[KATARIBE 30964] [OM04N] 小説『かまいたちの騒ぎの終わりの話』

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Date: Sun, 15 Apr 2007 00:53:00 +0900
From: Subject: [KATARIBE 30964] [OM04N] 小説『かまいたちの騒ぎの終わりの話』
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ふきらです。

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小説『かまいたちの騒ぎの終わりの話』
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登場人物
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 賀茂保重(かも・やすしげ):
  陰陽寮の頭。

 烏守望次(からすもり・もちつぐ):http://kataribe.com/OM/04/C/0002/
  見鬼な検非違使。

本編
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 陰陽師達によるいたち狩りは三日間続いた。
 最初の一日目で二十匹ほどのいたちが捕まり、二日目には布が切られるとい
った奇妙な事件の話はほとんど聞かれなくなった。
 それでも念のためということで三日目も総出で狩りが行われたが、一日中歩
き回って捕らえることができたいたちの数はたった二匹であった。
 日が西の山に沈みかけたころ、陰陽師達は陰陽寮に戻っていた。さすがに三
日間歩き回ったのがこたえたらしく誰もが疲れた表情を浮かべている。
「ご苦労であったな」
 保重は皆にねぎらいの言葉をかけた。
「しかしなあ……」
 そう言って保重は庭に目をやる。庭の真ん中には大きな籠があり、その中に
捕らえたいたちが入れられていた。籠には陰陽寮中から護りの布を寄せ集めて
被せてある。微かにキィキィと鳴く声が彼の耳に届いていた。
「どうしたものか」
 さすがにずっとこうしてこのまま置いておく訳にはいかない。だからといっ
て殺してしまうのも気が引ける。
 となると、どこかに逃がすという手段しかないのであるが。
「一匹や二匹ならば式神にしてしまうという手も……」
「お頭、それはやめておいた方が良いと思います」
 保重の近くにいた陰陽師が言った。保重は彼の方を見て「何故そう思う?」
と尋ねた。
「式神にして使役しているところを誰かに見られて、この一連の騒動は陰陽寮
が原因だと思われたら厄介です」
「む…… それもそうか」
 保重は溜め息をついた。
「結局、どこかへ逃がすしかないのか」
「おそらく、それが最良ではないかと」
「どこかへ逃がすと言っても都の近くではまた戻ってくるかもしれぬし…… 
そうなると遠くの山奥か」
「誰がそんな山奥まで連れていくのです?」
 それは…… と言いかけて保重は振り返り部屋にいる陰陽師達を見た。彼ら
は保重の方を見ている。
 山奥に連れていくという話をしたときにうすうす感づいてはいたが、やはり
かと保重は思った。
「俺に行け、と言いたいのか?」
「いえ。ただ……」
「ただ?」
「そんな山奥に一番早く行けるのはお頭しかおりません。歩いてでは何日かか
るか分かりませんし」
 保重は苦笑を浮かべた。
「分かった。俺が行けば良いんだろう」
 その言葉に、お気を付けて、と陰陽師達は頭を下げた。


「よっと……おわっ」
 さすがに人が入ってきそうにない山奥では道があるはずもない。縮地で飛ん
できた保重は人の胸ほどの高さまで伸びている雑草に突っ込み、体勢を崩し
た。
 倒れた拍子に右手に持っていた籠の一部が壊れ、その隙間からいたちたちが
我先にと逃げ出していく。
「あ、こらっ…… まあ良いか」
 何とか立ち上がった保重は逃げていった先を見て溜め息をついた。そして、
もう片方の手に持っていた籠も開き、中にいたいたちを逃がしてやる。
 いたちたちはキィキィいいながら山の奥へと姿を消していった。
「ここまで来れば、そう簡単に人里には現れぬだろう」
 さて帰るか、と再び縮地を使おうとしたところで周りの木々がざわめきだし
た。保重はふと縮地の足を止めた。しばらくして、突風が吹き起こり保重は袖
で顔を覆った。
 ゴウゴウと唸りを上げる風の音に交じって、笛のような甲高い音が聞こえ
た。
 やがて風が止み、あたりは静かになる。顔を上げた保重は奇妙に思い、その
甲高い音がした方に向かって草をかき分けていった。
 しばらく進むと、彼の目の前に岩が現れた。高さがちょうど保重の身長ほど
あるその岩には大きな亀裂ができていた。
 どうやらこの亀裂が甲高い音の原因らしい。
「なるほど」
 その岩を撫でていると再び突風が吹き込んできた。
 風の音、木々のざわめき、岩が鳴る甲高い音。今度はそれに加えてキィとい
う音が聞こえた。
 その音がした方に目をやると小さないたちが一匹、保重の方を向いていた。
 先ほど逃がしたいたちかと思ったが、こんなに小さないたちはいなかったよ
うな気がする。となると、
「ひょっとしてこの割れ目がいたちを生んでいるのか?」
 そう思った保重は岩をじっと見つめて風を待った。
 程なくして再び風が起こる。強い風であったが保重は岩から目を離さないで
いた。
 岩が甲高い音を立てたかと思うと、割れ目から風に乗っていたちがまた一匹
現れる。
「ということは、こいつをどうにかせねばならぬな」
 保重はしばらく考えていた。こんな山奥では人を呼ぶこともできない。しか
し、少なくとも風で音が鳴るのは止めなければいけない。
「力仕事は嫌いなんだがな」
 そう呟いて保重は手頃な石がないか探し始めた。


 一日後。
 都中に起こっていた騒ぎも陰陽寮の働きのおかげで鎮まり、平穏な日々が戻
ろうとしている。
 ようやく一段落付くことができた望次は久しぶりに妻の屋敷へと顔を出し
た。
 いつものように女房に嫌みを言われながら案内されて妻のいる部屋へと向か
う。
 部屋を覗いたとき、望次の耳にキィというつい先日までよく聞いた鳴き声が
耳に届いた。
「あら望次様」
 そう言って妻が振り向いた。その彼女の膝の上にはいたちが一匹寝そべって
いる。まぎれもなくあの騒ぎの元凶のいたちであった。
 望次はポカンとした表情を浮かべた。
「どうかなさりましたか?」
 彼女は首を傾げた。
「いや…… そのいたちはどうしたのだ?」
「ああ、この子、庭の片隅でうずくまっていたのですよ」
 彼女は微妙を浮かべながら、膝の上のいたちを撫でている。いたちは目を細
めて気持ちよさそうにしている。
 それを見て望次はとりあえず溜め息をついた。

時系列と舞台
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『騒ぎを収めんとする話』の続き。

解説
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これにてとりあえず一段落。

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