[KATARIBE 31300] [HA21N] 小説『蛟〜嵐の夜に・其の三』

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Date: Sat, 1 Sep 2007 23:25:48 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31300] [HA21N] 小説『蛟〜嵐の夜に・其の三』
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2007年09月01日:23時25分48秒
Sub:[HA21N]小説『蛟〜嵐の夜に・其の三』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
無意味に長い話です。
……でもさ、これ本とかだったら「うわあ短い」って長さなんだよなあ……
(言い訳)

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小説『蛟〜嵐の夜に・其の三』
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登場人物
--------
  平塚花澄(ひらつか・かすみ)
   :鬼海の家在住。四大に護られる血筋の持ち主。
  軽部片帆(かるべ・かたほ) 
   :壊れてしまった者。竜に心を移す異能が顕現。

本文
----
 
 鉄条網の柵を、何箇所かかぎ裂きを作りながらも乗り越えて。
 舗装されていない道を暫く歩いて。
 そこは小さな丘。腰の辺りまである細い葉の集落と、濃い緑の潅木の小さな
塊とが、埋め尽くしているその中に、はっきりとした道があるのが判る。その
道に踏み込んだところで、片帆は足を止めた。

              **

 興味。
 好奇心。
 たとえ他人に関わる心を、限界まで封じたとしても。
 探究心。
 推理。
 そういう心までを全て封じたことには、多分ならないのだと思う。

 
 ゆっくりと、ゆっくりと。
 テレビ画面の一面の砂嵐。その砂嵐の中に、遠い場所からの電波がかろうじ
てひっかかっている。どこかそんな風に、片帆の視野は少しずつ、外界に向かっ
て開いていったのだと思われる。
 人には、関わらない。関われない。
 従って彼女の視野に、生きている人間が入ることは無い。しかし、四角い平
面の中、ちらちらと動くぺったりとした顔の存在が描く物語は、それはそれで
とても面白かったし、続きを見たいな、と思う心は動くようになった。
 そしてまた。
「きぅるるんっ」
 砂嵐を突破して、突然膝の上やら手の近くやらに出現する、その玉をぶつけ
たような澄んだ声の小さな竜は、何よりも彼女の心を和ませるものだった。理
由や原因はわからなかったし、判るための手間をかける積りも無かったが、し
かしそれでもその高い澄んだ声と、くるくる変わる色合いの目は、片帆にして
も充分に気を惹かれる対象だった。

 そして、そうやって、少しずつ好奇心が外側を向いて発芽しつつあった或る
時に。
 片帆は何かを『聴いた』。

             **

 くるり、くるり。
 哀れなほど肉の落ちた手が、しかし風に逆らって速やかに動かされる。彼女
の腕が動くたびに、確かに彼女を経由して運ばれる風の幾分かは、その流れを
微妙に変えている。
 それは決して大きな変化ではない。けれどもその度に、この荒々しい風の波
動は少しずつ変化し、そしてそれがもともとの風と合わさることで、また別の
波動ともなる。
(フーリエ級数)
 ぽこん、と、そんな単語だけを、片帆は思い出している。
 単語と意味とは、合致するようで合致しない。

 足元には、小さな青紫の竜の子。
 いつもぱたぱたと動き回る小さな身体は、今は片帆の足元でくったりとして
いる。強くもなければ弱くも無い、バケツをひっくり返すには程遠いが小糠雨
にもやはり遠い雨が、それでもこの強い風に乗ってざくざくと二人にぶつかっ
てくる。その中で、この小さな竜の紫陽花の色合いに似た大きな瞳は、しっか
りと片帆を見上げ続けている。

 くるり、くるり。
 片帆の手が動き、足が動き、身体が動く。
 ざふ、ざふ。
 その動きの度に風が流れを変え、鋭い糸のような雨が弾き飛ばされて奇妙な
残像を描く。
 くるり、くるり。
 張り付いた無表情のまま、片帆は動き続けている。

             **

「……どういうこと」
 影の魚の上からは、その丘の様子はよりはっきりと判る。
 丘のてっぺんを中心に、くるり、と丸く取り巻くように作られている道。そ
の道の上に、この雨の中、白くけぶるような霧が立ち上っている。恐らく道を
歩いている人間には『おや、霧の中に入ったぞ』としか判らないその全体像は、
花澄の位置からはよく見えた。

 白く凝った、何か長い、異様な『モノ』。その長い何かは、どうやら半分に
……言わば唐竹割り状態になっているらしく、丁度円筒を縦半分に切った格好
になっている。花澄から見てこちら側は、白い霧がどんどんと厚く重なりつつ
あり、どうやらその正体を明らかにしつつあるようだった。

 半ば透き通った、鱗を連ねた身体。
 丁度立ち割られた辺りに、ふわふわとたなびく……鬣のようなもの。
 身体の途中から、長い指を持つ腕が伸び、それが時折ぴくぴくと動く。
 ただ、頭らしき部分だけは……それも花澄に見える側の、半分だけだが……
その輪郭がどこかあやふやで、完成され切っていない印象がある。
 特に、目、そして首の辺りは、何かもやもやとしたものがあるばかり、形に
すらなっていなかった。

「どういうこと」
『どう、とは?』
「片帆ちゃんは、何をしているの?」
『会話』
「……会話?!」 
 どういうこと、と言う前に、一筋の風が花澄の周りを巡った。
 跳ねるようにも巡った。
『面白い……実に面白い』 
 花澄の耳に届く声も、また楽しげに弾んでいる。
『あのじいさんとあの子を呼んだんだね』 
「じい……ええ、そうだけど」
『面白い、実に面白い』 
「……ちょっと!」

 ぐるぐると風が回る。
 その中に含まれる鋭い糸のような雨も回る 。
 呆れたように息を吐いた花澄の視線の先で、片帆はやはりくるくると動いて
いる。
 白く淡い霧の塊は、その片帆と顔を向かい合わせるような位置にその顔を置
いている。『白く凝ったその長い何か』は、今や微かにに光を放つようにさえ
見えた。

時系列
------
 2007年7月初旬。風台風の日。

解説
----
 片帆の動き。そして蛟との風景。
********************************

 てなもんです。
 次でようやっと、光郎とかタカとかです。

 ……なんでこんなに長くなるーー(びー)

 であであ。


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