[KATARIBE 30997] [HA21N] 小説『蛟〜移行の章』

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Date: Sat, 5 May 2007 22:00:01 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30997] [HA21N] 小説『蛟〜移行の章』
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2007年05月05日:22時00分00秒
Sub:[HA21N]小説『蛟〜移行の章』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
書いてます。
先程の、割と直接の続きの話かもしれません。
……書いてない部分は、また後で。

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小説『蛟〜移行の章』
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登場人物
--------
 今宮タカ(いまみや・たか)
   :流れを見て操る少女。多少不思議系。
 軽部片帆(かるべ・かたほ) 
   :壊れてしまった者。竜に心を移す異能が顕現。
 平塚花澄(ひらつか・かすみ)
   :鬼海の家在住。四大に護られる者。

本文
----

 その日、タカはひどく奇妙な人を見た。


 最近、タカはCDラジカセ(家を出る前の最後の誕生日に買ってもらったも
の)を抱えて外に行くことが多い。公園で音楽をかけながら、あわせて歌った
りくるくると踊ったりする。父親と母親の趣味で70年代後半から80年代に渡っ
ての洋楽が大好きな彼女が、フィル・コリンズやTOTO、ホール&オーツに
エイジアを聞きながら、くるくる踊っている図というのは、ちょっと不思議な
ものであるらしい。

『Easy lover』
 もともとかなり高いキーで始まるその曲は、タカの高い声にとってはかえっ
って歌いやすいものになっている。
『she'll get a hold on you believe it』
 家で元気良く歌っていたら、白橡から「ほんとにそれ意味わかって歌ってる?」
と尋ねられたものである。どうして、と、尋ね返すと、そういう曲だから、と
ちょっと面倒くさげに答えられた。
 片桐に題名の意味を聞いたところ、うーんうーん、と、しばらく唸った挙句、
「まあ、割とすぐ恋をする人って意味かのう」と答えが返ってきた。
「えっとそれって、惚れっぽくて飽きっぽい人ってこと?」
 そう言った時の、片桐の妙にがっくりとした顔を、タカはよく覚えている。

 まあ、どういう内容かはおくとして、それでもこの曲は最初のインパクトが
はっきりしているしリズムがきっちりしている。
 くるくる、と、タカは全身を動かして踊る。

 公園の午後11時。
 少女がくるくると踊っていても、人はちょっと見るだけで通り過ぎる。偶に
おや、懐かしいと言いたげな顔の人がしばらくメロディに耳を傾けるくらいで
ある。
 
 長い間奏が流れる間、それでも歌っている時よりは周りのことが目に入る。
肩の上にみやまをのっけたまま、タカはふと目を見張った。
 
 青白い人だった。
 おかっぱの髪は肩に届かない。あまり目立たない地味な顔立ちに、どこかぼ
んやりとうつろな目。その目がふっとこちらを見て、ちょっと驚いたような色
を浮かべたのだ。

『No don't try to change her, just leave it, leave it』
 
 そして長い間奏の後、綺麗にハモる部分。
 タカの高音部に、聞きなれない低音部が重なった。
 
 いつの間にか彼女の足元に、まるでガラスで出来たような綺麗な大きなトカ
ゲが立っていた。大きな目がきろん、と、こちらを見ている。
 みやまがこちん、と首を振った。

「!」

 一瞬にして、女の人とトカゲは一つの流れになる。二つに分かれている筈の
流れは、全く同じもので。
 くるくる、と、淡い虹の色のトカゲが暖かな色を帯びる。
 くるくる、と、青白い女の人は、やはりどこか透明な虚ろな流れを保つ。

『She's an easy lover』
 いつのまにか彼女は、手を伸ばせばタカにとどくほどの距離に近づいていた。
互いに向かい合いながら、彼女の声はタカのメロディに綺麗にハモっていた。
 嬉しくて嬉しくて、タカはくるくると腕を廻して踊る。
 くるくる、くるくる。
 大きなトカゲも一緒に回る。

 曲はゆっくりとフェードアウトし、そして相手の声も静かに消えた。

「あの、こんにちは」
 ぱちり、と、CDを止めて声をかける。ふ、と、その女は表情を亡くした。
「今宮タカです。おねーさん歌をありがとう」
 立っていられるのが不思議なほど、かくんと身体から力が抜けている。押さ
れればそのまま、後ろにぽんとひっくり返って戻らないだろう。そんなひどく
脆い印象があった。
「……あの、おねーさん?」
 くいくい、と、足の靴下を引っ張られて、タカは言葉を止めた。大きな半透
明のトカゲのようなものが、大きな目をこちらに向けている。
 ツツジの色に似た、鮮やかな朱の色の目が印象的だった。

「あなたはだれ?」
「きゅぅる」
「……きゅぅるさん?」
「きゅぅるるるっ」
 ぶんぶん、と、頭を横に振っているところからして……違うらしい。

「金平糖」

 ぽつん、と、乾いた声がした。

「こんぺーとー?」
「金平糖」

 虚ろな、声だった。
 そのまま彼女はするんとその手にトカゲを抱き上げ、そのままするすると歩
いていってしまった。

「片帆さん」
 頼りない割に歩みは途絶えない。真っ直ぐ彼女の向かう先に立っていた女性
が、ふとタカを見てにこりと笑った。
「ありがとう……お嬢さん」
「いえ」
「ごめんなさい。この人は、少し今、病気なんです」
「……あ」

 本来なら少し、片帆と呼ばれた人のほうが背が高いのだろう。けれども少し
背を丸めて立っている姿は、奇妙に弱弱しく幼いものに見えた。

「……ごめんなさい」
「いえ、そうやって一緒に歌ってくれて嬉しいです。ありがとう」
 にこっと笑った女性は、片帆と呼ばれた人よりもかなり年上に見えた。穏や
かな、しかしどこかしっかりとした芯の通った彼女は、小首を傾げてタカを見
た。
「それで……お嬢さんは、今宮、さん?」
「はい、タカです」
 しゃきん、と、背を伸ばして答えたタカに、その女性はにっこりと笑った。
「今宮タカさん……そう、ありがとう。私は花澄と言います。平塚花澄」
「か、すみさん?」
「はい」
 長い髪の毛をちょっと手で払って、彼女はにこっと笑った。

 さあ、帰ろうね、と、傍らにぼんやりと立つ片帆の背に手を当てて、花澄は
歩き出す。その動きに素直に従って、片帆はとことこと歩みだす。
「そうだ、タカさん」
「はい」
「いつも、ここで踊ってるの?」
「んと、うん……じゃなくて、はいっ」

 背をぴんと伸ばして答えると、花澄は笑った。

「じゃあ、また一緒に歌ってあげてくれますか?」
「はいっ」

 元気良く頷くと、彼女は嬉しそうに頷き返し、そのまままた歩いていった。

(病気、なんだ)
 
 ひどく虚ろな表情から、恐らく心の病気なのだろう、と、見当がつく。
「治るといいね、みやま」
 ぱたり、とみやまは翼を動かした。

 CDのボタンをもう一度押す。その前にふとタカは視線を上げ、歩いてゆく
二人を見送った。
 背中の側に顔だけ出した、金平糖といわれる大きなトカゲが、ばいばい、と
手を振っていた。

時系列
------
 2007年5月終わりごろ?

解説
----
 壊れた異能持ちの片帆、不思議少女のタカと出会う。

*************************************

 てなわけで。
 であであ。
 
 



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