[KATARIBE 31206] [HA06N] 小説『怨霊化を留めるの話(中)』

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Date: Sat, 14 Jul 2007 00:56:56 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31206] [HA06N] 小説『怨霊化を留めるの話(中)』
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2007年07月14日:00時56分56秒
Sub:[HA06N]小説『怨霊化を留めるの話(中)』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
かいてもかいても進みません。
かいてもかいても……のろけなきがします(しくしく)

てなわけで。

******************
小説『怨霊化を留めるの話(中)』
===============================
登場人物
--------
 死神(しにがみ)
     :何となくバンカラ。でも多分ちゃんとしたらかなり可愛い。
     :でもやっぱりバンカラ。そしてちょっとだけ意識操作。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。 幽霊を人間化する異能持ち。
 おじさん
     :怨霊化一歩手前。おかげで一番気の毒。


本文
----
 
 一応書き置きだけは残した。
「……きゅぅ」
「大丈夫。3日経ったら戻ってくるし、その間、このお姉さんがご飯出してく
れるって」
 作り置きしておいた、夏野菜の煮込みや茄子の煮びたし。それに胡瓜を細め
に切って、横に酢味噌を合わせておいて。
「お菓子もここに入れておきますから」
「了解」
 
 急いだほうがいいのでは、と尋ねると、無論それはそうだが、貴方がそうやっ
て行くと決めてくれたから、今は少しだけ時間がある、と言う。
「そういうものなんですよ」
 でも急いで急いで、と、彼女はせかす。せかされるとこちらも焦るから、そ
れは仕方ない気がするんだけど。
 でも、何か忘れていると思うのだけど。
 何か、とても大切なことを何か。
「人、一人の魂がかかっていることだから」
 何か気にかかることはある。けれどもそれとは別に、彼女の言葉に嘘はない。
「来て。手伝って」

 ざん、と、空を、細い銀色の筋が横切った。

           **

 ごう、ごう、と、音がした。
 いや、音というか……何かの気配かもしれない。ごう、と、空気がぶつかる
ような感覚と同時に、一瞬あたしは後ろにのけぞりかけた。

「死にたくなんぞねえんだよ!」
 次の瞬間、届いたのはそんな声。
「ぜってーに、やなんだよ!!」
「まーだ言ってんのかいあんたは」

 呆れたような声と同時に、男の周りを輪郭を消すほどに包んでいた蝙蝠の群
が、一気にぶわっと飛び立った。

 座敷牢というのが一番近いだろうか。
 きちんと畳の敷いてある部屋。しかしその三方は塗りこめられた壁に囲まれ、
唯一こちらに開いている壁は、無骨なまでに太い柵が、隙無く並んでいる。も
し座敷牢だと言うならば……そう、大名家にありそうな(ってつまり、そうい
う時代劇なんかで出てくるってことなんだけど)。
 大きさはたいしたことは無い。そう、もしも彼が壁にびったりくっついても、
あたしが柵のすぐ傍に居る限り、人間化からは逃れられないだろう、それくら
いの大きさ。

「ぜってーだろうがなんだろうが、あんたここで死んでるの。だからここ数日
お仕事いってないし、寝坊してるでしょ?目覚まし聞いてないでしょ?」
 大きな鎌を肩にとんとかけて、彼女は遠慮会釈なく言い募る。
「奥さんを疑いの目で見ても無い、喧嘩もしてない、ほうらやっぱりここは異
界なんだよ」
「うるせえ!」
 男は、あたしよりも10歳と年上には見えなかった。恐らく子供は高校を出
るか出ないか、ようやく手を離れてほっとする……その前くらいだろうか。
「うるせえがどうしたよ」
 たん、と、鎌の柄で床を叩いて、彼女はふいっと中空に胡坐をかいた。
「いい加減、うだくだと未練がましく言うのをやめろっての」
「やだーしにたくねーこいつをかわりにつれてけよー」 
 ……そこであたしをまっすぐ指差しますかな。

