[KATARIBE 30996] [HA21N] 小説『蛟〜伝承の章』

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Date: Sat, 5 May 2007 21:50:00 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30996] [HA21N] 小説『蛟〜伝承の章』
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2007年05月05日:21時49分59秒
Sub:[HA21N]小説『蛟〜伝承の章』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
殆ど一人書きで書くしかねえゼの蛟の話。
時系列蹴っ飛ばして書いてみます。

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小説『蛟〜伝承の章』
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登場人物
--------
  平塚花澄(ひらつか・かすみ)
   :鬼海の家在住。四大に護られる血筋の持ち主。
  平塚英一(ひらつか・えいいち)
   :鬼海の家在住。花澄の兄。異能以上に常識面で鬼海の家に寄与(恐らく)。
  平塚火夜(ひらつか・かや)
   :火に護られる血筋の一人。英一の妻。

本文
----

「それで、この破片か」
「うん……ちょっと兄さん、それそうやってほっぽるのやめて」
「ほっぽってやしないだろう」

 少し毛羽立つような感触のある和紙の封筒に、小さな紙の破片を落とし込み
ながら、男は少しだけ肩をすくめた。

「で、これはどうする」
「とりあえず、あたしが預かっておく。隆君がどう頑張っても、うちからは盗
めないと思うから」
「まあ、彼の能力は、荒事向きじゃないからなあ」
 呟いて、男は無意識のうちに手を伸ばす。伸ばしかけて、ちょっと何かに気
がついたように手を開いたその中に、すとん、と湯呑みが入り込んだ。
「ああ……どうも」
「お義姉さんも、まだこちらのほうがいいでしょ?」
 にこっと笑ってもう一つの湯呑みを差し出す女は、男よりもかなり若い。
「ありがとう。ごめんなさいね、私、座り込んじゃって」
「いえ、そちらのほうが今は急ぎの用事ですもの」
「そこで酒まで持ってきて貰うしな」
「……だーから兄さん!」
 ころころ笑いながら、女はお盆から肴の皿を二つばかり下ろした。
「あ、これ何?」
「するめの天ぷらです。なんか美味しいってどっかにあったから」
「あ、もしかして『ミミズクとオリーブ』?」
「やっぱりお義姉さんだったら読んでましたね」
「でも、それ作っちゃうあたり火夜ちゃんやっぱり凄い」
「いえ、結構適当ですから……」
「ううん。適当でもえらい。兄さんの奥さんには絶対もったいない」
「だーから花澄、毎度毎度お前はっ」


 平塚花澄、という。
 苗字は父親のそれだが、月待坂のこの家の表札は、鬼海となっている。
 その兄も平塚を名乗っている……つまり、この家の大半が『平塚』姓である
割に、この表札は変わることがない。


「でも、お義姉さん」
 グラスの代わりに湯呑みに日本酒。最後に自分の前にもとん、と置いて、彼
女……火夜は、小首を傾げた。
「すみません、私そちらの伝承はあんまり良く知らないんですけど」
「ああ……これ?」
「はい」
 封筒をかさかさ、と振って見せた花澄に、火夜はこっくりと頷いた。
「どういう、話なんでしょうか」
「うん……」
 言いながら花澄がちょっと視線を兄に移す。兄のほうは肩をすくめた。
「火夜には言ってない。というかそもそも、預かるのは薬袋の家だったろう」
「そうだけど……無責任な旦那だわ」
「だからお前は、なあ……」

 鬼海の家はそもそも、四大元素(地水火風)に愛され贔屓される家である。
己の能力なぞ無く、ただ彼らの愛護に甘えるだけの家である。
 ただ、鬼海の家が、四大の全てに平均して護られるのに対し、その周囲の家
は、四大のうちの一つに重点的に護られることが多かった。
 火夜は、そのうち、名のとおり『火』に愛される家の出である。
(にーさんがたぶらかしたのよねえ)
 ころころと、よく花澄が笑う。その度に火夜がむきになって言い返す。
(ちがいます。あたしが頑張って頑張って、英一さんをおとしたんですっ)
 実際、当時高校生だった火夜が何をとち狂ったか(平塚家の父親談)英一に
惚れこみ、16の年齢差をものともせずに、最終的に結婚までに漕ぎつけた一幕
は、一族の中でも有名である。『年齢差が何です、そういうのって差別です』、
と、説得(?)したくだりは、「いやあ勿体無いの見本だね」と、平塚の父に
言わしめるくらいのインパクトがあったらしい。

