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Date: Sun, 24 Jun 2007 22:30:26 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31141] [HA21N] 小説『狂気思念公園』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2007年06月24日:22時30分25秒
Sub:[HA21N]小説『狂気思念公園』:
From:いー・あーる
ども、いー・あーるです。
見たんです。見たんです(ふ)<なにをだなにを。
というわけで、こういう断片です。
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小説『狂気思念公園』
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登場人物
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平塚花澄(ひらつか・かすみ)
:鬼海の家在住。四大に護られる血筋の持ち主。
平塚火夜(ひらつか・かや)
:火に護られる血筋の一人。英一の妻。
今宮タカ(いまみや・たか)
:流れを見て操る少女。多少不思議系。
軽部片帆(かるべ・かたほ)
:壊れてしまった者。竜に心を移す異能が顕現。
本文
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その遠慮がちな声がする前から、花澄は何となくその先を読んでいた。
「お義姉さん」
「……片帆ちゃんのこと?」
ええ、と、火夜は肩を落とした。
何度も片帆の話は、その姉から聞いている。
異様なほどの記憶力。そしてどこにでも「居ても不思議に思われない」存在。
最初の頃はものを食べる度に吐いていたが、安西の治療の後は、不思議にそ
の弊害は無くなった。
それでも無論、食べる量はたいしたことはなかったが、それでも目の前に置
いた食事をある程度自分から食べるあたり、手間のかからない『患者』である
のは確かである。
「何か、あった?」
「テレビ……見てるんです」
深刻な口調に、花澄は目をぱちくりさせた。
「駄目?」
「駄目じゃないですよ」
来た当時は、本当になにもせずにぼーっと座っているだけだったのだ。テレ
ビを自分から見ようとするなら、それは大幅な進歩である。
「でも……それが夜中なんです」
「夜中?」
火夜がそのことに気がついたのは、ご飯の後、花澄が自室に引き取った後の
ことらしい。腕に金平糖を抱きかかえた片帆をそのまま、英一と一緒にテレビ
を見ていた時に、ある法則の元に片帆がテレビを見ることに気がついた、のだ
そうである。
『アニメなら、見るんです。片帆さん』
『ニュースとか、実写……っていうとおかしいか、普通の人がやってるテレビ
だと、ただぼんやりしてるだけなのに』
『アニメだと、視線が違うんです』
好奇心旺盛、と、真帆は妹を称して言ったことがある。
好奇心旺盛で……でも案外人付き合いはへたくそだ、と。
つまりそういう、ことなのだろう。
「夜中って……あの部屋で、一人で?」
「ええ」
鬼海の家は、その家自体かなり古くて広い。テレビはその中に一台しかない。
従って、もし夜中に片帆がテレビを見ているとしたら、そのテレビは、所謂お
茶の間のテレビでしかない。
「それも、灯りとかつけないで」
「……それは、ちょっと怖いわね」
電気代がどうこうなどと言う積りはない。そもそもそういうことを気にする
なら、彼女を引き取ってなどいない。ついでに部屋はどう考えても、今の住人
に対して多すぎるくらいなので、たとえテレビを夜中つけっぱなしにされても
余程大音量で見ない限りは、迷惑にもならない。
電気代を……もしかしたら、片帆は、その得体の知れない意識の底で、そう
いう心配をしているのかもしれないが……心配されるよりは、明るいとこで、
ちゃんと判るようにテレビを見て欲しいものだ。
「でも、夜中とは考えたなあ」
「結構アニメが多いですものね」
玉石混交。要するにコアな視聴者層(それも大きなお友達)を相手にしそう
なアニメが夜中に回る。一部は所謂ところの『18禁』的なものだが、そうで
もないものも確かにある。
「でも、片帆ちゃんの見てるの……相当怖いです」
「例えば?」
「それが…………」
眉をしかめながら火夜が告げた題名に、花澄の眉も大きくしかめられた。
**
「アンザインのおにーちゃん、今日は来ないね」
公園のベンチに座って、タカは足をぶらぶらと揺らす。傍らに座った女性の、
その腕に抱かれた大きなトカゲ……というか小さな竜、はこくこくと頷いた。
ぼんやりと座る片帆の隣に座って、時には半時間、時には2時間ほどを過ご
すのが、最近のタカの習慣になっている。
「きうるぅ」
硬く焼いた焼き物がぶつかり合うような高い声で、小さな竜が答える。花を
