[KATARIBE 31344] [OM04N] 小説『式神使い』

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Date: Sat, 15 Sep 2007 00:20:06 +0900
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小説『式神使い』
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本編
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 二条大路を一人の男が歩いている。服装からして貴族であろうが、連れは誰
もおらず一人である。
 空に浮かんでいる三日月は爪の跡のように細く、足もとを照らすにはあまり
にも心細い。そんな中を男は明かりも持たずに歩いていた。
「確かこの先の屋敷やったよな?」
 男が問いかけるような口調で呟くと、彼の肩で小さくキィと鳴く声がした。
 小さなイタチである。
 真っ暗な闇の中で金色に光るその目が時折キョロキョロと辺りを見回してい
る。
 男は名を平義直という。陰陽寮に仕える術師である。
 こんな夜更けに外を出歩いているのは別に酔狂というわけではなく、仕事の
ためであった。
 通りの角を曲がったところで義直は足を止めた。
「あれか」
 彼の視線の先には壁を見上げている男がいた。男の周囲はほんのりと青白く
光っていて、男自身の体は半分透けている。
 肩のイタチがフゥと毛を立たせた。
「まあ落ち着けって」
 義直は苦笑を浮かべて、イタチを優しく撫でる。
 そして、そっと男の方へ近づく。
「あんた、何してんのや?」
 男は義直に気付いていなかったのか、びくっと肩を一度震わせると彼の方を
向いた。
 当然、というべきか顔は血の気もなく真っ青である。ただ、目だけがぎらぎ
らとしている。
 その外見はほぼ人間であるが、その体から放たれている気配は人間のものと
は大きく異なっている。
「あんたは…… 陰陽師か」
 男の言葉に義直は頷く。
「陰陽師が鬼に会いに来たっちゅうことは、どういうことか分かってんな?」
「調伏する気か」
 義直が男に一歩近づいた。
 男は一歩後ずさって距離を保つ。
「この屋敷の娘がな」
 男はじっと義直を睨んでいたが、義直は彼から視線をそらすと顎で壁の向こ
うを指した。それにつられて男も壁の向こうに目をやる。
「近頃、変な病にかかってうなされつづけとるらしいんや。どんな薬を飲ませ
てもよくなる気配も見せず、ほとほと困り果てた親がうちんとこに相談に来
たっちゅうわけや」
「それが俺のせいというのか」
 男は顔を義直の方に戻すと顎を引き、上目遣いで彼を睨んだ。
 義直が頷いた。
「あるところに良くないことが起きる。近くに鬼の姿がある。まあ、普通に考
えたらその鬼が原因やわなあ」
 それに、と彼は続ける。
「あんたから変な気が流れとるのは一目瞭然やしな」
 同意するように彼の肩に乗っていたイタチが鳴き声を上げる。
「だとしたらどうする?」
 男の問いに義直はあきれたような表情をした。
「どうするも何も、消えてもらうに決まっとろうが」
 そう言って義直は両手を袖の中に引っ込めると少し持ち上げ、軽く振り下ろ
した。
 両方の袖の中から子犬が一匹ずつ飛び出す。
 子犬といっても片手では持てないくらいの大きさはある。これらがそのまま
義直の袖の中に入っていたとは考えられない。
「式神か」
 男が出てきた犬を見て言った。
「ああ。何せ俺はこれしか芸がないからな」
 ふふん、と義直が笑う。
 彼の足下では二匹の犬がじっと男を見つめている。
 犬とはいえ二匹を相手にするのは分が悪いと思ったのか、男は宙に舞い上が
ろうと軽く跳躍をした。
「逃がさへんで」
 その声を合図に犬が男に襲いかかる。
 一匹が男の左足のすねに噛みついた。
 男は振り払おうと足を振ったが、犬は離そうとしない。それどころか顎にさ
らに力を加え、男の左すねを囓りとってしまった。
 左足がポトリと落ちる。
 男が体勢を崩し地面に倒れ込んだ。そこにもう一匹が飛びかかり右腕に噛み
つき、そのまま一気に噛み砕いた。
 男はぎゃあと悲鳴を上げた。
 男の体から切り離された右手はしばらく何本かの指を小刻みに動かしていた
が、やがてその動きを止めると、まるで砂でできていたかのようにサラサラと
崩れていった。
「おのれ……」
 男は左手を地面につき立ち上がろうとした。しかし、左足も失っており上手
く立ち上がることができない。
 かろうじて男は上半身を反らし、義直を睨んだ。
「おのれ……」
 ギリギリと歯ぎしりの音が少し離れたところに立っている義直のところまで
聞こえてくる。
「しぶといな、あんた」
 義直は男に言った。
「しつこい男は嫌われるで」
 男が何か言おうとしたが、それよりも早く二匹の犬が再び男に襲いかかる。
 腕や体に噛みついてはちぎり取り咀嚼していく。
 男は己の体を囓りとられる度に悲鳴を上げていたが、やがてその声も小さく
なっていき、とうとう頭まで犬に食われてしまった。
 犬は義直の方を見ると満足げにオンと鳴いた。
 地面には男のものと思しき肉片が散乱していたが、それらもやがて崩れてい
く。
「戻り」
 義直がそう言うと二匹の犬はその姿を出てきたときと同じ子犬ほどの大きさ
に変え、義直の袖の中へと飛び込んだ。
 犬が入って膨らんだ袖は一瞬にして何もなかったように元通りになる。
「ま、これで直に娘も良くなるやろ」
 義直は壁を見上げてそう呟いた。

解説
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たまには戦闘ものに挑戦してみるも無惨に玉砕。

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