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Date: Thu, 30 Aug 2007 16:04:46 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31293] [HA06P] 母娘
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200708300704.QAA83167@www.mahoroba.ne.jp>
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Web: http://kataribe.com/HA/06/P/
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2007年08月30日:16時04分45秒
Sub:[HA06P] 母娘:
From:Toyolina
[HA06P] 母娘
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登場人物
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蒼雅棗
蒼雅紫
品咲渚
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晩夏。
吹利の山裾にある蒼雅家の屋敷の一角。
渚 :「お義母さま、晩ご飯、手伝わせてください」
品咲渚が、蒼雅家に入ることになって、二週間近くが過ぎた。
何もかもが急展開で、また、お互いそれまでにたてていた予定もあった。
二度目くらいの台風が過ぎて、ようやく
[Toyolina] 蒼雅さんチの味を身につけるのだぜ
棗 :「まあ」
渚の申し出に、軽く驚いた風の棗。
娘の親友、という認識がまだ強かったのか、思い直すまでに少し時間があった。
もうお客様ではない。彼女の娘なのだ。
渚 :「お義父さまやお義母さまの、お好きな料理とか、早く覚え
:たいんです」
棗 :「そうね……もう、うちの子でもあるのですものね」
渚の言葉に、喜びを隠しきれない棗。
返事を待ちながら、渚はエプロンを身につける。
棗 :「じゃあ、手伝ってもらっちゃいますね」
渚 :「はい、お願いします」
棗 :「ええ、じゃあ……」
蒼雅の屋敷の裏手はそのまま山になっている。
三十分ほど前に、紫が山に入って、今頃は野草やらを採っている頃合いだ。
棗 :「山は食べ物でいっぱいなんですよ」
渚 :「紫が小さい頃から、この味で育ったんですよね」
棗 :「ええ、よく山で採ってきて私がお料理したんです」
包丁の音が並んで響く。
見たこともない野草の調理法を、一通りなぞりながら、下ごしらえが進んで
いった。
これは、ゆがいて……これは、下ゆでして。
反芻している渚を見て、棗は棚から何冊か、古いメモを取り出してきた。
棗 :「そうそう、お料理のメモが」
メモというには時代がかっていて、一瞬古文書にも見えた。日本史の教科書
に、ナントカ博物館所蔵、と掲載されていてもおかしくない風合いだ。
渚 :「わ、これ全部レシピですか? すごーい……」
棗 :「ええ、昔からお家に伝わってるものなんです」
殆どのページは灼けて色が変わっていたが、時折、新しい、まだ白みがかっ
たページが加えられていた。
渚は気になってその箇所を開く。
猪の倒し方が、そこには書き加えられていた。
渚 :「……猪……?」
棗 :「ああ、そうそう、紫ちゃんが参考にしてたわねえ」
渚 :「一回、一緒に温泉いったときに……取ってきてました。
:その時かな? たぶん」
棗 :「ううん……確か最初に捕まえたのは三年ほど前だった
:かしら」
三年前というと、十五の頃だ。
紫が吹利学校高等部に編入してきたのが、高二の時だったから、渚にとって
みれば、自分の知らない紫を垣間見るのに等しい。
棗が言うには、温泉で捕まえてきたのは、三匹目らしい。どこか誇らしげに、
笑顔で語る棗。
渚 :「さ、三年前……すご……やっぱり、このお料理食べて育っ
:たから、そんな強い子に」
たとえ自分が、空手の修練を続けていたとしても、十五の頃に、猪を倒せる
とはとても思えない。それが今でもなおさらだ。
ちらりと、くつくつ言い出した鍋を見る。
この煮物に秘密があるのだろうか。
棗 :「そうかもしれませんねえ、山で採れた物は御山の力がこめ
:られていますもの」
渚 :「おやまのちから……」
篭から、大根を手にとって呟く。
朝鮮人参のように、引き締まっていた。
普通の大根とは違う、何か濃厚な力がこもっているような、気がした。
