[KATARIBE 31196] [OM04N] 小説『話し合う二人』

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Date: Wed, 4 Jul 2007 00:24:08 +0900
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小説『話し合う二人』
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登場人物
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 賀茂保重(かも・やすしげ):
  陰陽寮の頭。

 烏守望次(からすもり・もちつぐ):http://kataribe.com/OM/04/C/0002/
  見鬼な検非違使。

本編
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 保重は腕を組んで溜め息をついた。
「お前も見たのか」
 彼の向かいに座っている望次が首を傾げる。
「お前も、ということは……」
 保重はあぁと頷いた。
「さて、どうしたものか」
 そして、彼は天井を仰いだ。
 二人がいるのは陰陽寮の保重の部屋である。
 望次は数日前に時貞の屋敷の近くで見た女のあやかしについて保重に相談し
に来たのであった。
 外から差しこんでくる光は朱を帯びている。遠くで烏の鳴く声がした。
 隣の部屋からは数名の話し声が聞こえている。望次はその部屋の前を通り過
ぎるときに少し中を見たが、時貞の姿は無かった。中にいた者に問うと妙延尼
のところに行っているらしいという答えが返ってきた。
「祓ってしまうことはできないのですか?」
 望次は保重に尋ねた。
 彼は「できないことはないがな」と言って、苦笑を浮かべた。
「物事には因果があるものと、ないものがあってな」
 唐突に違う話を振られて、望次はきょとんとした表情をする。しかし、保重
はそれに構わず先を続ける。
「例えば、お前だ」
「俺ですか?」
「ああ。何故お前はここに来た?」
 急に尋ねられて、望次は一瞬考える。
「それは…… 時貞の屋敷の近くで出たあやかしのことを相談しに」
「そうだ。そこで、もし俺がお前の話を聞かずに「帰れ」と言ったらどうす
る?」
「どうすると言われても、言われたら帰るしかないでしょう」
「その後は?」
「他を当たってみるか…… 或いは、日を改めてここに来るかもしれません」
 その答えに保重は「そういうことだ」と言った。
「は?」
 そういうことだ、と言われても何がどういうことなのだか分からない望次は
間の抜けた声を出した。
「あやかしの話も同じだ。祓うことはできるが、そこに現れるようになった原
因を取り除かないと、再び現れるかもしれん。そんな堂々巡りを繰り返してい
てはいつまでやっても終わらない」
「ああ、そういうことですか」
 最後の保重の言葉を聞いて、望次はやっと納得の表情を浮かべた。対する保
重は眉をひそめる。
「……分かりづらかったか」
 望次は苦笑した。
「ええ。その話し方は……」
「時貞の真似をしたのだが、やはり駄目だな」
「駄目も何も、あいつの説明はいつも回りくどいですから」
 望次のその言葉に二人して顔を見合わせ笑う。しかし、すぐにその笑みを
引っ込め、あらためて二人は真面目な表情を浮かべた。
「では、どうするのです?」
「本人に心当たりがあれば早いのだがな」
「聞いてみたのですか?」
「ああ、駄目だった」
 保重は顔の前で手を振った。
「聞いてみたが、そんな女に恨まれるようなことをした覚えはないと返され
た」
「ま、そうでしょうね……」
 望次が呟いて、二人は黙り込んだ。
「お前から見てどうなのだ?」
 保重が尋ねる。
「こういうことは案外、本人よりも周りの者の方がよく気付くというではない
か」
「そう言われても……」
 言いながら望次は腕組みをして考え込んだ。
 しかし、すぐに腕組みをほどき首を横に振る。
「いや、そもそもあいつと女の話をすることすらありませんし、浮いた話も聞
いたことが……」
「そうか…… まあ、とりあえず他の連中にも聞いてみるか」
「すいません。よろしくお願いします」
 望次は頭を下げた。
「ああ、これはあいつだけの問題というわけでもないのだ」
 望次が頭を上げると、保重は難しげな表情を浮かべていた。
「どういうことです?」
「鬼が見えないとはいえ、あいつも陰陽師だろう? それが自分の屋敷の近く
に出るあやかしをどうにかできないなんて言われたら困るのだ」
「なるほど」
 望次は苦笑して頷いた。しかし、すぐに訝しげな表情を浮かべる。
「ですが、誰も彼もがあやかしの姿を見られるというわけではないでしょ
う?」
「それはそうだ。だが、そのあやかしの姿を見ることのできる連中の中には法
師がいるのだよ。もしそいつらに知られでもしたら面倒なことになる」
 そう言って、保重は望次の顔を見た。
「まあ、そういうわけだからこちらも動くが、何か気付いたことがあったら知
らせてくれ。おそらく俺たちよりもお前の方が時貞のことは分かっているだろ
うから」
「分かりました」
 望次は真剣な表情で頷いた。保重もうむ、と頷き返す。
「しかし」
 と言って保重は情けない表情を浮かべ、肩を落とした。
「本人が気付いてくれたらこんな面倒なことにならずに済んでいるんだが
なぁ」
「それは言っても仕方ないことでは……」
 ぼやきにも似た保重の言葉に望次は首を振って答えた。
 分かっている、と保重は言い、顔を横に向ける。
 いつの間にか日は沈み、空は濃い紫色に染まっていた。

時系列と舞台
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[KATARIBE 31062] [OM04N] 小説『見つめる人影』の続き。

解説
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本人に知らぬところで悩む人たち。

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