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Date: Sat, 18 Aug 2007 00:17:43 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31269] [HA21N] 小説『偶然の悪夢・2』
To: kataribe-ml@trpg.net
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Web: http://kataribe.com/HA/21/N/
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2007年08月18日:00時17分43秒
Sub:[HA21N]小説『偶然の悪夢・2』:
From:いー・あーる
ども、いー・あーるです。
色々どーぴんぐしつつ頑張ってます。
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小説『偶然の悪夢・2』
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登場人物
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今宮タカ(いまみや・たか)
:流れを見て操る少女。多少不思議系。
片桐壮平(かたぎり・そうへい)
:吹利県警巡査。通称・世話焼きギリちゃん。捜査零課専任。
本文
----
夢を見た。
灰色の濃淡の組み合わさった廃墟の仲を、明るい卵色の光が照らしている。
透明な、何一つ曇りの無い大気は、しかし水の重さと淡い粘り気で彼女の動き
を制し、また彼女の動きの後に、ゆらゆらとした軌跡を残す。
時に淡く、指先から泡が立ち上る。それは本当に淡く明るい光を帯びて、そ
のまま水面のある方向へ……つまり上へと漂ってゆく。
肩の上のみやまが、時折羽をふるわせる。
さらさらと、やっぱり細かい泡が一筋立ち上る。
日の光は、この不思議なほど透明で無色な水の層をかるがると透過して、淡
い卵色がかった灰色の地面を、柔らかく照らしている。
ゆらゆらと、その透明な、明るい水の中を、タカは歩いている。
ゆらり、ゆらり。
日の光はそんなわずかな揺れにすら反応し、揺らぎながら同心円状の光の輪
を、タカの足元へと形作ってゆく。
ゆらり、ゆらり。
その金の輪を踏みながら、タカは歩いてゆく。
ふわり、と、踏み出した足元は、どこかしら頼りない。
黒い靴。黒いブラウス。黒いスカート。
足元はどこかしら頼りない。
ふわり。
ふわり。
と。
踏み込んだ金の輪が、ふとその形を歪ませた。
「……あれ」
卵色の優しい光の中、半透明の淡い緑の色の何かが流れてゆく。目を凝らし
て見ていると、それはタカの視線の先で、何度かえいえい、と、足を蹴飛ばす
ような仕草をした。
「……あ」
蹴りつけた足は、4本。4本の後ろ足は、ごく当たり前のように透明な水を
かいてゆく。その周りに幾重もの、年輪のような光の輪が漂った。
気がつくと、そんな不思議な半透明の生物は、その蛙(といっても、後ろ足
四本、前足3本の奇怪な蛙ではあったが)だけではなかった。透明な水の中、
ほんのりとその水を色づけるような、そんなやはり半透明の生物達が、ゆらゆ
らとこの明るい水の中を泳いでゆく。
半透明の、柔らかな緑の蛙達。
頭上遠いところから、ゆらゆらと漂ってくる二匹の蛙、それは珍しくも他の
蛙とは異なり、まだ、二匹であることが良く判った。それがゆらゆらとまるで
落ち葉のような速度で落ちてくるのを見る間に、タカは、はっと息を呑んだ。
一匹の背中の上に、もう一匹が重なって乗っている。
それがいつの間にか、下の蛙の背中に上の蛙の腹がめり込む様に入り込んで
ゆく。とてもとても不自然なその合体の間、けれども蛙達は、その丸い二対の
大きな目に、どこか満足そうな光を浮かべていた。
ゆらり、ゆらり。
いつの間にかくっついて、やはり四本の後ろ足で水を蹴っていた蛙は、やは
