[KATARIBE 31150] [BZ01P]エピソード『足長ダンディ』

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Date: Mon, 25 Jun 2007 16:39:36 +0900
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ども、本日二回目の登場、ナギィです。
焔の契約を見越しつつ、設定だけだったお父さんを出してみました。
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エピソード『足長ダンディ』
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登場人物
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赤坂渉:苦学生掃除屋。全然怪しくない。
海岡焔:フェロモン料理人。ちょっと妖しい。
紳士:タキシードを着た紳士。ものすごく怪しい。


夜空は遠く、人は小さく
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 屋台。その一言には、どことなく賑わいと和やかさの匂いがする。
 中洲に居を構える屋台は数多く。その中でもここ、『夜空』は一流店だ。
 そこに集う酔客の間にひとり、冴えない少年が居心地悪そうに座っていた。

 渉      :「(慣れないなあ)」
 お客さんたち :「おとついの九門は良かったッタイ。閑古鳥強し!」
 お客さんたち :「あの心桜って小娘も良かね。きぃやぁぁぁ、ってか?」
 お客さんたち :「そげん気色悪い声出して、焔ちゃんが怖がるったい」
 お客さんたち :「そげんことなかよ。ねぇ、えぇーんーちゃぁん?」
 焔      :「はいはい。麦茶出しとくけん、落ち着きんしゃい」

 さらりとあしらわれ、がっくり凹む常連客。がははと笑い声が弾けた。
 猥雑で、乱雑で。ごちゃごちゃという形容詞がぴったり合った空間。
 渉はそこに、全く馴染めていないのだった。

 渉      :「(大体、屋台で買い食いするお金だって)」
 焔      :「はい赤坂クン。炒飯余ったから食べてよ」
 渉      :「ちょ、海岡さん。まずいですよ」
 焔      :「よかよか。気にせんと食べな」

 はい、と炒飯の小皿を置かれ、渉は恐る恐る周囲を見回す。

 お客さんたち :(じいいいいいいいいいいいいい)
 渉      :「(だ、だからまずいんだああ)」

 分かっている。焔の行為は、可愛い後輩に何かと世話したいだけだとは。
 だがその行為は同時に、常連客の嫉妬心と猜疑心を掻き立てる。確実に。
 しかし、今現在、とても空腹なのも確かである。だから、食べてしまうのだ。
 一口、含んで。

 渉      :「ふうう」
 焔      :「どげんしたとね、そんな疲れた声出して」
 渉      :「あ、いや。海岡さんの料理が美味しすぎて、つい」

 渉の台詞は嘘ではない。でなければ、この繁盛具合は説明できない。
 焔は、この店で主に焼き料理を担当している。誰もが認める料理の腕。
 それを支えているのが、彼女の身にまとうエプロン。彼女の縁具である。
 ただし、そのエプロンには、男として決して見過ごせない副作用もあり……。

 焔      :「ふー、あつかねー」
 渉      :「(う……)」

 エプロンの胸元をはためかせる焔。深く長い谷間に、男たちの視線が集う。
 上着を吸収する。それがエプロンの効果。だから、その下は素肌なのだ。
 艶気を爆破させるという縁具の能力を考えても、あまりにも奇異な副作用。
 ついつい視線を誘導されるのを必死に我慢して、渉は話題を逸らしにかかる。

 渉      :「そういえば。海岡さんの縁具ってどこの物なんですか?」
 焔      :「んー。中華、なのかな。よくわからん」
 渉      :「わ、わからんって」
 焔      :「お父さんから貰ったやつだから。あ、麦茶いる?」

 流れるような接客。場慣れした焔の前には、唯々諾々となるしかなく。
 だが、こんな縁具を娘に渡す父親。親の顔を見てみたいとはこの事だ。
 さぞかし猿顔の男なのだろう。そんな事を思いつつ、視線を逸らし。
 ふと、電柱の陰に立つ人影に気づいた。

 紳士     :(じいいい)
 渉      :「(こんな場所にタキシード姿? 怪しい……)」
 紳士     :(じいいいいいいい)
 渉      :「(こっちを見てる? いや違う。この視線は)」
 紳士     :(じいいいいいいいいいいいいい)
 渉      :「(海岡さんを狙ってる。間違いない、ストーカー!)」

 その瞬間に身体が動いたのは、焔への少しばかりの恩義の為だろうか。
 突き出した手の甲。刻まれた契印が、まばゆい光を放つ。
 召喚された女性の手には、鈍く光るライフルが一丁。
 遠慮はしない。謎の紳士を指差し、叫ぶ。

 渉      :「アイカ、撃て!」

 SE     :ぱぱぱぱぱん!

