[KATARIBE 31215] [HA06N] 小説『怨霊化を留めるの話(下)』

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Date: Thu, 19 Jul 2007 23:24:54 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31215] [HA06N] 小説『怨霊化を留めるの話(下)』
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2007年07月19日:23時24分54秒
Sub:[HA06N]小説『怨霊化を留めるの話(下)』:
From:いー・あーる


いー・あーる@なんか話はやまほどやまほど です。
とりあえず、死神話、最後まで。
……うん、まあ、……いいじゃないか(匙を投げている)

***************
小説『怨霊化を留めるの話(下)』
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登場人物
--------
 死神(しにがみ)
     :何となくバンカラ。でも多分ちゃんとしたらかなり可愛い。
     :でもやっぱりバンカラ。そしてちょっとだけ意識操作。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。 幽霊を人間化する異能持ち。
 おじさん
     :怨霊化一歩手前。おかげで一番気の毒。
 雨竜
     :今回お留守番役。結構頑張ってます。


本文
----


「あーはいはい、ちょいと待ってなさい」
 足元でうろうろとするうすあおい竜の子に声をかける。周りをひらひらと漂
うのは、これはどうやら熱帯魚の幽霊らしい。
 お昼間は流石に熱が篭るから、ちょっと窓を開いてやる。すうっと、それで
も風があるとなしとでは、体感気温は違うのだろう。小さな竜の子は風に身体
を沿わせるように、にゅう、と、しっぽを伸ばした。一緒に、魚の幽霊達も、
ひらひらとその綺麗なひれをそよがせる。
「……それにしても変わった家族構成だこと」
 呟いた矢先に、電話が鳴った。繋がる先は……ああ、なるほど。

「ほれ、出といで」
「……きゅぅ」
 てこてこ、と、小さな竜が電話の元に走る。えいしょえいしょ、と、受話器
(確かにこの竜にしたらえらく大きなものだ)をかついで、よいせ、と用意す
る。
『もしもし』
「きゅうっ」
『……ああ、まだ、帰ってないんだ』
 がっくりとした声が、こちらまで聞こえてくる。


 一日目はそれはそれは大変だった。

『え……雨竜?どうしたの?真帆は?』
 なんぼなんでも、死神が電話に出るわけにはいかない。仕方ないから雨竜に
電話に出てもらったわけだが。
「きゅ、きゅ、きゅううっ」
『真帆は、居ないの?』
「きゅっ」
 受話器のこちらでうんうん頷いても、見えないのは確実で、だからダンナの
ほうも少し困っていたようだけど。
『じゃあ、うん、だったら一回、違う、なら二回。わかった?』
「きゅ!」
 まあそんなやり取りをこちらで見ていると、どうやら次のことは伝わったよ
うだった。
 つまり。
『奥さんはさらわれたんじゃなく、自分から出かけるねと出てった。ちゃんと
帰ってくるから、と、言い置いていった。期間は3日』
 この、最後の3日を伝えるのに、両方がかなり苦労していたのも、傍から見
る分にはご愛嬌だったが。


「きゅぅ……」
『判った。そちらは大丈夫?』
「きゅ!」
『うん、じゃあ』
「きゅきゅぅ」
『気をつけてね』
 なんかもう、声全部でがあっくり、の調子のまま電話が切れた。

 それにしてもヘンな時間にかけてくるものだ。これまでは必ず夜にかかって
きたものだけど(だから、今、一瞬こちらも相手を確認してしまった)。

「ほれ、胡瓜切れたよ。あとお味噌も」
「きゅうっ」
「それと、なすとトマトの炒めたの」
「きゅ……」
 とてとて、と竜の子が近寄る。一緒に魚たちも近寄ってくる。
「ああ、お水出しとくね」
「きゅっ」
 平たい湯呑みに水と、冷凍庫の氷を一つ。竜の子がつんつん、と、氷をいじ
くっているのを見ている時に。

