[KATARIBE 30985] [HA06P] 『工夫の成果』

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Date: Tue, 1 May 2007 23:09:19 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30985] [HA06P] 『工夫の成果』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2007年05月01日:23時09分19秒
Sub:[HA06P] 『工夫の成果』:
From:ごんべ


 ごんべです。
 MOTOIさんのイベント『卒業前のアンドロイド騒動』絡みで、珊瑚のネタを。

 ログを元にした話ですが、ハリさん、チェックよろしくです。


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エピソード『工夫の成果』
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登場人物
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 霞原 珊瑚 (かすみはら・さんご)
  :十代の少女の姿をしたアンドロイド。吹利学校高等部1年生在籍。
  :機械の身ながら、事象プログラミング呪術の一種「影術」をたしなむ。
 前野 浩 (まえの・ひろし)
  :事象データ化能力と、その応用による様々な術や技を駆使する、
  :無道邸の留守居役。珊瑚とは腐れ縁の仲であり「影術」の師でもある。


本編
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 珊瑚     :「これを見てもらっても良いかしら?」
 前野     :「どれどれ」

 何やらたっぷりとした布地を抱えて無道邸を訪れた珊瑚。
 前野に何やら見せたい様子。

 前野     :「お前からそういうことを言ってくるのは珍しいな」

 布地を広げ、珊瑚はそれを肩から羽織る。

 前野     :「ほぉ」

 つやのある黒々とした生地であつらえた、上品なマント。
 お手製にしては仕上がりが良い。
 細い肩から纏い足下までを覆った姿は、思いのほか似合っている。

 珊瑚     :「見ていて」
 前野     :「ふむ」

 マントの前袷から細い右腕が覗き、手首の腕時計とマントの留め金が胸元で
触れ合う。

 SE      :…………ッ!

 全くの無音ながら、劇的な変化が展開された。

 前野     :「ほほう」

 布地の表面を「影」の色をした光が走り、見えない模様を描き出していく。
見えない光が充満するのに呼応するように、風もないのにマントが内側から
膨らむようにふわりと翻り――

 一瞬の後、そこに珊瑚の姿はなかった。

 前野     :「なるほど……良く作ったものだ」

 姿は見えない。
 気配を探ってみるが、かすかに絨毯を踏む音が聞こえるのみである。

 珊瑚(声のみ):「光学隠身の呪紋陣を立体展開して、マントに映し込んで
        :みたのだけれど」

 声とともにわずかな気配がゆっくりと動き、すっ、と、少し離れた場所から
忽然と珊瑚の姿が現れた。

 珊瑚     :「魔力が発散することもなるべく避けようと思って、少し
        :工夫してみたの」
 前野     :「ふむ」

 まず、マントの表と裏に同じ陣を位相反転させて仕込む。それだけでは発動
しても打ち消し合うだけの状態になるとして、珊瑚が工夫したのは、効果範囲
を表の陣と裏の陣で少しだけ変化させたことであるらしい。
 表面の陣は生地の表裏ともに効果を及ぼしつつ、内側の陣は、魔力が生地の
外側へ向く方向にのみ影響するようにしたのである。そうすることで、自分の
周囲には本来の効果を与えつつ、外側へ向けては二つの陣の効果が逆位相で打
ち消しあって、魔力を相殺する。これは珊瑚がノイズキャンセルヘッドフォン
の原理に気付いて、それを応用したものだという。

 つまり、陣の力で自分の姿は隠し、魔力源としての自分の存在位置も曖昧に
できる、と言う寸法である。
 放出された魔力を回収することは難しいため、言わば「水源はわからないが
辺り一面水浸し」の状態になるわけで、自分の痕跡を一切消す必要のある用途
には向かない。

 思わぬ成果に、前野もさすがに興味が動いたか、しげしげと眺める。

 前野     :「……まぁ、輪郭のぶれが多少見えるが、ぱっと見は気付
        :くまい」
 珊瑚     :「まだ見えるかしら? そうね、空間遮断陣でもなければ
        :それは難しいかしら」
 前野     :「熱の遮断は?」
 珊瑚     :「近赤外線ほどではないけれど、遠赤外線も光として
        :『くくって』、ある程度は」

 熱も、物理的には波長のごく長い電磁波であり、熱源感知に使われるように
赤外線=光の一種である。呪術の対象として『ひとくくりに捉える』ことで、
直接操作の対象としているようだ。

 前野     :「なら適度な範囲か」

 マントの一部をつまみ、周囲にかざして目をこらす。

 前野     :「たまに、はっきり遮断して逆に浮かび上がってしまうよ
        :うなのがあるんでな」
 珊瑚     :「差し引きで、環境温度と同じくらいには、なると思うわ」
 前野     :「しっかり想定しているなら何よりだ。
        :……で」

 前野としては、気になって訊きたくて仕方のない、本題の質問に入る。

 前野     :「どうやって持って歩く気だ」
 珊瑚     :「普通に着て歩くわ」

 びしっ、と突っ込みを入れる前野。
 今の日本、マントを着て平然と歩くような人物はいかにも希有な存在である。

 痛い、と言いたげに睨みつつ、珊瑚は説明を続ける。

 珊瑚     :「あなたとよく似た同級生がいてね。これを作るのにも、
        :彼から発想だけ借りたの。彼は平然とマントを着て歩く人
        :だから、敬意を表して」

 同級生の彼とは、周御鋭司のことである。
 ……リスペクトのためだけに彼の素行を真似るのは、いささか大胆すぎる、
と言わざるを得ない。

 前野     :「まったく……」
 珊瑚     :「……まあ、冬限定だけれどね。実験を重ねたら、また別
        :の方法を考えるわ」
 前野     :「まぁ、がんばれ」
 珊瑚     :「で、どうかしら、教師としての目からは?」
 前野     :「機能としては申し分ない。マントへの呪式の定着もしっ
        :かりしているし、構成も適切だ」

 しかして、評点は。

 前野     :「実使用面での隠匿性を高めるコトをお勧めしよう」
 珊瑚     :「私が使えるモノの応用としてはそれなりの物だと思うわ。
        :……隠匿性と言うよりは、不自然で無くすことね」

 もっとも、珊瑚が呪術方面ではっきりとした成果を上げたのは、これが初め
てである。

 前野     :「自分の考えで、応用を利かせられるようになった。
        :……という点では、多少は評価しよう」
 珊瑚     :「辛口ね。ただの思い付きの時点よりはマシにはなった
        :つもりだけれど」
 前野     :「今まで応用できていたつもりなのであれば反省するべき
        :だな。まぁ、今後も精進しなさい」
 珊瑚     :「……はい」

 まだまだ、いろんな意味のバランスを身に付けるべきだとは言え。
 工夫の成果は、記念すべき第一歩となったとは言えるかも知れない。


(終)


解説
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 イベント『卒業前のアンドロイド騒動』に登場させる予定でいるアイテム、
「隠身のマント」の紹介話。
http://hiki.kataribe.jp/HA06/?AndroidDisturbanceBeforeGraduation

 あるいは、珊瑚も次第に芸域が拡がってきたという1エピソード(ぉぃ)

(元ログ http://kataribe.com/IRC/HA06/2007/03/20070316.html#020000 )


時系列
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 2007年3月頃。


$$

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ごんべ
gombe (at) gombe.org


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