[KATARIBE 31309] [HA06P] Episode:ランダム小隊・外伝 オワタくんの家庭の事情(後)

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Date: Mon, 3 Sep 2007 21:41:33 +0900
From: Subject: [KATARIBE 31309] [HA06P] Episode:ランダム小隊・外伝 オワタくんの家庭の事情(後)
To: kataribe-ml <kataribe-ml@trpg.net>
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[HA06P] Episode:ランダム小隊・外伝 オワタくんの家庭の事情(後)
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登場人物
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 オワタ    http://kataribe.com/HA/06/C/0718/
        悪運が強くて、りまりまのぱんつを毎日拝んでいる高2。
 りまりま   http://kataribe.com/HA/06/C/0717/
        無防備で、えっちな下着を愛用してる高1。
 ニモ     http://kataribe.com/HA/06/C/0728/
        ツンデレブラコンなオワタの妹。


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 オワタ    :「あ、ナスいれようぜナス」
 りまりま   :「え、なす入れるんだ。うち、兄ちゃんとかナスは焼きナス
        :以外みとめねー! とか言うから、入れたことないよ。
        :でもおもしろそう」
 オワタ    :「入れないの? もったいねえ、うまいんだぜ」

 オワタはナスが大好きらしく。
 これがいいぜ、これはダメだと自ら品定めして、りまりまの持っている買い
物篭に入れていく。

 りまりま   :「そうなんだ。ナスカレー初体験、どんな感じなんだろ」
 オワタ    :「マジうまいから、カレーはいつも母親が……遅いときに
        :まとめてつくってたな」

 まとめて三日分つくる、野菜たっぷりのカレー。
 それを聞いて、りまりまは野菜が多い方がいいのか、と思い当たる。

 りまりま   :「野菜、これくらいで足りる? うちだとこれ二日でなく
        :なって怒られる量なんだけど」
 オワタ    :「うん、足りるな、あと……にんじんもう一本、かな」
 りまりま   :「うん、にんじん。ルーは甘口? 辛口?」
 オワタ    :「……んー、甘口だな。あいつ大丈夫だとかいいながら、
        :辛いの苦手なんだよな」

 一番甘口のルーを篭に入れるりまりま。

 りまりま   :「オワタくんて、いいお兄ちゃんだよね」
 オワタ    :「そかな……あいつはさ、色々ひねちまってるから」

 どこかあきらめる節のある、そんな口調で。

 オワタ    :「ガキの頃から……父親いねーし、何かと留守番とかばっか
        :だったから……余計に」
 りまりま   :「……でも、ちゃんとお兄ちゃんしてるって思うけどな。
        :いっつも、一生懸命だし」
 オワタ    :「……俺しかいないし、な」
 りまりま   :「ちゃんと支えてあげてるんだ……えらいな。ホントそう思う」

 少ししんみりとした空気のまま、レジに向かう。

 オワタ    :「母親すげー苦労してるし、もともと主婦やってて……働き
        :始めて俺ら二人養わないとだったし」
 りまりま   :「……すごいね。がんばってる……でも、ちゃんと休んで
        :る、の?」

 その言葉に、どこか影が差しているような気がして。
 思わず訊ねる。

 オワタ    :「一応、休みの日はあるから……そん時はちゃんと体休め
        :てもらわないとだし」

 知ってか知らずか。オワタは母親の話として答えた。
 笑いながら。
 でもその笑顔は、無理があるように思えた。
 笑わなければならないから、笑っているような。

 しかし、それを感じ取っても、りまりまには、どう言って良いのかわからな
かった。わからないから、自然と、出来ることをしよう、と思う。

 りまりま   :「……よっし、カレー、美味しいのつくるよ。がんばるから!」
 オワタ    :「……おう! おし、俺も、手伝うからさ」


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 オワタの家の台所は、あまり広くはない。
 そんな台所に二人並んで、野菜を切る。
 真剣にピーラーを動かすオワタ。
 その横で、とんとんとりまりまの包丁の音が響く。

 オワタ    :「……」
 りまりま   :「よっし、こっちはもう全部終わり」
 オワタ    :「はえぇ……」
 りまりま   :「うん、早くやんないと、涙出ちゃうし」
 オワタ    :「……剥いてるだけで泣けそう」