「訊いていい話ですか?」
「無論」
 長い髪を後ろに流して、花澄が笑う。
「但し、この話は2つのバージョンがあるの。一つは結構はっきりと伝承とし
て残っているもの。もう一つはその裏」
「表、というと?」
 お盆を持って、ちょんと横に座った火夜が首を傾げる。
「こういうの」

 
 昔この地に、蛟が現れた。
 最初蛟は雨をもたらす存在であった。時には災害を、しかしより多くの恵み
を与える存在でもあった。
 しかしある時より、蛟は狂うた。暴風を巻き起こし、雨を降らし、多くの人、
多くの地に被害を及ぼした。
 そこで二人の者が相計らい、この蛟の頭を落とした。途端に蛟は大量の水に
変じてしまった。
 しかしそのままではまた蛟は生き返る。そこで頭の変じた水で墨をすり、蛟
首の絵を描いた。蛟の身体は時に蘇りのたうつが、頭が無い限り被害を起こす
ほどのものとはならぬ。従ってその絵は大切に保管されることとなり、蛟の頭
を落とした男の一人が、その役を買って出ることとなった。
 その男の子孫が……今の薬袋の家である。


「まあ……今となったら、ここらに居る人も知らないんじゃないかしら、この
話」
「……うーん」
「火夜ちゃんは知ってた?」
「いえ……いや、ええと、確かこちらの先代の方に、そういえば聞いたような
聞いていないような……」
「ああ、あのばーさまなら知ってても不思議じゃないな」
 湯呑みを握ったまま、英一が頷いた。
「それで、二人のうちの一人が薬袋の家で、もう一人が、ここの家ですか?」
「うん……まあ、鬼海の家自体はもっと前からあったそうだけどね」
「こういう異能を持ってるんだ。蛟退治なんてことになったら、いの一番に役
目がまわってくるだろうよ」
 英一の言葉に、火夜はこっくりと頷いた。

「で、裏っていうのは」
「裏というか……うん、伝承で語られない部分がある、程度だろう」
「まあそうかも、ねえ」
「そこです」
 火夜が身をのりだした。
「つまりね」
 まず一つ、と、花澄が指を立てる。
「蛟は、自分から言い出したの」
「……え?」
「自分の頭を縫いとめよ、というのは、蛟の指示だったそうよ」

 そもそも蛟が狂ったのは、霞ヶ池の水のせいだった、という。
 そのまま拡散すれば全ての境界が無くなる水。その水を浄化しようと……否
せめて広がらせまいと蛟はその水を飲み……そして狂ったのだという。

「第二に……その身体があるのが」
 花澄はちょっと首をすくめるようにした。
「瑞鶴から少し離れた、丘のとこ」
「……あ、この家の名義の」
「うん」
「霧の多い夜なんか、あそこの道を通ると大変なことになる。髪の毛なんてびっ
しょりになるらしいわ」
「結構危険じゃないんですか、それ?」
「危険だから、一応私有地、立ち入り禁止」
「俺達も滅多にいかない。……空から行く奴もいるけどな」
 じろりと見られて、花澄がちょっと視線を逸らした。
「お義姉さんとか?」
「以前ね」
「行って見たいなあ、あたしも……」
 いーなあ、の顔になって火夜が言う。

