[KATARIBE 30971] [HA21N] ハントサークル 1

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Date: Wed, 18 Apr 2007 14:50:06 +0900 (JST)
From: Subject: [KATARIBE 30971] [HA21N] ハントサークル 1
To: kataribe-ml@trpg.net
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2007年04月18日:14時50分05秒
Sub:[HA21N] ハントサークル 1:
From:Toyolina


[HA21N] ハントサークル 1
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登場人物
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部長【ぶちょう】  同回(同級)で語学もゼミも同じの腐れ縁
真緒【まなお】   一個下の後輩
俺 【おれ】    この掌編のナレーター役だ
メル友【めるとも】 部長の自信の根拠。大丈夫かよ


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 ずらずらと部屋が並ぶ、サークル棟の一番端。HC、(ハイスパートコミュニ
ケーション)と書かれた紙がピンで刺してある扉。そこを開けると俺たちの部室
であり、基地だ。

 弱肉強食。
 あいつらは、それを体現している存在だ。
 つまり、俺たちは弱くて肉として喰われ、あいつらは強くて肉を、血を喰らう。
 枠の中で過ごしている限り、それがひっくり返ることは永遠にない。
 なぜなら。
 あいつらは、その成り立ちからして、普通の枠を外れているからだ。
 ならば。
 俺たちも、普通の枠を飛び越えるか、なくしてしまえば──

 なんて、部長が相変わらず抑揚のない口調で、熱弁を振るう。矛盾した表現
だとは思いながら、議事録を取っている俺。しかし三年目のつきあいだ。サー
クルだけとはいえ。構えたマイクの位置で、大体のテンションを判断出来る。
 しかしワンルームくらいの広さの部室で、マイクを使う意味はわからない。

「ねえ、理屈はなんとなくわかるんだけど、具体性皆無だと思わない?」

 隣で同じく議事録を撮っている真緒が肘を引っ張りながらささやく。
 こいつは二回生なので、俺や部長よりも一個下、になるのだが、俺や部長は
現役で、こいつは一浪だ。後は察してほしい。

「確かに。株でインサイダーにやられてるから、俺たちもインサイダーやれば
いい、とかそんなレベルだよな」
「年度始まったばっかりだから、それでいいって思ってんのかなあ」
「さあ、でも今日はあいつテンション高いよ。マイク、人中にくっつけてる」
「道理で、鼻息拾ってると思った」

 ふごー、ふごー、ぷすー。
 そんな呼吸音を交えながら、なおも部長は話し続ける。それに反比例して、
俺の集中力は拡散する一方だ。真緒は器用に携帯をいじっている。

「今週末に、最初のオリエンテーリングを行うことにする。急な話だけど、ど
うせおまえら暇だろうから部長特権だ」
「部長、それはいいんですけど、マトはなんですか」
「質疑応答は最後にまとめて、と言ったろう。それについてもこれから説明す
る。これを見てくれ」

 ノートPCのパワーポイントを操作して、一枚のスライドを見せる。
 しかし、うちのサークルにプロジェクターなんて気の利いたものはないし、
なによりそのノートPCも部長の私物のレッツノートだ。小さくて見づらい。
 一斉にのぞき込む、サークルメンバー一同。
 そこには、セーラー服を着た女子高生らしい写真があった。というのも携帯
で遠くから撮影したものを、パワーポイント上で拡大したらしく、画素が荒く
て、顔の識別は出来そうにないからだ。比較対象もないから、スカートの丈で
女子高生らしい、と言ったけれど。

「どうみても女子高生です、本当に──」
「え、部長の彼女ですか」
「おまえら、真剣に聞けよ」

 サークルメンバー一同、と言ったけれど、ぶっちゃけ部長入れて三人しか居
ない。つまり、部長と真緒と俺。真緒と俺が議事録を取っているのは、黙って
聞いているのが辛いからに他ならない。

