[KATARIBE 31209] [HA06P] 鬼の霍乱 ( 前)

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Date: Sun, 15 Jul 2007 19:20:40 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31209] [HA06P] 鬼の霍乱 ( 前)
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2007年07月15日:19時20分31秒
Sub:[HA06P] 鬼の霍乱(前):
From:Toyolina


[HA06P] 鬼の霍乱(前)
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登場人物
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 蒼雅紫     風邪をひいた子。女子大生。
 品咲渚     紫の恋人。女子大生。
 蒼雅棗     紫の母。女子高生。
 呉羽      元・紫の霊獣。


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 棗まま    :「ごめんなさいね、渚さん。ゆかりちゃん、ちょっと風邪で
        :寝込んでて」
 渚      :「ええっ、嘘、え、大丈夫なんですか、熱とか、吐き気とか、
        :ご飯のどとおらんとか」
 棗まま    :「ええ、ちょっとお熱があって……薬湯を飲んで少し眠っ
        :てるわ」

 紫の家に遊びに来て、渚は耳を疑った。
 知り合って一年と少し。紫が風邪をひいて寝込んだ記憶なんて、全くない。
 以前、滝に打たれて、自分が風邪をひいたときも、紫は平気な顔をしていた。

 渚      :「……えっと……あの、ちょっとだけ、顔見せてもらって
        :も……」
 棗まま    :「ええ」

 紫の母、棗はどうぞ、と渚をすんなりと案内してくれた。
 紫はというと。
 自室で、文字通り床に伏せっていた。
 布団の傍らには、木桶に水が汲んであり、額には手ぬぐいがおかれている。

 渚      :「あ、ありがとうございます……紫……大丈夫?」
 紫      :「……ん」

 うっすら目を開ける紫。

 紫      :「……渚、さま……」

 弱々しく笑おうとする。
 枕元に座り込んで、渚は手ぬぐいを木桶に浸し、しぼる。

 渚      :「……もしかして、風邪初めて?」
 紫      :「……え、と……久しぶりで……少し、辛い、かも、しれ
        :ません」

 きっと、相当久しぶり、数年ぶりくらいなんだろうな。
 渚はそんなことを考えながら、紫の額に手ぬぐいを置き直す。

 渚      :「うん、こういうときはゆっくり休んだ方がええし。もう、
        :バイト先に連絡とかした?」
 紫      :「……はい、お母さまに連絡をお願いして……」

 布団の中で、もそもそと身動きする紫。
 体を起こそうと思ったのかもしれない。

 渚      :「そっか、じゃあ遠慮なく休めるね、よかった。すぐ治るよ、
        :風邪なんか」
 紫      :「はい……」

 紫の手が、そっと伸ばされる。
 渚はその手を両手で包んで、大丈夫、と笑いかけた。

 渚      :「うん」
 紫      :「……」

 紫も、また笑顔を浮かべる。
 先ほどよりは、安堵の色が濃い。
 こうしていることで、安心するなら、ずっと握っていよう。
 しばらくそうしていて、渚はふと思い当たった。

 渚      :「何か、食べたいものとかある? プリンとか……シュー
        :クリームとか……」
 紫      :「……えと……ぷりん……食べたい、です」
 渚      :「プリン? うん、わかった。ちょっと今からさーっと買っ
        :てくるね」

 紫の家、蒼雅家は、徒歩やバスで訪れるには、少々不便なところにある。
 それを知っているから、渚は大抵、原付で来るようにしていた。
 紫は小さくうなずいて、ありがとうございます、と口を動かした。


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 安全運転で急いで、約二十分。
 駅前の美味しい店、白楊堂でプリンを買って、渚が戻ってきた。

 紫は、自室でうとうとしていた。もう一度、紫の額の手ぬぐいを浸してしぼっ
て。
 渚は無理に起こして食べさせるより、起きたときに一緒に食べよう。
 そう思って、冷蔵庫に入れさせてもらうことにした。

 呉羽     :「渚さま、プリンには各々の名前を書いておかねばなりま
        :せん」

 ペンを渡しながら、呉羽が真剣な表情を見せる。

 呉羽     :「名を記されていないプリンは……食べられても文句を言
        :えませんから」
 渚      :「名前……えーっと……そんなに、皆さん、プリンお好き
        :なんですか。そやったら、もっと買ってきたらよかったなあ」

 少し恥ずかしそうにしている呉羽。
 渚はささっと、プリンに名前を書き出した。

 渚      :「呉羽さん、うち、おばさま、おじさま、で、紫は2個……
        :ちょっと少ないかな」
 呉羽     :「わ、私にまで……渚さま、お任せください。このプリン、
        :何があろうとも、お守りいたします」
 渚      :「え、あ、はい。よろしくお願いします」

 そして渚は紫の部屋に戻って。
 時折、額に手を当てて熱の具合を確かめながら、枕元に陣取って、本を読ん
だり、レポートを進めたりして過ごした。
 二時間ほどして、紫が目を覚ます。
 渚はにっこり笑って、紫に顔を近づける。

 渚      :「あ、目、さめた? プリン買ってきたよ」
 紫      :「あ……渚さま」

 紫も嬉しそうに笑いかける。

 渚      :「汗とか大丈夫? 一回、お布団かえよっか?」
 紫      :「はい……もうすこし、このままで」

 紫がそっと手を伸ばし、渚の手を握った。
 渚はそれに応えて握り返す。

 渚      :「うん。あとで、一緒に食べよーね?」
 紫      :「……はい」

 紫は、顔が少し熱くなってきているのを感じた。
 熱がぶり返したわけではなく、嬉しくて、胸の奥から、暖かさが全身にいき
渡り始めるような感覚。
 涙が滲みそうになって、紫の笑顔が少し曇る。

 渚      :「紫? 大丈夫? どっか痛いところとかあるの?」
 紫      :「あ、いえ、違うんです……その……嬉しくて」

 渚の心配する声を聞いて、涙腺が一気に緩んだ。
 目元を何度も小さくこする。

 渚      :「な、なんか照れるなあ……うちも嬉しかったよ、年末に
        :風邪ひいたとき、居てくれて。それに、ずっと一緒やもん、
        :いつでもそばにおるよ」
 紫      :「……はい、一緒です」

 嬉しくて。
 胸が一杯になって。そう応えるのが精一杯だった。
 そんな紫の仕草を見ていると、渚も、紫の元を離れるのが辛くなってくる。
 少し上目遣い気味に、渚が訊ねる。

 渚      :「……今日、泊まってってもええかな……? その……夜、
        :急に具合わるなったときとか、心配やし……」
 紫      :「……ほんとですか?」

 少し、ほんの少しだけ、涙で曇っていた紫の笑顔が、ぱっと明るくなる。

 渚      :「う、うん。もしよかったら、やけど……紫がうちにして
        :くれたこと、うちも紫にしてあげたいし……」
 紫      :「……嬉しい、です」


時系列と舞台
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 2007年7月中旬

解説
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 あのゆかりんさんが風邪を引きました。
 後編に続きます。


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Toyolina



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