(やりなおしてやる!!!うまれなおしてやらあこんちくしょー)
 ……お。
「よっしゃあ言ったか!」
「きゅぅ?」
「ああ、いや、こちらのこと」
 冷蔵庫に立てかけておいた鎌を取る。
「どおれ。あんたんとこのおかーさん帰ってくるのもうすぐだよ」
「きゅうっ?!」
 なんか一斉に全員がわたわたしだす。
「ほんとほんと。じゃあね」
「きゅ!」
 なんか両手握り拳、で送り出してくれた竜の子を背中に、渡る。
 
         **

「おおいーーーっ、死神のやろうどこだーーっ!!」
 なんかすごい言葉遣いだなあ、と思って見ている間に、おじさんのテンショ
ンはますます上がる。
「なんか超うらやましーよお!早くしろよお!」
「ここだよここ」
 声と同時に、げし、と、後ろから蹴りが入る。
「はうあっ」
「超うらやましーよおは判ったから、ちったあおとなしくしておけっ!」
 あいてえ、と、前につんのめったおじさんの後ろで、黒いマントの女の子は
面倒くさそうに黒い髪をわさわさとかきむしった。
「やれやれ……ああ、あの竜の子達の面倒はみといたから」
「あ、はあ」
 檻の、あちらとこちら。どこから入ったのか、彼女はするんと檻の中に立ち、
そのまま男の顔をじっと見た。
「…………ふむ」 
 おじさんがちょっとたじろいで、顔を後ろに引く。その目から、でも彼女は
視線を外さない。まじまじと目を合わせ、暫くして彼女はにっと笑った。
「うん、落ちたね。……やれやれ」
 すい、と身を起こしてとんとん、と肩を叩く。何となくわざとらしく見える
仕草でもある。
「一週間くらいかかるかと思ったが早かったな」 
「え?!」
 一週間って……あっさり言ってくれるものだけど。
「そんなにうちを留守に出来ませんよ、こっちだって!」 
 というか……あれ。
「いやそういうと思ったから、3日にしといた」 
 こういうのを、もしかして『いけしゃあしゃあ』とか言うのかと思った。
「あの、でも、3日?」
「うん、あっちの時間ではね」
 そりゃもうあっさりと言うと、彼女はおじさんのほうを見た。
「で、今の感想は?」
「もういやだよー俺成仏したいよ!!」
「……え」
 ちきしょーとか、えーんとか、何だか子供みたいな勢いでおじさんは言うけ
れど。
「……あのー、そんなに不愉快な話だったですか?」
「うらやましすぎるんじゃあ」 
「……え、でも、そんなもんですよね?」
 というか、とりたてて……そんな変わったこと言った覚えはないんだけど。
「…………」
 いやだから、そこでしゃがんでのの字を書かないで欲しいというか、そんな
恨めしげな目で下から見上げられてもというか……ええとっ!
「あ、でもほら……多分、あたしら、なかなか一緒に居られないからですよ」 
 仲がいいね、とは言われる。互いに一人で暮らしてきた期間は長いから、自
分でもよくこうやって一緒に居られるな、と、思ったことはあるけど。
 でも考えてみたら、一週間のうち、一緒に居られる時間って、多分普通の夫
婦よりは少ないと思う。
「……警察官だから、あの人……だから休みの途中でもひょいっと仕事だって
行っちゃうし」 
 いつも、というわけじゃないけれど。でも休みが途中で打ち切りになったり、
休みって言ってたのが延期になったり、突然出張が入ったりはあるから。
「それに一応こちらが年上だから……いつまで一緒に居られるかなって、時々
思うし。それに結婚遅かったから……ほら、おじさんみたいに早くなかったし」
 貴方よりは先に死なないから。そう言ったことがある。女性の平均寿命が男
性より長いって、幸運だなあと、今にして思う。 
 出会ったのは互いに、そんなに早い時期ってわけじゃない。
 時折思う。この人の横に居られるのって……ほんとうにどれだけだろう、と。
「だから……一緒に居られる時が、それだけ大切になっちゃうんですよ」 
 
