[KATARIBE 31339] [HA21N] 小説『偶然の悪夢・0.5 〜少女達』

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Date: Tue, 11 Sep 2007 01:06:15 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31339] [HA21N] 小説『偶然の悪夢・0.5 〜少女達』
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2007年09月11日:01時06分15秒
Sub:[HA21N]小説『偶然の悪夢・0.5 〜少女達』:
From:久志


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小説『偶然の悪夢・0.5 〜少女達』
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登場人物
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 愛     :巻き込まれた少女
 真衣    :恋人を案じる少女
 ウヤダ   :腕利きのハンター。霞ヶ池の汚染を追っている。
 フィクサー :水絡みの仕事を請け負う仲介人

会話
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 夜の吹利繁華街。
 きらきらと華やぐ光の河の中を煌びやかな女性達が歩いている。

 通りから少し外れたわき道、打ち捨てられたように二人の少女が道端に座り
込んでいた。太もももあらわなチェックのミニスカート、襟元のボタンを外し
裾をだらしなく出した白いブラウス、まるで双子かと思うほどに全く同じ格好
で下着が見えるのも構わず地べたにしゃがんで身を寄せ合うように佇んでいた。

「ねえ、やめたほうがいいよ……」
「うん……あたしもそう言ったんだ、でも……」
 うつむく一人の少女、伏せた目には歳に似つかわしくない厚く塗られたマス
カラが影を落としていた。
「でも、心配なんだ……最近スランプだし、全然家にも帰ってないみたいだし」
「……真衣」
 夜の街の明かりで照らされた顔は、きっちりと塗られたアイラインとファン
デーション、派手なピンクの口紅……だがその慣れたメイクとは裏腹に、少女
達の表情はどこか寂しげな子供のような印象を受けた。
 真衣と呼ばれた少女、彼女の恋人がここ数週間前から様子がおかしいという
話を友人である片割れの少女、愛は何度となく聞いていた。

 曰く、時々心ここにあらずといった状態におちいる。
 曰く、ふと見た時に非常に影の薄くなる時があった。
 曰く、一瞬彼の姿が薄まって消えてしまいそうに見えた。

「どうしよう、愛……このままじゃあ」
「真衣、落ち着いて」
 中学の頃からの友人同士で、互いに家庭を全く顧みない両親を持つ二人に
とって、二人は互いにたった一人頼れる存在だった。
「……それに、知ってる? ”水”のこと」
「それって……あの、噂の?」

 ”水”
 愛にも聞き覚えがあった。

 寂しさを無くしてくれる、という。
 辛さを消してくれる、という。

 ここ最近、少年少女らで噂になっている品の一つ。

 詳細は知らない、興味がないといえば嘘になる。
 だが、どこか言い知れない生理的な不吉さを、愛は感じ取っていた。

「その、水をね……売ってるらしい人と会ってるみたいなの」
 さっと愛の顔が青ざめる。
「……それ、クスリとかじゃ?」
「わかんない、でも……心配なの」
 きゅっと膝を抱えて、真衣がぽつりとつぶやく。
 隣で細い肩が小さく震えているのが、愛にもわかった。
「……真衣」
「だから、会って確かめなくちゃ」
 すっくと、覚悟を決めたように立ち上がる。
「どうするの?」
「アイツ、今日はバンドの地下練習所にいるはず……だから」
「あたしも行くよ!」
 慌てて立ち上がって真衣の袖をぎゅっと掴む。
「愛……」
「一人じゃ危ないよ、あたしも行くから、ね?」

 さみしい。

 ひとりは、さみしい。

 それは真衣にとっても愛にとっても。

「……ありがと……愛」
「うん……一緒に行こう」
 ぎゅっと手を握る。
 しっかりと手を繋ぎあったまま、二人の少女は歩き出した。

 さみしい。
 一緒にいれば、さみしくない。

 それが二人が目撃された最後の姿だった。

虚無
----

 闇の中。
 溶け込むように。

 繁華街から少し外れた場所にある廃ビルの地下駐車場にて。
 明かりもない、がらんとした駐車スペースの中、一台の黒のセダンが止まっ
ていた。暗闇の中、シートにもたれて一人の男が運転席に座っている。
 何処か掴みどころのないこれといった特徴のつかめない雰囲気と、人を寄せ
付けない見ているだけで底冷えするような釣り上がり気味の目が、車内の計器
の明かりに照らされてうっすらと光を帯びている。
 胸ポケットから携帯を取り出し、番号を叩く。

 ワンコールが鳴り終わるのとほぼ同時に、無機質な合成音を思わせる低い声
が応じた。
『私だ』
「アロー、情報通りだ、フィクサー」
 一瞬間をおいて、微かに息を吐く声に続けて低い男の声が続いた。
『……やはりか』
「ああ、ガキ共相手に薄めの水を使って汚染を広げている」

 水。
 さみしさを忘れさせる、という。

 否。
 それは侵蝕し、存在を崩し、溶け合い、曖昧にし、崩壊するもの。

『……崩壊し辛い分、発見も拡散も調べ辛い、か』
「ああ、一つアンテナに引っかかった、詳細はこれからだが」

 さみしさ。

 男には、まるで理解のできないもの。

『わかった、任せる。報告を舞っている』
「了解」
 電話を切り、胸ポケットにしまう。
 指先を切った皮手袋をはめた手がハンドルを握った。


異形
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 すぱんと、コンクリートを切り取って箱型にしたかのような空間。
 その壁にはスプレーで殴り書きにされた落書きや、カラフルなアート崩れの
絵がそこかしこに描かれている。

ライブの練習場として使われているという廃屋の地下。
 冷房も無く換気も整っていない薄暗い空間は、むせ返るような生暖かい空気
で満ちている。

「……遅かったか」

 熱気の篭った空気に混じっているのは、生臭い……血の匂い。

 薄闇の中、何かが蠢いていた。

 白い肌。
 ぶよぶよと波打つように揺れている。

 腰にさしたナイフを抜き放ち、足元に転がった空のペットボトルを一瞥する。

「……イ……」

「売りは逃げた、か」
 折角、見つけた糸口ではあったが、これはもう使い物にはなりそうもない。

「…………シイ……」
 ゆらり、と。白っぽいのっぺりとした何かが立ちはだかる。
 おぼろげに人の形をした、何か。
 掠れたような声をあげて、半身を揺らす。その腹部に付け根から二本の腕が
飛び出している、よく見ると根元からきちんと生えて僅かに痙攣している。
爪先に塗られた真っ赤なマニキュアがやけに艶やかに映った。
「……サミ……」
 そしてわき腹には茶色の長い髪の頭が生えてゆらりと揺れている。
「……」
 ナイフを軽く握り締め、小さくバックステップしつつ、間合いを取る。

「…………サミ……シイ……」

 ゆらりと波打つように動いて、くず折れるように前のめりに倒れる。
 その背にはもう一人、裸の女の上半身がだらりと生えている。わき腹に生え
ている頭と同じく茶色の髪、虚ろな目から涙を流しながら震えていた。

 姿を消した、真衣と愛の二人の少女。

 風を切る音を立てて、ナイフを構えなおす。
 欠片の慈悲も感情も無い目が、異形を見据える。


報告
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「俺だ」
『どうした?』
「残念な知らせだ」
『捕らえ損ねたか?』
「ああ、売りは既に逃げたようだな。次の汚染の恐れもある」
『……次、ということは。既に?』
「処理した」
『了解、続けてくれ』
「わかった」

時系列
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 2007年7月終わりから8月にかけて
解説
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 水に翻弄された少女達。
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以上



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