「そしてもう一つは」
「……これ、だな」
 ひょい、と、英一が封筒をつまみあげる。
「それが……絵、ですか?さっきの話の?」
「その、破片」
「そんな、ちぎっちゃっていいんですかそれ?」
「よくは無いだろうが……でも、焼かれるよりはまし、なんじゃないかな」
「焼く?」
「絵の封印は、この絵が焼かれると消える。封じた『水』は蛟の身体に戻り、
元の姿に戻ろうとする」
「目は目に、逆鱗は逆鱗に」
 言いながら英一が、もう一度封筒を逆さにする。中から出てきた破片には、
それ単独では分かり難いものの、言われてみれば鱗らしきものと白目の面積
の多い目が描かれているように思われる。
「でも、なんでこうやって?」
「今の、薬袋の家の……前の当主の奥さんが持ってきたんだよ」
 小さな和紙の破片を丁寧にまた封筒に戻しながら、英一が答えた。
「どうやら、この絵を燃やしてしまおうとするのが居るらしいんだな。絵の
半分はもう一つの薬袋の家が保管しており、そっちのほうは安心らしい。た
だ、現当主も相当無茶をしそうなんで……ということだった」
「……つまり、燃やそうとしてるのって」
「薬袋の家の、現当主さん」
「危ない人ですね」
 火夜の言葉は尤もなのだが、その言い方が妙に可愛らしい。花澄はころこ
ろと笑った。
「とりあえず、それで預かってるの」
「はあ」
「それに……ちょっと色々、問題も出てきててね」
「……問題?」
 うん、と、英一が、これは笑いの欠片も無い表情のまま頷いた。花澄もま
た、表情から笑みを消して言葉を続ける。
「霞ヶ池の水が、また活性化している。蛟の身体はあそこにあるまま、どん
どんとその水を集めている」
「……危険、なんですか?」
「とっても」

 生真面目な答えは、兄妹の口から同時に返ってきた。

「薬袋の、もう一つの家……一番近い分家の人と、今、連絡を取り合っている
ところなんだ。あちらもかなり色々考えてくれているんだけど」
「こちらも考えないと、ね」
 困ったな、と、花澄が溜息をついた。
「向こうの人の考えるって」
「ああ、何だかね、特殊な異能を持つ子が居る、この子の力を使えないだろう
かって」
「どんな……」
「流れを、支配するらしい」
「流れを?」
「そう」
 頷いた妹に、兄が重ねて頷きながら言葉を加える。
「流れ、と、規定することが出来れば、それが例えば感情や意識ですら、その
流れを操ることが出来る。そういう異能者だよ」
「……え」
「薬袋の家の異能のバリエーション。薬袋は見ない……『見える』異能の隠し
名。目に見えない流れを見、そして操ることの出来る子供、らしい」
「子供、なんですか」
「そうなんだ」
 途端に英一が仏頂面になった。
「能力には不足は無い。ただ……そういう異能者なものだから、彼女はこの一
年かそこら、学校に行けてない」
「私達みたいに、誰かに教わるってことは無かったんですか?そうやって薬袋
の家の子なら、そういうことを親に教えてもらっても……」
「何でも特殊例らしく、そこらがうまくいってないらしい」

 うーん、と、火夜が天井を見上げる。
 彼女もまた、火の加護を受ける。ただ、時にその加護は行過ぎることもあり、
一時期感動を口にのぼせただけで、その感動の対象が火を噴くことが続いたも
のである。『綺麗な花』と感動するだけで、その花が燃え、崩れる風景はかな
りショッキングなものであったが、そのような異能を抑える訓練は、確かに各
家に伝わっているといえる(故に、彼女も今は、無意識の発火を抑えるように
なっている)。

「困ったですね」
「ほんとに」
 
 はあ、と、三人して溜息をついたところに。
 じりり、と、昔懐かしい音が響いた。

「あら、電話?」
 あ、と、火夜が立ち上がろうとする。それを制して花澄が受話器を取った。
どこか生真面目な……そしてどこか厳しい顔のまま、受話器を耳に当てる。

「…………真帆?」


時系列
------
 2007年5月頃

解説
----
 蛟と呼ばれるモノの話。薬袋の家と共闘する鬼海サイドの話。
********************************************

 てなもんで。
 ええとええと、そのうちうぃきか何かでまとめます(へこへこ)

 であであ。
  
 


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