[KATARIBE 31194] [HA06N] 死神の、かなり疲れる一日

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Date: Mon, 2 Jul 2007 23:32:20 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31194] [HA06N] 死神の、かなり疲れる一日
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2007年07月02日:23時32分17秒
Sub:[HA06N] 死神の、かなり疲れる一日:
From:Toyolina


[HA06N] 死神の、かなり疲れる一日
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登場人物
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 死神   あたし。苦労人なのよ。
 品咲渚  今回の死人。っていうか、わかってんだろ、間違いだって。もう。
 蒼雅紫  えーっと。品咲渚の……、え、恋人なの? わ、現世すごい。


----

「そんな、うちは紫を困らせない、紫を一生かけて守るって誓ったんです、う
ちが死んだら、紫が困りそうなとき大変やないですか、大体うち以外に、誰が
紫をずっと守っていけるんですか。なんで、今回のうちの話はなしってことで
お願いします」

 まだ若いものね、二十歳なってないんだっけ。あ、まだ十八?そっか……、
それはお気の毒だわ。
 でも、貴方は今さっき死んだのよ。時間にして三十三秒くらい前にね。いわ
ゆる心停止って状態。お脳はまだ生きてるけど、それも時間の問題。
 今日の死神占い、あんまり良くなかったんだから、仕事くらいはクールにこ
なさいと。
 だから、精一杯の威厳をもって応えることにした。

「それは出来ない」
「そこをなんとか」
「いや無理なんだって」
「クーリングオフ」
「対面販売は……」
「特殊な契約やから適用されるってこの前所長さんがゆってはりました」

 なんだろう、この強気。
 どこかで見たことある気がする。っていうか、あたしのクールさとか、威厳
とか、たった一言で消えちゃったんだけど……。

「死神さんもちょっとくらい優しさとかあるんやったら、うちの小さな誓いく
らい果たさせてくれてもええやないですか。ね、ね。ほら、もし上司の人に怒
られるんやったら、何十年かして、寿命でそっちいったときに謝りますから」

 息継ぎもなしに言い切られた。。
 さすが死人、霊体だわ。呼吸しないで済むものね。それに上司とか、どこで
知ったのかしら、油断ならない子。
 そう感心しつつ、あっけにとられていると、好機と見たのか、畳みかけてく
る。順応早い子ねえ。

「だいたいほら、死にそうな人のとこいって魂連れて帰ってくるだけって、そん
なんガキの使いやないですか。わざわざ死神のお姉さんが出張るほどの仕事
ちゃうと思うんです。なんでお姉さんがわざわざそんな重たそうなカマ持って
あちこち飛び回ってるんかとか、考えたことあります?」
「い、いや……考えたことは……」

 彼女の発する言葉が質量をもって、じわじわと圧迫してくるような。
 前回いつだったか感じた強気は、端的に言い切って、聞く耳持たない感じだっ
たけど……この子は、物量作戦で攻めてくる。しかも聞く耳持ってないのは、
全く同じ。ああもう。
 これもこれで厄介なの。言えば言うほど、理論武装を完成させるタイプ!

「うちは仕事とか一応いろいろ考えたりしてますよ、ほら、学部文学部やから、
今は売り手市場でも3年後どうなってるかわからんし、それやったら手に職っ
ていうか、ちゃんと食べてけそうな仕事せんと、って思って翻訳とか選んでま
すし」

 ううっ。
 まだ少々曖昧にせよ、きちんと将来を考えているじゃない。そんな子を連れ
ていかないといけないなんて……さすがに、悪いことをしている気がする。
 でもほだされちゃダメ。
 悪いのは、あたしじゃない。悪いのはほら、そこで伸びてるコンビニ強盗なん
だから。
 しかし。
 この子はコンビニ強盗のせいで、今こんな状態になっていることなんか、心
底どうでもいいみたい。
 紫って子と離れるのが本当にイヤなのが、もうあちこちから言葉に乗って伝
わってくる。

「贅沢いわんと二人で生きて行けたらそれでええし、あと、足悪くなったとき
に家でお仕事出来るようなのとか、ちゃんと考えてるんですよー。そんなうち
を連れて行ったりしたら、ほら、日本も損失やけど、きっと紫もめっちゃ悲し
むと思うんです。うちのせいで、紫のこと悲しませたりとかしたくないし、そん
なわけでまた今度、寿命んときに来てください。70年くらい後になりますけど、
そんときはお茶くらい出しますから」

 国家の損失とか大きい話を混ぜるのは、この子なりのユーモア感覚なのかも。
 これ、カンサイベンって言うんだっけ、この言語を話す人種は、無意識で笑
いを取るすべを身につけて……紫ちゃん……ああ、今、この子のからだを膝枕
してる子か。手を握って、ずっと呼びかけて……仲いいのね、うらやましい。
 すごく泣いてる。ダメなのよ、こういうの見てると、あたし、自分の仕事に
自信もてなくなってくるんだから。
 だんだんとりとめがなくなってきている思考。視線の先は、膝枕して号泣し
ている紫ちゃん。
 あたしの視線に気づいたらしい。

「ああっ、紫が泣いてるやん、あかん、こんなとこでお姉さん説得してるヒマ
なんてないねん。じゃあねお姉さん」

 言い終える前に、もう戻ろうと。

「こ、こら、まだ照合が済んでないのよッ」

 こっちだって、前回の例があるから、ちゃんと今裏を取ってるっていうのに。
 それに、独りで道もわからないのに戻れるわけもないじゃない。
 ホントにもう、何このデジャヴュ。
 同じ吹利でも、霞ヶ池方面担当だったらウハウハだったのに、キーッ!!

「お姉さんの都合押しつけるつもりやったら、うちかてうちの都合押しつけま
すよ。いつまでもうちが聞き分けのいいええ子ちゃんや思ったら大間違いですー」
「ああもうっ! 待ちなさいってこの小娘! ここでその首落として連れて
行ってもいいんだからねッ」

 いい加減、聞き分けのなさに、いやむしろ。
 仮にも死神である、そう、神なんだ、そんなあたしを明らかに軽んじている
ことに、ムカムカと腹が立ってきた。ちょっと脅してやる。こっちは一応とは
いえ、神様だぞ? そりゃ、あの子が大事で大好きなのはもうイヤんなるくら
い伝わってきてるけど、それとこれとは話が別でしょってなもんだ。

「……やったらええやないですか、どうせうち死んでるんやったら、首とんで
も問題ないしー。もし問題あるんやったら、そんなんやる度胸ないやろしー。
っていうかお姉さんくどいです。うちは帰らなあかんって言ったやないですか。
三回も言わせんといてくださいよ」
(み、見抜かれてる……く……)

 あ、あれ、おかしいな。確かこの子は……一度首狩りの危機に遭ってるって、
資料にあったのに。きっとおびえるって、そこをなだめすかせば、ばっちり説
得出来ると想ったのに……あれ?
 すっごい冷たい目で、こっちを見てくる。
 なんだろう、そういえば。
 この言語を話す人種は、売られたケンカはきっちり買うタイプが多いって。

「お姉さん、運命の相手とか、会ったことないんちゃいます、もしかして。
そんなんあるわけないやん、とか思ってません? あるんですよ、まじで。
うちにとっては紫がそうなんです」

 な、何言い出すのこの子……ああ、この惚気っぷりって……
 この前の刑事のあいつ、あいつの同類?

「ええですよ、ほんまに。ドキドキと安らぎが同時にくるっていうか」

 まずいまずい、この流れはすごくまずい。それに、紫ちゃんって女の子じゃ
ない。貴方も女の子よね、どういうこと? っていうより、あ、何その瞳……
潤んでる、あ、これダメ、絶対ダメ。さっきの冷たい視線と全然違うじゃない。

 やっぱり。

 二十分くらい、惚気が続いた。途中、はにかんだり照れたりしながら、話し
たりするあたり、やっぱり高校卒業したてで、背伸びしてるけどまだまだ可愛
いところがあるな、とか。観察する余裕も少しはあった。
 それでも。

 笑顔がすごくまぶしくて、それだけでイヤなこと全部消えちゃうの。
 髪の毛、すっごくさらさらで指通りよくって、もうさわってたらイヤなこと
全部消えちゃうの。
 風邪ひいたときとか、一生懸命おかゆつくってくれて、ふーふーして、あーん、
ってしてくれるの、すっごく優しいの。
 水着もすっごく似合うの、セクシーなんとか、かわいいのとか、素材がもう
最高やから、何着ても似合うの、でね、うちのセンスがいいからです、って、
もう本気で言ってくれるの、優しーやろ? もうね、うち、あの子にメロメロ
なん。あの子にやったらうち……キャー!!

「はあ……」
「それでね、それでね、去年のクリスマスにね、初めてあの子とキスしたんで
す、こう、ほっぺたに手ぇ当てられて、そのまま唇を……」
「……うん、私的には、すごく同情する。私的にはね……あと、ラブラブなの
もよくわかった。お幸せに。私的には」

 くどいほど、私的な感想だという点を強調しておく。
 そう、ここだけははっきりしておかないと……職務怠慢と想われても困る。

「わかってもらえて、うちも嬉しいです、ほな」
「ああっ、こっちがわかったんだから、あんたもわかれよ!ちょっとは!」
「えーっ。お姉さんの事情も汲んだし、うちの事情も今話したとおりやし……
これ以上は落としどころあれへんやないですかー」
「うっさい、もうちょっと人の話を聞けッ! はよ戻りたい気持ちはわかるけ
ど、今のまんまじゃ戻れないの!」
「お姉さん、ちょっと言葉移ってはる」
「くわっ!!」
「わかりました、ほなもうちょっとだけ話聞きますけど、なんかそれでうちに
メリットあるんですか?」

