも、この子は、多分あたしの近くに居るからこそ、こうやって話も出来る、
こちらの手を掴むこともできる。
 でも。
 気づいて欲しくて。
 でも……助けて欲しくて、では……もう。
 ない、かも

 ぱたん、と、ノートを閉じる音。
 顔をあげると、相羽さんが女の子を見ていた。
「わかった、君は俺達が見つけてあげる。君の友達も、探し出す」 
 こくん、と、愛さん……というか、まだ愛ちゃん、かな……が頷く。
 さっきからずっと、彼女はあたしの服の袖を握ったままだ。
「……ごめん」
 呟くような声。見ると豆柴君は小さく唇を噛んでいた。
「こんなことになる前に」 
 彼女は小さく首を横に振ると、ぎゅっと一度、目を閉じた。

 寂しい子供の為の薬。
 それが一体どういうものかは知らない。けれども、それを欲しいと……いや、
最終的に彼女はその誘惑には耐えたのだけども。
 でも……つまり、そういうことで。

 顔を上げると、相羽さんと目が合う。
 ひどく……静かな、そしてここから始まる『仕事』に関わる表情がふと崩れ
て、少しだけ困ったような……そして問いかけるような表情になる。
 ここであたし達に、求められていること。
 全く部外者のあたしと……被害者本人だけど、つまりは幽霊、悲しいかな発
言権の無い彼女と。

「ねえ」
 部屋の電気は煌々とついているのに、けれども空気が澱むように暗い。それ
を一度は払いたくて、出来るだけ明るい声を出そうとした。声の最初が少しだ
けかすれたけれど、何とか成功したらしく、女の子……愛ちゃんは、きょとん、
と顔を上げた。
「したらさ、二人で、どっか開いてるレストランかどっかで、パフェでも食べ
ない?」 
「……え」 
 一瞬きょとん、とした彼女は、でもすぐにぱあっと顔を輝かせた。
「はいっ」 
「うん、食べちゃお食べちゃお。女同士だもんね」 
 この近くに24時間のファミレスがある。あそこは結構パフェが揃ってるらし
いから。
 はい、と、彼女は頷く。ずっと袖を掴んでいた手をそっとずらすようにして、
そして今度はしっかりと手を繋いだ。

「……じゃあ、真帆。その子、頼める?」 
「はい」 
 少しすまなそうな顔のままの相羽さんに笑って返す。
「……お願いします」
 ぺこり、と、豆柴君が頭を下げた。すっと上げた顔に、沈痛な色を乗せたま
ま、手を繋いだ彼女のほうを見る。女の子もやっぱり、ぺこ、と、一度頭を下
げて……そしてしょんぼりと、顔を伏せた。
「……ごめんなさい、おまわりさん……危ないことしないって約束したのに」 
「ううん……絶対に、捕まえるから……だから」 
 すっと……豆柴君は手を伸ばす。繋いでいないほうの手を両手で包むように
握る。まるで指きりの代わりのように。
「はい」
 透明な無表情のまま、その手を見ていた彼女は、その手が離れる時にふと微
笑った。
 どこにも……誰にも手の触れられないような、そんな笑顔だ、と……

 なんだかその時に思った。

時系列
------
 2007年7月末〜8月初め

解説
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 県警に現れた怪談は、しかし実は事件の始まりでもあった……
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 てなわけで。
 であであ。
 
 


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