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Date: Thu, 6 Sep 2007 00:50:20 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31319] [HA06P] エピソード『ランダム小隊・外伝 オワタ家の夜』
To: kataribe-ml@trpg.net
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Web: http://kataribe.com/HA/06/P/
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2007年09月06日:00時50分19秒
Sub:[HA06P]エピソード『ランダム小隊・外伝 オワタ家の夜』:
From:久志
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エピソード『ランダム小隊・外伝 オワタ家の夜』
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登場人物
--------
御羽貞我(おわ・ていが)
:通称、オワタ。高2年。
御羽仁藻(おわ・にも)
:通称、ニモ。オワタの妹。ツインテールなブラコン妹。
箕備瀬梨真(みびぜ・りま)
:通称、りまりま。無防備でえっちな下着を愛用してる高1年。
御羽都藻(おわ・とも)
:オワタとニモの母。デパート勤務。女手一つで子供を育てている。
帰宅
----
りまりまを家まで送り届け、自宅の前へと帰ってきたオワタ。
妹と母と三人で引っ越してきてからずっと住んでいる築二十年近い古い公団。
ここに住んでいる住人の大半は、オワタと同じような母子家庭や働きの先のな
い老夫妻など、両親が揃っている家庭はあっても生活に余裕の無い者がほとん
どだった。
オワタ :「……」
団地の入り口前で、足を止め。注意深く当たりを見回す。近辺にあの男らし
い影は見当たらない。一つ溜息をついて、少し磨り減ったコンクリートの階段
を踏みしめて自宅へと帰る。
オワタ :「ただいまー」
ニモ :「お帰り、オワタ」
ドアを開けてすぐ、ダイニングのすぐ前で妹のニモが仁王立ちで出迎えた。
どこかむすっとした顔で、上目遣いでオワタの顔を見上げている。
オワタ :「おう……大人しくしてたか?」
ニモ :「……そーだけど、なんなんだよ、一体」
腰に両手を当てたまま口を尖らせる。
つい先ほど、オワタの目の前に見た人物を思い出す。
十年前の夏の日、あの日から全く姿を見せることの無かった父。オワタ自身
も電話でしか交流が無く、思い出そうとしてももう顔がおぼろげになってきて
いる父の姿。
だが、不思議なほどにあの男は間違いなく父親だと確信できた。
ニモ :「誰かきても出るなとか……なんかヘンだよ!」
むーっと上目遣いでにらんでくる妹に軽く片手を振ってみせる。
オワタ :「ほら、物騒だろ? 最近。ほら、先風呂はいって寝ろよ」
ニモ :「……ふん、だ。あたしはお邪魔だもんね!」
ぷいっと踵を返す、二つに結んだ髪がふわんと跳ねて、そのままばたばたと
部屋へと引っ込んでいく。
オワタ :「なんだよ……ったく、難しーやつ」
ニモは父親のことをあまり覚えていない。
二歳の時に父が出て行ってから、仕事に出る母に代わってずっと妹の面倒を
見ていたのはオワタだった。
父を恋しがって泣きじゃくる妹。
妹に問われると言葉にできない辛そうな顔をする母。
父の影を家庭から追い出す為、父いた位置を自分が埋められるように、と。
オワタ :「……今更」
椅子に沈み込むように座って、両肘をつく。
突然現れた父の姿を見て、酷く動揺していたのをオワタは自覚していた。
髪を掻いて、ため息をつく。
ふと、脳裏にさっきまで一緒に歩いていたりまりまの姿がよぎった。
オワタ :「……気にしてっかな」
父を目の前にして動転したせいか、変な事を話してしまった気がする。
帰り際の約束を思い出して、ポケットの携帯を探る。送信画面を開いて、
ぷちぷちとメッセージを書いては読み返してを4・5回ほど繰り返して手を止
める。
オワタ@メール:「タイトル:オス 本文:今家ついた、今日、ありがとな。
:また明日、学校で」
文面にすると随分素っ気無い。しばし迷った末、送信ボタンを押す。
オワタ :「……メールの文章ってむずいよな」
もともと無口なわけでもないが、一人でひたすらしゃべるというわけでもな
い、それもメールの文章ともなると相手が見えないので余計にやりづらい。
送信完了して程なく、携帯の画面に着信を告げる髪飛行機マークのアイコン
が表示された。
オワタ :「あ」
着信音が鳴るのももどかしくメールを開く。
りまりま@メール:「タイトル:オスって? 本文:こっちこそ今日はあり
:がとー、先越されたくやしー、今お風呂入ってるとこ、
:このケータイ、防水だからお風呂で使えるんだよ、すごく
:ない?」
一瞬ごふっと、吹き出しそうになる。
防水。
風呂。
この二つの単語が意味することは。
オワタ :「…………風呂」
ほわほわと、湯煙のこもるバスルームの中……ほんのりと肌を桜色に染めた。
オワタ :(ぶんぶんぶんぶんぶんぶん)
必死で頭を振って一瞬脳裏に浮かびかけた映像を追い払った。少しいたたま
れない気持ちになりつつ慌てて携帯を手繰って返事を打つ。
オワタ@メール:「タイトル:すげーなあ 本文:やっぱ俺も携帯変えよう
:かな、えっと、同じやつで、さ。」
りまりま@メール:「タイトル:でしょでしょ 本文:うん、絶対おすすめ!