「阿呆が」
 どすっと、鈍い音がした。気がつくと死神の彼女が、鎌の柄をくるりと廻し
て柵の中へと突きこんだらしい。
 
「そのためにはどれだけの書類を直して手回ししてとやらねばならんと思って
いる!」 
「げふぅ」 
 胃の辺りを抑えて、ごろり、と後ろにひっくり返った男に、彼女は尚も言い
募る。
「どのくらい面倒かというと、貴様が今生き返って老衰で死ぬまでがんばって
も多分無理ってくらい面倒だ」 
 ……なんというかその……合理的なんだか無茶苦茶なんだか、微妙なところ
である。
「とりあえず、人間で3日。妙な癖が抜けるまでここでおとなしくしておれ!」 
 えぐえぐ、と、何か嘆いてるのか胃を殴られて痛いのか、どちらとも取れる
奇妙な声を男があげる。
「……三日、ですか?」
 声をかけると、彼女はちょっと困った顔になった。
「まあそうなんだけど……あんまし三日って考えなくていいよ」
「って?」
「一応ここも、人外の異界ではあるからね」
 いまいち意味の取れないことを言うと、彼女はぴょい、と、立ち上がった。
「それじゃあたしは、今から用意をしてくる。ごめん、こいつの愚痴に付き合っ
てやってくれない?」
「……あ、はあ」
「いいよ。もし無茶なこと言ったらそりゃああんた無茶だといえばいいし。も
し何かやらかそうとしたら……ほら、こいつは置いていくから」
 ひょい、と、一匹の蝙蝠が、柵のところから滑るようにこちらに飛んできた。
大きな賢げな目でこちらを見上げる。
「愚痴だけは聞いてやって。頼むわね」
 
 そしてそれだけ言って、彼女はまたふいっと消えた。



 愚痴を聞いてやってね、というのは簡単、確かに聞くのも技術は要らないけ
れども。
「ほんっと信じらんねえよ、何で俺が死ぬんだよ」
 そういわれてみても。
「あいつ喜ぶんだろうなあ……ああったくっ」
「あいつ、って」
「俺のね、嫁」
 畜生、畜生、と、何度も呟いてから、彼は堰を切ったように話し出した。

 奥さんと結婚して20年くらい経つこと。
 子供の一人は今年大学四年、就職も内定していて安心だけれども、もう一人
は、今年度が大学受験であるということ。
 大事な時だから、今は家族の中に波風を立てるまい、と、奥さんと今年の初
めに話したこと。
「……ってえのに、あいつ、男を作りやがって」
「証拠、あるんですか?」
「……若いねえ、ねえさん」
 けっと鼻で笑うように、男は言う。
「そういうのは、顔でわかるのさ、顔で」

 考えてみる。
 相羽さんに彼女が出来たとしたら、顔が変わるだろうか、と、考えかけて挫
折。
 無理。まだ、本宮さんか片桐さんが彼氏だったって発覚するほうがありえる。

「ねえさんはそういうことは無いのかい」
「はあ、無いです」
「彼氏も居ない」
「居ません、そんなの」
「……ふん」
 そりゃあ旦那は幸せだよね、と、男は吐き出すように言った。
「俺なんて、うちのが事故を起こしたかと思ったよ」
 違うらしいがね、と、面白くもなさそうに言う。
「じゃあ」
「でもどうせ……まあ、流石にね、今は吃驚してるだろうけどね、すぐに保険
金を計算して、息子の大学入試に間に合うかどうか、その間どうするかを算段
してるぜ」
「それはでも、お母さんだから……そういうものじゃないんですか?」
「そうだけどよ、だけどなあっ!」

 何故かそこらで話題がすっ飛んだ。
 結婚した時はそうじゃなかったの、それなりに仲は良かったの、子供の相手
をしてどこに行ったここに行った、ああその頃は良かった。
 延々と話した挙句。

「それが今じゃ、どっかで男をこさえていると来た」
 聞いている限り、いい奥さんなんである。
「……もしかして、それって、あなたのほうが浮気とかしたことがあるんじゃ」
 ないですか、と、言いかけたのを、男はあうあう、と、手を廻して遮った。
「そ、そりゃあ……男の甲斐性だろう!」
「……じゃ、浮気する女性は、それ女性の甲斐性ですか?」
「莫迦!一緒にすんじゃねえよ!」
「……どうして?」
「そ、そりゃあよう、子供に対する責任が」
「お父さんにもありますよね?」

