[KATARIBE 31130] [BZ01N]夜、ある公園にて

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Date: Fri, 22 Jun 2007 18:32:52 +0900
From: Subject: [KATARIBE 31130] [BZ01N]夜、ある公園にて
To: 語り部 <kataribe-ml@trpg.net>
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液体窒素です。
御風さんの戦闘シーン。
うー、脳内だといい感じに動いてくれるのに…

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それは御風が今晩の寝床を探しているときに起きた。

事前に目星をつけた公園に向かった彼女は公園の中央に人がいることに気づ
いた。
他に気配はない。
彼女はゆっくりと公園に入り、中央付近へ近づいた。

男である。
短髪で痩せこけた顔に、ぎょろりと飛出ている血走った目が特徴的である。
身長は御風とあまり変わらないだろう。

男は近づいた御風を見ると、身体を小刻みに揺らした。笑っているのである。

「クハハハハハッ!! やっと見つけたぜぇ」

笑っていたかと思えば、次の瞬間には御風を睨みつけていた。

「あのときの借り、返させてもうからなぁ」
「…あのとき?」

おそらくは仕事関係だろう。別に今回のようなことは珍しくはない。
最近ではあまりなかったが、以前は寝込みを襲われることなどは日常茶飯事で
あったぐらいである。
そんな彼女に「あのとき」と言ったところで覚えているはずはない。
いや、覚えがありすぎて、どの「あのとき」なのかわからないのが正直なところだ。

そんな彼女の疑問を挑発だとでも思ったのだろうか、男は声を荒げた。

「ふざけんじゃねぇぞ!! 関東での俺の計画を邪魔しやがって! おかげであ
の金持ちくそジジイから金目のもん巻き上げるを失敗しちまったじゃねぇか! そ
れどころか見ろよこの耳を! てめえに切り飛ばされたんだよ!」

そういって左側頭部を向ける男。
確かにそこにあるはずの耳は、鋭利な刃物で切り飛ばされたかのようになくなっ
ていた。

が、彼女はそんなものには目もくれず、男が言った「あのとき」のこと思い出す。
関東、金持ちのジジイ、切り飛ばした耳…

「…ああ、あのときのやつか」

あれは2年ぐらい前だろうか。
そのとき関東の特区を放浪していた頃、ある老人に用心棒の仕事を依頼された。
仕事柄、深いところまでは聞かなかったが、急なことなので特区警察はあてにな
らない、しかし今晩誰かが彼の家にやってくるかもしれいから、そいつを追い払っ
て欲しい、というものであった。

かくして彼の屋敷に着いたその晩、老人の言うとおり部下を二人つけた男が現れ
た。それが目の前の男である。
無理矢理押し入ろうとしたので部下の二人を戦闘不能状態にして追い払おうとし
が、諦め悪く食って掛かってきたので耳を切り飛ばしたのである。
男は縁主ではない。
故に彼女は縁具を召喚せず、左腰に下げた仙酔花を使い短い戦闘を終えた。
男は斬られた部分を手で押さえると、部下を置いて逃げていった。
それだけである。

言われてみれば、あのときよりも痩せてはいるが確かに特徴は一致する。

「わかった。あのときの男か」
「ようやく思い出してくれたかい… へへ、今度はあんときのようにはいかねぇぞ…
…!」

瞬間、男に変化が起きた。
細身であった男の体が膨れ上がったのである。
特に両腕の変化が甚だしい。
丸太のような太さにまでなった両腕からは、外側に向かって何本もの「角」のような
ものが生えていた。

「ガアァァァッ!」
「…崩主か」

男の目からは完全に理性の色はない。

「仕方ない」

男が「人間」のままであれば、仙酔花で殺さずに追い払えただろうに。
御風は一瞬、悲しげに目を伏せるも再び前を向き、右手を横に伸ばした。
と、右手甲の印が淡い光を放ち、同時に伸ばした先の空間にひびが入る。
そのひび割れた先の空間から現れたのは、一振りの刀であった。
柄、鍔、鞘と彼女のコートと同じ淡い紫色。
刀は音もなく彼女の手に収まると、彼女はその鞘を一息に払った。