り穏やかな満ち足りたような表情を目に浮かべて、そのままタカの胸の辺りの
高さの空間を横切ってゆく。
それはとても満ち足りているようで。
そして同時に……ひどくさみしいものに思えた。
「……ねえ」
ゆらり、ゆらり。
無風状態の春の昼に、桜の花びらが散るに似た速度で漂ってゆく蛙達を見な
がら、ふっとタカは呟いた。
「ねえ、さみしくないの?」
足元に、どこか透明な影が落ちている。
その影の口元から、こぽり、と、淡い空気の影が流れる。同時に視野の隅に、
細い泡の筋が立ち上るのが見えた。
「さみしい」
それはやはり、水が揺らぐような淡い微かな声で。
けれども、まがいようもなく、それは誰かの……タカ以外の誰かの声で。
互いにくっつき、互いに一つになる。
己が互いに無くなってゆく。
「さみしい」
木霊の様に、その声は繰り返す。
「さみしいからひとつになる」
細い細い、甘く撚った絹の糸のような声。
「なのにさみしい」
「だって……くっついちゃったら、一人になっちゃうじゃない」
透明な水の中に、その声を発している相手は見えない。それでもタカは足を
止めて、声を返した。
「ひとりは、さみしいよ」
「さみしい……」
細い細い、泣きそうな声に、タカは一度、ぐんと頭を振った。短い黒の髪が、
水の中をゆらり、と舞った。
「くっついちゃったら……だめだよ」
ゆらゆらと、光が揺れた。
「……くっつかなかったら、いってしまう」
細い声が、諦めるように告げる。
「いってしまうのはつらい」
その言葉の寂しげな響きと、そして何よりその内容に、ぐ、と、タカは唇を
噛んだ。
「だから、ひとつになる」
ほんの少しだけ、強く、そう押し出した声は、しかしすぐに項垂れるように
細く、弱くなった。
「……でも」
まるで泣きべそをかいている子供のように、その語尾が微かに揺れる。
「……さみしい」
くっつかなかったら、いってしまう
いってしまうのは……辛い
『肉食獣が草食動物を喰らうように』
『善意も悪意も関係ないところで』
その言葉を残し、さらさらと崩れて離れていった人。
見開いた目は、涙をこぼすこともない。
この透き通る水の中で、こぼれる涙は無い。
「だ……だ、だいじょうぶ、だもんっ」
後半は裏返り、悲鳴に近い声。それでも言い切ってタカは一つ息を吐いた。
「そやって、ぺったりくっつかなくても、でも、一緒にいられるもんっ」
(タカのせいちゃうわい)
あの日からずっと、一緒に居てくれる人。
(タカが悪いんとちゃうわい)
何度も何度も、背中を撫でる手のぬくみと一緒に。
(それはタカの罪とはちゃう)
べったりといつもいつもくっついていなくとも。
(いなくなったりせんわい)
何度も何度も、怖くなるごとに答えてくれる声。
――おじちゃんはどこにもいかない
「……くっつかなくても、同じ速さで泳いでたら、一緒に居られるもんっ」
両手を握り締め、言い切った声に、その細い声は暫くの間沈黙した。
ゆらり、ゆらり。
あかるい卵色の光は、ゆっくりと揺らぐ水の中を、やはり底抜けに明るく照
らしている。
ゆらり、ゆらり。
その揺らぎすら、綺麗な文様に見えるように。
「いかないで、おいていかないで」
細い、葦の笛の音のように、微かにかすれる声。弱弱しかった声は、しかし
ゆっくりと波立つようにその力を増した。
「みんな一緒なのに、一緒なのに……」
ひとりだと、さみしい。
二人だと、手を離せば離れてゆくようで……さみしい。
でもくっついてしまったら、やっぱりそれはもう、ひとりに戻ることで。
「……さみしい……さみしい、さみしい!」
「どっちか我慢するしかないよっ!」
明るい水の中を引き裂くように響く高い声に、しかしタカはきっぱりと言い
返した。
「タカは おいてかれるかもしれないけど……でも」
今は両腕に抱えられて、一緒に引っ張ってもらっているような状態。手を離
されればそのまま、離れるしかない状態。
それでも。
「でもおじちゃんと一つになるとか……そんなことしないっ!」
――いなくなっちゃやだ
――それでも、一緒じゃなきゃやだ
自分の耳だけに聞こえる声を、ぐっと噛み殺し、抑えて。