 今だって出張に行ってる。
 だからこっちに来ることが出来たんだけど。でも。
 会いたいなって……思う。今でも。

 と。 

「……あのぉ?」
 なんか……もっと妙な顔になってるし、おじさんてば。
「うらやましーよぅ、ちきしょう」 
「え、それでも……多分、羨ましいのが、おじさん達の普通だったから、気が
ついてないだけですよ」
 長く一緒に居られたんじゃないかって思う。あたし達の10倍くらいの時を、
多分一緒に過ごして……その間に、少しだけ見失っただけじゃないかと思う。
「多分ご家族の方だって、ほんとうは大切で、一緒に居たかったんですよ」 
 でなければこの人が、怨霊と化してでも奥さんに焼餅を焼こうなんてするも
のか。
 未練も何も無いなら、この人がここにとどまるものか。
「だからことさら、うらやましがられるようなことじゃないです」 
 いや、本当にそう思ったから言った、だけなんだけど。

 ……あれ?

「……契約書作っちゃおうかな。いざって時には顧問扱いで手伝ってねって」 
 いぢいぢと、おじさんは膝を抱えて座り込んでる。それを見ながら、死神の
彼女は、妙に真顔でそう言った。
「なんですかそれ」
「まあ良いや……ねえ、あたしあっちを出る時、なんか昼間なのにダンナから
電話かかってきてたよ」
「え」
「大丈夫?」
「だいじょぶじゃないっ」
 出張の度に、相羽さんは電話を必ずかけてくる。だけどそれって、相羽さん
の仕事が終わったか、それとも区切りがついてからなんで、大概は夜にかかっ
てくるもので……って。
「……あ」
 それであたしは……迂闊にもようやく思い出した。
 家を出る時に、何か一つ大切なことを忘れてきたというそんな妙にひっかかっ
た気分の拠って来るところ。
「やだ、尚吾さんに電話してなかった!」
 しょうごさんかよー、とおじさんがぶつぶつ言うが、それは今はおいといて。
「うわ、心配してるよ」
「うん、そうだろうと思うよ」

 死神の女の子の、その声に、思わずあたしは顔をあげた。
 そういう……なんとも含みのある声であり、言葉だった。

「ああ、あのね、ダンナががたがた言ったらあたしのせいだって言っといて」
「え」
「どーせ電話して、下手に繋がったら、行くなーだの心配だーだの言いそうじゃ
んあのダンナ」
「そんなことっ……」
 ……ない、と、思う、んだけど。
 これはあたしのやるべきことで、手伝えることで……だから、うん、そんな
ことは言わない、と、思う、ん、だ……けど。
「それにねえ、あんたのダンナには、延々20分惚気られた過去があるのよね」
「へ?」
 ふと、思い出す。
 つい最近、一度尚吾さんは、容疑者をおっかけてて突き飛ばされたことがあ
る。別に大事はなかったんだけど、その時、一日目を覚まさなかった。
 あの時は……生きた心地がしなかった、けど。

「……え」
「はいそのとおり」
 にっと笑うと彼女は片目をつぶる。とても綺麗なウィンクをよこして、彼女
はほらほら、と、鎌を軽く肩の上で弾ませた。
「急がないとダンナが戻ってくるよー」
 それはちょっと、と言いかけた。そもそもそうやって困ることになっている
のは誰のせいなんだ、と……
 