棗 :「ああ、それと……お漬物の作り方も勉強していきます?」
渚 :「あ、はい、是非! っと、浅漬けくらいしかしたことない
:ですけど……」
蒼雅家秘伝のお漬物。
初めてたくあんをいただいた時に、思わず箸が止まったのを思い出す。
あまりにも、味が違いすぎた。もちろん、良い意味で。
棗 :「大丈夫ですよ、私も巫女の任を解かれてから覚えました
:から、きっと覚えられます」
渚 :「はい、がんばります……がんばって、ちゃんと覚えて……
:蒼雅の嫁として……」
まだまだ言い慣れない言葉だった。
お互い未成年ということもあり、また、学生の身ということもあり。
どこか現実感に乏しい、そう感じることも多い。
だからこそ、今日は料理を手伝おうと思ったのだし、嫁、という言葉を使い
もした。
それでも、やはり恥ずかしくなるのは仕方ないだろうか。
棗 :「ええ……私も、分家に嫁いでから、ずっと、色々な事を
:覚えてきましたから。きっと渚さまにもできますわ」
小首をかしげて笑う仕草は、どこか少女めいたところもあって、それでいて
母親としての包容力も感じさせた。
渚自身、実母との関係は良好だが、彼女がこんな仕草を見せたところは記憶
にない。
渚 :「はい、お義母さま……いろいろ、教えてください」
改まって頭を下げる渚。
彼女を見て、棗は改めてにこっと笑った。
棗 :「わたくしは、ね。むかぁし、巫女のお努めをしていた頃、
:大怪我をしてしまったの……」>ふと、思い出すように
渚 :「お、大怪我……ですか」
棗 :「それで、ね。子供が産めなくなってしまって」
漬物をつくる手はとめずに、言葉が続く。
棗 :「お父さんがそれでも私を妻にしたいと言ってくれたのは、
:とっても、嬉しかったんですよ」
渚 :「お義母さま……」
棗 :「……絶対に幸せにします、と」
少しの間、沈黙があって。
棗 :「きっとね、紫ちゃんもきっと貴方を幸せにしてくれるわ」
棗の言葉には、少しの揺らぎもなかった。
棗 :「私が産んだ子ではないけれど、紫ちゃんは私とお父さんの
:本当の子供ですもの。信じています」
渚 :「……はい! 今のお話、伺って……ほんと嬉しいです……
:紫の……お母さんを、自分でも、お義母さまって呼べることが」
棗 :「……ええ、本当に……嬉しい」
渚 :「なんか、確信もてた感じがします……紫は、うちを幸せに
:してくれる、幸せになれる、って。そやから、うちも……
:紫を幸せにします」
棗 :「よかった……私もね、後ろめたさを感じていたことはあった
:から、渚さんには自信を持って欲しかったの」
渚が抱いていた戸惑い、後ろめたさと同じものを、棗も持っていたのだ。
渚 :「さっきまで、どこかで……紫のこと、ほんとにうちで大丈夫
:なんかなって、思ってました。でも、もう大丈夫……お義母
:さまのおかげです」
棗 :「よかった……」
両家が対面した日から、今日まで。
どこか、思い詰めている節があった。
しかし今は、晴れ晴れとしていて、渚から迷いが消えているのがわかる。
渚 :「あ、このお鍋、そろそろ止めても」
棗 :「ああ、丁度いいわね。さ、これで少し味をしみこませて」
火を止める渚と、説明する棗。
先ほどより少し、呼吸が合ってきているようだ。
渚 :「もう、あとは大丈夫ですか? なかったら、紫迎えに
:行ってきます」
棗 :「ええ、お願い」
頃合いとして、紫がそろそろ山から下りてきている筈だ。
添え物になる野草を摘んで。
入り口の切り株に腰掛けているとまもなく、紫が下りてきた。
迎えに来ている渚を見て、満面の笑顔で駆け寄ってくる。
紫 :「とれたてです」
渚 :「わー、すごい、これって生でいけるよね? サラダとか
:しよっかー」
紫 :「はい、とっても新鮮ですから!」
少し離れたところで、棗はそっと目頭を押さえていた。
二人の娘は、とても幸せそうで、笑顔に一点の曇りもない。
この二人は、きっと幸せになる。
祝福と、謝意が入り交じった涙だった。
時系列と舞台
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8月下旬。
解説
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みぎーにはママは居るけど、お母さんが居なかったんだな。
このあたりのニュアンス伝わるといいな。
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Toyolina
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