[KATARIBE 31282] [HA21N] 小説『蛟〜嵐の夜に・其の二』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Tue, 21 Aug 2007 23:47:50 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31282] [HA21N] 小説『蛟〜嵐の夜に・其の二』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200708211447.XAA31368@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 31282

Web:	http://kataribe.com/HA/21/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/31200/31282.html

2007年08月21日:23時47分50秒
Sub:[HA21N]小説『蛟〜嵐の夜に・其の二』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
動いてない間に、がんがんむかーしのかいちゃえーというわけで。
花澄と風達の会話。ほぼ初出です。

**********************
小説『蛟〜嵐の夜に・其の二』
============================
登場人物
--------
  平塚花澄(ひらつか・かすみ)
   :鬼海の家在住。四大に護られる血筋の持ち主。

本文
----

 無用に広い敷地を横切り、白い壁の蔵に駆け寄る。
 ざあざあと風の吹く中、白い壁には波紋のように揺れながら、木々の葉の影
が映っている。
「手伝って」 
 花澄の声と同時に、木々の陰が壁を撫で回すように動いた。その動きの中か
ら、やはりうすぼんやりした影が見る間に形を取り、大きな魚となって、ふわ
りと壁から飛び出してきた。
「ありがと」
 ふわり、と、地を蹴って花澄が飛び上がる。そのままその大きな魚の上に飛
び乗ると同時に、『魚』……大きな魚の影はふわりと宙に舞い上がった。
「蛟の場所に、全速力で」 
 ぐうん、と、加速がかかるのがわかった。


「で、何がそんなに面白いの」
『いやいや』
 ざあざあと耳元で鳴る風の音は、彼女の耳には無論のこと、言葉として捉え
られる。鬼海の家の現当主、苗字に『鬼海』を持たぬままその地位についた女
に、風は(あくまでも人の捉えかたではあるが)笑いながら答えた。
「……片帆ちゃんをちゃんと護ってくれてるわよね?」 
 険悪な響きを帯びた声に、やはり軽やかな笑い声が答える。
『無論。ただ……これはたいしたタマだぞ』 
「たいした?」 
『お前が望んでいた解への、一つの補助線……それも有力な奴だな』

 人間との会話を行うために、四大達もまた、人間の意識を学び、それに沿お
うとする。それはありがたいのだが、どうもこの場合、彼らの会話は妙に花澄
の過去の語彙から例を引っ張り出すケースが多い。
「どういうこと?」
『考えてもみよ。あの片帆というのは、心を一度壊されたのだろう?』
「……自分で壊したのかもしれないけど……まあ、自動詞他動詞はおいといて、
結果はそのとおりだわね」

 考えてみれば失恋である。大概の人間が一度は経てくる課程である。
 それがあそこまで大事になる辺り、確かに真帆の妹だな、と、どこかしら無
責任に思ってしまいたいところが、花澄にしても無いとは言えないのだが。

『壊れたついでに、自分の中の、人と関わる部分をあの竜の子の抜け殻に入れ
たのだろう、あの娘は』
「ええ」
『……だから、考えてもみよ、というのだ』
 さあここから真面目な返答か、と、期待したところにこれである。流石に殺
気立った雰囲気に、風の音はふわりと和らいだ。
『片帆という娘の、人間としての枠組は、相当壊れていると言っていいな?』
「……ええ、多分」
 好奇心はあると思う。それに最近は、アニメとはいえテレビに興味が行くあ
たり、相当回復しているのじゃないかと思う。
 それにしても、人と関わる部分を、分割し、竜の子の皮に詰め込むなぞとい
う荒療治で……まあ、彼女の意識の枠が、壊れないわけがない。
『それに、関わっているのは竜の子だ』
「それも……ええ、そうね」

 ちょこちょこと、小さな身体で駆け回りながら、なんとか片帆の面倒を見よ
うとする小さな竜、金平糖。片帆の中の『人と関わろう』とする部分が金平糖
にストレートに反映しているとするならば、真帆の言葉は正しいと言える。
(いい子なの。すごく……なんていうか判りづらいけど、でもほんっとにいい
子なんだよ)

