[KATARIBE 30999] [HA06N] 小説『暗幕の罠』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Mon, 7 May 2007 01:14:13 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30999] [HA06N] 小説『暗幕の罠』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200705061614.BAA64989@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 30999

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/30900/30999.html

2007年05月07日:01時14分13秒
Sub:[HA06N]小説『暗幕の罠』:
From:久志


-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『暗幕の罠』
==================

登場人物
--------
 橋本朱敏(はしもと・あけとし)
    :ワーウルフなお兄ちゃん。ガタイはデカイが中身はがきんちょ。
 女の子
    :朱敏のクラスメイト。ショートカットの活発な子。
 女生徒:高校三年の先輩らしい。なんか遊んでそうな人らしい。

噂
--

「ねぇ、知ってる?」
 声を潜めて。
「何を?」
 半ば答えを知っているかのように問いかける声。
「三階のつきあたりにある準備室のこと」
 どこかわくわくとした期待を含んで。
「それってさ、あの三年の……」
「そうそう!」


文化祭準備中
------------

 金槌の音が何処かで響いている。
 文化祭準備期間、入学して初めての文化祭。あちこちでせわしなく動く生徒
達の姿や言い合う生徒達の姿が見える。
 朱敏もクラスの出し物である劇の裏方としてあれこれ指示されながら動き回
っていた。

「あっきー、ちょいここ支えてて」
「ういよ」
 もっぱら背が高いということで何かを支えたり何かを運んだりということが
殆どではあったが、それなりに参加しているという充足感と文化祭の前という
ある種独特な高揚感を感じていた。

「あ、あっきー!こっちも!」
「え、うん」
 甲高い声。
 見下ろした先、ショートカットの少女が片手を振っている。
「後でさ、こっちちょっと手届かないから、やってくれる?」
「りょーかい」

 声をかけられて、一瞬心臓が跳ねる。何事もなかったかのように答えて、
手伝いを続ける。
 声を聞くとドキッとする。
 ふと気がつくとどこかで目がその姿を追っている。

「あっきー、ちょいと暗幕追加でもらってきてー」 
「うーい」 
 気づいてるけど、気づいてない。
 何処か納得しつつ、まだ認めるには気恥ずかしい感情。


準備室
------

 高度成長期に建てられたという三階建ての木造校舎は、そこかしこに年月に
よる磨耗で大分ガタがきているように感じられる。

「えーっと、ここだっけかなあ」
 一時期はベビーブームのあおりで教室が足りず校庭にプレハブを建てて生徒
達が授業を受けたという校舎も次第に生徒が減っていき、三階の教室は一分の
三年のクラス以外は殆ど使われない準備室扱いになっていた。
 三階のつきあたりにある準備室、引き戸を開けてあちこちに山積みになった
備品をかき分ける。
「ごほっ」
 舞い上がった埃が窓から差し込む光に舞ってキラキラと光った。
「暗幕、暗幕……と」 

 手近なロッカーを開けて中を探していると、不意に背後で引き戸が開いた。
「ん?」 
「あら?」 
 振り向いた先。ミニスカートにだらしなくブラウスの裾を出し、ボタンを二
つほどはずしたいでたち。長い髪をかきあげるように朱敏を見上げる、先輩ら
しい女生徒が一人。学校だというのにきっちりと色つきリップをひいて、どこ
か気だるげな印象を受ける美人。
「あ、ども」 
 慌てて頭を下げる朱敏をどこか値踏みするように眺めて、くるくると指先で
毛先をいじっている。
「んー、君、ここで何か探しもの?」 
「えーと、暗幕を三枚追加でもらいにきたんですけど」
「ふぅん」 
 口元に笑みを浮かべて、するりと戸を閉めて朱敏の前に立つ。
「あの、先輩……ですよね?先輩も暗幕を?」 
 思わず背筋を伸ばす。
「ん、なんとなく」 
 くすくすと笑って奥のドアを指差す。
「暗幕、こっちにあるよ。おいで」
 綺麗に整えられた爪にピンクのマニキュア。
「あ、はい」 
 疑いもなく、奥のドアへと向かっていく朱敏の背中を見て、女生徒が小さく
唇を舐めた。