 切ったタマネギを手早く鍋に入れる。
 それでも、凄いものを見た、そんな視線で見てくるものだから、りまりまは
少し照れる。

 りまりま   :「火、通ったらちっちゃくなるし、案外適当なんだよ、
        :切るのとか……」
 オワタ    :「……すげーなあ」
 りまりま   :「そ、そう? ほら、じゃがいも、残り手伝うよ」
 オワタ    :「あ、うん」

 はい、と洗ったジャガイモを手渡しながら、ふと思う。
 なんか、ほっとする。

 オワタ    :「……」

 ぼんやりと、りまりまの手つきを見ていた。
 一人で、母と妹の帰りを待ちながら、肉を焼いている。そんな日常。
 楽しくもなんともない、ただの繰り返し。

 食事の準備をする、という点では同じはずなのに。
 家に誰か居る。それだけで、いつもと全然違う。

 そんなことを考えながら、ぼんやりとしていた。

 オワタ    :「……」
 りまりま   :「……オワタくん?」
 オワタ    :「……あ」
 オワタ    :「わ、悪い、ちょっとぼーっとしてた……」
 りまりま   :「ん。疲れてるんだったら、もうすぐ終わるから、座って
        :くれてていいのに」

 まかせてー、と笑いかけるりまりま。

 オワタ    :「あ、うん……」

 椅子に、どこか脱力したまま座って。
 りまりまの後ろ姿。
 遠い昔に、母親がこうして台所に立っていて。

 今は疲れてる母を休ませるべく、兄妹ががんばっている。
 無意識のうちに、小さなため息が出た。

 疲れてるのかもしれない、けれど。まったく自覚していない。

 なんか、いーなぁ。
 ご飯つくってくれる……ご飯が原因ではないのだが、なぜか、落ち着いてい
られる。
 まだぼんやりとしていたが、料理し始めの頃とは、少し変わってきていた。
 よどんでいた、頭の中の靄が、すっとどこかに下りていくようで。

 りまりま   :「よっし。オワタくん、味見してみて」
 オワタ    :「あ、おう……」

 りまりまが差し出す小皿。一口口に含んで、思わずうなった。

 オワタ    :「うまい!」

 もう一度、口に含む。

 オワタ    :「やっぱすげーなあ、りまりま……うまいよ、マジで」
 りまりま   :「え、ホント? わりと普通につくったんだけど……でも、
        :嬉し」

 いつものように、変わったことはなにもしていないけれど、やっぱり、誉め
られると嬉しい。
 それに、お世辞ではなく、本心から言ってくれる。

 あとは、しばらく煮込んで。
 ニモの帰りを待つことにした。


----

 ニモ     :「……お……おいしい」

 相変わらず、むすっとしたままで、カレーを口にして。
 一瞬、硬直するニモ。

 最近口にしていない、ママのカレーと同じ懐かしさが、具材が全然違うのに、
なぜか感じられた。
 オワタも、同じ感想を抱いているのだろうか。
 顔をあげて、オワタを見る。
 オワタは、りまりまに嬉しそうに話しかけていた。

 オワタ    :「うん、ナスうまいだろ?」
 りまりま   :「よかったー。うん、意外っていうとアレだけど……ナス
        :美味しいね」
 オワタ    :「だろ?」
 ニモ     :「……」

 二人を交互に見る。
 こないだ、ほんの数日前だが、それよりも、雰囲気がかなり良くなっている。
 明らかに、親密さを増している。

 ニモ     :(なに? オワタ、どういうことなの?!)

 スプーンを持つ手が、少しふるえる。
 ニモの視線には気づかない二人。
 オワタは、かなり和んだ様子で、カレーを口に運んでいた。

 妹をまもってやらなきゃ。母親を支えてあげなきゃ。
 そういう張り詰めた思いをずっとしてきたけれど。
 しなくてもいい、こんな風にメシ食えるのって、いいな。

 どこか無自覚なまま、そう思って表情に出ていた。
 安心して、どこか緩んで。

 りまりま   :「うん、明日になったらもっと味出て美味しくなりそ」
 オワタ    :「だな、結構あるし……今日すげえ助かったよ」

 今まで、こんな表情見せたことないのに。
 どうして?

