[KATARIBE 31313] [HA21N] 小説『偶然の悪夢・3』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Tue, 4 Sep 2007 00:02:57 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31313] [HA21N] 小説『偶然の悪夢・3』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200709031502.AAA76934@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 31313

Web:	http://kataribe.com/HA/21/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/31300/31313.html

2007年09月04日:00時02分57秒
Sub:[HA21N]小説『偶然の悪夢・3』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
何か時期の違う話を、並べて書いてます。
こちらのほうが、蛟の台風話より、一ヶ月ほどあとです。

**********************************
小説『偶然の悪夢・3』
=====================
登場人物
--------
 今宮タカ(いまみや・たか)
   :流れを見て操る少女。多少不思議系。
 ウヤダ   
   :腕利きハンター。仕事には容赦なくムラがない。

本文
----



 怖い夢と、静かな現実。
 どちらが怖いかといえば、後者に決まっている。

             **

 とことこと。
 台風が来てこちら、どんどんと暑くなる街を、タカは歩いてゆく。半袖にス
カート、飾り気の無いサンダル。どれもこれも黒というところが多少暑苦しい
が、材質は夏用のそれらを着た少女は、どこか元気なくとことこと歩いていた
が、ふと道の途中で足を止めた。
 道の両側に続いている下水溝。その、上に被さっているコンクリートの板が
そこだけ壊れており、未だにそこには逆流するような勢いの水が溜まっている
のだ。

「…………」
 その流れの横で、タカはしゃがみこんでいる。普通なら棒っきれか何かでそ
の流れに棹差してみたりするのだろうが、タカの場合は、その流れを黙って見
るだけでことたりる。
 視線の先で、流れは大きくうねり、盛り上がる。どこかしら歪んだようなね
じれたような流れを急停止させると、そこに時折、透明な、でも流れに乗らな
いモノが浮かび上がる。丁度流れの中をぐるぐると、棒っきれでかき回した時
のように。

「…………」
 タカは黙って、その透明な何かを見ている。
 肩の上のみやまが、やはり無言のまま大きく羽根をぱたりと動かす。
「…………っ」
 く、と、一度口元を引き締める。と同時に、視野内の流れがぐるぐると急激
に回り出し、その中の透明な何かと一緒に、まるで透明な塔のように浮き上がっ
てくる。

「……やっぱり」

 陽光の中で、その透明なものはきらきらと透明なまま光っている。足が何本
もある蛙。かと思ったら蛙の足を持つ魚。どうやら同種のものだけではなく、
完全に異種のものも混ざり合っているらしい。
 水の上へと引き上げられたそれらは、それでもやはりゆらゆらと足や鰭、そ
れらをあるだけ動かしている。逃げようと焦るわけでもなく、ただ、泳ぎ続け
るのが普通だから、とでも言うように。
 ゆらゆら、ゆらゆら。
 透明な身体の中、一箇所だけ薄墨の色を残す目がタカのほうを見上げる。
 ある意味、泳ぐのをタカに邪魔されているのだが……その目は虚しく宙を蹴
りながらも、やはり穏やかだった。

「…………」
 ほっとタカは息を吐いた。と同時に、流れは元に戻った。ぱしゃん、と、小
さな音をたてて、その奇妙な透明なモノ達は、流れへと戻ってゆく。

(何にもできない)

 さびしい、さびしい、と何度も呟いた声。
 だから多分……今、このモノ達は幸せなのだろう。
 異形に見えても、否、見える姿を棄ててしまっているとしても……

 元に戻してやりたいと思っても、方法はわからない。否、戻りたいとすら、
彼らは思っていないのかもしれない。

 小さく溜息をついて、立ち上がったタカのすぐ傍で。

「ほう」 
「ほぇ?」 
 声の先に居るのは……いわゆるところの『おじさん』である。とりたてて特
徴も無く、何歳くらいか、というのも判らない。少しつりあがり気味の目元が
ひどく酷薄に見えることと、多少顔色が悪く見える以外には、彼を特徴付ける
ものは無い。
 その彼が、ものめずらしそうにタカを見ている。
「……視る者、か」 
 決して悪意はその視線に含まれていない。それでもその目は……どこかしら
怖い。
「…………ぇ」
 立ち上がった、その左足をずっと後ろに滑らせて……言わば、走って逃げる
用意を無意識に行いながら、タカはそれでもじっと相手を見た。視線の先で男
は、少しだけ笑った。
「いや、少し珍しかったものでね」
 確かに、悪意があるようには見えない。
 けれども……その笑いのどこかに、ひどく冷たいものがあるような気がして。
「…………ほぇ」 
 小さく呟いたタカの肩の上で、みやまがかく、と、首を傾げた。
 と…………

 男は、丁度タカが今までしゃがみこんでいた辺りに膝をつき、水をざっと眺
めると、懐から何やら紙を出してきた。細長く切られた、丁度リトマス試験紙
のような紙を彼は一枚引き千切り、そのまま水に浸す。
 その、男の中の、ぐるぐると巡る流れが、タカの視野一杯に広がった。

(このおじちゃん……何か変)

 片桐は無論、淡蒲萄や白橡の中の流れは、もっと自由であり、時には彼等自
身からはみ出すように流れている。はみ出した部分は互いに絡まりあい、時に
長く遠くに伸びている。彼等の関心の向くところ、そして互いの絆を示すよう
に。
 けれども、この男の中の流れはただぐるぐると回るだけである。何か彼の中
にある硬く動かないもの。それを中心としてくるくると回る流れ。
 凍りつくような利己主義者。否。自分にすら興味のない男。

「……ふむ」
 男のほうは全く構う様子も無く、先程水に浸した紙を見ている。考え込むよ
うにひそめた眉が、ふと開いた。
「……潜んでいる、か」 
 にっと笑う、その笑いのどこかが……タカの目にはひどく恐ろしいものに映っ
た。

(な、なんだろう)

 中から流れてゆかない流れ。
 否、流れそうになると、すっぱりと断ち切られる流れ。

「…………」
 二歩、三歩、と、その怖さの故に、タカは足を後ろに滑らせる。
「さ、さよならっ」 
 一声だけかけて、そのまま向きを変えて走り出す。視野の端に、如何にも面
倒くさそうに片手だけあげて、挨拶の代わりにした男の姿が映った。

 
 ぶんぶんと。
 走る。

(怖い)
(あのおじちゃん怖い)

 何がどう、と言われるとタカも困ったことだろう。それでも怖さだけは確か
で。
 だから、タカは走る。

 どう説明すればいいのか。
 どうすれば通じるのか。

 頭の片隅で考えながら……タカはただ、一目散に逃げていった。

時系列
------
 2007年7月終わりから8月にかけて

解説
----
 目が覚めてもそこにある悪夢の欠片。そして悪夢以上に悪夢のような男。
*****************************************

 てなもんです。
 であであ。
 
 



 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/31300/31313.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage