[KATARIBE 30984] [HA21N] ハントサークル 6

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Date: Tue, 1 May 2007 18:09:18 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30984] [HA21N] ハントサークル 6
To: kataribe-ml@trpg.net
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2007年05月01日:18時09分18秒
Sub:[HA21N] ハントサークル 6:
From:Toyolina


[HA21N] ハントサークル 6
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登場人物
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 宮島希愛
 淡蒲萄
 男


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 先月、正確には、年度が新しくなって、学年が一年上がった頃ら、よく咳き
込む様になっていた。時期が時期だけに、花粉症か何かだと思っていたのだが、
くしゃみなどは併発していない。ただ、極端に喉が弱くなったのか、咳だけが
前触れもなく出ては、しばらく続く。
 宮島には、原因について、なんとなく心当たりがあった。一年ほど前に手に
入れた能力の所為、正確にはその副作用だと思う。

「なに、風邪?」
「うっさい、ほっといて」

 彼氏面をして、心配そうなセリフを吐く男を、宮島はきっぱりと拒絶する。
 この男は、宮島が所属する組織の下部構成員だ。宮島たち幹部は、男のよう
な連中を"肉"と呼んでいる。大雑把に言えば、雑兵のようなもので、特に誰の
配下、というわけでもない。
 ただ、この男は宮島に気があるらしく、何かと付きまとってくる。頭が悪い
という一点を除いては、腕っ節もそれなりで、家庭環境も金銭的な意味では良
い。割と便利な存在なので、時々こうして食事をたかったりしているのだが、
忍耐の限界が近くなってきていた。

「うお、コエエ。にしても、最近咳よくしてねえ?」
「空気悪いから。誰かの吐いた二酸化炭素とか混じってる」
「そんなに客いねーじゃん、あいつか? いくらなんでも遠いぜ」

 周囲を見回す男。駅前にしては珍しい、ドライブスルー店舗は、丁度客足が
遠のく時間帯だ。宮島たちの他には、寝癖だらけの髪の、分厚い眼鏡をした男
が一人、隅っこで猫背を丸めているくらいだった。

(お前だよこのバカ)

 悪意を満たした皮肉にも、まったく気づかない。
 これくらいの方が兵士としては、本来使いやすいのだが、宮島自身の潔癖さ
が、それに耐えられそうになくなっていた。

「ナゲットとバニラシェークたのんどいて」

 咳き込みながら、洗面所へと足を向ける。

「ソースは? マスタード?」
「あんたと違うヤツ」
「へいへい」

 男は、二種類のソースで食べるのだと解釈して、レジに向かった。
 宮島は洗面台に直行し、ハンカチに少し水を浸し、口元を拭った。
 
(この前の三本、奮発しすぎた……だいぶキたな……)

 鏡に映る自分の顔とハンカチを交互に見比べる。少し、目の下に隈が出来て
きていた。心なしか、頬のラインが細くなっているように思えたが、それを喜
ぶ気にはなれなかった。
 先日、実験を兼ねて、知人に渡した三本の"水"。何の変哲もない、ただの大
学生がそれなりに効力を発揮出来るよう、精製するのに骨が折れたのだ。

(ちょっと休んだ方がいいか……他の子らサボってんのに、あたしばっか無理
しても意味ねー)

 宮島自身、知人らが夢中になっている吸血鬼狩りには、全く興味がなかった。
彼らの行動には理想なんてものはまったく無いから、そもそも積極的に関わろ
うとも思わない。ただ、利害が一致しただけだ。
 組織が"鳳の騎士"と呼ぶ重要人物。まだ、その自覚は当人にはないらしいが、
彼を引き入れるのは、急務となっていた。そんな彼に付きまとい、堕落させよ
うとしている吸血鬼が居る。

 宮島は一度、彼女と相対したことがあった。姑息にも、彼女は手下を二人使っ
て、宮島を拘束し、拉致したのだ。それ以外にも、宮島と立場を同じくする者
も二人、彼女と戦って、敗走を余儀なくされたという。
 直接、対決するのは非常に分が悪い相手だった。

(あいつらが、上手くやったらそれはそれで。ダメでも全然痛まないし)

 などと、考えながら蛇口を締める。
 ふと顔を上げると、鏡に、背後に人が立っているのが見えた。その姿を確認
して、宮島は慌てて振り返る。

「あら奇遇」

 茶色いセーラー服を着た、セミロングの女子高生が一人、立っていた。
 淡蒲萄、そう名乗る、宮島のみならず、組織の怨敵その人だった。

「そこどいてくんない? 手、洗いたいんだけど」

 どこか脱力した気配で、淡蒲萄は宮島を見ていた。身長そのものは、宮島よ
り数センチ低い。なのに。見下ろされている感覚が、宮島にはあった。

「く……」

 いくらなんでも、偶然とはいえ酷い状況だと思った。手元には作り置きの水
はないし、常用しているわけではないから、仕込んでもいない。何より、出口
を塞がれている状況だ。彼女の能力であれば、この場で、それこそ数秒で、宮
島を殺せるだろう。
 ぽたん。
 締め方が甘かったのか、蛇口から水滴が落ちた。その音は、宮島にとって、
一筋の光明と言えた。

「せ、狭いのにそんなの無理に決まってじゃん、て、テメエが先に下がって、
場所空けないと」

 焦っている振りをして、こっそりと、後ろ手で蛇口を探り、少し捻る。宮島
にとっては幸運なことに、ほぼ淡蒲萄と正対していた。鏡ごしに、手の動きを
探ることは難しい。宮島自身の姿に隠れているのだから。そのまま、後ずさる
ようにして、洗面台に張り付き、手を流水に浸した。

「警戒してんのね。自意識過剰なんじゃない」
「な……」

 淡蒲萄の気配からは、殺気のようなものはまったく漏れ出てはいなかった。
ただ、普通にそこに立っているだけだ。

「あんたなんてどうでもいいんだって。あたしは今、手を洗いたい。あんたが
塞いでると、あたしが洗えない。だから早くどいてくれってダケなんだけど」

 宮島は以前、聞いたことがあった。吸血鬼は、嘘をつけないのだと言う。そ
れが本当かどうかは判らないが、嘘をつく必要がないのだとしたら、納得出来
ると思った。彼らは、人間より明らかに優れた能力を、数多く身につけている。
つまり、力押しが可能なのだ。嘘をついたりして、人を動かす必要がない。た
だ、恐怖をほんの少し味わわせるだけで良いのだから。
 だとしたら。
 淡蒲萄の言葉が真実だと思えた。

(こいつ……あたしなんてどうでもいいってのか……ナメてる……)

 彼女にとって、宮島は難敵ではないのだ。おそらくは、獲物。せいぜい、少
し狩りを楽しませてくれる程度の。
 だから、ここでこのように遭遇しても、すぐに襲ってきたりはしなかった。
逃げられてもいっこうに構わないし、抵抗すればしたで、楽しみが増えたと喜
ぶのだろう。

「ほらはーやーくーしーてー」

 ならば。どうせいつか狩られるのならば。
 今ここで、この余裕たっぷりな顔を、汚してやりたいと思った。駆け引きも
命乞いも、この吸血鬼相手には必要ない。
 
「……あんたの言うの、もっともだよね、悪かった。ちょっと詰めてくれる?」
「案外素直なんだ」

 少し小首をかしげて、淡蒲萄は片側の壁に張り付く。おそらく、向こうから
は何もしてこないだろう。こちらが何かしてきても、十分対応出来る、そんな
余裕があるのだ。
 一歩、左足を踏み出して、宮島は浸したままだった右手を振った。

「……ってふざけんなこの!!」

 時間にして三十秒ほどだろう、この程度の量なら、この時間でも、"水"を精
製するのに十分だった。宮島の持つ能力。それは、"水"の効果を自在に操ると
いうもの。その反動は、宮島の体力、生命力を大きく削り取るものだが。
 水飛沫が、淡蒲萄の顔面に向かって飛んだ。
 目に入れば、一時的にせよ、視力を失うのは間違いない。皮膚に付着すれば、
焼け爛れるに違いない。それだけの念は込めた。
 しかし、眼前の吸血鬼は。
 瞬きすらせず、全く意に介していないようだった。
 皮膚の直前で、水は悉く弾かれたようにも見えた。

「な、なんで、平気……」
「……やる気ないって言ってんのに、そんなに殺られたいワケ? アンタ、ドM?」

 これは、淡蒲萄に与えられた、特殊な能力によるものなのだが、宮島が知る
よしもない。ただ、生き長らえる機会を失ったことはわかった。
 先ほどまでの、まったく興味のない視線とはまるで違っていた。淡蒲萄の瞳
には、明らかに嗜虐的な色が広がりつつあった。


時系列と舞台
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5の数日後。


解説
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偶然ばったり。みやじ危うし。

ハントサークル
http://hiki.kataribe.jp/HA/?HuntCircle

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Toyolina 





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