[KATARIBE 31062] [OM04N] 小説『見つめる人影』

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Date: Wed, 6 Jun 2007 00:22:16 +0900
From: Subject: [KATARIBE 31062] [OM04N] 小説『見つめる人影』
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小説『見つめる人影』
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登場人物
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 烏守望次(からすもり・もちつぐ):http://kataribe.com/OM/04/C/0002/
  見鬼な検非違使。

 秦時貞(はた・ときさだ):http://kataribe.com/OM/04/C/0001/
  鬼に懐疑的な陰陽師。

本編
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 それに最初に気付いたのは望次であった。
 その日、望次は時貞の屋敷から出てきたところで妙な違和感を感じて足を止
めた。
 既に夜は更け、半月の明かりだけが辺りを照らしている。
 望次は辺りを見回した。
 そして、首を少し横に向けたところで止めた。向かいの屋敷の角の部分にぼ
んやりと青白く光っている人影があった。
 風が吹き、望次は目を細める。五月にもなると暑い日が多くなるが、夜はま
だすこし肌寒いくらいに涼しい。
 少し目を凝らしてみるとそれが女性の形をしていることが分かった。
 彼はしばらくそれを見つめた。女性の人影は望次に気が付く様子も見せず、
じっと一点を見つめている。その視線の先にあるのは時貞の屋敷。
 望次は首を傾げた。
「どうした?」
 後ろから声を掛けられて望次は振り返った。
 いつの間に現れたのか、そこに時貞が立っていた。
「何か忘れ物でもしたのか?」
「そういうわけではないが……」
 そう答えて望次は再び女性の人影を見た。それは顔をこちらに向けている。
しかし、望次を見ているようではなかった。どうやら時貞の方を見ているらし
い。
「では、一体どうしたというのだ?」
 時貞は怪訝そうな表情を浮かべている。
「いや……」
 と、望次は言いよどんだ。
 望次は彼にあの人影のことを話そうかと考えた。
 しかし、彼には見えない存在である。話したところで理解されることもない
であろうし、そもそも信じようとはしないだろう。
 そう思い、望次は黙っていることにした。とは言え時貞の問いには何か答え
なければいけない。
 望次はふと空を見上げた。頭上の半月が目に入る。
「月がきれいだなと思ってな」
 ふむ、と時貞も空を見上げる。
 二人してしばらくそのまま月を見ていたが、やがて雲が動き月をその後ろに
隠してしまった。
 辺りの闇が濃くなる。
「む……」
 望次は眉をひそめた。月が出ているうちに帰れば良かったかと思う。
「暗いな」
 隣で時貞が呟いた。
「これでは帰るのに少々辛かろう。明かりを持ってくる」
 そう言って時貞が屋敷へと戻っていく。
 望次は先ほどの女性の人影がいた方に目をやった。
 しかし、そこには何もいない。どうやら月を見ている間に消えてしまったよ
うである。
「一体あれは何だ?」
 少しの間しか見ていないが、襲いかかってくるような気配は感じられなかっ
た。もっとも、その相手が時貞であれば襲いかかったとしても気付かずにいそ
うではある。
「待たせたな」
 望次が振り返ると、明かりを持った時貞がいた。
 その明かりの色は普通の炎のものではなかった。彼が持っているのは一枚の
符で、その端が青白く光っているのであった。
「これを持っていくがいい」
 そう言って時貞は望次に符を差しだした。
「すまない」
 受け取る際に青白い光が揺れた。それに伴って、地面に伸びている二人の影
も揺れる。
「では」
「ああ。気をつけて帰れ」
「うむ」
 望次は時貞の屋敷を後にする。
 少し進んだところで戸が閉められる音がした。
 望次は振り返った。しかし、まっすぐに進む道には何もなく闇が広がってい
るだけであった。

解説
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一応続きます。

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