:今日オワタくんと見に行ったおかげだよ、これに出来たの。
:ホントありがとうv」
文末についている、ぴこぴこと動くピンクのハートマーク。
オワタ :「……それって」
心なしかハートマークの意味が意味深のように感じる。りまりまの意図が
どこにあるのかさっぱり見当がつかない。
あるいは、少しは……期待しても。
ニモ :「……なーにニヤニヤしてるんだよ」
びくり、と肩を浮かせてオワタが振り向いた先。パジャマに着替えて濡れた
頭にバスタオルを巻いたニモがじろりと睨む。
オワタ :「な、なんだよ。いきなり忍び寄ってくるなよ」
ニモ :「いきなりじゃないよお、オワタさっきからニタニタしな
:がら携帯じーっと眺めてたじゃない」
オワタ :「ニタニタなんかしてねえっての」
ニモ :「ばっかみたい」
オワタ :「……ほっとけ」
オワタ :「なんだよ……ったく」
ぷいっと、そっぽを向くニモから隠れるようにメールを返信する。
オワタ@メール:「タイトル:おやすみ
:本文:じゃあそろそろ風呂入るから、また明日な」
送信中の紙飛行機アイコンが動いている。
オワタ :「じゃ、俺も入ってくるから、お前は早く寝ろよ」
ニモ :「…………わかってるよ」
と、再び着信。
りまりま@メール:「タイトル:うん、また明日 本文:また明日ね。
:おやすみーっ」
ちらっとメールを確認する。
ニモ :「……りまさんでしょ」
オワタ :「……え、ま、まーな」
ニモ :「…………おやすみっ!!」
ぷいっと濡れた頭にバスタオルを巻きつけたまま、どすどすと部屋へと歩い
ていく。
オワタ :「なんだよ、さっきから……」
妹の心、兄知らず。
母の帰宅
--------
風呂から上がって時計を見る、十一時半を少し過ぎたところ。
母はまだ帰ってきていない。
奥の部屋はすっかり静かになっていて、そっと足を忍ばせて少し開いたドア
の隙間からのぞいてみる。
ニモ :(すー)
布団の上、大の字になってタオルケットを蹴り飛ばしてニモが眠っていた。
オワタ :「ったく」
そっと、はみ出した足を布団の上にのせてお腹を冷やさないようタオルケッ
トをかぶせる。
オワタ :「おやすみ」
音を立てないようにそおっと戸を閉めて、ダイニングの椅子に腰掛けてぼん
やりとテーブルを眺める。
母はまだ帰ってこない。
静かなダイニングで、壁掛け時計の秒針の微かな音が響く。
ぼんやりと、テーブルに両肘をついて顎を乗せる。
妹が寝た後、帰りの遅い母を待つ時間は、オワタにとって一人きりになる
唯一の時間だった。
時計がそろそろ十二時になろうとした時。
SE :ガチャ
都藻 :「ただいま……あら、お兄ちゃんまだおきてたの?」
オワタ :「お帰り、母さん」
紺のスーツ姿の母の姿。そっとローファーを脱いでハンドバッグを椅子の上
に置いた。
都藻 :「先に寝ていてよかったのに」
オワタ :「いいよ、飯は?」
席を立ってコンロの前に立つ。
都藻 :「少し休憩中に夜食食べたけど……」
オワタ :「カレー、あるから、少し食べなよ」
都藻 :「あら、ニモちゃんが作ったの?」
オワタ :「ん、いや…………学校の、後輩が、さ。
:…………作ってくれて」
なんとなく気恥ずかしさを感じて、母に背中を向けながら鍋の蓋を開けて中
の量を確認する振りをして顔をそらす。
都藻 :「……あら」
オワタ :「別に、その……そういうわけじゃないけど」
もそもそと天井を見上げながら背中を向けて話すオワタの姿を見てくすくす
と忍び笑いを浮かべる。
都藻 :「まだ何も言ってないわよ」
オワタ :「…………(う)」
まさに墓穴。
あからさまにギクリとした様子で一瞬手にした皿を落としそうになりながら、
誤魔化すように暖めたカレーをおたまでかき混ぜる姿を見て、母は吹き出しそ
うになった。
都藻 :「じゃあ、いただくわ。ありがとう」
オワタ :「うん」
テーブルに置かれたカレー皿とスプーンを受け取って両手を合わせる。
オワタ :「ビール冷えてるけど、少し飲む?」
都藻 :「ええ……じゃあもらおうかな」
オワタ :「少しもらっていい?」>にっと
都藻 :「あーら、それが目当て?」
オワタ :「まーね、ほら、食べなよ」
冷蔵庫から買い置きしてある冷えた缶ビールを出して、用意したコップに
自分用に半分、残りを母のコップに注いでそっと押し出す。
都藻 :「……あら、おいしい」
オワタ :「でしょ」
都藻 :「お料理上手なのね、彼女さん」
オワタ :「!」
かふっと、飲みかけたビールをむせる。
オワタ :「!……いや、彼女じゃ……」
彼女じゃない……と、言おうとして、口ごもる。正式につき合っているとわ
けではないが、違うと否定するには、少し引っかかる。
都藻 :「こないだ、オムライス作ってくれた子のこと?」
オワタ :「あ……ニモの奴……」
都藻 :「ふふ、ねえ、今度お母さんにも紹介してね?」
オワタ :「…………まあ、その、うん、おいおい…………」
泳ぐ視線が天井へと向かう。
笑いを堪えつつ、息子の彼女がどんな子かを考える母だった。
来週の予定
----------
空になったコップと、カレー皿を手に。
オワタ :「母さん、来週は?」
都藻 :「ええ、今度のフェアの準備とイベントだから……多分遅
:いわ、週頭は泊まりかもしれないの」
オワタ :「……そか」
ふっと、オワタの脳裏をよぎる父の姿。
また、現れるだろうか?
会いたいと、行っていた。
無論、オワタは会う気などない。ニモにもあわせるつもりはない。
しかし、また家で待ち伏せしていたりしたら……
都藻 :「ニモちゃんとは……殆どあってあげられないけど、今度
:のフェアが終わったら代休がとれるから」
オワタ :「うん、無理しすぎない程度にしなよ……」
申し訳なさそうに目を伏せる母の顔を見て、唇を噛む。
そうでなくても日々仕事に追われている母に、これ以上の心配事を増やすわ
けにはいかない。
都藻 :「ありがとう、カレーおいしかったわ。彼女さんに伝えて
:あげてね?」
オワタ :「なっ、だからっ(赤)」
都藻 :「ふふ、じゃあ洗い物はやっておくから、貞我ももう寝な
:さいね」
オワタ :「いいよ、やっとくから、母さん一休みしてお風呂はいって」
都藻 :「…………ありがとう」
部屋へと向かう母の姿。
昔と比べて、随分と小さくなってしまったように見える。
オワタ :「俺が……」
自分が、なんとかしなければ。
母と妹を護ってやらなければ。
時系列と舞台
------------
オワタ家にて。
解説
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オワタ、苦労人です。
http://kataribe.com/IRC/HA06-01/2007/09/20070903.html#210000
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以上
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