 く……なんだこの敗北感……。
 まあいいわ。
 あたしはこの生意気な小娘に、魂のルールとやらについてかみ砕いて説明し
てやることにした。

「はあ、つまり、今のうちの魂は、うちの意思とかきっぱり無視して、お姉さん
が何故か管理してはると」
「そ、そうなのよ。いちいちトゲの刺さる子ね」
「後見人でもないのに管財されても、そりゃ困りますって」
「気持ちはわかる。私的にはね! でも、しょうがないじゃない、あたしが決
めたんじゃないんだから、あたしだって色々あんの!!」
「はあ、やっぱ苦労してはるんですね、現場は大変や」

 なんだろう、この切なさ。
 なんで同情されてるんだ、あたし。もうやだ。

「それでね、貴方の魂を、貴方の管理下に戻すときに、ちゃんと時間は上手い
具合に調節できるんだから、ここで時間食ってるのがイヤだって思うだろうけ
ど、実害はないの」
「はあ、でも住民税とかトントンやーって言っといて、減税なくなってるから
実質増税みたいに」
「ああもう! もうすぐ照合結果くるから! ちょっと黙ってて!」
「はーい。ああ、紫、待っててね、もうすぐ帰るからね。ごめんね、紫のこと
泣かせたりして、うちってほんまダメな子。もっと道歩くときとか、気をつけ
るようにするからね」
「……」

 なんだろう、この圧倒的な敗北感。
 まあいいや、もう。
 わかってるんだ、どうせこれも間違いだってんだろ、わかってんだよ。
 もういいや。今日は定時で上がるんだから。課長の抜け毛が増えても知るかっ
てんだ。

「あ、なんか蝙蝠きましたよ、あれちゃいますん。うちの帰ってええよ許可」
「そんなんじゃないっての、はぁ……おつかれさん。で、どうだって?」
「キィキィ」
「あー、やっぱな。ダメだな、ホント20年からやってるくせに……いいよ、も
う戻っても。うちのダメダメ事務屋の入力ミスでした、はぁ」
「やったー。って、ほんまに今戻って大丈夫なんですよね? いやですよ、現
実ではもう、五分以上たってて、うち脳死とか」
「三十秒くらいで戻してあげるってば、ほらほら」
「ほなね、お仕事おつかれさまです。紫、ごめんね、今戻る」

 ぽん、と音を立てそうな勢いで、元死人の彼女は去っていった。
 せいぜい、あんたらのラブラブなとこでも見て、あたしはため息ついて帰る
ことにしますよっと。

----

「いやです、渚さま、目を開けて……渚さまっ……」

 ショックによる心停止と言ったところだろうか。これがビルやら駅やらの、
公共施設だったら、AEDでもう蘇生していたかもしれない。
 しかし、ここはただの歩道だ。コンビニまで10メートルほどの。
 運悪く、逃亡をはかったコンビニ強盗に、この子は友達と歩いているところ
に出くわし……運悪く、突き飛ばされて、路上で頭を打った。
 コンビニ強盗は、一緒にいた友達が、まさに一瞬の達人技で突き飛ばして、
石垣にたたき付けられて、そこで伸びている。

「いやです、一緒に、ずっと一緒にいるって……二人でずっと……言ったのに
……渚さま、渚さまっ!」

 こんなとき、どう声をかけていいかわからない。
 だから、しがないコンビニ店員のオレに出来るのは、救急車と警察を呼んで、
犯人をガムテープでぐるぐるまきにするくらいだ。

「……っ、あ……ぅ……かり……?」
「み、渚さま……? 生きて……うわああああん!!」
「ごめんね……あいたた……心配かけた……」
「だ、だめです、動かれては……今、今救急車がきますから……病院に……一
緒に……」

 どうやら、気絶していただけらしい。ただ、頭を打ってるから、検査は必要
だろう。泣いていた友達も、嬉しそうだ。良かった。本当に良かった。犯人も
捕まえたし、店の損害もないし。

 やがて救急車がやってきて、二人を乗せて行った。
 少し遅れて、パトカーがやってきた。
 オレはコンビニ強盗を引き渡して、事情聴取とやらに応じて。

 後日、SVから表彰状と、金一封もゲット出来るだろう。
 いや、強盗とあの子には悪いけど、いい一日だった。
 最近バイトだるかったんだけどな、こういう日もあるなら、もうちょっと続
けてみてもいいや。


時系列と舞台
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 2007年7月


解説
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 ERさんの死神の話がおもしろかったので、みぎゆかに遭遇させてみた。
 死神さんはめげずにお仕事がんばってほしい。


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Toyolina 


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