暗幕
----

 奥のドアを開けて。
 窓のない物置のような部屋は昼間だというのに薄暗い。
「えーと、暗いっすね。明かりは」 
 足を止めて壁に手を這わせながら辺りを見回す。
「ああ、大丈夫。すぐ慣れるから」
「そっすか?」
 朱敏が奥へと入っていくのを確かめて、後ろででドアを閉めて素早く鍵へと
手を走らせる。

「暗幕どこかな」 
「あとで教えてあげる」 
「え?」 
 振り向いて。
「君、一年? 背、高いね。」 
「あーよく言われます」 
 朱敏にとっては何度となく言われた馴染みの言葉。

 指先が近くにあった棚へと伸びる。
「ね、ちょっとここのぞいてみてくれる」
「え、はい?」
 女生徒の声のトーンが、変わった。
 ひょいと言われるまま身をかがめて、棚を除く。

 ふと、耳元に響く忍び笑い。
「え?」
 同時に首に回された腕と、頬に当たる髪の感触、鼻先をくすぐる甘い香り。
「わっ」
 咄嗟に状況が判断できない。
 派手な音を立ててその場に転んで、何かがのしかかったことだけがわかった。
「あ、あの、センパイ?」
 目の前に大写しになった顔。
 頬に落ちかかってきた長い髪。

 暗い視界。
 倒れた拍子に棚の上にあったらしい暗幕が覆いかぶさるように振ってきた。

 女生徒が白い指先を一本口元に伸ばす。
「しー」 
「ええと、あの、スイマセン、一体なにが」 
 突然のことで混乱しきったままの朱敏の顔を眺めて、ささやく声。

「知らないの?ここのこと」
 必死で首を横に振る。
「内緒にしてあげるから、ねえ」
 肌で感じる、危険。
 この状況下で何がどうなるのか。
「あ、いえ、そのっ、こういうとこみつかったら、なんだかすごくやばいきが
します」 
「大丈夫、鍵、かかってるから。指導の先生はこの時間部活の方いってるし」
 耳にかかる息。
「あう」
「ね?」


会話
----

「おーい、暗幕どうしたよ」
 金槌を振るう手を止めて。
「あれ、あっきーが取りに行ったんじゃねえの?」 
「え、もどってねーぞ。あいつ、どこで油うってんだよ」
 さぁ、と肩を竦める。
「ああ、ソレ違う!そこやりなおし!」 


白
--

 金槌の音が何処かで響いている。
 あちこちで準備の為にせわしなく動く生徒達、アレが違うこれが違うと言い
合う生徒達の姿。

 ここまでは変わらない。

 どこか薄布を一枚剥ぎ取ってしまったかのような、何処かほんの僅かずれた
世界に紛れ込んでしまったかのような、そんなふわふわとした感覚。

 両手に持った暗幕。
 少し足をよろめかせて、教室へと戻る。

「お、あっきー!おせえぞ!なにやってたんだよ」 
「お、暗幕着たぞー」
 友人らの声がやけに遠い。
「おーい、あっきーその暗幕あっちの裏方に……っておい」 
「…………あ?」 
「ぼんやりしてんじゃねーぞ、ほら、早く」 
「あー、うん」

 何かを忘れてるような気がする。

「あ、いた、あっきー!手伝って」

 聞き覚えがある声がする。

「あ、ごめん。わかった」
 ショートカットのクラスメイト。

「あれ?」

 手を止める。
 何かが違う気がする。

「あっきー?」
「ああ、うん、すぐいく」

 何かが、違う。
 さっきまでの自分と。

 何も感じない。

 何か。

 ついさっきまで理解していた感覚が跡形もなく消えていた。


時系列と舞台
------------
 2002年08月
解説
----
 http://kataribe.com/IRC/HA06-01/2007/05/20070501.html#220000
 朱敏、高校一年生の頃。文化祭準備の時に起きた出来事。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上


 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/30900/30999.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage