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Date: Wed, 20 Jun 2007 22:49:58 +0900
From: Subject: [KATARIBE 31123] [BZ01N]岬と御風
To: 語り部 <kataribe-ml@trpg.net>
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液体窒素です。
勢いでもう一本。
読んでもらえれば幸い。
登場人物
・水夜御風:14歳の少女
・八郎丸岬:96代目正村
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雨が降っている。
濡れてしまう。
帰ってシャワーを浴びたい
でも帰る場所はない。
ついさっき、母親と父親を殺してきたばかりだから。
もう、我慢できなかった。
どうして叶に暴力を振るうのか。
あの子はまだ8歳なのに。
酒を飲んで何が気に入らないのか、すぐに殴ってくる父親。
そんな父親を止めようせず、むしろいい気味だと言わんばかりに見ているだけ
の母親。
私が殴られたりするのは、まだ我慢できる。
でも、自分には何もしてこない。
対象になるのはいつも叶。
それでも、今日は特に危なかった。
いつも以上に父親の暴力は激しかった。
叶が、死ぬと思った。
だから私は、台所の包丁を持って、父親の背中を刺していた。
叶が殺される前に殺さなければ。
何度も刺した。
何度も何度も何度も……
母親は、悲鳴をあげた。
お前も同罪だ。
母親は首を切ってやった。
そして、気づいたら血の海が広がっていた。
怖くなった。
両親を殺したことではない。
両親を殺した私を見上げる叶の視線が怖かった。
逃げた。
どう走ったかなんて覚えていない、
そして、今、ここにいる。
包丁は途中で捨てた。
もう、嫌だ、もう、何もしたくない……
「こんなところで何してるんだ、嬢ちゃん。風邪ぇ、ひいちまうぞ?」
最初は自分にかけられた言葉だとは思わなかった。
傘で降り注ぐ雨をさえぎられて始めて、この人は私に話しかけているんだと理
解できた。
顔を上げると、浴衣のような服を着た体格のある男の人だとわかった。
年は…40代だと言われればうなずけるし、70代と言われてもうなずけそう。
よくわからない。
男の人は私に近づくと、私の服を見て驚いたようだ。
たぶん、返り血ですごいことになっているのだろう。
何やらあご髭をいじってた考えるそぶりを見せた彼は
「よし、うちはすぐそこだからちょっと寄っていけ。
ボロい小屋みたいなもんだが、一応雨風ぐらいは凌げるぜ」
そう言われ、私はそのボロい小屋に連れて行かれた。
確かにひどい。風が吹けば飛ばされそうだ。
中に入ると、男の人はタオルを私に投げた。
「ほれ、ちょっとそれで体とか髪の毛拭いとけ。今風呂の準備するから待って
ろ」
そうして私は促されるままに機械的に行動した。
「どうだい、ちっとは落ち着いたか?」
今はお互いにボロいちゃぶ台を挟んで向かい合っている。
男の人は八郎丸岬と名乗った。鍛冶屋をしているらしい。
「何か知らないが、わけありみたいだな。
まぁ深くは聞かねぇ。落ち着くまでゆっくりしていくといい」
こうして私の鍛冶屋での生活が始まった。
最初の頃は部屋でぼんやりで一日を過ごしていた
それでも岬さんは変わらずに話しかけ、返事がなくても勝手に話を進めた。
それから「何かしなくちゃ」と部屋の掃除から始めた。
岬さんは喜んで笑って頭をなでてくれた。
私も嬉しくなって、笑った。
久しぶりに、笑った。
それから他にもいろいろ手伝うようになり、気がつけば一ヶ月が経っていた。
その頃にはいろいろと話すようになり、以前と変わりないぐらいにだいぶ回
復していた。
そんなある日の夕食のとき。
「そうだ嬢ちゃん」
「嬢ちゃんじゃなくて御風!」
「俺から見りゃあ嬢ちゃんだ。で、そろそろこれからどうするか考えないといけ
ねぇ」
「どうする……って?」
「わかってるんだろ? お前さんは両親を殺し、妹を置いて逃げてきた」
「……」
「まぁ要は…妹さんとこに戻るのか、否かってことだ」
この日が来た。いつかは来るだろうとは思っていた。
月並みだけど、こんな日がずっと続けば、って思っていた。
でも決めなければいけない。
「私は…まだ会えない。会う勇気がない。でもここにもう居られないなら、私は
もっといろいろ見て回って、もっと成長して、会う勇気ができたら叶のところに
行きたいと…思う」
今の気持ちを正直に言ってみた。
岬さんはじっと私のほうを見たあと、がばっと立ち上がり、部屋を出て行った。
何かまずいことを言って怒らせてしまったのだろうか?
私が不安に思っていると、岬さんが何か棒のような物をもって戻ってきた。
何だろう? と重いながらも私は岬さんを怒らせてしまったようではないとわか
り安心した。
「岬さん、それ何?」
「いろいろ見て回るんなら、護身用に何か必要だろ?」
そう言うと、棒に巻いてあった布をほどいた。
それは、棒ではなく刀だった。
色は淡い紫色。とてもキレイ。
「ほんとはナイフとかの方がいいのかもしんねぇけどな、あいにく今はこれしか
置いてねぇんだ」
岬さんはその刀を差し出した。
「こいつは俺が打った刀でな、名前は『想縁花散』って言うんだ」
「そうえんはなちる…?」
岬さんは誇らしげに言った。
「おうよ。こいつは俺の最初で最後の最高傑作だ。嬢ちゃん、大事にしてやっ
てくれ。そうすりゃあこいつも力を貸してくれるはずだ」
その刀を受け取った御風は
「…いいの?」
「打った俺がいいって言ってんだ。素直に受け取りやがれ。ハハハ!」
次の日、御風は鍛冶屋をあとにした。岬から渡された日本刀・想縁花散を手
に持って…
彼女が再びここに戻ってくるのは10年後のことである。
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時系列
・御風が14歳のときの話。
解説
・96代目正村・八郎丸岬から縁具「想縁花散」を受け取る。
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