「いつか絶対、おじちゃんと同じ速さで泳げるようになるもんっ!」
握り拳で叫んだ声に……もう、その透明な細い声は、直接に答えることはし
なかった。
「……さみしい」
ゆらり、と、目の前の明るい光が、大きく揺らぐ。
ゆらり、と、明るい灰色の建物の輪郭が、奇怪な曲線を描く。
どこかで世界が崩れようとすることを、タカは知る。
それでも。
「タカは……タカはさみしくないもんっ」
言い切った途端、水が一気に濁った。水が、否、水を湛えたこの世界が、そ
の言葉で全て崩れ去るように。
思わず目をつぶり、顔の前に手をかざす。その手を引きちぎるような勢いで、
水は大きく裂かれて行く。
「……いやあああ……っ!!」
**
「!」
開いた目に映るのは、ぼんやりと白い、蛍光灯の紐の先。
「……っ」
がばっとふとんの上で、タカは身を起こす。
(夢)
それでも引き千切られる怖さと、その鋭い痛みは掌に残る。
何より……その声、が。
「……お、おじ……」
言いかけて一度は、言葉を呑む。一緒に泳げるくらい強くなりたいと言った
のに。そう頑張る積りなのに。
だけど。
ゆらゆらと、無機質に揺れる電灯の紐の、その動き。
それが尚更に……怖さをあおるような気がして。
「…………おじちゃああんっ」
ふとんを蹴飛ばし、隣の部屋へ駆け込む。
「ん?」
声のせいか気配のためか、もそり、と起き上がった片桐に、ぽふ、と、勢い
よくタカがぶつかってくる。
「タカ?」
わあん、と、泣き声が第一の返事だった。
「どうした?」
寝巻き越しに、やはり薄い背中の手触りがある。薄いとはいえ布越しに背骨
が数えられるほど、まだその肉は薄い。
「悪い夢でも見たんかいな」
「…………うんっ」
撫でてやるうち、泣き声は小さくなる。2、3度小さく息を吐いて、タカは
ようやく泣き止んだ。
「……なんか……怖い夢、見た」
「怖い夢?」
大概にして、どれほど怖い夢も、起きたらそんなに怖くはなく……むしろど
うしてそんなものを怖がったのか判らなくなることがある。タカの夢も、ある
意味ではそんなところがあったらしい。とつとつと、いまいち要領の悪い話し
方で告げられた内容は、さまで怖いものとは片桐にも……そしてどうやら話し
ているタカにも聞こえなかったようである。
「……でも、あれ、だれだったんだろう」
不安そうに呟いたタカの頭に、ぽん、と、片桐は手を載せた。
「大丈夫じゃ」
「……うん……」
「どんな奴じゃろうと、タカはきっちり言ったじゃろう」
不安そうに見上げてくる顔に、笑いながらはっきりと言い切ってみせる。
「だから、大丈夫じゃ」
なぁ、と、頷いてみせた片桐に、タカも釣られたように小さく頷いたが。
「でも……あのひと、どーなっちゃうんだろう」
あのひと、というけれども、夢の中にその姿は一度も出てきていないのだと
いう。声だけの、しかしリアルな存在に、タカは大きく身体を震わせた。
「……なんだか、こわいよ」
「大丈夫じゃ」
しがみついてくる少女の頭を、何度も撫でながら片桐は言う。大丈夫じゃ、
だからもう、安心して寝とけ。
そしてタカも、一度頷くと、そのままくたり、と、力を抜いた。
(大丈夫)
(大丈夫)
何度も木霊するように繰り返しながら、タカはゆらゆらと、今度こそ深い眠
りへと落ち込んでゆく。その寸前で。
(……あれ……あ)
(あの、ことを……)
そう、言っていないことがあった。夢の話のその前。下水道の。
あの、はなし、を…………
それ以降のことをタカが思い出したのは、それから数日後のことである。
時系列
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2007年7月終わりから8月にかけて
解説
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夢の中で嘆く声。悪夢の片鱗。
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てなもんです。
であであ。
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