主食とするこの小さな竜は、食べた花の色に染まる。今は、どうやら紫陽花を
食べたらしく、ほんのりと青い色に染まっていた。
「どの音楽がいいかなあ」
いつも足元に置いてあるCDラジカセをいじくる。音源を持ってきてはいる
が、今日に限って、片帆は手に取ってみるものの、どれも選ばない。困ったな
あ、と、タカが首をすくめた時に。
ふい、と、細い指が伸びた。
「?」
指は、かちりと電源を入れ、モードをFMにする。暫くチャンネルをくるくる
と……まるであても何も無いように動かしているうちに、ふっとその手が止まっ
た。
「……え?」
一瞬の空白。そして数拍分のまるでオペラのような声。
そして。
すい、と、片帆の背筋が伸びた。
とても明るい曲だった。
とても明るいつかみの部分だった。
でも。
聞き取り難い歌詞のどこかに、ひどく狂った部分があるように思えた。
まるで、頭を叩き割られた人が、ころころ笑っているような。
片帆は、歌っている。
歌う口元が、三日月の形に曲がる。
笑み、と称するには、あまりに記号的な、そして記号というにはあまりにはっ
きりとした笑みの表情で。
ラジオからの音は迷いが無い。
片帆の声も、迷いが無い。
ぴたりと沿った声は、まるで狂気を増幅するように片帆の口元から伸びてゆ
く。ぼんやりとしか聞き取れない筈の歌詞を、片帆は確実に言葉で追ってゆく。
彼女の口元から、同時に流れてゆく鮮やかなサイケデリックな色の本流。
腕に触れて、タカは、鳥肌が立っていることを実感した。
それでもラジオの音楽はすぐ終わり、そのまま他の曲に変わろうとする。ほっ
と息を吐きかけた、タカの目の前で。
かちり、と、また片帆の手が伸びた。
電源を切ったと同時に、片帆の口から、先程と全く同じ曲が流れる。音程は
正しく、言葉に狂いも無く。
そしてそれゆえに、狂いは増幅されてゆく。
(とてもとても綺麗な赤)
(とてもとても綺麗な黄色)
(とてもとても綺麗な紫)
そしてその絶妙な……ぞっとするような配色の流れ。
膝の上で、ぼんやりと青紫に染まった小さな竜は、やはりどこかぼんやりと
座り込んでいる。紫陽花と同じ色に染まった目の焦点は、ぼやけて合うことが
無い。
反対に片帆は笑っている。
笑いながら歌っている。
微塵もそこに、狂いはなく。
故に、全てが狂っている……と。
(怖い)
肩の上で、すう、と、みやまが身を伸ばす気配があった。
その気配に縋るように、タカはかたかたと震えた。
日差しはこれが梅雨かと思うほどに明るい。
空には雲の一つもない。
その明るさにぴったりの明るい声が、片帆の口から放たれている。
その、異常さ。
ふ、と。
目の前で、その狂気の奔流が急激にその速度を落とした。
すう、と流れは細くなる。
気がつくと片帆の声はその残像を残すのみで、彼女はまだ笑った口元のまま、
それでも声自体は止めているようだった。
視線は静かに、足元に落ちている。
と。
ざっと音のする勢いで、片帆はタカのほうを見た。
笑ったままの口元もそのまま、少し細めた目元もそのまま。
そして………
にっっ…………と。
笑った。
**
「それが……多分、深夜の再放送だと思うんですけど、『妄想代理人』」
「……ああ」
「それの、オープニングの曲を、片帆ちゃん一緒に歌ってたんです。細い声で」
「…………」
軽く眉をしかめた花澄に、火夜が恐る恐る声をかける。
「片帆ちゃん、大丈夫でしょうか」
「大丈夫かどうかというなら、最初から大丈夫じゃないわ」
ある意味身も蓋も無い言いように、うっと火夜が言葉を詰まらせる。それに
はあえてかまわずに、花澄は言葉を続けた。
「狂気のはけ口として、音楽ってのは……いいんだけど」
あごの先を、細い指で何度もはじきながら、ぽつりぽつりと花澄は言葉を紡
ぐ。自分のまだ途絶え勝ちな思考を整えようとするように。
「狂気のはけ口として、狂気を感じさせることを眼目にした曲を使うって……
それ、いいのかしらね、悪いのかしらね」
言われたところで、火夜は困惑するばかりである。ああ、と気がついて、花
澄は苦笑した。
「いいわ。どちらにしろもう、片帆ちゃんはあの音楽をしっかり記憶しちゃっ
たでしょうから。今更見せないようにしても大して変わらないわよ」
「……ええ……」
ただ、と、花澄は頬杖をつく。
「タカちゃんには……怖いかもね」
時系列
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2007年6月あたり
解説
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まさに、その曲を聞いて浮かんできたシーン。
21の日常というか断片。ちょっと狂気味。
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てなもんです。
であであ。
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