 ニモ     :(オワタ……)

 知らずと、焦りを感じるニモ。

 りまりま   :「そんな、大げさだって、照れるじゃん……」
 ニモ     :「明日はあたしが、付け合せとか、作るから! 明日も
        :楽しみだよね!」

 どうしよう、オワタがとられる。知らない人にとられる。
 無理矢理割って入った。
 しかし、オワタは。
 気づいてくれなかった。

 オワタ    :「うん……あのさ……また、さ。時間あったら……メシ、
        :作るの……手伝ってくれない?」
 ニモ     :「!」
 りまりま   :「え、いいの? ……うん、いいよ。あたしは全然」
 オワタ    :「おう、こいつにばっかり料理作らせるのも……悪いし、
        :俺も少しでも覚えるからさ」

 くしゃっと。
 ニモの頭をなでながら。
 オワタ……お願いしてる……他の人を頼ってる。
 誰も頼ってなくて。ママと三人で。がんばってきたのに。
 どうしよう、すごい不安。
 どうしていいかわからないし、何が不安なのかもわからないけれど。

 ニモ     :「……だって! りまさんだって都合が……オワタずうずう
        :しい」
 オワタ    :「ほら、これる時でいいからさ、お前も塾で大変だろ? 俺
        :も……ほら、ちょっとは頑張るし」

 りまりまも、ニモの思いには思慮が至っていない。
 ただ、料理することで、オワタが少しでも楽になれるのなら。そう思って、
オワタの願いを聞き入れる。

 りまりま   :「うん……これくらいしか、今は出来ないから、あたしは全然」
 オワタ    :「おう、ありがとな」
 ニモ     :(オワタ……)


----

 少し遅くなったし、約束だし、それに。
 一緒に歩きたいと、思ったから、オワタはりまりまを送ることにした。
 少し歩いたところで、りまりまが訊ねる。

 りまりま   :「? オワタくん」
 オワタ    :「ん?」
 りまりま   :「なんか……誰かいるっぽい、あの辺」
 人影     :「……」

 まだ晩夏の熱気が残っているというのに。
 コートに帽子で、顔を隠しているような人影が、りまりまの視線の先にあった。
 その言葉に、ばっと振り向くオワタ。
 人影に、少し動揺が見えた。

 オワタ    :「!」
 人影     :「……」
 オワタ    :「あんた、まさか!」
 人影     :「……っ!」
 オワタ    :「てめえ!!」

 踵を返して、走り去ろうとする人影。
 その足取りはあまり鍛えられたものではなく、足音を立てて。

 オワタ    :「この野郎っ! ……なんで」

 追いかけてやろうと思ったが、踏みとどまる。
 まだ確信が持てない。昼の電話のせいで、考えすぎていたのかもしれない。
 しかし、奴が来ていたのだと。
 本能で察知していた。

 りまりま   :「……お、オワタ……くん?」
 オワタ    :「……あいつ……あ」

 これほど、感情をむき出しにしているオワタを見るのは初めてだ。
 少しびっくりしながら、迷いながら、声をかけた。

 オワタ    :「ごめん……ちょっとて……ごめん、今の……俺の知り
        :合い」

 落ち着こう。ひとまず。
 深く息を吸って。

 オワタ    :「……悪い、驚かせて」

 呼吸が落ち着くと、また、あの靄が脳内に満ちてくるのを感じた。
 座り込んで、両足を投げ出してしまいたい。
 そんな衝動を必死で押さえる。

 オワタ    :「ごめん、ちょっと電話してから送ってくから」
 りまりま   :「うん……」

 携帯を取り出して、その場で電話をかける。

 オワタ    :「ああ、ニモ……俺、うん。いいだろ、そんなの……あのな、
        :俺帰るまで鍵しっかりかけて母さん以外の電話でるなよ。
        :後、誰か尋ねてきても絶対開けるな、居ない振りしろ、
        :絶対にだ、いいな?」

 話す内容が、りまりまにもすっかり聞こえている。
 それに気づく余裕すらなく、オワタは電話の向こうのニモに話し続けた。

 オワタ    :「……だから、頼むよ、言うこと聞いてくれよ。絶対誰か
        :尋ねてきても開けるなよ、いいな!」
 りまりま   :「……」

 必死で、真剣で。
 さっきの人影が、とんでもない不安材料なのだと、りまりまも思い知る。

 電話を切って、携帯を握りしめて。
 りまりまの方を向いて。

 オワタ    :「……悪い、送ってくから」
 りまりま   :「う、うん……」


 放課後も、様子が少しおかしかったけれど、今は、それ以上に様子がおかしい。
 視線を少し落として、考え込むというよりは、ふさぎこんで、無理矢理歩いて
いるようにも見えた。
 ちらちらとオワタの様子をうかがうりまりま。
 どう言葉をかけていいのか、そもそも、本当にかけていいのか、それすらも
わからなくて。
 ただ、半歩遅れて、歩いていくしかなかった。

