[KATARIBE 31155] [HA6N] 小説『我侭の表現法(上)』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Mon, 25 Jun 2007 23:19:54 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31155] [HA6N] 小説『我侭の表現法(上)』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200706251419.XAA09263@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 31155

Web:	http://kataribe.com/HA/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/31100/31155.html

2007年06月25日:23時19分54秒
Sub:[HA6N]小説『我侭の表現法(上)』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
なんかこう……毎度毎度、なんですが。
ちょっとわけありで、珍しく三人称の話です。
***********************
小説『我侭の表現法(上)』
=========================
登場人物
--------
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事課巡査。真帆にはめっさ甘い。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。 

本文
----

 もともと、非常にモテる人だというのは、真帆にしても良く判っている。女
性には無論のことながら、特定の男性……それもどちらかというと世話焼きの
男性……にモテるタイプなのだ、と。

 それにしても、それをあからさまに示すことはない、と、真帆としては思う。

            **

 数日続いた午前様、そして一日の不在の後に。

『真帆、今日、こちらに出て来れない?』
「え?」
 午後5時。まだ明るい時刻に、やっぱり明るい声でかかってきた電話に、真
帆は思わず聞き返してしまう。
「こちらって……」
『かんくさん。仕事ケリがついたから、一緒に呑もうってさ』
「いいの?」
『いいよ』
「わかった。すぐ……とはいかないけど、この子達にご飯用意したら行くから」
『待ってるから』

 背景のざわざわという音。その中に、確かに聞いたことのある声が幾つか混
ざっている。ちょっと笑って、真帆は棚の上の財布を手に取った。


 あとの4匹を宥めて、一応ご飯を並べてやってから家を出たので、結局真帆
が『かんくさん』に着いたのは、それから結局一時間ほど後である。

「真帆、こっちこっち」
「はい……あ、こんにちは」
 こんにちは、と、笑ったのは本宮の兄のほう、その横でどうも、と、頭を下
げたのはその弟。相羽を挟んで反対側に座って、やはりちょっと頭を下げて挨
拶してきたのは髪にきつい癖のある男性。相羽の同期の友人で、片桐、と名乗
られたのは、今年の初めである。
 向かいの席に座るのを待ちかねたように、声がかかる。
「何頼む?冷酒?」
「あ……あ、はい」

 テーブルの上には、既に大方空になった皿が幾つか。そしてやはり空になっ
たグラス。

「お仕事、けりがついたんですね」
「やっとね」

 今日は茄子と冬瓜が美味しかったですよ、と、本宮(兄のほう)が言う。じゃ
それ御願いします、と、真帆が答える。
「あと、イサキが旨かったよ」
「これもどうぞ」
 先に冷酒が届き、ひょい、と、受け取った真帆の前に、黒ずんだ肉の入った
鉢が回ってくる。
「これは?」
「黒酢豚。結構さっぱりしてますよ」
「えー」
 何故か、異議あり、の声が相羽からあがる。
「えーって……相羽さん食べたの?」
「食べてない」
 きっぱり言い切った相羽に、左右から突っ込みが入る。
「そういうのは食わず嫌いって言うんです」
「ほれ、ちゃんと食わんか……すいません奥さん」

 はい、と手渡された鉢から、片桐が強引に相羽の皿によそいいれる。

「えー」
「食え」
「あぶらっこそうじゃん」

 そうかなあ、と、真帆は一つつまんでみる。
 揚げてある割に、酢を使っているせいか、案外さっぱりめではある。

「史の字、これ食わない?」
「こちらに廻してどうするんです……ほら、ちゃんと食べてくださいよ」
「えー」

 何となく無言になった真帆と豆柴……もとい和久の前で、三人は矢継ぎ早に
言葉を交わしている。新しく頼んだ肴を真帆に廻して、片桐が受け取る。
「ほれ、皿を出せ」
「食えないよ」
「好き嫌いせんと食わんか、さっさと」
「同じ揚げたのなら、茄子のほうがいいよ」
 さっと箸が動いて、他の人の皿の上をかすめる。
「先輩っ」
「お前は子供か」

 どんどんと、会話が進んでゆく。
 打ち上げなのだろう、何だか良く判らない言葉も混じる。守秘義務を逸脱す
るほどのことではない、と、判ってはいるものの。

「真帆、これ旨いよ」
「あ……ありがとう」

 言いながら、でも本人の皿の上には、片桐と本宮がどんどんと載せてゆく。
それを互いに不自然と思っていないというか、それがかなり普通なあたり。

(甘えないって……言わなかったかなこの人は)

