[KATARIBE 31020] [OM04N] 小説『織りの手の壱』

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Date: Mon, 14 May 2007 00:08:38 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31020] [OM04N] 小説『織りの手の壱』
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2007年05月14日:00時08分38秒
Sub:[OM04N]小説『織りの手の壱』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
そして書いてみました。
……時ちゃんがかわいそうなことになりつつあります。

*******************
小説『織りの手の壱』
===================
登場人物 
--------- 
  妙延尼(みょうえんに) 
   :綴る手の持ち主。鬼を祓う刺繍を綴ることが出来る。 
  お兼(おかね) 
   :妙延尼の乳母の子。非常にしっかり者で、ついでに怪力の持ち主。 
  秦時貞(はた・ときさだ)
   :鬼に懐疑的な陰陽師。厄介事の最後の行き場。


本文 
---- 


「あわれじゃの」
 闇の中より響いた声が、この話の行き場を決めたともいえる。
「妙延尼さまがおらばの、たすけてくれるにの」

          **

「で、何でひいさまんとこに来ますか」
 お兼の言葉は、あいも変わらず遠慮も会釈もない。
「でもお兼、そうやって名指しで言われたら、それは時貞様もこちらに持って
こざるを得ないでしょう」
 何とか言葉を挟むが、お兼の勢いは留まらない。
「仰いますが、そもそも出所は夜半の闇の中、どこのあやかしかって声なので
ございましょう?」
「うむ……」
 時貞様の答えも、その勢いに押されてか呑まれてか、あまりはっきりしたも
のではない。

 話は、ある男の館から始まるという。
 相当にあこぎで容赦のないその男が、借金のかたに取り上げた機。織りかけ
た布をそのままに、織り手が自害したのが、その怪異の始まりだと言う。
 織りかけの布は一見地味だが良く見れば同じ色で恐ろしく手の込んだ地紋が
織り込んであり、見る者見る者、これが途中であることを惜しがるという。
『これは織り上がったら、帝に献上することも夢では無いぞ』
 その言葉に男はすっかりと欲をかきたてられ、腕のある織り手を集めてきた。
近隣の、多少なりと腕に憶えのある織り手達は集まり……しかし誰一人として
織り進めることが出来ないのだという。

「なにか、あやかしでも」
「そのようなもの、と、言えるでしょう」

 泣くのだという。
 泣いて震え、それでも糸を打ち込もうとすれば、機は織り手を跳ね飛ばすの
だという。
 そこまで織り上がった布は惜しい。それを文様の途中で断つなどと、考えた
だけで厭だ、と、織り手はこぞって言い立てるのだという。機は使えない、そ
こに残る布も取れない、機には何かが憑いている……で、流石に手の打ちよう
が無くなった折に。

『あわれじゃの』
 どこか乾いた、子供のようなとつとつした声だったと言う。
『妙延尼さまがおらばの、たすけてくれるにの……』



「だから、何でそれを、陰陽寮の方がひいさまのとこに持ってくるんですか」
「いや、やはりそういう場合、妙延尼様のところに知らせるのが」
「筋とか言うなら怒りますからねっ」
「……もう怒っているではないの」
 いや、一応こう、指摘しただけの積りだったのだけれども。
「ひいさま!」
 やっぱり怒るし。

「お二人とものんのん、としてらっしゃいますけど」
 ぎっと睨んで、お兼が言う。
「そもそも、なんで織り手が死んだか、考えておいでですか?」
「何故ってお兼」
「恨みの一つもなくて、そんなおかしなことになるわけが無いじゃないですか」
 それは確かにそうなのだろう。
「織り手はどのような……?」
 尋ねると、時貞様はどうも困った顔になった。
「まだ若い女子であったそうだが」
「…………」
 ああ、お兼の目元が、みるみるうちに釣りあがる。
「あの男のことは多少なりと耳に入っておりますが!」
「……うむ」
 多分突っ込まれることは覚悟していたのだろう。時貞様は苦い顔で一つ頷い
た。

 強欲であると言う。
 嘘をつくことも平気という。
 奴婢など人とも思わぬという。
 使われている奴婢達は、決して恨みの声をあげぬ。そのような声が木霊にも
聞こえた日には、どのような目に合わされるか判らぬから……と。

「であるなら、大概、その娘さんがどんな目にあったかは判りそうなものでは
ありませぬか?」
「……うむ」
 手篭めにあい、そのまま……という噂は既にある、という。
「そんな男がひいさまに頼むとして、それがまともな取引になると思われます
か?」
「それは」
「だいたいそのような男、ひいさまの影の傍にも近づけとうはない!」
 ……それは、まあ、自分も付き合いたくはないが。
「お兼のほうがある意味危ないと思うのだけど」
「そういう問題ではございません!」
 また、怒られた。

 それでも、と思う。
 どのような目にあい、どのようなことがあったかは知らぬ。しかしそれでも。

「それでも、その布は見たい」
 お兼がちょっと目を丸くしてこちらを見た。
「……ひいさま?」
「そのような布ならば、私も見てみたい」

 刺繍に比べれば、己の織りの手は拙い。それでも多少のものは織ることもあ
るし、かたことと織りゆくことは楽しい。見事な手を見れば、やはり自分でも
やってみたくなる。
 なればこそ。
「そのような布を見せて頂けるなら……」
「だけどひいさま」
「なにものか、恐らくはあやかしが私の名を呼んだ。かといって私に出来るこ
とがあるかどうかは判らない。ならば出来ないならば出来ないで、そのように
言えば良いのではありませんか?」
「それを許すような男ですか?」
 ひどく疑わしげな顔をしたお兼に、出来るだけにっこり笑ってみせる。
「その時には……陰陽寮の皆々様に、お言葉添え頂きたく」
 時貞様が小さく唸った。
「ああ」
 それをちろり、と見て、お兼が妙に柔らかな笑みを浮かべた。
「それならば最初から、一緒に来て頂けば宜しいではありませんか」
「……また、何故に」
「仰いますが、ひいさまも私も行き先が分かりませんの」 
 言われてみれば、確かにそのとおりである。……但し、お兼が本当に知らな
いかどうかについては、少しあやしいものがあるけれども。
「無論ながら、か弱い女性二人、まさかに時貞様は見放しなさいませんよね?」 
 ぎろり、と睨まれて、時貞様が苦笑した。
「そう言われたら、ついて行くしかないな」 
「では」
 行きましょう、と、立ち上がる。
「はい」
 お兼が履物をさっと揃えて出す。ありがとう、と、礼を言いながら、ふと不
思議に思った。

『妙延尼さまがおらばの、たすけてくれるにの』

 一体誰がそんなことを言ったのだか。

時系列と舞台
------------
 戦う職業婦人(?)二人の、無何有庵での風景。織りの手のあやかしのはじめ。

解説
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 話のはじまり。またもや時ちゃんが迷惑こうむってます。

******************************
 てなもんです。
 まだ続きます。
 
 



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