[KATARIBE 31026] [HA21N] 小説『蛟〜邂逅の章』

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Date: Fri, 18 May 2007 23:23:35 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31026] [HA21N] 小説『蛟〜邂逅の章』
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2007年05月18日:23時23分35秒
Sub:[HA21N]小説『蛟〜邂逅の章』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
なんだかあちこちに、話の破片が転がってますが。
出来るだけ繋ぎたいような、書き直したら吐きそうな(えうえう)

とりあえず。
アンザインお借りしました。
はりにゃヨロシクです。

*****************************
小説『蛟〜邂逅の章』
===================
登場人物
--------
 今宮タカ(いまみや・たか)
   :流れを見て操る少女。多少不思議系。
 安西志郎(あんざい・しろう)
   :整体処・解し屋店主。触手使い。眼鏡着用。
 軽部片帆(かるべ・かたほ) 
   :壊れてしまった者。竜に心を移す異能が顕現。
 平塚花澄(ひらつか・かすみ)
   :鬼海の家在住。四大に護られる者。

本文
----


 左の肩の上に鴉を乗っけた少女が、公園をとことこと歩いている。
 右手にはCDデッキ。どちらかというと小型のそれが、何だかやけに大きく
見えるほど、少女は小柄でほそっこい。
 てこてこと、それでも少女は足早に歩き……そしてふと、足を止めた。

 公園といってもあまり大きくは無い。幾つか並んだアパートやマンション、
その間の、どうやっても邪魔な土地を公園にしたくらいのものである。長方形
の敷地の、二辺は道路に面し、あとの二辺はそれぞれ近くのアパートの自転車
置き場と非常階段に繋がっている。その公園に備え付けられた二つのベンチの
うち、一つに座っていた青年の前で、タカは立ち止まった。何やらややこしそ
うな本(解体新書、と書いてある)を読む相手を、じーーーっと見る。
「なんだ?」 
 ページの端をちょっと折り、印をつけてから閉じる。銀縁の眼鏡越しにタカ
を見やった青年……安西に、タカは小首を傾げた。
「おにーちゃんは、まっさーじするんだよね?」 
「うむ」 
 いまいち発音的に、「マッサージ」ではなくて「まっさーじ」と聞こえるあ
たりが、タカである。
「病気の人って治る?」 
 端的なのか素直なのか、ぶしつけなのかかなり微妙な問いに、しかし安西は
あっさり答えた。
「病気によるな」 
「心の病気」 
 治るかよ……と、他に聞く人があれば突っ込んだかもしれない質問に、しか
しながらやはり、安西はあっさりと答える。
「まぁ、病気によるな」 
 治らなくも無い……らしい。
 その治し方に多少の疑問があるとはいえ。
「むー」 
 そこらについてはタカはあまり疑問を持っていない。うん、と一つ頷くと、
口を開いた。
「あのねえとね、もう少ししたら多分、ここに病気のおねーさん来るの」 
 黙って見ている相手に、やっぱり困ったような顔で付け加える。
「歌は一緒に歌えるんだけど、そんだけなの」 
「ふむ」 
「そんで、病気だっていうから、おにーちゃんのまっさーじ出来ないかなって」 
 かなり無茶な……と、第三者がもし居れば思いそうなところだが。
「まぁ、やって見るか」 
「わあいっ」 
 ぴょん、と一つ跳ねたタカは、右手のCDデッキを下に置いた。
「音楽かけていい?」 
 そしたらおねーちゃん寄ってくるし、と言うタカに、安西は薄く唇を歪めた。
「クク、面白そうだ」 
「うん……」 
 面白いと言われるとちょっとなあ……と思わないではなかったが、タカはと
りあえずCDデッキのボタンを押した。
 
 ドラムの三連の音。そして始まるリズミカルな旋律。
 父と母がよく聞いていた80年代の音楽のうち、特に母が好きだったアルバム。
『このグループのアルバムにはね、必ず一つ、女の子の名前の曲が入ってるの』
 くすくす笑いながら、母親がそう言っては聞かせてくれたアルバム。父が帰
るのを待ちながら、部屋の電気を消して、窓からの月明かりの中一緒に何度も
歌った曲。
 英語の単語の意味なんてわからない。ただ母の歌う声を、聞きなして憶えた
だけの歌を。
 それでもタカは喉一杯の息を吸い込んで。
 歌う。
 