『つまり』
 さらさらと、声がする。
『片帆という娘は、蛟との交流を、自然にやってのける可能性がある』
 あ、と、小さく花澄は呟き、手を口にあてた。

 意識の枠を壊し、その枠からこぼれ出た部分を竜の子に預けた娘。その際に、
竜の意識の断片なりと、彼女自身の内に含んだ可能性は高い。
 つまり、今の彼女の中には『竜』としての意識のパラダイムが組み立てられ
て備わっている可能性が高い。従って片帆は……その壊れた意識でどのように
捉えているかは不明だが……もしかしたら竜と会話することが出来るのかもし
れない。

 そうであってもおかしくない。それゆえの今の風達の反応なのだ。


『しかし……おかしいな花澄。それでどうして、我々が面白いと言っている理
由がわからなかったのだ』
「そんな……意外そうにいわれても」 
 苦笑したが、風も、そしてそれに混じって降る雨、つまり水も、追求の手を
緩めない。
『面白い、と思えない程度には……片帆という娘に意識を移入しているのでは
ないでしょうかね?』
「…………」
 意識を移入、というとあまりに大袈裟なのだが、しかし言いたいことはわか
る。
 千年近い時を、過ごしてきた蛟を救い、同時に霞ヶ池の水(一部ではあるが、
相当毒されている部分)を封じる。その為には、今宮タカの異能が必要である
し、実際その為の訓練を、既に光郎が進めているという。それでもタカ一人で
はこの方法は非常に博打の成分が高くなる。光郎に頼むことも出来たろうし、
彼は全力で取り組んでくれるだろうが、しかし、彼を危機に陥らせることなく、
片をつけることは困難であったと思う。

 しかし。

『いつも連れている竜の子からして、出来るかもとは思っていたが……』 
 くく、と笑う気配が、しかし『片帆なら大丈夫だ』とは、一言隻句たりと言っ
ていないことに、花澄は気づいている。つまり、片帆を巻き込めば確かに勝算
は上がるだろうが、だからといってめでたしとはならないかもしれない、とい
うことである。

『花澄』
 ふっと柔らかな声が耳元に届く。
『その可能性を、全く考えていなかったわけではあるまい?』
「…………」

 軽部真帆。今は相羽と姓を変えてしまったものの、彼女はやはり、あの異国
での最も親しい友人の一人だった。どちらかというと豪放磊落、落ち込んだ青
年達の背中をどついて笑い飛ばして元気付ける性質だった彼女が、泣きながら
電話をよこした、その内容。
(片帆……が)
(助けて……っ!)

『案ずるな』
 さふさふ、と、揺れるように空を飛ぶ水達が呟く。
『お前が案ずるよりは、彼女のほうが強かろうよ』
「……かもしれないけど」
 それでも。
「……あ、ねえ」
『何か?』
「まさかとは思うけど……今まで言ってた予想を実証させてみせようってんで、
片帆ちゃんのことを今まで黙ってたとか言う?」 
『…………』
 笑うような気配。風の気配。 
「……そういう勝手なことを!」 
『お前とても、考えてはいただろうし……ある意味たくらんでもいただろうが?』 
「そうじゃないとまでは言わない。言わないけど…………ねえ!」 
 ざらざらとした笑い声が、花澄の耳元に届いた。

 そして結局、片帆が半時間かかった距離を、花澄は10分かそこらで進んだ。
そして、影の魚から降り立った花澄の視線の先で。

『ほうらごらん』
 得意げな……意地悪いほど得意げな声の先に。

 奇妙な具合に手足を動かしている、片帆が居た。


時系列
------
 2007年7月初旬。風台風の日。

解説
----
 鬼海家当主の花澄と、四大、特に風との会話。
 何故片帆が歓迎されるのか。その理由づけ。
********************************

 てなわけで。
 なーんかあちこち破綻してますが。それはそれ。
いざとなったら、訂正してまわるということで!<そこ、てけとなこと言うのは駄目。

 であであ。
 
 



 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/31200/31282.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage