Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage
Date: Thu, 10 May 2007 16:34:55 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 31016] [HA21P] エピソード『マッチポンプ』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200705100734.QAA23206@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 31016
Web: http://kataribe.com/HA/21/P/
Log: http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/31000/31016.html
2007年05月10日:16時34分55秒
Sub:[HA21P]エピソード『マッチポンプ』:
From:久志
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
エピソード『マッチポンプ』
==========================
登場人物
--------
ウヤダ :腕利きハンター。仕事には容赦なくムラがない。
フィクサー :”水”関連の仕事を主に仲介する口入屋。
定期報告
--------
何処かの雑居ビルの一室。建物は大分古い印象を受けるが、その作りは重厚
でがっしりとした雰囲気を感じる。
内装は色合いも装飾も目立った派手さは無く、どこか気持ちを安堵させるよ
うな調和の取れた品のよい印象を受ける。まるで一瞬、この世ではない何処か
を思わせるかのような、切り離された空気を感じる。
ウヤダ :「……」
一人、部屋の空気とはまるきりかけ離れた男が革のソファに座り無造作に足
を組んでいる。全身を覆う黒地の対刃服にジャケットを羽織り、踏み抜いたら
穴の開きそうな無骨な軍靴。国籍不明経歴不明のウヤダと呼ばれるその男は、
吹利でもそこそこ名の通ったハンターの一人。
フィクサー :「……」
そしてローテーブルを挟んだ向かいのソファにゆったりと座った、まるでこ
の部屋の調度品のひとつであるかのようにこの場に馴染んだ男。
細身のダブルスーツをかっちりと着込み、肩につくほどに伸びた金髪、抜け
るように白い肌はしかしどこか金属のような光沢を感じる。顔以外は革靴に包
まれた足、白手袋に包まれた手、どこにも素肌を出していない。顔立ちからす
れば美青年であろうという印象を受ける
だが。
フィクサー :「……現状はどうだ?」
ただ一つ、その両の瞳。
本来瞳があるはずの場所には光沢のある硝子の瞳が収まり無機質にウヤダの
ほうに向けられている。
深い青の硝子の眼球。
だが精巧であるがゆえに、言葉にしようのない不気味さも併せ持っていた。
ウヤダ :「火種はまいた、後は藁に燃えつり……更に炎を広げるさ」
楽園、と名乗る者達。
彼らを調査し、その動きを捉えるという依頼。
フィクサー :「ああ、いくつかこちらにも届いている、うまくヤクザを
:使っているようだな」
ウヤダ :「人が動くのは損得勘定があるからだな、やりあって失う
:ものと得るもの、どちらが大きいかをああいった奴らはよ
:くみている」
フィクサー :「そして、楽園に与することで失うものと得るものの比重
:をひっくりかえす」
ウヤダ :「そうだ、ここでヤクザが動き……戦火が増すなら警察
:だって黙っちゃいない……唯の出会い系前世妄想の集まり
:が闘争の元となった時、周囲は何を思うかだ」
フィクサー :「ウェブサイトのほうにも……無料サーバを転々としてい
:るようだが、行き場は確実に狭まるだろうな」
ウヤダ :「そちらはこれからだな、戦火が安定し次第そちらも動く」
フィクサー :「……被害は?」
淡々と事務的に問う声にウヤダが口の端を小さく歪めた。
ウヤダ :「知りたいか? 双方合わせて既に五人は死んでる……
:足りないかな?」
フィクサー :「数が問題ではないさ、燻りだせるならば」
ウヤダ :「了承した」
こともなげに答える義眼の男に小さく頷いてみせると、腰のポケットから
年季の入った少し歪なフラスクを出して親指で蓋を弾いて開けた。一口、噛み
しめるように口に含むとまたポケットにねじ込んだ。
フィクサー :「……」
ウヤダの行動にさしたる関心も示さず、男もスーツの上着から細いパイプを
取り出して革張りのライターで火をつける。
ウヤダ :「……得るものより失うもののほうが大きい」
フィクサー :「……」
ぼそりとつぶやくウヤダの声に、義眼の男の動きが微かに反応する。
ウヤダ :「どこかの水みたいだな」
フィクサー :「……そうだな」
ほんのわずか、瞬きするほどの時間を空けて、答える。
その言葉の裏に微かな自嘲を込めて。
境界を曖昧にする水。
得るものより失うもののほうが大きい……禁断の力。
義眼の男がかつて望みを賭け、そして総てを失うこととなったきっかけ。
表情もない言葉も変わらない義眼の男を見て、小さな笑みを浮かべながら
ウヤダがソファから音も無く立ち上がる。
ウヤダ :「さて、こちらも引き続き動く。また定期報告に」
フィクサー :「ああ、期待している」
振り向くことなく背を向けて片手をあげて去ってゆくウヤダの姿を、硝子の
瞳が見送った。
時系列と舞台
------------
2007年5月
解説
----
http://kataribe.com/IRC/HA21/2007/05/20070509.html#230000
ウヤダ定期報告、なんだかんだいいつつ霞ヶ池の闇で1、2を争う働き者。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。
---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log: http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/31000/31016.html