 何度も何度も、名前を呼びかける。何度も何度も。
 あなたに会いたい、と。

 2度目のサビの部分のところで、ふい、と、何か動くものが見えた。ふらふ
らと、どこかあぶなっかしげな足取りで近づいてくる女性は、腕に柔らかな紅
の色の大きなトカゲのようなものを抱えている。
「Meet you all the way!」
 タカの声に、ふわり、と低音部が加わった。変わらぬ無表情のまま、サビの
部分を綺麗にはもっている女性……片帆を、タカはえいえい、と、手で示した。
(このひとこのひとっ!)
 アイコンタクト。
「ふん」
 面白くもなさそうに一つ鼻を鳴らすと、安西は手を伸ばした。
 ぽん、と、片帆の頭に手を置く。音楽がフェードアウトした後、ぼんやりと
立つだけの片帆と、その腕の中できょときょとと、タカと安西の間で視線を動
かす金平糖。黙ったままの二人を見て、タカもついつい口をつぐむ。
 そして、暫し。


 静かに流れ込む断片。

 (鬼に変わろうとした自分の中の全てを、固めて押し出したこと)
 (自分を責めて責めて、ばらばらになっていった夜)
 (はらり、と割れてゆく自分への、底冷えのするような恐怖とかなしさと)

 すっかり壊れた心の中に残る、順不同の出来事。


 ふっと安西は目を上げて、片帆の腕の中の小さな竜を見やった。
「きゅぅる?」 
 躑躅の紅の色に染まった丸い目を向けて、金平糖が首を傾げるのに。
「お前の飼い主は、とんだ駄剣だな」 
 遠慮会釈の無い言葉に、金平糖はぶーっとふくれた。
「きゅるぅ……」 
「……だけんってなに?」 
 とりあえず金平糖の顔からして、あまり良い言葉ではないことくらいは判る。
首を傾げて訊いたタカに、安西はやっぱりあっさりすっぱりと答える。
「駄目な剣と言うことだ」 
「えーーーっ」 
 それ全然褒めてないじゃないかーと言いかけたタカの言葉を抑えるように。
「剣であろうとしすぎた。鋭くあろうと、火入れをしすぎて、ボロボロになっ
た、とんだ駄剣だ」 
「…………うー」 
 ぼんやりと、聞いているのかいないのか、ただ視線をふわりと宙に浮かすば
かりの片帆の代わりに、タカのほうがうーうーと唸る。
「きゅるぅー」
 とにかく結構ひどいこと言われている、と、その一点だけはわかるのだろう、
小さな竜も、やっぱり上目遣いで安西を見ながらぶすっくれる。
「焼かれ、冷まされ、周囲に鋼を帯びつつ芯にやわらかい鉄を潜め」 
 ぽんぽん、と、手に持った本でリズムを取るようにしながら言葉を紡ぐ。
「力を受け止めてしなり、また戻る柔軟さを持つ。それが良剣」 
「……ほえ」 
「固いコトは、脆いコトと同義。硬く鋭いだけの剣なんぞ、量産の数打ちにも
劣るわ」 
「……なんかおにーちゃんひどいこと言ってる」 
 ぶっすりとふくれて呟いたタカの言葉に、うんうん、と、小さな竜が頷く。
「さて、こいつは少々厄介そうだ」
 ククク、と喉の奥にかすれるような声で笑った安西は、不意に手を伸ばした。
すぽん、と、腕の中の小さな竜を引っこ抜く。
「え?」
「きゅるっ?!」
 あわあわと二人(というかタカと金平糖なので一人と一匹)も慌てたが。
「………っ」 
 それどころではない動きを、片帆が示した。
 これまで何があってもぼんやりとしていた視線が金平糖を捕らえる。身体は
急にがたがたっと動き出す。 
「…ぃぃぃっ」 
 悲鳴にもなりきらない悲鳴が、その口からもれた。
「ハハハハハ、心なんてものは思うようになりそうで、思うほどにはままなら
ないものでな」 
 必死で伸ばしてくる手の、届かない位置に金平糖を持ち上げて、安西はそれ
はそれは楽しげに笑った。

