[KATARIBE 31033] [OM4N] 小説『酒比べを受ける話』(仮)

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Date: Wed, 23 May 2007 00:31:23 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31033] [OM4N] 小説『酒比べを受ける話』(仮)
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2007年05月23日:00時31分23秒
Sub:[OM4N]小説『酒比べを受ける話』(仮):
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
酒比べの話の続きです。
まだ、ふきらんのおっけーがでてないので「仮」です。

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小説『酒比べを受ける話』
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登場人物
--------
 賀茂保重(かも・やすしげ)
   :陰陽寮の頭。
 妙延尼(みょうえんに)
   :綴る手の持ち主。鬼を祓う刺繍を綴ることが出来る。 
  お兼(おかね) 
   :妙延尼の乳母の子。非常にしっかり者で、ついでに怪力の持ち主。 
  

本編
----

「天狗が、ですか?」
 おやまあ、と、おっとりした顔の尼は目を丸くした。
「酒くらい、山で幾らでも醸せそうな気はするのですが……」
「米はでも、山では取れませぬもの」
 ちゃきちゃきと野菜を洗いながら、お兼が言う。
「それで……保重様よりも酒の強い方とは?」
「……それが、なあ」
「時貞様は、強いんじゃないですか?」
 胡瓜を軽く叩いて甘味をつけた酢をかける。ほっくりと焼いた鮎にその胡瓜
を付け合せて皿に載せる。皿に載せるまでは丁寧な手つきなのだが、それをえ
い、と差し出す手つきが丁寧ではない。
「天狗に勝てるほどでは……ない」
 片手で拝むような、礼をするような仕草をして皿を受け取る。その動きもど
こか上の空のままであるところを見ると、保重もかなり困っているらしい、と
妙延尼は首を傾げた。
「誰か居たのではありませぬの?」
「誰か?」
「はい、そのような勝負を言って、勝てる相手が」
 居たからこそ勝負を受けたのだろう、と、指摘されて、保重は大きく溜息を
ついた。
「居た……いや、居るのだが」
 はいはい、と、お兼が片口を置き、ついでに杯を二つ置く。妙延尼が片口を
とって酒を注ぐと、やはり上の空のまま、保重はすうっと杯を持ち上げ、酒を
口に含んだ。
 つまり……どれほど悩んでいても酒を口にするくらいには、この男も強いの
だなあ、と、妙延尼は納得した。

「居るのだが……逃げちゃったんですか?」
「これ、お兼」
「だって」
「逃げてはいないが……近いかもしれない」
 へ、と、少々間の抜けた声をお兼があげる。
「義直というのが陰陽寮に居るのだが」
「よしなお……ああ」
 ぺたんと妙延尼の隣に座って、片口を手に持って構えていたお兼が声をあげ
た。
「あの方が?」
「なんでも母御が病らしく、昨日からそちらに詰めきりだ。あれに帰って来い
とは……何ぼなんでも言えぬしなあ」
 あらら、と、お兼が呟いた。

 
 確かにこのところ、酒の値段は上がっている、と、お兼も市で聞いてはいる。
『途中で、天狗に取られるのよ』
 何ぼなんでも暴利ではないか、と、言ったお兼に、相手は憮然として答えた
という。
『天狗ぅ?』
『おう、天狗よ。山とは言えちゃんと道がある筈なのに、歩けど歩けど迷うば
かり、そのうちに……おう、なんていったんだっけな』
『儂と勝負せよ、となあ』
 とん、と、酒の樽を下ろした男は、閉口したような顔になった。
『勝負せよ、勝てばそのまま道を通してやる、負ければ酒だけ置いてゆけ、と』
『で、何の勝負を』
『囲碁を』
『…………厭な天狗だなあ』

 それは確かに、酒を運ぶ男達だとて囲碁くらいは知っているだろし、ついで
に賭け碁で鍛えてもいるだろうが。

『白い石は人の骨ぞ、黒い石は人の血の凝ったものぞ、と脅されて』
『それは……』
『怖かったのだぞ』

 妙に真剣に言われて、流石にお兼も追求し損ねたものである。


「……俺が、相手をするしかないかなあ」
 鮎の身をほぐしていた箸を止めて、保重はううんと唸る。
「えーとええと、あの、望次様は?」
「時貞と同じくらいには強いだろうが、天狗には」
「勝てませぬか……」
「義直ほどに飛びぬけておれば、問題はないのだがなあ」
 はあ、と、息を吐いて、保重は箸を持ち直した。
「どれほど呑まれますか、その方」
「まず……二升」
「あら」
「それで何とか、天狗とどっこいどっこい。それ以上となると、義直も無理を
してようやく、とは思うが……」

 そこでふと、保重は言葉を止めた。

 妙延尼とお兼。前者はおっとりとして、また後者はぱきぱきとして……でも
どちらも、妙な遠慮などはしないのが普通である。それが二人揃って、何とも
奇妙な……そう、まるで。
「どうなさった、お二人とも」
「どう、と」
「まるで引っ込み思案の姫君のように見えますぞ」
「え」
「そのように似合わない……」

 ……だからその一言が余計なのだ、と、時貞がもし居たら溜息をついたこと
だろう。

「私はともかく、ひいさまはその表現が正しうございますゆえ」
 にっっと。
 背後に火炎でも立ち上りそうな顔をして、お兼が……それでも笑う。
「これ、お兼」
「だって!」
「そのようなことを言うておる場合ではありませぬよ」
 それなりに大変なこと、と、意識はしているのだろうが、妙延尼の口調はど
こかしらやはりゆっくりおっとりである。
「祭りまでもう八日。勝負は明日。負ければささは、尚更に値が上がりましょ
うなあ」
「多分」
「では……仕方ありますまい」

 一つ溜息をつくと、妙延尼は小首を傾げてにっこりと笑った。

「その勝負、私が受けてはいけませんでしょうか」


解説
----
 妙延尼、酒比べを買って出るの巻。

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 てなもんです。
 ちぇっくたのんます>ふきらん
 であであ。
 


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