[KATARIBE 31198] [HA06N] 小説『怨霊化を留めるの話(上)』

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Date: Sat, 7 Jul 2007 00:19:21 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31198] [HA06N] 小説『怨霊化を留めるの話(上)』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2007年07月07日:00時19分20秒
Sub:[HA06N]小説『怨霊化を留めるの話(上)』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
何か書いてます。
……結局、なんか、死神さんは、それぞれのPLごとに独立ってことになったようです。
従ってこいつは、相羽先輩を間違えてさらおうとした(語弊があるなー)死神の話です。

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小説『怨霊化を留めるの話(上)』
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登場人物
--------
 死神(しにがみ)
     :何となくバンカラ。でも多分ちゃんとしたらかなり可愛い。
     :でもやっぱりバンカラ(間違えてますいろいろ)。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。 幽霊を人間化する異能持ち。

本文
----


 悪霊と言い、怨霊と言う。
 まあ、小説なんかで有名どころと言ったら、里美八犬伝の玉梓とか(古い古
すぎるとかゆーな)。
 でも、あれも結局は……何と言うか、男女の仲のこじれと欲得の念でああなっ
た、と思っていいと思う。結論、誰がそうなったとしても不思議じゃない、と
いうところか。
 そして実際、そういう変化というのは、最初は本当に小さなひび割れから起
こることが多い。反対に言うと、その最初のところでものごとをこじらせる前
に治すことが出来れば、所謂悪霊達は悪霊になることもなく、ただ静かにその
魂を輪廻の中に溶かすことが出来るのである。
 従って、こちらの仕事を増やさないためにはその最初の部分で方向を修正し
てやる必要がある。それも上曰く「手際よく、素早く、ついでに危険手当だの
時間外手当だのを出さないように」だそうで(無茶言ってやがるー)。

 で、なんでまたこういうことをぐだぐだ言うかというと……無論ながら、理
由というものがあるのである。


 自分は、所謂ところの死神という奴である。
 所謂、とつけるのは、なんかこう昨今の小説だの二次創作だのを見ていると、
この死神の職権がえらい勢いで拡大してる場合があるからである。実際には、
こちとら勝手に相手を傷つけることは出来ない。あくまできちんと決まった死
へと人を招くだけのことである。
 で、その、立場も職権も少ないか弱い死神に、今回少々面倒が起こったのが
そもそもの始まり。
 
 一人の男が死んだのである。
 実はこの男、奥さんとの仲が最悪だった。自分だって結構浮気だの何だのし
てたくせに、どうやら奥さんに男がいると見た途端、それはそれは妬いた上に、
そのうち俺は殺されるのでは、と、散々っぱら妄想したものである。
 その、妄想の只中で、彼は自動車事故で死んだのである。

『……あいつのせいだ!』
 お前は死んだのだ、ここを去らねばならないのだ、と言う前に、彼はそう叫
んだものだ。
『あいつだ、あいつが俺を殺して、あの男と……!』
 実際のところ、彼の車の故障はあくまで経年劣化と……まあ強いて言うなら、
その数日前にガソリン入れた時に、車の中を見たにーちゃんがうっかりしてい
たあたりが原因かと思うわけで、この点についてはあたしも胸を張って言えた
のだけれど。
『それでも、それでも、あの女、俺が死ぬのを待ってやがったに相違ない!』

 それについては、自分は知る権利もなく、ついでに知ったところで奥さんも、
結局は両方……つまり旦那に生きて欲しいのと死んで欲しいのと、両方とも本
音なんじゃないかと思う。
 なんだけど。

『やっぱりそうなんだな?そうなんだな……畜生!!』

 魂を送る際に一旦封じるべき囲いが、そのおかげでずたずたになるほどの咆
哮だった。
 この囲いが壊れてしまっては彼を送ることが出来ない。暫くの間は蝙蝠達の
円陣で彼を封じることは出来ても、このままでは彼が悪霊化してしまう。

 生前の彼は悪党だったか?
 そりゃまあ、浮気もしたろうし無茶もしたろうが、所謂『悪人』でも『悪党』
でもなかった。奥さんとの仲は決して良好じゃなかったけど、子供さん(二人
いた)は、どちらもとても可愛がっていた。池波さんじゃないけど、悪を行い
つつも善を思い、善を行いつつも悪によろめく、実にまあ普通の男だったのだ。
 放っておけば彼は悪霊とも化すだろう。
 でもそれは、むごいことと思う。
 
 だから。

             **

「あー、めーっけ」
 黒いマントはゆるやかに全身を覆っている。たっぷりとしていて、風にふわ
りと広がるほど軽やかとはいえ、今の季節には相当暑そうに見える。フード部
分を後ろにはねのけた、まだ若く見える女性は、開口一番そう言った。
「……はい?」
 ついでに、丈に余るような長い柄の鎌をよいしょと横に立てて、もう片方の
手でこちらを指差しているってのが……お茶目なんだか真剣なんだか、なかな
か見分けのつかない状態、と言っていいと思うんだけど。
「えっとね、相羽真帆さん。旦那は相羽尚吾、むっちゃのろけまくりな人」
「…………」
 そこは否定出来ないような気がする(何でこの子が知っているのかってのは
別としても)。
「えっとですね、とにかく私は貴方を知っているということで」
「はあ」
「それで、私、貴方にどうしても手伝って欲しいことがあるんです。今すぐ手
伝って貰わないと」
「い、いやちょっと待って」

 時刻は午後の4時。
 冬瓜と海老の煮物を作りたかったんだけど、肝心の冬瓜が無い。あちこち探
してうろうろしている買い物の途中に出会って、唐突に『手伝って欲しい』も
ないものだ。

「ねえ、さっぱり判らないんだけど。そもそも貴方は何者?」
「あ、死神です」
「はあ……あ?!」

 しれっと言われるには、あまりに珍妙な内容なんだけど、でも確かに彼女は
そういう格好をしているし……

「……ってあの」
「ああ、今あたしは見えてません。ついでに貴方も周りには見えてません」
「……そういうことって、こちらの都合を聞かずにやるものかな」
「だってそうしないと、あたしがヘンな人になるじゃないですか」
 ……胸を張って言うことか。

「とにかく、今ちょっと切羽詰ってるんですよ。人一人の魂に関する危険なん
です」
 黒いマントを肘まで……そう、昔のバンカラ学生(映画でしかあたしも知ら
ないけど)がまくりあげるようにまくりあげながら、彼女はひょい、と、空中
に座る。まるで自分が本当に死神であることを、ことさらに示すように。
「手伝って貰えませんか」
「っても、何か出来ることあるの?」
「貴方ほら、幽霊を本物に出来るじゃないですか」
「……はあ」

 幽霊を本物に出来る、というと何だか妙だけれども、確かにあたしは、近く
に来た幽霊を、生前の(それもある程度元気な時の)姿に戻すらしい。例えば
交通事故で足を失ったまま亡くなった女性なんかは、だから、幽霊の時の『足
の無い姿』ではなく、その事故にあう前の、五体満足な姿で人に戻る……らし
い。(いや、あたしに関して言えば、それが幽霊だったとは思わないので……
そういうもんなのかな、と思うだけなんだけど)。

「なんつかねえ、死ぬ直前に、えらいぐれた奴が居ましてね」
 黒々としたセミロングの髪。綺麗に整えれば烏の濡羽色、さぞや綺麗だろう
と思われるその髪の毛は、ちょっと見事なまでにぼさぼさになっている。その
髪の毛をやっぱりぼさぼさとかき回しながら、彼女は言葉を続けた。
「生きてる時は、一応……まあ、悪いとこもあるけどいいとこもある、普通の
ちょっと腹黒めのおっさんで、それ以上じゃあなかったんだけど」
 傍らで、奇妙な鳴き声をたてる蝙蝠をつん、とつつきながら、死神はちょっ
と溜息をついた。
「今のままなら、あのおっさん、悪霊にもなる。そうすると、生きている人に
祟るだろうし、他の人も迷惑するし、当然あたしもとっても迷惑」
「…………」
 言いたいことは、わかる。
 だけど。
「でも……」
「だって旦那さん、今んとこあと4日くらいは出張でしょ?」
 なんでまた知ってるのだ。
「ちびさん達も……元々幽霊の面々は、貴方が離れたらご飯要らないし、ご飯
の要る一人も、確かお野菜が好きなんだよね?」
「……なんでそんなこと知ってるんですか」
「いやほら、一応、無茶頼むわけだから、家族のことが心配だろうなって思っ
てね」
 下調べだけはきっちりしたの、と、彼女はなんだか胸を張る。
 横で蝙蝠が……なんかぷんっとあっちを向いてる。

「心配ならさ、その子達のご飯を冷蔵庫にいれといてくれたら、あたしかこい
つらがご飯の時に出してやるから。だからちょっと手伝ってくださいな」
「……つまり、その人を、人間に戻す?」
「そう」

 こくっと頷いて、顔を上げる。その顔は……不思議と物語の中で、畏怖と恐
怖を混ぜて語られてきた『死神』の印象を示すものだった。

「とにかく。今あのおっさんを怨霊化させたら駄目。今彼の魂に入りかけた亀
裂を治してしまわなければ」
「人一人の魂が」
「ダメージを負う。元に戻すのはとても難しい」

 しゃん、と、彼女は鎌を振った。
 しゃん、と、不思議に高い音が鳴った。

「手伝って、くれますよね?」


時系列
------
 2007年6月

解説
----
『死神の、ちょっと疲れる一日』で出てきた死神が、今度は真帆のほうに向かいます。
***************

 てなもんでして。

 なんかこう……視点が真帆じゃなくなった途端、文字ががーっと増えるって。
 なんじゃらほいな。

 てなわけで、であであ。

 
 



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