「ひぁああああっ」 
 長く使っていなかった喉を無理やり開いて声を出す。そんな声と一緒に片帆
はばたばたと手を振り回した。小さな子供がやるような、無茶苦茶な動きで相
手に打ちかかる。ぼかすかと、それなりにぶたれているのだが、安西は全く意
に介した様子もない。
「心を預けて『持ってない』ようにしようなんて、そうそううまくはいかない
ものだ」
 楽しそうな口調……そこらが悪党と言われる由縁、なのだろうが。
「ひぁああっ」
 おろおろと見守るタカの前で、片帆は半ば狂ったようにぐるぐると手を動か
す。盲滅法の動きだが、その拳は何度も何度も安西を打った。
 かえして、かえして、と、薄い唇が言葉を刻んだ。
「そんなに返してほしければ、『一緒』にしてやろうか」 
「………うぁあああああああっ」
 子供のような声を張り上げて、泣き出した片帆に、とうとうタカのほうが辛
抱出来なくなった。
「……おにーちゃん、いじめたらだめっ!!」 
「クク」
 声と同時に、すとん、と小さな竜が片帆の腕の中に戻る。
 がたがたと震えながら、片帆は金平糖を抱き締めた。
「暴れる程度には、『外』に目は向いているようだ」 
 ふむ、と頷いた安西に。
「タカは!おねーちゃんの病気治りますかって訊いたのに!」 
 ゆさゆさ。子供特有というか、まあ子供だからというか。とにかく怖いもの
知らずではある。
「治る気の無い病人の病気なんぞ、普通に治るか」 
「…………うーーー」 
 唸るタカの横で、ほう、と、大きく片帆は息を吐いた。小さな竜を抱き締め
たまま、その表情はまた虚ろなものに戻る。

「うーうーーっ」
 虚ろで何一つ望まないような眼をして。
 それがどれほど不自然なものか、片帆の以前を知らないタカにも、その程度
のことは判る。だけれども。
 だけれども。

「これは、こいつの『心』の一部を持ってる」 
 ぴん、と、指が伸びて金平糖の額をぴし、とはじいた。
「きゅるっ」
 ぺた、と、短い手がでこぴんされたところを抑える。恨めしそうに見上げる
綺麗な朱色の目を、ふふん、とやはり笑って安西は見返した。
「へ?」 
「『心』を預けるほどに『依存』しているし、『心』の一部でもあるから離さ
れると耐えられない」 
「…………ほえ」 
 きゅるぅ、と、小さく呟いて、片帆の腕の中の金平糖はこちらを見上げる。
何となくその言葉に納得して……そこでタカは目を丸くした。
「……でもそしたら、とっちゃったら駄目じゃん」 
「反応を見たかったのさ」 
「……うーー」
「面白そうだからな」
「うーーーっ!!」
 ぢたばたぢたばた。
 口八丁手八丁の相手に、かなうわけもないわけだが。
「おねーちゃんがかわいそうだよっ」 
 言われた片帆のほうは、そも話題に上がっているのが自分だとすらわかって
いない顔で、ぼんやりと二人を見ている。
「ああ、このチビも可哀想に」 
「きゅるぅ?」
「……かわいそうって」 
 こて、と、首を傾げた竜に、どうもわざとらしい口調で安西は続ける。
「他者から縋られて、心なんてものを預けられて、依存され、利用され」 
「きゅぅるーーっ」
 ぢたばたぢたばた。
 両手両足、ついでに首をよこにぶんぶん振っての大抗議……の積りらしい。
「好きでやってる分には、問題ないんだがな」 
「……好きでやってないの?」 
「さぁて、どうだろうな」 
「きゅぅるっ!」
 にぎりこぶしっ。
 言葉にはならないが、がっつりと何やら主張した金平糖をふんふん、と頷きながら見やって。
「良く言った、と主張している」 
「きゅぅるうるーーーっ」
 ぶんぶん首横振りっ。 
「うそだーっていってるー」 
「冗談だからな」 
「おにーちゃんっ!」 
 要するに。
 この一人と一匹が、ぷんすか怒れば怒るだけ、この自称小悪党だったりする
謎の解き屋はからかいまくるわけだが。
「あのですねえ、タカは、おにーちゃんに、おねーちゃんを治してねって頼ん
だ筈なんですけど!」
 全然ちがうじゃん、と、腰に手をやって言い募る。
 ちみっちゃい身体を全部使って……またえらそうな態度では、ある。