 自分が過剰に反応している……という自覚も、多少はある。周りが甘やかし
上手である、という気もする。
 それにしても。
 
(そういうの平気……って)

 打ち上げなのだ、と、真帆は思う。
 打ち上げ……つまり、仕事は終わって、その『終わり』を互いに確認する時
なのだろう、と。

(つまり……あたし完全に場違いじゃないの)

 仕事のことには、真帆は口出しできない。そのことは互いに判っている。
 けれども。

(今もだから、仕事の続き、で)
(だからこの二人がどんどんと世話を焼いてて)

 符号のような会話。
 そのような会話を、真帆も時折小耳に挟むことがある。眠りかけた時、食事
が終わって新聞を読んでいる時。けれどもそれらは、自分とは関係がない……
否、関係があってはならないことだと判っている。
 だから聞かない。調べることも訊くこともしない。
 そのような符丁の破片が、でも今目の前を……間遠にではあっても飛び交っ
ている。結局はそれでうまくいったこと、そういうことの……互いに判ってい
るから、それ以上の言葉を必要としない会話。
 それと同時に、本宮が烏龍茶を頼み、空になったグラスを取り替える。片桐
が、新しい取り皿にイサキのソテーを取り分ける。

 多分、そういう風に。
 学生の時分からやってきたのだろうと、そう思わせる自然さで。

 ここは、まだ仕事の範疇、そういう時間。
 故に。
 自分のやることなど……何も無い。

「……」
 グラスを一息で空ける。取り皿を空にする。
 そして真帆は、すっくと立ち上がった。

「真帆?」
「打ち上げに部外者って、似合わない」 

 言いながら、財布を引っ張り出す。自分の食べたと思しき分をさっと席の前
に置いて。
 そして真帆は、にっこりと笑った。

「ゆっくりしてきて下さいな、相羽さん」
「え?」 
 きょとん、とした相羽の声を、ある意味わざとらしいくらいに無視する。つ
いでにあ、と、小さく呻いた史久のほうも綺麗に無視して。
「本宮さん、片桐さん、ま…和久君も、あとは宜しく」 
 ひらひらと手を振って、あとはそのまま出てゆく。後には、依然としてきょ
とんとしたのやら頭をかかえたのやらが、残っていたりする。


「……なんか奥さん、怒ってなかったか?」
「え……」
 途端に不安げになって立ち上がりかけた相羽を、とりあえず自分の取り皿の
くらいは食べてください、と一度座らせて。
「ああ、片桐さんもう一杯いきますか」
「おう」
 暫くの……間。
「ちょっと、先に帰るわ」
 かたかた、と箸を動かして、皿を空にして。
「……ええ」

 心配と気がかりと、その他もろもろを一気に顔に出した相羽が、じゃあ、と
そのまま帰ってゆく。

(でも先輩、判ってないんだろうなあ)
 それが判るくらいには……彼らも互いに付き合いは長いのである。

             **

(なんでああいう場所に呼び出すんだっ) 
 そもそも、真帆の足は速い。
 歩きながら本を読んで、それでも後ろから追いかける友人が『あんた足速す
ぎ、追いつけないでしょ』と文句を言うくらいだ。だから本を閉じて歩くとな
ると……それはそれなりの速さになる。
(気がついてないし)
 きょとん、とした表情が何を意味するかくらいは、良く判る。
(……相羽さんの……莫迦っ!) 
 ずかずかと前進して、その勢いのまま鞄の中を探り、鍵を開ける。
「ただいまっ!」
「きゅうううっ!」
 とたた、と走ってきた雨竜が……ふと、そこで急停止した。
「きゅ」
 まん丸な目をしてこちらを見上げる小さな竜を見た途端。
 ぽろ、と、真帆の目から涙がこぼれた。


時系列
------
 2007年6月頃

解説
----
 なんでどうして、ここんちの二人は、旦那もしくは嫁と、同性の相手に妬く
ことになるんだろう、と思うわけですが。
*****************************

 いやつまり。
 真帆が出てってすぐの風景を描写するには、やっぱり3人称じゃなきゃあ、と。

 ……つまり後半、案外また1人称かもという(えう)

 訂正、問題点、など、よろしくですー>ひさしゃん




 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/31100/31155.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage