[KATARIBE 31039] [OM4N] 小説『山中にて天狗と酒比べを行う話』

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Date: Thu, 24 May 2007 23:48:32 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31039] [OM4N] 小説『山中にて天狗と酒比べを行う話』
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2007年05月24日:23時48分32秒
Sub:[OM4N]小説『山中にて天狗と酒比べを行う話』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
先日の続きです。

チェック御願いします>ふきらん

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小説『山中にて天狗と酒比べを行う話』
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登場人物
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 賀茂保重(かも・やすしげ)
   :陰陽寮の頭。
 妙延尼(みょうえんに)
   :綴る手の持ち主。鬼を祓う刺繍を綴ることが出来る。 
 お兼(おかね) 
   :妙延尼の乳母の子。非常にしっかり者で、ついでに怪力の持ち主。 
 天狗
   :例に漏れず酒好き。保重の酒飲み仲間。

本編
----

 ひょい、と庵に戻る。
 ひょい、と、お兼を背負う。

「ご安心なさいませ」
 背負われたお兼が、妙に元気の良い声をかけてくる。
「ひいさまは負けませぬよ」
「だと……いいのだがな」

 縮地の術を使って、二人を山に運ぶ。妙延尼一人を山に行かせるなどという
案を、お兼が呑むはずもない。

 大丈夫です、と、お兼は最初から自信ありげだった。
『二升?ああ、ひいさまなら大丈夫です』
『大丈夫……って』
『ひいさまならその程度、幾らでもお飲みになります』
 そう、言われてみても。


 妙延尼は先程、天狗の元に送り届けた。
『お主が?』
 高く伸びた鼻を、妙延尼の額にくっつきかねないほど近づけて……いやつま
り、それほど顔を近づけて、天狗はまじまじと相手の顔を見たものだ。
『お主が、儂と勝負する、と?』
『いけませぬでしょうか……』
 困ったように、妙延尼が首を傾げる。
『呑めるのか』
『まあそこそこに』
 にこにこと、妙延尼は穏やかな笑みを浮かべるだけである。
『……まあ……構わぬが、なあ』
 でははじめよう、と、天狗が少々、うろたえたように配下の天狗たちに声を
かけ、白と黒の天狗が慌てて二つの大杯を二人の前に置いた。
『では、注ごう』
『御願いします……あ、保重さま、出来ましたらお兼を』
『ああ、判った』
『お疲れになりましょう……申し訳ありません』
『いや』
 そんなことを言っている場合ではなかろう、と思うのだが、妙延尼はけろり
として大杯に酒が満たされるのを待っている。
 縮地で運ぶためにここまでおぶってきたが、妙延尼は決して大柄ではない。
むしろ小柄でほっそりとしたこの女の、一体どこにそんな大量の酒が入るとい
うのか。
『では尋常に勝負……と参りましょう』
『う、うむ』
 如何に勝ちやすそうに見えても、相手がこれでは多少遠慮があったのだろう。
一瞬天狗は言葉を濁したが、すぐに頷いた。
『では、干されい』
『はい』
 どこか居直った声に、妙延尼はにっこりと笑い、大杯を持ち上げ。
 くうっと……天狗と同じほどの時間で飲み干したものである。


 
 奇妙な足踏みを繰り返し、縮地の法を完成させる。くらり、と、目の前が暗
くなり、同時に背中でお兼が小さく声をあげるのが聞こえる。

「戻ったか」
「ああ戻った」
 既に次の杯が、なみなみと満たされている。
「ああ、お兼、持ってきてくれた?」
「ええ無論」

 む、と、天狗が首をかしげる。その目の前に、お兼は袂から出した包みを突
きつけた。
「梅干と漬物ですの。肴がなさそうだったので」
「む」
「お兼の漬物はそれは旨うございますよ。酒にも合いますし」
 むむ、と、小さく唸りながら、天狗は包みを開く。
 ではお先に、と、妙延尼は杯をかかげ、そのままゆっくりと傾けた。


 ゆるゆると、周りの天狗達もまた酒を酌み交わす。
 いつの間にか保重とお兼の横にも、杯と片口が置かれている。
 確かにこの酒の香りは、良い。
「いかがでございます」
「あ、うん……」
 流石に二人とも、先程のような飲み方はしていない。杯から口を外して息を
ついた妙延尼の杯には、まだ半分ほど酒が残っている。対峙した天狗が、やは
りゆっくりと杯を傾け、そしてまた半分ほどを残して口から離した。
 妙延尼がにこりと笑って、包みを示す。天狗がちょっと躊躇してから、包み
を広げて梅干をつまみ出す。

「……なんかひいさまが言いそうなこと判りますわ」
 くつくつと、お兼が笑う。
「何と?」
「旨い酒を一気に飲むのは勿体無い、肴と一緒に……とでも」
 
 視線の先で、妙延尼もまた梅干をつまみ、少し裂いて口に入れている。周り
の小天狗達にも包みを差し出して薦め、中の何人かは恐る恐る手を伸ばしてい
る。

「あれに、一杯と半分か」
「微塵も酔うておられませぬでしょう?」
 満月の煌々とした月明かりの中、妙延尼はにこやかに微笑んでいる。白い顔
のどこにも、酒の色は見えない。

「私、ひいさまがまだ小さい頃より傍近くお仕えしておりますけれど」
 にっと笑って、お兼が囁く。
「あの方が酒で倒れたことは、見たことがございませんの」
「…………」
 両脇の白と黒の小天狗が、何やら言いながら手まねをする。どうやら最後ま
でぐっと空けろということらしく、妙延尼はにこにこ笑って杯を傾けた。流石
に天狗も少々呆れた顔になって、すい、と飲み干した墨染めの衣の尼を見やる。

「ひいさまの御父上は、まああまりおいでにはなりませぬでしたけど」
 小さな声で、お兼が言う。
「たまにおいでになると、必ずささをお持ちになりまして」
「ほう」
「御母上は、ささを殆どたしなまれませんでしたので、御父上は何かというと
ひいさまに飲ませておいででして」
 ちょん、と、首を小さくすくめて、お兼は悪戯っ子のように笑う。
「あれは確か、ひいさまが十二、三の頃でございましたよ。御父上が酒を一升
抱えてきて、ひいさまに面白がってどんどんとお呑ませになって」 
 数えの十二である。まだまだ子供の頃である。
「最初はやっぱり酒比べ、と仰っておられまいたが、途中からは御父上が一杯
飲む間にひいさまは二杯、それでも父上が先に倒れなすったものでございます
よ」
「…………え?」
「翌日はけろりとして起きて、うんうん唸っている父上に、おかゆをお作りに
なられましてね」
「……二日酔いもせずに?」
「ええそりゃ微塵も」
「…………それが尋常ではない」
「尋常であれば、そも私が、この勝負をお断りしておりますよ」

 視線の先ではいつのまにか杯を空にした天狗が、流石に少し鼻の先を赤くし
て、妙延尼に何やら言っていた。
 おや、とでも言うように、妙延尼が小首を傾げる。こくり、と、ある意味酔
いの回りそうな動きを、彼女はためらいも躊躇も見せずやってのけた。

「大丈夫でございます。私がそう申すのです」
 にっと笑ってお兼が言う。
「ひいさまは、負けませぬよ」

 ……至言、かもしれなかった。

解説
----
 酒比べ、開始。妙延尼ゆっくりすたーとしましたー(違うだろう)

***************

 てなもんです。
 であであ。
 
 



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