「…来い」

右手に刀を握った御風は特に構えらしいものも見せずに、崩主に変わり果てた男
を見据えた。

崩主が突撃してきた。
しかし尋常な速さではない。
普通の人間が見れば、それこそ一瞬で御風との距離を埋めたようにしか見えない
だろう。
そしてそのままの勢いに、異様なその腕で拳を繰り出した。

ドォーン

何かが爆発したような音ともに周囲に衝撃が広がる。
その衝撃の中心。
果たしてそこには変わらない御風の姿があった。

放たれた拳は、刃先を下に向けられた状態の刀身で止められていたのである。

「この程度か?」

衝撃にな髪とコートをなびかせた御風は、普段と変わらない口調で言った。
本能的に何かを感じ取ったのか、崩主は一度距離を取る。
…がしかし。
バックステップで距離をとったはずなのに、未だ目の前に御風がいた。
蒼花流剣術にはいくつかの歩法が存在する。
彼女が今使ったのはそのうちの一つ「遠歩法」である。

「!?」

回避行動を取っていた崩主になす術はない。
下段から伸びた銀の軌跡に、崩主の左腕はたやすく切り落とされた。

「ルァアアァッッ…!」

崩主は腕を切り落とされた痛みに悲鳴をあげる
しかし倒れはしなかった。

「丈夫だな」

感心そうに目を細めてさらに彼女は言う。

「では、次で決めよう」

御風は右半身になると、すっ、と刀を正面に持ち上げた。
切先は崩主に向いている。
すると刀身が薄っすらと光を放つ。

「…咲き誇れ。蒼花流剣術・八方万花」

御風が小さくつぶやく。
瞬間、崩主も身構えた。
風が吹く。
…しかし何も起こらない。

「グフゥ…」

嘲るように笑った崩主が防御態勢を解いた時。

地面から無数の何かが伸びた。
先が鋭く尖っているそれは槍のようにも思えるが、そのどれもが緑色をしてい
る。
真っ直ぐ伸びるものもあれば、曲がりながら伸びるものもある。
それはどこか植物の茎を思わせるようなものであった。
勢いよく無数に伸びる茎は、崩主の身体をあらゆる方向から刺し貫く。
その茎は崩主を中心に公園の半分を埋め尽くさんとする勢いで伸びていた。

「グルァァアアアァッッ! グァアアアッ!!」

この時点で命尽きていればどれほど楽だっただろうか。
高い生命力があだとなり、刺し貫かれ動きを封じられた崩主は悲鳴を上げ続け
る。

そして、それら茎一本一本から鮮やかな紅い花が咲いた。
その花は茎のあらゆる場所から咲いていき、緑色一色に染めていた部分を赤一
色に塗り替えていく。
花弁の一枚一枚は鋭利な刃物のごとく鋭く、刺し貫いた崩主の身体を内から外か
らと斬り刻んでいく。

断末魔を上げる暇すらなかった崩主は、その姿を無数の肉片に変えていた。
飛び散った血は花の色をより鮮やかなものにした。
その後、公園の半分近くを覆っていた花々は空気に溶けるように姿を消した。

「ふぅ…」

御風が刀を鞘に収めると刀も同じように消えた。

「…崩主などに身を堕とすからこのようなことになるのだ」

小さくつぶやく。

「今夜は別のところを探すとしよう」

こうして御風は公園を後にした。

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時系列
・屋台『夜空』を出てから数十分後。

解説
・御風さんの戦闘シーンです。
 蒼花流剣術・八方万花(はっぽうばんか)は見た目こそ華やかですが使い勝手
 はあまりよくありません。
 尚、「遠歩法」は縮地法のようなものだと思ってください。(結縁時に使用可能)


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