「これは、俺のメル友からもらった貴重な写真なんだぞ」
「メル友って部長……こんな誰だかわかんない写真が貴重って、どういうネタ
ですか」
「これが限界なんだ、これ以上寄ると、見失うらしい」

 見失う。
 どういうことだろうか。
 ちらり、と見ると真緒も疑問に思っているようだ。

「部長、見失うっていうのは」
「言ったとおり。存在を認識出来なくなるのかもしれないし、もっとシンプル
な仕掛けかもしれない。実際、どこにいるのかわからなくなるらしい」
「それくらい危険ってことですか、この子が」
「今度のマトだ」
「……これ、昼間ですよね、写真」

 薄曇りのようではあるが、明らかに日中撮られたものにしか見えない。
 それはつまり──部長の言うマトが、きわめて強力な存在だということだ。
 これまでも何回か、オリエンテーリングを行い、成功させてはきたけれど。

「見ての通り昼間だ。だが、こいつは幸い、手下を連れていない。十分チャ
ンスはあると考えていい」
「それは安直だと思う。むしろ、手下を必要としないほどの存在だと、そう考
えるべきなんじゃないのか。そもそも、部長、お前のメル友がどんな人間なの
か、俺たちはさっぱりだ、信用できねえ」

 それもそうか、言ってなかったな、と部長は独りごちる。

「詳しい事情はあまり言えないが──メル友は、個人的な恨みが、この写真の
マトにあるんだそうだ。協力する理由は利害の一致。だからこうして情報もよ
こしてくる」
「……それを信じたとしても……前みたいなノリでやるわけにはいかないんじゃ
ないですか。ヤですよ、あたしらもう成人しちゃってるんだし、下手して、実
名載ったりとか」

 まったくもって。少年A、少女Aと実名ではその後の扱いが違いすぎる。そ
れに、そろそろ就職活動を始めないといけない筈なのだ、俺も部長も。やるに
しても最後になるだろうから、せめてイージーなマトで締めたいというのが本
音。

「奥の手、というか対策はある。それがあるから、今回はこいつに決めたんだ、
俺だって死にたくないし」
「対策? それもメル友が?」
「そうだ。専門家なんだよ、"水"の。聞いたことないか、噴水庭の君って」
「あの前世系のとこの人か?」
「それそれ。能力は、保証する。俺は実際に見たしな」

 それなら、どうにかなるかもしれない、と思った。
 正直な話、俺たちの手法は、プロから見ればきわめて稚拙なものだ。手法と
すら呼べるかどうか。千円ほしくてホームレス狩りをする、ゆとり中学生や無
職の連中と大差ないのだから。

「つまり、その人が助けてくれると」
「細かいところは、これから詰めるんだ。でも間違いなく、今までで一番スリ
ルがあると思う」
「そりゃそうだ。今までは弱いのいじめてただけだし」
「あれはあれでドS気分味わえていいんだけどね」

 うふふ、と真緒が笑って呟く。普段は至って善良な一女子大生だが、キレる
と一番ヤバいのはこいつだ。気分味わえる、なんて言ってるが、間違いなくこ
いつは真性のSなのだから。

「大丈夫ってわかったら、なんか楽しみになってきましたよ。いつやるんです」
「連休の中日を考えてる」
「そうですか、わかりました、それまでに、鋸新調しないと」

 ──こいつのヤバさが、多少なりと伝わっただろうか?

 ともあれ、俺たちはゴールデンウィークの中日に、オリエンテーリングを決
行することになった。
 内容は狩り。標的は女子高生の姿をした吸血鬼。
 ハイスパートコミュニケーション、通称HC。
 Hunting Circleの新年度の最初の活動だ。


時系列と舞台
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新年度が始まった、とある大学のサークル棟の一室で

解説
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深い考えもなく、ただ面白いから、弱い吸血鬼を狩って楽しむ大学サークル。
なんてネタを思いついたので。

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Toyolina




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