「まぁ、お遊びはこのくらいにして、後は店でやるとしよう」 
「みせ?」
 やれやれ、と肩をすくめた安西の言葉に、タカは目を丸くした。 
「……おにーちゃんおみせなんてあるのっ?!」 
「名刺は何のためにある」 
「…………ええとええと、名前とか住所とか」 
 言いながら、腕を伸ばして金平糖の頭をぐっと握る。きゅるうーと文句を言
う声を完全に無視して、引っ張るようにしてゆく。
 当然ながら片帆は、転びそうな足取りで、それでも遅れずについてくる。
「え、あのあの、でもおにーちゃん」 
 片帆を勝手につれてっていいのかとか、そもそもどこに行くのか、とか。
 色々尋ねようとして、言葉の絶対的な不足に思わずタカがまた唸りそうになっ
た時に。

「…………あのー」 
「うん?」
 背中まで伸びた真っ直ぐな髪ごと、少し首を傾げた女性が苦笑しながら三人
を眺めている。

「あの、その子の、今のところ世話をしている者ですけれども……」 
「おや、これは『かすみさん』でしたね」 
「……はあ」 
 おや、と言いたげな顔を、花澄はしたが。
「ああ、片帆さんには何度か名乗りましたから……聞こえてたんですね」 
「えぇ、観ましたんで」 
 ひどく不遜な……そして不遜でなければ意味のわからない言葉に、花澄は苦
笑を返した。
「……随分……強引に」 
「自分、不器用ですから」 
 複数の抗議が巻き上がりそうなことを、しゃらっという安西である。

「不器用には見えませんが……それで、どちらに?」 
「お店につれてって、軽く揉ませてもらおうかと思いましてね」 
 手を、ことさらわきわきと動かしてみせる。
「そこのタカ坊のたっての要請で」 
「……うぐー」
 そりゃあおねがいしたけど、おねーちゃんいぢめるしー……と、ぼそぼそ言
うのを横において。
「揉む……マッサージか何か、ですか」 
「私、こういうものでして」 
「はあ」 
 渡された名刺を、花澄はちょっと首を傾げて見やった。
「安西さん、ですか」 
 ふむ、と、頷いて視線をふっと宙に浮かした花澄を見て、クク、と安西はま
た笑った。
「お噂はどうでしょうかね」 
 多少無遠慮なまでの言葉に、花澄はちょっと目を細めたが、すぐにっこりと
笑った。
「そこそこ怪しいが、腕は確か、と」 
 正しいじゃないか、と、タカなどは頷いたものだが。
「それは遺憾だ」 
「ほえ?」 
 大袈裟に嘆いてみせる声に、タカが首を傾げる。途端にまたクク、と安西は
笑った。
「もう少し怪しく見せた方が、高く売れるものでね」 
「…………」 
 充分あやしいじゃんよー、と、顔中で言うタカに、くすくす、と花澄は笑っ
た。
「この業界、胡散臭さと信憑性は、表裏一体だ」 
 何だか騙されまくってるような気がする、と、ぶつぶつタカが言うのに。 
「普通じゃないのは、『普通じゃない』んだよ」 
「……そんなんわかんないけどおにーちゃん怪しいもーっ」 
「まだまだだな」 
 何がだ、と、突込みが入らなかったのが不思議である。

「……タカさんのご紹介なら信用できますね」
「とりあえず……私もご一緒してよいでしょうか?」 
「構いませんよ。今日のところは、『普通』にやりますから」 
「有難うございます……」 

 ぼんやりと、金平糖を抱き締めたまま虚ろな眼をした片帆の肩に、そっと支
えるように手を添えて。
 ふわり、と、花澄は笑った。


時系列
------
 2007年5月終わりごろ。『移行の章』の数日後。

解説
----
 タカ、安西と片帆を引き合わせる……引き合わせるといっていいならば。

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 てなもんで。
 であであ。
 
 


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