 紳士     :「ぐふ」
 お客さんたち :「な、何だ?」

 騒然となる屋台から飛び出し、渉は紳士の元へと迫った。
 足元を狙われ転んだ紳士の口に抜き放った銃を突っ込み、動きを抑える。
 あが、と口を開いたまま、涙目になる紳士。その瞬間、背後で大きな叫び声。

 焔      :「お父さん!」
 渉      :「へ?」

 あっけにとられた渉は、嫌な予感を感じつつ、紳士に目で問いを発する。
 こくり、とうなずく紳士。次の瞬間、彼は白目を剥いて倒れたのだった。

父からのプレゼント
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 夜は更け、中州の街はさらに輝きを増す。
 その一角、屋台の隅で、紳士が大きく息をついていた。

 紳士     :「ああ怖、死ぬかとおもったですよ」
 渉      :「いや、その、すいません。てっきり」
 紳士     :「てっきり?」
 渉      :「ええと、海岡さん、ビールお願いします!」

 こういう時は、うやむやにするに限る。
 しかし、怪しい視線はともかく、紳士、もとい焔の父はとても礼儀正しい。
 あの怪しい行動がなければダンディなのに。どこかおかしいのは父娘同じ。
 そんな娘の方は、縁具を召還し、休憩時間に入っていた。

 焔      :「はいビール。あたしも飲んで良か?」
 渉      :「い、いいんじゃないすか?」
 焔      :「ふう。で、父さん、何の用とね」
 紳士     :「用がないと、愛娘に会いに行っちゃいけないのかい?」

 憂うように目を伏せる紳士の横顔は、男性としてはとても格好いい。
 だが。父としてあの行動はどうなのだろう。そう思って仕方ない渉だった。
 焔と紳士の間に流れる、気まずい沈黙。それを破ったのは、拍手の音だった。

 紳士     :「そうだ。今日は焔にプレゼントを持ってきたんだ」

 そう言って紳士が取り出した箱。その中には、二本の鞘があった。

 焔      :「これ、何?」
 紳士     :「『蒸艶包丁』、縁具だよ」
 渉      :「(艶……またなのか、またなのか!)」

 ここで声に出して言えない所が、渉の渉たる所以である。
 渉が見守る中、包丁を手に取った焔は、すらりと中身を抜き放つ。
 電灯を反射する刃。ゆるやかに波打った刃の連なりは、どこか妖しい。

 焔      :「飾り包丁とか、細工用みたいやけど……」
 紳士     :「それと契約すれば、蒸し料理の達人になれるんだ」
 焔      :「え、ホント! そげんことは早う言ってくれんと」

 態度を一変させた焔に、微笑む紳士。和らいだ空気に、取り残される少年。
 どう考えても、その縁具名は危険すぎる。やめた方がいい、そう思うのだが。
 乗り気の焔に、それを伝える手立てがない。これも、渉が渉たる所以である。

 紳士     :「焔。この中州の街で、一番の料理人になるんだよ」
 焔      :「分かっとる。お父さんには負けんけんね!」

 最後はまるで感動親子劇場。渉はただただ、取り残されるしかないわけで。
 夜の屋台にはつくづく似合わない。それが、赤坂渉という人間なのだった。

時系列と舞台
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夕方から夜にかけて。屋台『夜空』の付近。
解説
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屋台『夜空』の常連客にされてしまった渉。彼は、ふと謎の人物を見つけ……。
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……それなりに、良い関係じゃないですか、うん。
わたるん借りたので、Kisitoさん、後で台詞チェックお願いしますねー。 

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