[KATARIBE 31237] [HA21N] 小説『偶然の悪夢・1』

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Date: Tue, 7 Aug 2007 00:36:22 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31237] [HA21N] 小説『偶然の悪夢・1』
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2007年08月07日:00時36分21秒
Sub:[HA21N]小説『偶然の悪夢・1』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
少しくらいほらーな話を書いてみようと思いました。
……どこが?とかゆーな(えう)

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小説『偶然の悪夢・1』
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登場人物
--------
 今宮タカ(いまみや・たか)
   :流れを見て操る少女。多少不思議系。

本文
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 煎じ詰めれば運が悪い。
 その一言で片付けるしかない事件もある。

             **

 非常に強い台風、といわれる割に、妙に愛らしい名前の台風が上陸し、避難
勧告の出た次の日。
 ある少女が行方不明になったと言う。
 避難先までは両親と一緒、ただ彼女が可愛がっていた亀と熱帯魚(ベタ、と
いう小さくきらきらとした魚)を置いてきたとかで、朝起きて台風が過ぎたと
知った途端、彼女は駆けとんで家に帰っていったのだと言う。
 とは言え、両親が戻ったのもそれから半時間ほど後、さほどのずれは無かっ
た筈なのに。

『居なかったんです』
 押しつぶされそうな不安を目に浮かべて、母親が言う。
『靴は玄関に、鞄は部屋においてあるままで』
 玄関の鍵は開いていたという。
 まるで空気を入れ替えようとするかのように、あちこちの窓は開けられ……
つまり、自分から家を出るような様子は無かったという。
『あの子の部屋の、窓が割れてて……そこから水が降り込んだ跡があって……
床の絨毯なんかびしょぬれだったんですよ。風もだいぶ……ほら、吹いたです
よね、それで部屋の中の物が色々倒れてて』
 娘さんが倒したのじゃないか、と、問われて、母親は大きく首を横に振った
という。
『いいえ、あの子が可愛がってた亀とベタの水槽に、ペットボトルなんて投げ
込む筈ないんです』
 蓋の緩んだペットボトル。それが水槽にぷかぷかと浮いていたらしい。
『あ、ただ』
 それで思い出したらしい。母親は目を見開いて付け足したという。
『亀とベタ……あの子のペットなんですけど……居なくなってて』
 でも、と、うつむいて、口の中で続けた、という。
『……でも、まさかあの子が……亀はともかく、ベタを連れてゆくなんて無理
だし……関係、ないですね、関係なんて』

 大人しい目立たない、実際学校でも内気で無口、と言われていたという。
『おかあさんも働いてるからご飯作らなきゃって、よく早く帰ってたよねー』
『なんか真面目だったよ』
『いじめられ?……ううん無かったよ』
『彼氏?いないいない。そういう子じゃないしー』

 行方不明になる理由は、誰も知らない、という。

           **

 台風一過の街を、とことこと歩く。
 あれだけざあざあと大気中の水分を減らした筈なのに、やっぱり風はむうっ
と熱い。それでもくるくると、その風を身体の周りで廻し続けると、少しだけ
涼しくなる。
 タカの、肩より上で切った髪が、その風に揺らめいている。
 肩の上のみやまの尾羽も、断続的にそよいでいる。

 と。

「…………ほえ?」
 
 はたり、と、タカが足を止めた。


 表通りから大体道2本分ほど奥まったところ。車が一台駐車していると、そ
こでちょっとした混雑が起こるくらいの幅の道の両側には、下水溝がある。普
通はちゃんとコンクリートの蓋(というのか)が嵌っている筈なのだが、丁度
その部分だけは、その蓋が何枚か無い。
 そこに、先日の台風の余波か、一杯に水が溢れている。
 その中を、ゆらゆらと蛙が泳いでいる。

「…………んーと?」

 蛙は、結構大きい。
 水の流れは多いだけにそれなりに急で、けれども蛙は全く動じる様子もなく
(と、タカの目には映った)、すいすいと泳いでいる。
 すいすい、と、泳ぐ、その輪郭が。
 どこか奇妙で……何か揺らぐようで。
 揺らぐ。
 何が…………後ろ足?

(……ひっ)

 流れを蹴る、後ろ足。その輪郭がゆらぐ、のではない。
 後ろ足が……二組あるのである。

「…………」

 きゅ、と、タカが口元を引き締めると同時に、下水溝の水が高く持ち上がっ
た。一筋の流れが、丁度小さなウォータースライダーのようにタカの頭の上ま
でするすると持ち上がり、そこからくるくると螺旋を描きながら、また下水溝
に戻る。その流れにするりと蛙は飲み込まれ、そのままタカの目元まで『流れ
て』きた。
 水に漬かった下半身を確認しよう、と、タカはひょいと首を伸ばした。

「………っ!!」 
 
 足は、確かに二つあった。
 ただ、足だけではなかった。

 すいすい、と、のんびりと水を蹴る二組の足。それを少し辿って頭を見れば、
それもまた上下に二つ重なっている。
 いや。
 頭や足が二つ、というのは少し表現として当たらないかもしれない。どちら
かというと蛙が蛙を背中に背負い、そのままくっついてしまった……そんな格
好に見えるのである。

 下側の蛙は、完全に水の中に没している。
 上側の蛙は、顔をひょいと持ち上げている。
 でもどちらも、平然とした……その両生類の、人間から見たら無表情に見え
る顔に、どこかしら陶然とした表情を浮かべて泳いでいる。
 泳ぎ続けている。
 どちらも、生きている。
 タカが見るうちに、その身体はどんどんと互いにめりこんでゆく。ゆうらゆ
うらと細い流れの中を、それでも蛙は泳いでいる。

「…………」
 知らず、後退っていた。
 異形といえば異形。それでもそれ以上に、蛙の、そのどこか満足そうな表情
のほうが……タカには怖かった。

「……っ」
 たん、と、流れをまた元に戻す。瞬時跳ね上がった水を、強引なまでに抑え
て元に戻して。

 何が怖いのか、何が恐ろしいのか。
 何がこんなに……不安になるのか。

「……っ!」

 判らないまま、タカは走り出す。
 たった一つの、自分を庇護してくれる相手の元に。


 
 そうやって。
 偶然から生まれてきた悪夢は、現実を侵食してゆくことになる。


時系列
------
 2007年7月終わりから8月にかけて

解説
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 台風の夜に発生した不運。そのはじまり。

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 てなもんです。
 であであ。
 
 


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