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Date: Tue, 7 Aug 2007 12:56:54 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31240] [HA21N] 小説『偶然の悪夢・0』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200708070356.MAA28796@www.mahoroba.ne.jp>
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Web: http://kataribe.com/HA/21/N/
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2007年08月07日:12時56分54秒
Sub:[HA21N] 小説『偶然の悪夢・0』:
From:久志
久志です。
ちょっぴり追加してみました。
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小説『偶然の悪夢・0』
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漂流
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ふわふわと。
漂っている。
どこかひどく懐かしい感覚を覚えながら。
漂っている。
沈殿
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『ごめんね、もう帰らなきゃ』
『もう?まだ早いのに』
夕暮れを少し過ぎた頃。
いつものように学校から帰った後、クラスの女の子の家に集まって遊ぶ。
他愛のないおしゃべり、クラスの男の子がどうとか、両親のこととか、休日
に家族で出かけた先でのこととか。
『そう、そこでねお父さんがね』
『うちなんか、お母さんがさあ』
曰く、休みの日には陸揚げマグロのごとく転がってた、とか。
曰く、新作料理にチャレンジしてひどい失敗作だった、とか。
曰く、いつも野球のチャンネルばかりで見たい番組が見れない、とか。
苦言の中に、どこかとろんとした甘えがあって。
『ごめんね、ご飯作らなきゃいけないから』
『えらいなぁ、じゃあまた明日ね』
『うん、じゃあね』
少しゴムの汚れたスニーカーを履いて、帰り道にあるスーパーへと急ぐ。
今日は両親とも遅いと言っていた、だから先にご飯を食べていてね、と。
『ごめんね、なるべく早く帰るから。ちゃんと鍵をかけていい子にしていてね』
『ごめんな、今日はちょっと何時に帰れるかわからないんだ。先にご飯食べて
寝ていていいから』
父も母も、決して少女を想っていないわけではないのだ。
むしろ、心から申し訳ないと早く帰って一緒にいてやりたいと、その気持ち
がわからない程、子供ではなかったから。
『うん、大丈夫』
だから、ちゃんと返事をする。
大丈夫だから、わたしは大丈夫だからと。
一人の部屋で
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水槽を眺める。
静かな部屋の中でエアーポンプの音がこぽこぽと響く。
ぺったりと水槽に額をつけて。のこのこと歩く亀を眺めている。
水槽の真ん中に置かれた足場の上でゆらりと首を伸ばして泰然とする亀と、
水の中、赤いひれを風に揺れるカーテンのようになびかせて泳ぐ一匹のベタ。
いずれも一人きりで留守番をする少女の為に両親が買い与えたペット達。
『ごめんね、いつもお留守番させて』
『ごめんね、家は犬や猫は飼えないから』
三日に一度水を替えて、水槽を掃除して、餌を与えて、足場になる石を拾っ
てきて。
つん、と。つついた先。
ゆらりとベタが向きを変える。
のどの奥から湧き上がってきた言葉を噛み締めて、また水槽に額をつける。
さみしい。
発せられない言葉は、心の海の中に沈んで固まる。
さみしい。
いくつも、いくつも。
それは死んだ言葉の石になって、心の海底に積まれていく。
ひとつ、またひとつ。
時系列
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2007年7月終わりから8月にかけて
解説
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台風の夜に発生した不運の前。一人、耐える少女。
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以上
このあと少女はかわいそうなことに……(非道)
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