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Date: Sun, 9 Sep 2007 00:00:34 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31333] [HA21N] 小説『偶然の悪夢・4』
To: kataribe-ml@trpg.net
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Web: http://kataribe.com/HA/21/N/
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2007年09月09日:00時00分34秒
Sub:[HA21N]小説『偶然の悪夢・4』:
From:いー・あーる
ども、いー・あーるです。
とりあえず宿題を片付けます。
ここを書いて、もちっと進んだら、己のパートは一旦お休みです。
どう進むかは、ウヤダさんとギリちゃん次第。
……こういうのを押し付けといいます<おい
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小説『偶然の悪夢・4』
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登場人物
--------
今宮タカ(いまみや・たか)
:流れを見て操る少女。多少不思議系。
本文
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噂がある。
或る、水がある。
さみしい子供の為の水、と、噂に言う。その水を片思いの相手と一緒に飲む
と、その人と一生一緒に居られるようになる……
……そういう噂。
**
そしてまた、噂がある。
或る住宅街の一角を夜に歩いていると、女の子と出会うことがあるという。
複数で居ると何も起こらない。しかし一人で居ると、その女の子が近寄って
『さみしい?』と尋ねるという。
さみしくない、と言うと、ふうんと小さく呟いて終わり。さみしいと答える
と、じゃあ、一緒に居よう、と手を取られる。
取られたら……おしまい。
**
夢を見る。
さみしい、さみしい、と風のように呟く声。
さみしい、さみしい、と水のように流れる声。
たぷたぷと流れる水は、明るい灰黄色の世界の中、微かに青味を帯びて見え
る。
透明な水の中に、その青味を帯びた水が混ざり合い、そして拡散してゆく。
(さみしい)
(さみしい)
締め付けられるようなさみしさが押し寄せる。半透明の魚達が、次々と寄り
添っては一つになってゆく。
(さみしい)
(さみしい)
ふわりと寄り添い、肌を合わせた時の安堵。一つになってゆく時の充足。
そして……一つになった時の、千切れるようなさみしさ。
(さみしい……)
(さみしい、よう……)
透明な手を伸ばす誰かの、むせび泣くような声。
(さみしい、の)
(ねえ、さみしい、の)
(さみしい、から)
伸びてくる、細い細い……手。
(だから)
(いっしょに……)
「……やだあああっ!!」
自分の悲鳴で、タカは飛び起きた。
「……あ」
夏の長い日が、それでもゆっくりと傾く時刻。敷布団が湿って感じられるほ
ど、びっしょりと汗をかいて眠っていたらしい。
「おじちゃん……うーねーちゃん……白ねーちゃん?」
だんだんと声は大きくなる。
返る声は、無い。
「…………」
タカは布団の上で、ぐ、と、唇を噛んだ。
**
ちょっと急ぎの仕事が入った、と、片桐が言ったのはその前日の朝のこと。
(忙しくなるの?)
(おう。帰るのが遅くなるから、タカは先に寝とれ、な)
(…………うん……)
そう言って出て行ったまま、片桐はとうとうその日には戻ってこなかった。
(ほら、タカ、ギリちゃんに寝なさいって言われたでしょ)
それでもその日は、淡蒲萄と白橡が居たので良かったのだ。
(ごめんね、今日お呼ばれなんだー)
(タカ一人で大丈夫?)