 うう、うう、と、男は何度か唸ってから、

「……男はそういうもんなんだよっ!」
「そうかなあ」
「そうなの。そういうもんなの!……ねえさんの旦那もそういうもんなの!」
「へ」
 
 思わず……考える。
 尚吾さんが浮気をする。
 
「……なんかそれ、ありえないです」
「へへえ」
 にやり、と、男の顔が歪む。嘲笑う、に近い表情になって……でもどこか妙
に嬉しそうに言い募ってくる。
「ねえさん、男の心理なんぞ読めるんかい?」
「……さあ、人の心ってわかりませんから」
「じゃあ、旦那の心はわかるんかい?」
「全部は、判らないと思います。それにわかっちゃいけないこともあります」
「…って?」
 不思議そうに聞かれる。
 まあ、この人が知ったところで……何も問題はないか。
「しょ……うちの主人は、刑事なので」
 守秘義務があるし、仕事のことは内密なのだ、と言うと、男は尚更に嬉しそ
うな顔になった。
「じゃあ、その間、誰かと……ってことは無いって言えるのかい?」
「無いですよ」
 自分のほうがあたしより相応しい、と、主張する女の子なら一杯いたし、こ
れからだって出てくると思う。
「何で」
「わかりますから」

 想像してみて、改めて思う。
 千夏さんが来ても、八尋さんが来ても。
 あの人は手を離さないって思える。手を動かさないと確信できる。
 なのに、出張中にあたしがここに居たら。

(……尚吾さん……心配してるだろうな)

 ふうん、と、男は一瞬鼻白んだように呟いた。

 柵のこちらは、ぼんやりと明るい。
 湿っぽいわけでもなく乾燥しすぎているわけでもない。
 どれだけの時間が経ったのだろうと思う。思った端から、その思いは、どこ
かするすると溶けてゆくような……そんな気がした。
(何だか、少し変)
 ふと、そんな風にも……思った。

「でも子供の大学は不安だよ。今は、いくらでも金がかかるし、あいつ良く遊
ぶし」
 おじさん……なんかそう呼びたくなってきた……の話は終わらない。
 子供さんの話から、生まれた時の話にゆき。そしてまた遡って結婚の時の話。
 結婚した時に、それなりになんか反対されたこととか、親戚の間の確執とか、
ちょっと離れたあたりの親族が一番やっかいだったこととか。

「そんでさあ、そのオジサンてのがだめだめでさあ、ねえ、聞いてる?てかう
ちの嫁がさー」 
「あ、うんうん」 
 
 でも思う。この人なんだかんだ言っても、家族が大事だったんだろうなって。
 ……大丈夫かな、雨竜達。ちゃんとお留守番できてるかな。
 (尚吾さん……大丈夫かな)

「それがさあ、出張って言えば嫁も子供等も、ばんざーいだもんなあ」
 こちらが気をとられている間に、おじさんの話は先に進んで……というか迷
走している。
「ねえさん、あんたの旦那もよく出張するんじゃない?」
「……あ、します。というか今も出張です」
 
 今回はね、物騒なことで行くわけじゃないから。そう笑って言い置いて行っ
たけど。
 でも、どうかすると物騒にもなりかねない……から。
 大丈夫かな。

「そりゃあアンタも楽だろう」
「え?」
「だからね。ねえさんも旦那が留守っていいでしょ?」
「え、さびしいです」
「…………は?」 
 咄嗟に言ったら、おじさんは何となくぽかんと口を開けた。
「こう……ご飯作って、並べて」 
 尚吾さんが居ないと、ご飯はやっぱり多少はずるける。だけどあんまりずる
けると、最近雨竜とかベタ達も文句言うから……やっぱり適当には作る。
 ベタ達の好きなおかず。雨竜の好きなおかず。お皿に並べてはみるけれど。
「そしたら、食卓の向こう半分に何も無いの」 
 みんなあたしのお皿から取って食べる。確かに洗物とかは楽は楽だけど。
 でも。
「なんだか居ないってはっきり目に見えちゃって……泣きたくなる」 
「………………」
 ぴったりと、おじさんは黙った。

 黙ってみると、どこかからさらさらと、風の流れるような音がする。
 もしかしたら風じゃなくて、水かもしれない。
 ふっと……去年、一緒に行った温泉のことを思い出した。
 二泊三日。仕事の呼び出しが無いって安心出来た日。

「……で、でも、まあ、あれだな、出張じゃなかったら帰ってくる、んだよな、
お宅の旦那」
「はい、それはもうすっとんで」

 県警から電話があって。
 そして改めて帰る間際に電話があって、そして家まで。
 絶対……早足。時々全速力で走ってないかって心配になる。
 だって疲れてるのに。

「でも、帰るのしょっちゅう遅くなるし……そしたらご飯が段々冷めてゆくの」 
 無論、ぎりぎりまでよそわないようには心がけてるけど。
 でも……やっぱり冷めてしまうことが多い。そういうのはやめないとなあと
思ってるけど。
「……ねえ、それさあ、先に食べちゃって冷蔵庫いれとかない?」 
「え?」
「旦那遅くなるんでしょ?それわかってるんでしょ?それなら先に食べてさあ」
「そんな申し訳ないこと出来ないですよ!」 
 そりゃ……そう言われたことは、ある。一緒に住み出した頃、そして籍を入
れた後くらいも。
 でも。