 オワタ    :「……悪い、大声だしたりして」

 ぽつりと、オワタが口を開く。

 りまりま   :「う、ううん、大丈夫だって、大声とか慣れてるし……でも
        :……違う意味で、ちょっと不安」

 どこか安心したように、努めて明るい声で応えようとした。
 でも。不安は隠せない。
 それはオワタも同じだったのかもしれない。

 オワタ    :「……俺、さ。両親離婚したって、言ったしょ」
 りまりま   :「うん」
 オワタ    :「……俺が七つ頃でさ、親父の浮気が原因で……」

 口をはさんでいいのか、相づちを打って良いのかもわからない。
 だから、ただ黙って。立ち止まって、オワタとまっすぐ向かい合う。

 オワタ    :「……怒鳴り込んできたんだよ、浮気相手のお腹の大きな
        :女の人が」
 りまりま   :「……」
 オワタ    :「俺、ガキだったから……何がなにやらわからなくて、妹
        :つれて外にいってろって言われて……帰ってきたらもう、
        :親父は居なかった」
 りまりま   :「……さっきの人って……」
 オワタ    :「……多分、親父」

 話の流れから、そうだとは思った。
 それでも、聞かずには居られない。

 オワタ    :「母親と妹とは、絶縁状態だったけど……俺だけ、連絡先
        :教えてもらって、時々……連絡してたんだよ」

 ゆっくりと歩き出して、オワタは吐き捨てるように続けた。

 オワタ    :「……ダメな奴なんだよな、気弱くて押し切られて……
        :すぐ人に頼って……今も、奥さんとうまくいってねえって、
        :俺に電話してきて」

 オワタの携帯の、着信履歴を思い出す。
 奴。
 そんな登録をしていた。

 オワタ    :「……十年も放ってきたくせに、俺とニモに会いたいとか
        :抜かしやがって」
 りまりま   :「オワタくん……」
 オワタ    :「……絶対会わせねえ、母さんと俺達捨ててったくせに、
        :今更父親面なんかさせねえし」

 唇をかんで。
 今まで見たことのない、すこし怖い顔をしていた。
 でも、その肩も、その背中も。

 オワタ    :「……悪い、へんな話して」
 りまりま   :「……ううん。そんなのいいよ。それより……オワタくん、
        :辛そうだから、そっちが心配……」
 オワタ    :「……だいじょぶ、それに俺しかいねえし……」

 大丈夫じゃない、そう思ったけれど。
 そう言っていいのか、わからなかった。
 オワタががんばっているのは事実だ。大丈夫じゃない、そう言ってしまうと。
 オワタを否定することになるんじゃないのか、と。

 それっきり、黙ったまま、二人は歩いた。
 やがて、りまりまには見慣れた町並みになる。
 もうすぐ家につく。

 オワタ    :「ついたぜ、じゃあ……また、明日、な」

 大丈夫じゃない、とは言えない。
 けれど、何か言わないといけない、そう思った。

 りまりま   :「あ……うん……ね、何時頃まで起きてる?」
 オワタ    :「え? まだ暫くおきてるけど」
 りまりま   :「……メールしてもいい?」
 オワタ    :「え? ……うん」

 そういえば。
 携帯に、今日教えてもらった番号と、メアドがあるんだった。

 オワタ    :「じゃあ、その……帰ったらメール入れるよ、俺も」
 りまりま   :「うん、メールして、また明日!」
 オワタ    :「おうじゃあな」

 角を曲がるまで、門の前に立って、りまりまはオワタを見送った。

 メール、なんて書こう。
 とりあえず、今日はありがとう、これは最初に絶対書かないとダメだな。
 まだ今日買ったばっかりで、手に馴染んでいない携帯。
 それを両手で握りしめて、りまりまは家に戻った。


おまけ
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[miburo]  オトコノコ回路としては確実に俺の嫁認定するやりとり
[Toyolina] 嫁認定キタ
[chita]   アレガアノヒトノコドモ……ワタシヲカエリミテクレナイアノ
      ヒトノ……
[Toyolina] あ、今回、オワタくんがぱんつ見てない。きっと校内で一度見て
      るんだな、層に違いない
[Toyolina] 気づかなくてもよかった。


時系列と舞台
------------
 九月のとある日。


解説
----
 こうして、オワタくんはりまりまにご飯をつくってもらえる権をゲットし、
りまりまはオワタくんの別の側面を知ったのである。


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Toyolina
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