 ……言いかけて。


 そしてあたしはいつの間にか台所に立っていた。

「きゅううっ!!」
 とてとて、と、足音。そしてひらぱたと周りを行き交う鮮やかな鰭の色。
「ああ……お留守番ありがとう」
「きゅきゅきゅうう!」
「ご飯とか作ってもらった?」
「きゅ」
 ぴょんと飛び込んでくる小さな竜の体を抱き上げる。ひんやりと冷たい、つ
るんとした質感が、ようやっと戻ってきた実感に重なる。
「ごめんね、急にいなくなっちゃって」
「きゅぅ……」
 くるん、と大きな目がこちらを見る。額のぽわぽわとした毛を指先で撫でて
やると、その大きな目がちょっと細くなる。
「……ごめんね」
 言いかけた言葉に、がちゃん、と、鍵の回る音が重なった。
「あ」
 思わず雨竜と、そしてベタ達と顔を見合わせて。
「……おかえりなさい!」
 慌てて玄関に走ってゆく。ばたん、と扉が開くのと同時に玄関に立って。
「おかえりなさ」
「真帆っ」
 両手で掬い上げられるように抱き締められて、一瞬言葉が無くなった。

          **

「羨ましかったろ?」
「はあ」
 袋、と、便宜上言うが、とりあえず魂を一時的に保護し、そして所謂「あの
世」に渡すための道具である。その中にちょん、と落ち着いてから、男は妙に
神妙である。
「次にはあーなれよ?」 
「……はい」 
 とはいえ、あそこまで……って夫婦は、あんまし無かろうとは思うけど。
 ど。
「……どうなってるかな」
「え?」
「いや、間に合ったとは思うんだけどねえ……どれ」
 責任がある、と思ってたのは、これは確か。彼女の旦那が出張中だってのを
いいことに、ぎりぎりまで手伝ってもらったのだ。やっぱり旦那が戻る前には
返してやらなきゃな、とは思ってたのだ。
 だから、ちょっと気になってたんだけど。
「見てみる?」
「……」
 無言の肯定に、こちらも頷いて、宙を裂く。こちらとあちらは渡ることの出
来ない淵に隔てられてもいるのだけど、同時にその距離は、あって無きが如し
でもある。
 そして、その途端……何となくあたしも、多分おっさんも少々後悔したんじゃ
ないかと思う(とりあえず自分は、した)。

『真帆……真帆っ』
 なんかねえ……今生の別れから生還したんかいなあんたは、と言いたくなる
くらいに、ダンナは奥さんを抱き締めて離さないし、奥さんはおろおろと、た
だ何度も謝るばかりだし。
『心配したよ……ほんとに』
『……ごめんなさい』
 泣きそうにくぐもる、声。
 それ以上見ているのが申し訳なくなって、開いた『道』を閉じた。

「……旦那が豪語するはずだよなあ」 
「へえ?」
「自分が死んだら、相手も生きてない。相手が死んだら自分も生きてない……
だあってさ」
 はあ、と、気の抜けたような声が返る。 
「…………こちらの仕事を二倍にするよーなこと言いやがってだなー」
 でも何となくそれが、嘘ではないのだろうなあと思う。
 そういう夫婦も……居るんだろうねえ。
「俺みたいにゃあ、ならないんだろうなあ」
「……わからんぞ」
 へえ?と、疑問符が背中から投げつけられる。
「だって考えてみ?あの奥さんが下手に事故にあって儚くなったら、あの旦那、
イザナギを気取りかねないぜ?」
「……あー」
 言ってみて思う。
 ほんとにそうなりそうだからやだ。
「どれ、行くよ」
「はい」

 どちらにしろまだまだ先のことだろう。
 だから……今はこちらの仕事に専念しておこう。怨霊が一人生まれなかった
ことに安堵しておこう。

 思いっきり空を蹴り、渡る。
 この幽冥の場所より……人の行くべき場所へ、と。


時系列
------
 2007年6月

解説
----
 てなわけで、一件落着。
 ……ええ、まあ、先輩が何ていうかは別として。
***************

 てなもんで。
 ええ、あえて、先輩が帰ってきた後のことは描写致しません。

 であであ。
 
 



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