(うん、大丈夫)
心配そうに尋ねてくる二人に、そうやって頷いたのはタカ自身で、だから誰
にも文句を言いようが無いのだけど。
行ってくるね、と、二人が出かけたのはまだ午前中。もそもそと、パンとミ
ルクのご飯を食べて、タカが外に出たのは正午にまだ半時間ほど間がある頃だっ
た。
肩の上のみやまが、時折羽ばたく。そのみやまごと、身体の周りに微風を起
こしながらタカは歩いてゆく。
表通りから奥に通り二本分入ったところ。下水溝のコンクリートの蓋が、一
箇所だけ壊れているところ。
この前の台風の翌日からこちら、タカは一日に一度はそこに行く。あの日ほ
どには水の量も多くは無かったが、やはりその中には水が流れ、その水の中に
は半ば透明な蛙達や魚達が楽しそうに泳いでいた。
あの、得体の知れない男は、あれ以来見かけない。見かけたら逃げる気は大
いにあるし、そのほうがほっとするのかも、と思いながら……でもタカの足は
そのまま進んでゆく。
「…………」
だから今日もまた、タカはその下水溝のところで立ち止まり、しゃがみこむ。
透明な流れは、彼女の目前でするりと宙にありえない高さまで持ち上がり、そ
してまた下水溝へと落ち込んでゆく。その繰り返し。
「……?」
その流れの中に、ぷか、と何かが浮かんだ。
半透明の、魚のような輪郭を持つ何か。
「……ほえ?」
それは以前見つけた魚とは違う。鱗の影だけがほんのりと灰色に染まっただ
けの、殆ど透明なその何かを、タカは流れに封じ込めて目の前に浮き上がらせ
た。その何かは、やはりふわふわとその水の中、どこか呑気に泳いでいた。
「あ」
暫く見ていたタカの口から、その声が溢れた。
魚の輪郭はだぶっていた。まるで二匹の魚が、殆ど一匹に重なってしまった
ように。
そして、その重なった魚の身体の下から、三本の蛙の後ろ足。
「……え?」
よくよく見る。
魚の身体から伸びている蛙の後ろ足を、良く見る。
「ひっ」
三本とも、同じ向きに関節が曲がっている。
三本とも……同じ右足。
ぽちゃん、と、流れは下水溝に落ちていった。
ぽちゃん、と落ちる間も、その異形はゆっくりと足を動かし、鰭をはためか
せていた。
(さみしいの)
「?!」
弾かれた様にタカは立ち上がった。振り返った先には、くっきりとした短い
自分の影だけがあった。アスファルトが白茶けて見えるほど明るい日差しの下、
その影は微かに髪の毛を揺らすだけで、動きもしなかった。
……そう、見えた。
(さみしいの)
「…………」
その、影の先。
ゆらゆらと陽炎のように、揺れる大気が淡い影の波を作った。
ゆらりゆらり。
その輪郭は淡く、その姿はほぼ透明の。
肩の辺りまでの髪を、なびかせた少女の…………
「――っ!」
たん、と、アスファルトを蹴って、走り出す。
夏の真昼。住宅街は怖いほどしんとして、自分の息の音だけが耳につく。風
景はタカの周囲で、やはり白茶けるほど明るい光に照らされていた。
(さみしいの)
繰り返し繰り返し、耳元に蘇る声。
(さみしいの)
「……いや」
一散に駆けながら、タカは呟いていた。
「さみしくなんかない」
たたた、と、転げそうな足を、必死で動かして。
「一人なんて怖くないっ!」
そして家に戻ると、出かけるまでは無かった書き込みが、ホワイトボードに
あった。
『仕事がまだ伸びる。夕ご飯は先に食べとれ。夜には電話する』
互いの連絡用に、と、帰って一番に目立つところに吊り下げられたホワイト
ボードを、タカはじっと眺めた。
「…………」
行き違いになったその書き込みは、視線の先でどんどんぼやけてにじんだ。
何が怖いかと問われたら、実はタカも困るのである。
それは確かに、魚と魚がくっついて一つになるというのは異常な話だし、そ
れに蛙がくっついたとしたら、もっと異常でもある。けれどもそれ以上に。
(怖い)
(すごく、怖い)
(なぜって)
ふつり、と、タカは考えるのを止めた。
まるで深い穴に落ちる寸前、足をその際で止めるように。
「……もう寝るっ」
部屋の中は明るい。
日差しはまだまだ夏のもので、幽霊やお化けとはとことん離れた明るさで。
だからタカは、そのまま布団の上で眠ってしまって……
**
「…………」
そして、悪夢ごと目覚めたタカは、泣きそうになるのを唇を噛んで止めた。
ゆっくりと日は傾いてゆく。
夜が近づく。
「……おじちゃん」
夜には電話する、との約束が、ホワイトボードの上で点滅するように見える。
細い細い、恐怖から逃げる為の命綱のように。
「…………片桐のおじちゃん……」
怖いよう、と、続きそうな声を、喉の奥で止める。
部屋の中の影は、だんだんと長くなっている。
時系列
------
2007年7月終わりから8月にかけて
解説
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静かに進んでゆく事態と一緒に、悪夢も現実も進んでゆく。
そういう夏の日の風景。
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てなもんです。
であであ。
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