「毎日毎日、身を粉にするってくらいに働いてきてるのに、先にご飯食べるな
んてそんな申し訳ない」 

 ご飯を一緒に食べる。好きなおかずがあった時、食べて気に入った時、尚吾
さんは必ずそう言う。これいいね、これうまいね。ちょっと嬉しそうに笑いな
がら。
 一日に溜まった疲れが、何だか一枚ずつ、はがれているような気がする。一
緒に笑いながら、一緒にご飯を食べながら。
 それを先にこっちが食べて、尚吾さん一人って……そんなのって無い。絶対
無い。
 
「それに、一緒に話せる時なんだもの」

 どんな会話をしてるっけな、と思う。
 今日あったこと。雨竜が両足を泥だらけにして帰ってきて、フローリングの
上に足跡がついたこと。その足跡が可愛かったこと。
 尚吾さんの仕事のことは聞けないけど、それでもその仕事の合間の、豆柴君
のことや本宮さんのこと、奈々さんのことなんかは話に聞く。幾久君の歯が出
かけの頃は、奈々さんが(どうやら夜泣きで)やつれていたこと、なんかも。
 そんなたいしたことは話してない。でもそういうことを聞いたり話したり、
とっても大切な時間を、こちらから手放したくない。
 
「……ねえ?」
 って言ったら……また、なんだかおじさんは黙ってしまった。

「…………ねえちゃん」
「はい?」 
 柵の間から、手を出してぽん、と、こちらの肩を叩く。何かと思ったら。
「あんた、ええ嫁やねえ……」 
「へ?」 
 ものすごくしみじみと言われるから、あ、これはちょっと誤解をとかねば、
と思ってしまう。うん、じゃないと何だか申し訳ない。
「いえ、あの人がいい人なんです」 
 って……いや、おじさん、そんな何をしゃがみこんでるんですか。

「……あの、ほんとですよ?」 
 あ、と思う。自分の旦那さんを褒めるって、それ日本的な基準から言えば変
なのかな。
 でもあたしが良い人と思われるのは、かなり間違いだし。
「いい人が相手だから、あたしがいい人に見えるんですよ」 
 それは本当にそう思う。
 真帆のご飯が一番って飛んで帰ってきてくれる人。どれだけくたくたでも、
たとえ倒れても、病院のベッドよりうちがいいって戻ってきてくれる人。
 そんな人だから、あたしもいい人になっちゃうのだ。

「…………そんなまっすぐな目でいい人なんて言われねえよ、俺」 
「へ?」
「うちの嫁になんぞよう……」
「え……え、だってあたしだって、しょ……いや、主人に直接言ってるわけじゃ
ないんですけど」
 ……あれ、言ってない、よな?
「奥さんだって、どれだけ思ってても、直接言うって無いかもですよ。でも、
周りの人には絶対褒めてますよ」
「…………」
 そこでわざとらしくしゃがみこんで、床にのの字を書かないで下さい。
「そんなさびしいなんて、俺言われたことねえよ」
「あ、でもあたしも、そんな直接は言いませんってば」
 さびしくないの、と訊かれたことはある。あの時は泣いてしまったけど。
「なんか……ねえ、そんなこと言ったら、心配なんてしなくていいのに心配さ
れちゃうから」 

 心配なんてかけたくない。仕事の邪魔になるようなことはしたくない。
 家のことなんて、すっかり忘れるくらい仕事が出来るようにしてあげたい。
 と……そう思ってる、だけなんだけど……。

「くあー!!」

 唐突におじさんが顔を上げて叫んだ。

「な、な、な、なんですかっ?!」
「やりなおしてやる!!!うまれなおしてやらあこんちくしょー」 
「あ、はいっ……はあ?」
「おおいーーーっ、死神のやろうどこだーーっ!!」

 ぼんやりと黄昏たような色合いの空気が、ふうっと透明になったような気が
した。 

時系列
------
 2007年6月

解説
----
 秘儀、惚気倒し発動中。でも本人意識無し。
 おじさん可哀想です。
***************

 てなもんで。
 まだ続きます。
 であであ。
 
 


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