[KATARIBE 31335] [HA06N] 小説『県警のタバコの煙・1』

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Date: Sun, 9 Sep 2007 01:17:35 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31335] [HA06N] 小説『県警のタバコの煙・1』
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2007年09月09日:01時17分34秒
Sub:[HA06N]小説『県警のタバコの煙・1』:
From:いー・あーる


というわけで、久しぶりに三連荘ないー・あーるです。
今度は06。
宿題溜めすぎ>己

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小説『県警のタバコの煙・1』
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登場人物
--------
 形埜千尋(かたの・ちひろ)
  :吹利県警総務課の大御所。噂話とそれからの推測については異能並み。
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事課巡査。真帆にはめっさ甘い。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。 


本文
----



 吹利県警のトイレは、禁煙である。
 
 まあ当たり前のことながら、県警に勤めている人々というのは年齢的にも二
十歳以上、別にトイレで隠れて吸う必要も無い。ちゃんと喫煙場所も設けてあ
り、そこに行けば全く問題なく煙草を吸うことが出来る。従って禁煙ときっち
り記してあるトイレで、煙草を吸う必要などない。
 ……その筈では、あった。

           **

「で、これで3日。ずーっと煙草のにおいがしてるわけね」
「3日……って、形埜大奥は何にもしてないわけ?」
「大奥いうなっての。……無論してますともさ」
 ぺしこん、と、手を伸ばして相羽の頭をはたいた小柄な女性は、その勢いの
まま、鼻を鳴らした。
「無論仕事の合間だけど、出来るだけ連続して見張ってるようにするんだけど」
「見つからない?」
「これが全然」
 肩をすくめる千尋を見て、相羽は目を丸くした。
「それは……ちょっとすごいね」
 県警三大『敵に回すと危険な人物』の一である千尋は、県警内外の情報には
それはそれは詳しい。その彼女が犯人を特定できないとすると、これは結構問
題である。
「なんかね、新川さんによると、誰も入ってない筈の個室から、いつのまにか
煙草の匂いがわいてきたんだそうな」
「へえ」
 さりげない口調だったが、千尋はきろり、と、相羽を見やった。
「そういうこと、らしいわよ」

 誰も入っていない個室から、煙だけが出てくる。
 その意味するところは……ある意味では、明白である。

 零課という存在は、表立ってのものではない。しかし、県警一の情報通なる
千尋に関しては、少なくともその存在くらいは知っていると言っていい。それ
がこういう口調で言う、ということは。

「……成程ね」

            **

「うん、それは……確かに豆柴君なら適役って気はする」
 夏になると素麺が美味しい。ただ、それだけだとどうしても栄養が偏る。非
常に単純な話ではあるが、これを回避する為に真帆が良く作るのが、五色素麺
である。錦糸玉子と胡瓜の千切り、そぼろ肉等々、色々と具を乗せた素麺を手
渡しながら、真帆は何となくあやふやな顔をして頷いた。
「でも、それが……何で女装して、なの?」

 結局、トイレの怪異の原因を調べるのに引っ張り出されたのは豆柴だった。
どうやら幽霊だか妖怪だかが絡んで居そう、という結論になった以上、異形を
見つける目を持った彼は、確かにその役目に適任かもしれない。
 しかし。

「うん、女子トイレに怪異って言うから、それじゃ女装だね、と言ったら、さ」
「それ……豆柴君に言ったの?直接?」 
「……いや、なんとなく冗談でつぶやいたら、みんなその気になって」
「…………」
 本宮兄弟の一番下の彼は、結婚してそろそろ子供が生まれるというのに、や
はり県警のアイドルである(婉曲表現)。恐らく男性陣の中でダントツの女装
回数を誇るだろう彼は、同時に『女装が可愛らしい』点でもかなり高得点を取
ると思われる。従って、こうやってそそのかされることは、恐らく初めてでは
ないだろう、が。

「……夜中の、大概女性ったって、気心の知れてる面々くらいしかいない女子
トイレに張り込みするのに、なんで女装が必要、ってことになっちゃうんだろ」 
「……さぁ……」 
「で。なんでまた豆柴君も、それで騙されるかなあ」
「女子トイレだから女装、で、やっぱり女性がはいるところだからしょうがな
いのかなあとか納得してたよ」 
「すーるーな」
 似合う似合わないの問題以前に、ここらの騙されやすさが、彼の女装だの変
装だのの回数増加に非常に寄与しているのではないか……などと妙に理屈っぽ
く真帆は考えた。

「それで、今、豆柴君が見張ってるの?」
「うん」
 真夜中の超過勤務というのは……特に奥さんの出産が迫っているこの時期、
少々気の毒でもある。その意識があったからこそ、真帆も気がついたのかもし
れない。

「……ねえ、それ、あたしとか行ったほうが早くない?」 
「え?」
「もし、トイレに住み着いてる幽霊なら、あたしが行ったら実体化するよ?」 
「…………」

 のここのここ、と、天使がゆっくりと往来するくらいの沈黙の後、ぽん、と
相羽は手を叩いた。

「それ、一発だね」
「でしょ」

 幽霊にあやかし。そういった人ならぬモノが、真帆の周りでは実体化する。
特に幽霊に限って言えば、彼らが元気で生活していた時分の身体へと実体化が
起こる。従って死後、時に怨霊化して得られた異能も、この実体化の際には消
えてしまうことになる(無論、生前より異能がある場合は、その異能は元通り
に復活するが)。

「行ってみる?県警」 
「……そうだね」 
「あ、でも」
 立ち上がりかけた相羽を、慌てて真帆は制した。
「まず、素麺食べちゃおう?多分伸びるから」

 そうだね、と、相羽は頷いた。


時系列
------
 2007年7月末〜8月初め

解説
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 時期としては、HA21の『偶然の悪夢』とほぼ同じ時期。
 県警に現れた、ちょっとした怪談のはじまり。
***************************

 てなわけで。
 であであ。
 
 



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